2006年5月5日に発表された,ATI Technologies(以下ATI)製の最新グラフィックスチップ「Radeon X1900 GT」。同製品を搭載するカードが店頭に出回り始めている。
Radeon X1900シリーズが,2006年5月時点におけるATIの最上位ラインナップであることは,改めて言うまでもないだろう。48基のピクセルシェーダユニットやリングバスメモリコントローラを備えた豪華仕様だ。ただ,それだけに価格は下位モデルのRadeon X1900 XTですら5万円を軽く超えるなど,完全にハイエンド向け。4万円台前半から購入可能で,コアゲーマー視点で見たときにコストパフォーマンスの高いGeForce 7900 GTを持つGeForce 7900シリーズと比べると,やや手を出しづらかったのは否めない。
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Radeon X1900 GT。刻印はRadeon X1900シリーズの開発コードネーム「R580」となっている |
そこで投入されたのがRadeon X1900 GTだ。同製品は,この製品ラインナップ上の問題を解決し,GeForce 7900 GTと真っ向勝負を行うために投入されたグラフィックスチップである。
今回採り上げるTul製の搭載グラフィックスカード「PowerColor X1900GT」は,2006年5月中旬から流通が始まっているが,その実勢価格は4万4000円前後。ATIの想定する店頭売価は349ドル(1ドル111円計算で約3万9000円)なのでやや高めだが,GeForce 7900 GTの店頭価格もほぼ同じあたりなので,価格的には見事にマッチすると言っていい。
安くても5万円を超えていたRadeon X1900シリーズを4万円台前半へ持ってこれたのには,もちろん理由がある。表1はRadeon X1900 GTと,その上位モデルであるRadeon X1900 XT,そしてライバルとなるGeForce 7900 GTのスペックを並べたものだが,Radeon X1900 GTは,上位モデルからいろいろと削られているのが分かるはずだ。とくに,ピクセルシェーダユニット数とROPユニット数が上位モデルのそれぞれ75%になっている点には注意が必要である。
見た目はRadeon X1800 XL/GTO?
1スロット仕様になったチップクーラー
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PowerColor X1900GT メーカー:Tul 問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp |
位置づけを理解したところで,カードを見てみるとするが,PowerColor X1900GTの外観には,見覚えのある人も多いと思う。そう,1スロット型のクーラーを採用するPowerColor X1900GTの外観は,Radeon X1800 XL/GTOのリファレンスカードとそっくりなのだ。
クーラーの駆動音は,「最近のGeForceシリーズ用クーラーのなかでは音が気になりやすいGeForce 7900 GTのリファレンスチップクーラーと比べた場合,PowerColor X1900GTが搭載するクーラーのほうが音はやや耳につきやすい」といったところ。まあ,このクラスのグラフィックスカードならやむを得ない,というレベルだ。Radeon X1900シリーズの上位2モデルが採用する2スロット占有型クーラーの騒々しさに比べれば,これはもう,圧倒的に静かである。
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ヒートシンクを取り外してみた。Radeon X1900なのかX1800なのか,いよいよ一目では分からなくなる |
試用した個体は,Samsung Electronicsの 1.4ns仕様GDDR3 SDRAMチップ(K4J55323QG-BC14)を8個搭載していた。スペック上の最高データレートは1.4GHz相当なので,マージンはかなりあると言っていい |
PowerColor X1900GTはビデオ入出力に対応しているので,コンポーネント出力ケーブルのほか,S/コンポジット入出力ケーブルも用意されている。DVI-I→D-Sub変換アダプタも2個同梱。ただし,ゲームソフトは何も付属していない |
ざっと概観したところで,テストに入っていくことにしよう。今回は,先ほどの表1で比較した上位モデルとライバルを用意した。具体的には,Sapphire Technology製のRadeon X1900 XTカード「Sapphire RADEON X1900 XT」,そしてエルザ ジャパン製のGeFoce 7900 GTカード「ELSA GLADIAC 979 GT 256MB」の2枚だ。
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Sapphire RADEON X1900 XTX メーカー:Sapphire Technology 問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp |
ELSA GLADIAC 979 GT 256MB メーカー:エルザ ジャパン 問い合わせ先:エルザ ジャパン TEL:03-5765-7391 |
テスト環境は表2のとおり。2006年5月10日のレビュー記事でお伝えしているように,4Gamerではテストに用いるゲームアプリケーションをアップデートしたが,「Quake 4」に関しては,Version 1.2パッチ適用版のリプレイデータを用意できたため,ゲームのバージョンおよびリプレイデータをさらにアップデートしている。
なお,以後本稿では,ドライバ側で垂直同期のみオフに変更した状態を「標準設定」,同じくドライバ側で強制的に4xのアンチエイリアシングと16xの異方性フィルタリングを適用した状態を「4x AA&16x AF」と呼ぶことにする。ただし,Catalyst Control Centerは異方性フィルタリングの無効化を行えないため,基本的にゲーム側から設定した。「F.E.A.R.」(Version 1.04パッチ適用済み)のみ,ゲーム側にも無効化設定がないため,F.E.A.R.のオプション設定項目から,最小負荷となる「バイリニア」に設定している。
よって,F.E.A.R.においてはRadeon X1900シリーズが若干不利になるが,現行のグラフィックスカードにおいて,最低レベルのバイリニアフィルタリングでは,負荷といえるほどの負荷にはほとんどならない。設定面でのこの違いは,ほぼ無視して差し支えないと思われる。
GeForce 7900 GTに迫る性能だが
高解像度では不利に
というわけで,「3DMark05 Build 1.2.0」(以下3DMark05)のスコア(グラフ1)から見ていくことにしよう。
本誌では何度となく指摘しているとおり,3DMark05に関しては,ATIとNVIDIAによるドライバ最適化合戦が行われているため,RadeonとGeForceの比較は意味をなさない。そこで,上位モデルと比較することになるが,標準設定で見てみると,1024×768ドットでは約12%のスコア差が,1280×1024ドットでは16%,1600×1200ドットでは20%と,描画負荷の高まりにつれて差が開いている。4x AA&16x AF時は最大24%の差。やはり,ピクセルシェーダユニットとROPユニットの削減は効いているようだ。
続いて,Feature Testの結果をグラフ2〜4にまとめてみた。ほぼスペックどおりの結果が出ているといえるだろう。
続いて,「3DMark06 1.0.2」のBasic Editionで取得できる,標準設定&1280×1024ドットのスコアを参考としてグラフ5に掲載した。3DMark05では描画負荷の低い局面でGeForce 7900 GTに“完勝”してみせたRadeon X1900 GTだが,こちらではほぼ互角のところで落ち着いている。
実ゲームアプリケーションを用いたベンチマークテストに移ろう。
まずQuake 4だが,これは前述のとおり,高解像度環境およびマルチスレッドに最適化されたVersion 1.2パッチを適用。シングルプレイのストーリーモードでプレイデータを記録し,Timedemoから平均フレームレートを取得した。その結果をまとめたのがグラフ6だ。
Quake 4は,GeForceシリーズでよいパフォーマンスを得やすいゲームとして知られているが,実際,GeForce 7900 GTは格上のRadeon X1900 XTに迫るスコアで,非常に優秀。それに比べると,グラフィックス高負荷時にじわじわとスコアを落としていくRadeon X1900 GTは,どうしてもやや見劣りすると言わざるを得ない。
続いてF.E.A.R.だ。F.E.A.R.では,ゲーム側で用意されているベンチマークモードで平均フレームレートを計測。その結果をグラフ7にまとめた。
標準設定時の傾向はQuake 4と同様だ。GeForce 7900 GTには一歩及ばないといったところである。これが,4x AA&16x AFを適用すると,なぜか逆転し,グラフ4における「Complex」に近いグラフ形状を示すようになるが,この理由は現時点ではよく分からない。
次に,「TrackMania Sunrise」の後継となるe-Sports用無料ゲーム「TrackMania Nations ESWC」のベンチマーク結果である。ここでは,「I-1」のコースを5周する87秒のリプレイデータを用意して,「Fraps 2.60」から平均フレームレートを計測した。
結果はグラフ8のとおりだが,Quake 4とよく似た傾向になっていると言っていいだろう。Radeon X1900 GTとGeForce 7900 GTの,底力の差が出てしまっているようにも見える。
ベンチマークテストの最後は,MMORPG「Lineage II」だ。テストは2006年5月17日時点の最新パッチを適用した状態で,「7人のパーティが建物内でモンスターと戦う」リプレイデータを使って,Fraps 2.60でスコアを計測するという方法を選択した。
なお,テストに当たっては描画負荷を高めるため,HDRレンダリングを有効化しているのだが,HDRバッファに対するアンチエイリアシングを行えないGeForce 7900 GTは,4x AA&16x AFのスコアを取得できない。ゆえにここはN/Aとなっているのでご注意を。
結果はグラフ9にまとめたが,標準設定でRadeon X1900 GTがGeForce 7900 GTに有意な差をつけている点は興味深い。平均フレームレートが30fpsを超えていれば,グラフィックスカードの性能がプレイフィールに影響を与える可能性がほぼなくなるMMORPGということもあり,この差に意味はあまりないといえばない。とはいえ,ゲームによってはRadeon X1900 GTがGeForce 7900 GTよりも良い結果を出す可能性があるのは,覚えておいたほうがいいだろう。
なお,4x AA&16x AFで,Radeon X1900 GTがRadeon X1900 XTよりも0.1fpsほどスコアが高いのは,グラフィックス以外がボトルネックになっているためで,とくに測定ミスではない。
消費電力が大幅に改善する一方
1スロットチップクーラーゆえの宿命も
消費電力についても見てみよう。ここでは,ワットチェッカーを用いてシステム全体の消費電力を計測してみることにした。3DMark05を1回実行したあと,20分放置したときを「アイドル時」,3DMark05のFeature TestsからPixel Shaderテストを1600×1200ドットで10回連続実行して,最も消費電力の高かったときを「高負荷時」とする。
グラフ10がその結果だが,スペックや動作クロックが下がった結果として,Radeon X1900 GTの消費電力はRadeon X1900 XTと比べてかなり下がった。もっとも,高負荷時にGeForce 7900 GT搭載システムより40Wも高いわけで,Radeon X1000シリーズの消費電力がGeForce 7シリーズより圧倒的に高いという問題の根本的な解決は,第3四半期の登場が噂される80nmプロセス版の新製品を待つ必要がありそうだが。
最後に,クーラーが異なるので参考扱いとなるのを承知のうえで,グラフィックスチップの温度についてもチェックしてみた。
結果はグラフ11のとおりだが,同じCatalys Control Centerで計測している,Radeon X1900 GTとRadeon X1900 XTで,後者のほうが温度が低いことは指摘しておきたい。要するに,PowerColor X1900GTが搭載するチップクーラーの冷却能力はそれほど高くないというわけで,“1スロット化”のツケを払わされた格好だ。
ミドルレンジ的な傾向を示すRadeon X1900 GT
3万円台半ばになれば買い
Radeon X1900 GTは,Radeon X1900というハイエンドシリーズの名を冠しているが,ハイエンドと呼ぶにはやや実力が足りない印象を受けた。低負荷時だとハイエンドクラスに迫るパフォーマンスを叩き出す一方,描画負荷が高まるに合わせて,ハイエンド向けカードよりもベンチマークスコアを大きく落としていく姿は,ミドルレンジ製品によく見られる傾向だからである。
もっとも,典型的なミドルレンジ製品に比べれば,高負荷時におけるパフォーマンスの低下は抑えられており,なかなか悩ましいところ。誤解/矛盾を恐れずに結論づければ,「ミドルレンジクラスのウルトラハイエンドチップ」といったところかもしれない。
以上の点を勘案するに,Radeon X1900 GT,そしてPowerColor X1900GTの適正価格は,3万円台半ばであるように思う。GeForce 7900 GTとの差は埋めがたいが,前述したように,ミドルレンジの最上位と考えれば,(ややクセがあり,消費電力も高めではあるが)悪くないどころか完全にアリといえるだろう。
また,そこまで価格が下がれば,HDRレンダリングとアンチエイリアシングを同時に適用しつつ,RPGなどを快適にプレイしたい人にとって,コストパフォーマンスに優れた選択肢として浮上してくる可能性がある。
Radeon X1800シリーズが市場に流通しているから難しいかもしれないが,早期に,少なくともGeForce 7900 GT搭載製品より安価になれば,注目すべき製品といえるようになるのではないだろうか。