― レビュー ―
「2005年歳末商戦向けグラフィックスチップ」は買いなのか
GeForce 6800 GSリファレンスカード
Text by Text by 宮崎真一
2005年12月2日

 

GeForce 6800 GS。シルク印刷は「GF-6800-GTS」となっている。NVIDIA内部では,昔懐かしいGTSという表記を使っているのかもしれない

 NVIDIAのGeForce 6シリーズに,新しくGeForce 6800 GSが加わった。これは,従来のGeForce 6800とGeForce 6800 GTの間に位置づけられているグラフィックスチップである。GeForce 7シリーズの登場により,相対的にローエンドへ近づいたGeForce 6600シリーズの代わりに,ミドルレンジをカバーすべく,2005年の年末商戦向けの色合いを濃く持ちつつ登場してきた製品だ。もっといえば,2005年11月末時点で,搭載カードの販売を店頭でちらほら見かけるようになってきた,ATI Technologies(以下ATI)のミドルレンジ向けグラフィックスチップ,Radeon X1600 XT対抗の製品ともいえるだろう。

 

GeForce 6800 GSリファレンスカード

 GeForce 6800 GSのシェーダユニット数はピクセルシェーダ(Pixel Shader)が12基,頂点シェーダ(Vertex Shader)が5基。コアクロックは425MHz,メモリクロックは1GHz相当(500MHz DDR)で,表1を見ると分かるように,イメージとしてはGeForce 6800の高クロック版といったところだろうか。パイプライン数は劣る代わりに,コアクロックはGeForce 6800 GTよりも20%強高いので,このあたりがパフォーマンスにどう影響してくるのか興味深い。
 また,GeForce 6800シリーズのグラフィックスチップゆえ,メモリバスが256bitなのは,128bitのGeForce 6600 GTと比べて明確なアドバンテージといえるだろう。リファレンスのグラフィックスメモリ容量は256MBだ。

 

 

リファレンスカードが搭載する1スロット型チップクーラーの内部(左)と,完全に取り外してみたところ(右)。メモリチップはSamsung Electronics製の2ns品だった

 

2005年11月末の時点ですでに流通している,エルザ ジャパン製「ELSA GLADIAC 940 GS 256MB」,Leadtek Research製「WinFast PX6800 GS TDH 256MB」の両GeForce 6800 GS搭載グラフィックスカードも,やはり1スロット仕様となる

 

 

■上位モデルに下位モデル,ライバル(?)と比較

 

 では,さっそくテストに入っていこう。テスト環境は表2に示すとおりで,比較対象としては,NVIDIAのNVIDIA GeForce 6800 GT,ATIのRadeon X1600 XTの両リファレンスカード,そしてエルザ ジャパン製GeForce 6600 GT搭載製品「ELSA GLADIAC 743 GT 128MB」を用意した。GeForce 6800でなく,GeForce 6600 GTを用意したのは,コストを重視するゲーマーからGeForce 6600 GTが支持されていること,そして,GeForce 6800が市場からほぼ姿を消していることが理由である。
 GeForce 6シリーズの3モデルはすべてNVIDIA SLI(以下SLI)で検証したかったが,今回は機材調達の都合で,GeForce 6800 GTリファレンスカードは用意できたのが1枚のみとなる。この点はご了承願いたい。

 

 

ELSA GLADIAC 743 GT 128MB
定番のGeForce 6600 GT搭載カードを今回は利用した。
問い合わせ先:エルザ ジャパン TEL:03-5765-7391

 

 テストには「3DMark05 Build 1.2.0」(以下3DMark05)と「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」のほか,実ゲームタイトルとして「DOOM 3」「Quake 4」「TrackMania Sunrise」を使用した。DOOM 3は付属のTimedemoを利用して平均フレームレートを計測。Quake 4では,「The Longest day」というマップで7名によるデスマッチを行い,そのリプレイデータを利用して,やはりTimedemoから平均フレームレートを計測した。また,TrackMania Sunriseでは,1周53秒程度となる「Paradise Island」というマップのリプレイを3回連続で実行し,その平均フレームレートを「Fraps 2.60」で測定している。
 以後,ForceWareから垂直同期のみオフに変更した状態を「標準設定」とし,同じくForceWareから8倍(8x)のアンチエイリアシングと16倍(16x)の異方性フィルタリングを適用した状態を「8x AA&16x Anisotropic」と呼ぶことにして話を進める。また,ELSA GLADIAC 743 GT 128MBは以下GeForce 6600 GTと表記する。

 

 

■描画負荷が低ければGeForce 6800 GT以上

 

 さて,まずは3DMark05で見てみよう。3DMark05に関しては,ATIとNVIDIAによる最適化合戦が行われているため,横の比較はあまり意味がない。この点はあらかじめ了解しておいてほしい。

 

 シングルグラフィックスカード(以下シングルカード)でテストした結果をまとめたのがグラフ1〜4だ。総合的に見て,GeForce 6800 GSとGeForce 6800 GTの間に,スコアの差はほとんどない。フィルレートを見ると,シングルテクスチャリング(Single-Texturing)でGeForce 6800 GTよりも優位に立つGeForce 6800 GSが,より描画負荷の高いマルチテクスチャリング(Multi-Texturing)では逆転されているあたりが興味深いところだ。
 GeForce 6800 GSとGeForce 6600 GTとの比較では,前者が安定して大差を付けている。

 

 

 続いて,GeForce 6800 GSとGeForce 6600 GTでそれぞれSLI動作させてみた(グラフ5)。GeForce 6800 GSのシングルカードよりもGeForce 6600 GT SLIが若干上といったレベルで,新旧ミドルレンジ対決はGeForce 6800 GSの圧勝といっていいだろう。とくに,描画負荷が高まると,GeForce 6800 GS SLIのスコアはGeForce 6600 GT SLIの2倍近くに達し,優位性が際立ってくる。

 

 

 続いて,ほぼ同じゲームエンジンを採用しているDOOM 3とQuake 4で,シングルプレイTimedemo(DOOM 3)とマルチプレイTimedemo(Quake 4)の結果を見てみよう。結果はグラフ6〜9にまとめたが,3DMark05におけるフィルレートのスコアを裏付けるように,描画負荷が低い状況ではGeForce 6800 GS優位で,高くなるにつれGeForce 6800 GTが巻き返してくる。同時に,描画負荷の低い状況だと健闘するGeForce 6600 GTは,さすが人気のグラフィックスチップといったところだが,描画負荷の高くなる高解像度環境だと,GeForce 6800の2モデルに歯が立たなくなってくるのが分かる。

 

 気になるのはRadeon X1600 XTだ。3DMark05の総合スコアで見せた高いスコアが見られないどころか,GeForce 6600 GTにも完敗である。
 この件についてATIは4Gamerの質問に対し,Radeon X1000シリーズ用のドライバを現在最適化中というコメントを寄せている。ゆえに,スコアをそのまま受け取ることはできないが,リファレンスカードに付属するドライバを利用する限り,GeForce 6800 GSと比較できるレベルには,残念ながら達していない。今後のドライバチューンに期待したいところだ。

 

 

 TrackMania Sunriseでも,傾向はまったく同じ(グラフ10,11)。ただ,DOOM 3やQuake 4と比べて描画負荷の低い同タイトルだけに,GeForce 6600 GTの健闘が目立っている。一般に,描画負荷が低いと,各パイプラインにおける処理がパフォーマンス上のボトルネックにならないため,動作クロックがフレームレートに影響するようになるが,それが如実に反映された結果といえるだろう。

 

 

 さらに描画負荷の低いFINAL FANTASY XI Official Benchmark 3では,GeForce 6800 GSのスコアが頭一つ抜け,さらに動作クロックに依存したスコアとなっている(グラフ12,13)。GeForce 6800 GTとGeForce 6600 GTにほとんど差がなくなっている点も興味深い。

 

 

 

■コア温度が非常に低いGeForce 6800 GS

 

 ここからは,システム全体の消費電力とグラフィックスコアの温度を見てみよう。OS起動後から30分放置した状態を「アイドル時」,3DMark05を30分間連続実行させた状態を「高負荷時」として,消費電力はワットチェッカー,コア温度はForceWareから測定している。Radeon X1600 XTのコア温度は,付属ドライバに温度表示機能がないため,掲載していない。

 

 結果はグラフ14,15にまとめたとおりだ。消費電力に関しては,PCI Express用補助電源を必要としないGeForce 6600 GTを,GeForce 6800 GSが下回ることは考えづらいので,ほぼ順当な結果といえる。
 注目すべきはコア温度だ。GeForce 6800 GSは,SLI動作時にGeForce 6600 GTを下回った。それだけでなく,シングルカードでもGeForce 6800 GTの78℃に比べて20℃も低い。もちろん,チップクーラーはGeForce 6800 GTが2スロット仕様に対し,GeForce 6800 GSは1スロット仕様と異なるので,単純比較は行えないわけだが,どうやらGeForce 6800 GSのチップクーラーは,GeForce 7800シリーズ用(かそれとよく似た)もののようで,特別うるさくは感じなかった。それで2スロット仕様のGeForce 6800 GTよりも温度がかなり低いのだから,GeForce 6800 GSは最新世代らしく,これまでのGeForce 6800シリーズとは一線を画す低発熱化を果たしたチップと判断するのが妥当といえる。

 

 

 

■3万円出せるならお勧め

 

 今回紹介したGeForceシリーズの3モデルを見てみると,(一部特価販売されている例外を除けば)2005年12月上旬時点の実勢価格はおおよそ以下のような感じになる。

 

GeForce 6800 GT:4万円前後
GeForce 6800 GS:3万円前後
GeForce 6600 GT:2万円前後

 

 この中で,GeForce 6800 GTは流通量が減っている。これを踏まえると,ミドルレンジの選択肢は,非常に明快になってくる。MMORPGなど,比較的描画負荷の軽い3Dゲームを,そこそこの解像度でプレイする,もしくは,予算が絶対的に限られているならGeForce 6600 GTでいいだろう。ただ,ベンチマーク結果を見ると,あと1万円なんとか捻出して,GeForce 6800 GSを購入するほうが,ゲームをプレイしていて幸せになれると思う。
 ミドルレンジのグラフィックスカードだと,最後はどうしても予算次第ということになる。しかしそれでも,これから3DゲームのためにGeForceシリーズのミドルレンジを購入するなら,最終的なコストパフォーマンスは,GeForce 6600 GTよりもGeForce 6800 GS搭載製品のほうが上になるはずだ。

 


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/geforce_6800gs/6800gs.shtml