― レビュー ―
ATIの刺客はGeForce 7600 GTに対抗できるのか
Radeon X1800 GTOリファレンスカード
Text by 宮崎真一
2006年3月24日

 

Radeon X1800 GTOグラフィックスチップ。刻印はRadeon X1800シリーズの開発コードネームである「R520」だった

 ATI Technologiesが発表した「Radeon X1800 GTO」は,Radeon X1000ファミリー中,上から2番目に位置づけられる,Radeon X1800シリーズの最下位モデルだ。
 従来製品であるRadeon X1800 XLとまったく同じ,コア500MHz,メモリ1GHz相当(500MHz DDR)という動作クロックを維持。シェーダユニット数も,頂点シェーダ(Vertex Shader)8基,ROP 16基と変わらず,ただピクセルシェーダ(Pixel Shader)だけ,上位モデルより4基少ない12基に削減されている。
 ただ,ここで重要なのは,「ピクセルシェーダユニットが4基多いだけ」のRadeon X1800 XLを搭載するカードが,2006年3月20日を過ぎた時点において,4万円を超える価格で販売されていること。これに対して,まもなく登場予定とされるRadeon X1800 GTO搭載カードの価格は3万円以下が予想されているのだ。

 

 GeForce 7世代初のミドルレンジ向け製品「GeForce 7600 GT」とほぼ同じタイミングでの登場となったことに加え,店頭価格も近いため,同じ市場のライバルとなりそうなRadeon X1800 GTO。では,そのパフォーマンスはいかばかりだろうか。今回はリファレンスカードを入手したので,Radeon X1800 GTOが持つポテンシャルを明らかにしてみたいと思う。

 

 

■外観はRadeon X1800 XL搭載カードと瓜二つ

 

 まずはカードを見てみよう。
 今回入手したRadeon X1800 GTOリファレンスカードは,1スロット仕様のチップクーラーを搭載する点も含めて,外観はRadeon X1800 XL搭載カードと「まったく同じ」といっていいだろう。チップクーラー自体も同じもののようで,聴感上の騒音レベルも同じくらいだった。

 

ASUSTeK Computer製のRadeon X1800 XL搭載製品「Extreme AX1800XL/2HDTV」(右)と,形状を比較してみた。チップクーラーが内蔵するファンのシールが異なる以外は,見事なまでにまったく同じ

 

 Catalyst Control Centerからチェックできる動作クロックはコア500MHz,メモリ990MHz相当(495MHz DDR)と,やはり同じ。ATI製グラフィックスチップ用のTweakユーティリティソフトとして知られる「ATITool 0.25 Beta 14」で,ピクセルシェーダユニット数(同ソフトでは「Active Pipelines」の値)を見てみると,Radeon X1800 GTOは12と表示され,ここでようやく仕様の違いを確認できる,といった程度だ。

 

ATITool 0.25 Beta 14で,Radeon X1800 GTO(左)とRadeon X1800 XL(右)を見比べてみた。確かにピクセルシェーダユニット数(=Active Pipelines)の値は異なっている

 

 カードやチップについての詳細が見えたところで,テストに入っていこう。今回,比較対照用には,上位モデルとなるRadeon X1800 XL搭載カードのほか,直接のライバルになると思われるGeForce 7600 GT,さらにはその上下1モデルとしてGeForce 7800 GT,GeForce 6800 GSも用意した。
 グラフィックスドライバだが,Catalyst 6.3がRadeon X1800 GTOをサポートしていないため,Radeonの2モデルについては,Radeon X1800 GTOリファレンスカードに付属していた「Certified_8.223」版ドライバを用いることにする。また,GeForceの各製品は,原稿執筆時点の公式最新版であるForceWare 84.21ですべてサポートされているため,これを用いる。このほかテスト環境はのとおりだ。

 

 

 なお,これはいつものことだが,本稿では以後,グラフィックスドライバ側から垂直同期のみオフに変更した状態を「標準設定」,同じくドライバ側で強制的に4倍(4x)のアンチエイリアシングと16倍(16x)の異方性フィルタリングを適用した状態を「4x AA&16x AF」と呼ぶ。

 

 

■弱点はあるものの,総じて性能は良好

 

 まずは3DMark05から見ていこう。条件を変えて計測した総合スコアの結果がグラフ1,2である。Radeon X1800 GTOとRadeon X1800 XLを比較してみると,描画負荷が低いときにある10%程度の差が,高くなるにつれて15〜17%程度にまで開いていく。高解像度になればなるほど,ピクセルシェーダユニット数の違いはスコアに影響してくるはずなので,ここはスペックの違いが素直に出ていると見ていいだろう。

 

 3DMark05において,RadeonとGeForceを直接比較することはあまり意味がないことを断ったうえで,あえて比較してみると,GeForce 7600 GTと比べてRadeon X1800 GTOのスコアは1割近く高い。それどころか,Radeon X1800 GTOはGeForce 7800 GTに迫るほどで,3DMark05で比較する限り,Radeon X1800 GTOのスコアはミドルレンジクラスとして非常に高いといえるだろう。描画負荷が高くなっても,スコアをあまり落とさない点にも注目しておきたい。

 

 

 

 Radeon X1800 GTOとRadeon X1800 XLの特性を確認するため,グラフ3〜5で詳細を見てみると,やはりピクセルシェーダユニットの性能は一段落ちる。とはいえ,頂点シェーダユニット数は変わっていないので,Radeon X1800シリーズに共通した高い頂点シェーダユニット性能は,上位モデルとまったく同じだ。

 

 

 

 

 なお,「3DMark06 Build 1.0.2」の結果はをグラフ6に示す。現時点では参考値として掲載するに留めたい。

 

 

 続いて「Quake 4」の結果に移ろう。「The Longest Day」というマップで7名によるデスマッチを行ったリプレイデータを利用し,Timedemoから平均フレームレートを計測した結果をまとめたのがグラフ7,8だ。Quake 4は,ゲームエンジンがGeForce 6/7シリーズに最適化されているためか,Radeonシリーズ不利になることが多いが,Radeon X1800 GTOもその例に漏れない。GeForce 7600 GTと戦うどころか,GeForce 6800 GSよりも低いスコアとなっており,Quake 4における性能は,それほど期待できないのが正直なところだ。

 

 

 

 次に「Battlefield 2」のベンチマーク結果をグラフ9,10にまとめた。Battlefiled 2では「Dragon Valley」で実際に行われたコンクエスト(16人×16人対戦)のリプレイデータをスタートから120秒間再生し,「Fraps 2.60」で平均フレームレートを取得している。
 標準設定で比較してみると,解像度が上がって描画負荷が高まるとともに,Radeon X1800 GTOとGeForce 6800 GSが大きくスコアを落としていく。Radeon X1800 GTOは,かろうじてGeForce 6800 GSより上といったところで,描画負荷が高まると,GeForce 7600 GTとは勝負にならなくなってくる。同じミドルレンジのカードとしては,やや差をつけられた格好だ。

 

 ただ,4x AA&16x AA時は,状況が変わってくる。高レベルのフィルタリングを適用し,グラフィックスメモリへの負荷が高くなってくると,Radeon X1800 GTOは,GeForceシリーズほどにはスコアが落ちなくなってくるのだ。さすがに自力の差(というか,ピクセルシェーダユニット数の差)が出るのか,Radeon X1800 XLと比較と比べるとスコアは大きく落ちていくが,それでも1280×1024ドット以上でGeForce 7800 GTを上回っている点は興味深い。Battlefield 2は,グラフィックスメモリが512MBないと,高負荷時に大きくスコアを落とす傾向にあるが,それが最小限で済んでいるあたりからは,Radeon X1800/X1900が持つ,リングバスメモリコントローラが効果を発揮している可能性を指摘できそうだ。

 

 

 

 最後に「TrackMania Sunrise」だが,ここでは1周53秒程度の「Paradise Island」というマップのリプレイデータを3回連続で実行。その平均フレームレートをFraps 2.60で取得した。結果がグラフ11,12だ。
 Radeon X1800 XLの1024×768ドット,GeForce 6800 GSの1280×1024ドットで,信頼性の乏しいスコアが出てしまっているので,ここはRadeon X1800 GTOとGeForce 7600 GTの“一騎打ち”を中心に見ていくことにするが,スコアはほぼ完全に互角。全体的には若干Radeon X1800 GTO有利だが,ここはそう見るよりも,「負荷の軽いゲームタイトルだと,両グラフィックスチップが互角のパフォーマンスを見せる」と受け取るべきだろう。

 

 

 

 

■消費電力はRadeon X1800 XLから改善なし

 

 次に,ワットチェッカーを利用した,システム全体の消費電力とグラフィックスコア温度の比較を見ていくことにしよう。今回,テスト環境はすべてのグラフィックスカードで完全に同一であるため,測定値の差は,そのままカードの消費電力差と見ていい。一方,カードごとにチップクーラーが異なるうえ,ForceWareとCatalyst Control Centerという,ドライバソフトの違いもあるため,グラフィックスコア温度の測定値は参考程度となる。とはいえ,Radeon X1800 GTO/XLは,同じ種類のチップクーラーを利用している可能性が極めて高いため,この2枚間の比較だけは相応の意味があるはずだ。
 なお以後,OS起動直後から30分間放置した状態を「アイドル時」,3DMark05を30分間リピート実行した状態を「高負荷時」とする。

 

 さて,グラフ13が消費電力の測定結果である。Radeon X1800 GTOはピクセルシェーダユニット数が削減されているだけなので,消費電力がそれほどは下がっていないことが想像できるが,結果はそのとおりとなった。
 注目したいのは,GeForce 7600 GTの消費電力が飛び抜けて低い点だ。Radeon X1800 GTOは,GeForce 7800 GTなどとそう変わらないので,別に消費電力が高すぎるわけではない。ただ,GeForce 7600 GTが“低すぎる”ほど低いのを見てしまうと,消費電力面でRadeon X1800 GTOの分が悪いのも事実である。

 

 

 本稿最後のグラフ,グラフ14が,グラフィックスコアの温度を測定した結果だ。とにもかくにも,Radeon X1800 GTOとRadeon X1800 XLのグラフィックスチップ温度は,まったく変わっていない。

 

 

 

■価格面で決め手がほしい

 

 ミドルレンジの比較となっただけに,得手不得手の分かれる結果となった。GeForceへの最適化が進んでいるエンジンとはいえ,Quake 4における大きなビハインドは少々気になる。ただし,Battlefield 2やTrackMania Sunriseの結果も踏まえて総合的に判断すれば,素性は悪くない。今からRadeon X1000シリーズのミドルレンジを購入するなら,GeForce 6800 GSに大差で敗れたRadeon X1600 XTよりもRadeon X1800 GTOになるはずだ。
 ATIによれば,Radeon X1800 XT/XLは今後終息に向かい,Radeon X1800 GTOがミドルレンジをしばらくカバーすることになるとのこと。“GTO=一発売り切り”というわけではないというのも,ATIファンの人には安心材料になると思われる。

 

 もっとも,低消費電力をウリにしているGeForce 7600 GTには,発熱が低い=冷却が容易という,別のメリットがある。また,価格面でも,GeForce 7600 GT搭載製品は,安価なものだと2万6000円前後からスタートしているが,これを「予価3万円弱」のRadeon X1800 GTOが下回れるのかという疑問は,どうしても残る。

 

 言ってしまうと,Radeon X1800 GTOは決め手に欠けるのだ。逆にいえば,3月下旬とされる発売後,すぐにGeForce 7600 GT搭載製品の価格を下回る,あるいは何か別の“決め手”があれば,Radeon X1800 GTOは化ける可能性があるだろう。

タイトル ATI Radeon X1800
開発元 AMD(旧ATI Technologies) 発売元 AMD(旧ATI Technologies)
発売日 2005/10/05 価格 製品による
 
動作環境 N/A

(C)2006 Advanced Micro Devices Inc.

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http://www.4gamer.net/review/x1800_gto/x1800_gto.shtml