― レビュー ―
個性的なGeForce 7600 GT搭載製品を横並び比較
WinFast PX7600GT TDH 256MB Extreme
EN7600GT SILENT/2DHT/256M
GV-NX76T256D-RH
Text by 宮崎真一
2006年5月10日

 

 2006年春の時点において,安価でパフォーマンスが比較的高い選択肢として,GeForce 7600 GT搭載グラフィックスカードの売れ行きが好調のようだ。GeForceシリーズ内の立ち位置については先にテストで示しているが,サードパーティとなるカードメーカー各社から多くの搭載製品が登場しているため,いざ購入する段になって目移りしてしまうという人も多いのではなかろうか。
 そこで今回は,オーバークロックモデル1製品と,パッシブヒートシンクを採用したファンレスモデル2製品を用意してリファレンスカードと比較し,それぞれのパフォーマンスや使い勝手を吟味してみたいと思う。

 

 

■特徴あるGeForce 7600 GT搭載製品

 

WinFast PX7600GT TDH 256MB Extreme
メーカー:Leadtek Research
問い合わせ先:アスク(販売代理店)
TEL:03-5215-5650

 まずは,オーバークロックモデルから紹介したい。
 Leadtek Research製の「WinFast PX7600GT TDH 256MB Extreme」(以下PX7600GT Extreme)は,コア590MHz,メモリ1.6GHz(800MHz DDR)相当に,メーカーレベルでオーバークロックが施されている。GeForce 7600 GTのリファレンス動作クロックはコア560MHz,メモリ1.4GHz相当(700MHz DDR)だから,コアで30MHz,メモリで200MHz相当というやや高いクロックでの動作が,Leadtek Researchによって独自に保証されているわけだ。
 同時に冷却機構の改善も図られており,リファレンスとは異なる大口径のチップクーラーが用意されている。

 

カード裏面はチップクーラー固定用金具があるだけで,シンプルな印象だ

 

EN7600GT SILENT/2DHT/256M
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション(販売代理店)
news@unitycorp.co.jp

 続いてASUSTeK Computerの「EN7600GT SILENT/2DHT/256M」(以下EN7600GT SILENT)。同製品における最大の特徴は,「Silent Cool 2」と呼ばれるその冷却機構にある。
 以前4Gamerでは「ASUS SilentCool Technology」(以下SilentCool)を採用したGeForce 6600 GT搭載グラフィックスカード「Extreme N6600GT Silencer/HTD/256M」のレビューを行ったことがあるが,Silent Cool 2は,SilentCoolの後継技術という位置づけになる。
 SilentCoolでは,グラフィックスカードを覆うヒートシンクと,カードに対して垂直方向に回転できる可動式の放熱フィンをヒートパイプでつなぐという仕組みになっていた。これに対してSilent Cool 2では,この機構は維持しつつ,もう1本ヒートパイプを用意。カードから少し浮かせて,直接的に熱が伝わらないよう配慮されたカード裏面の放熱フィンとメインのヒートシンクを,そのヒートパイプで結ぶという仕組みを新たに導入している。
 可動フィンをCPUクーラーの“上”に移動させることで,CPUクーラーのエアフローを利用した冷却を行うと同時に,カードの背面からケース内の自然対流によっても冷却を行える,というのがASUSTeK Computerの主張だ。また,形状は奇抜だが,ファンレスにもかかわらず1スロット仕様という利点は見逃せない。

 

Silent Cool 2を,さまざまな角度から見てみた。作りはかなりしっかりしており,チープな感じはない

 

GV-NX76T256D-RH
メーカー:GIGABYTE TECHNOLOGY
問い合わせ先:リンクスインターナショナル(販売代理店)
http://www.links.co.jp/

 GIGABYTE TECHNOLOGYの「GV-NX76T256D-RH」(以下GV-NX76T256D)も,ファンレス仕様の製品だ。GV-NX76T256Dでは「Silent-Pipe II」という2スロット仕様のパッシブヒートシンクを採用しており,グラフィックスチップを覆うヒートシンクから,2本のヒートパイプを通じて,熱はカード前面の吸気口付き放熱フィンとカード裏面の放熱フィンへ運ばれるようになっている。前者は外気を利用して,後者はカードからの熱の伝導を避けることで効率よく冷却できるという。

 

グラフィックスチップ部のヒートシンクから,2本のヒートパイプで2か所の放熱フィンへ熱を移動させる構造のSilent-Pipe II。フィンはそれぞれ微妙に角度が付けられている

 

 このほか,主な仕様は表1にまとめてみた。締め切り日が迫っていることもあって表には入れていないが,2006年5月31日まで,GV-NX76T256Dと「マイクロソフト エイジ オブ エンパイア III」の両方を購入すると,3000円キャッシュバックされるキャンペーンが行われていることは付記しておきたい。

 

 

 

■冷却能力は3者3様,ファンレス2製品には意外な差が

 

 いずれもGeForce 7600 GTを搭載しているということで,今回はパフォーマンスよりも先に,冷却能力を中心とした使い勝手を見てみることにしよう。
 テスト環境は表2のとおりだが,今回はテスト用システムを,Cooler Master製のスチール製ミドルタワーケース「Centurion 530」へ組み込んでいる。また,グラフィックスチップの温度はForceWareに付属する「nTune」で見る一方,カード各部の温度を,横河M&Cのデジタル放射温度計「53005」を用いて計測することにした。
 テストに当たっては,側板を閉じた状態でテスト直前まで放置し,直前に側板を取り外して対象を測定するという方法を選択。テスト時の室温は24.9〜25.0℃だ。アイドル時はテスト中の最低温度,逆に高負荷時は最高温度をスコアとした。
 また以後,OSが起動してから30分後を「アイドル時」,「3DMark05 Build 1.2.0」(以下3DMark05)のリピート実行30分後を「高負荷時」とする。

 

 

 グラフ1は,システム全体の消費電力をまとめたものだ。オーバークロックモデルであるPX7600GT Extremeでも,消費電力がほとんど変わっていない点に注目したい。
 続いてグラフ2は,前述のとおりnTuneからグラフィックスチップの温度を計測したものだが,オーバークロックが行われているにもかかわらず,リファレンスカードよりも温度の低いPX7600GT Extremeの冷却能力は特筆できよう。静粛性でファンレスモデルと比較しても意味がないため,騒音レベルは計測していないが,少なくともPX7600GT Extremeのチップクーラーは,筆者の耳で判断する限り,リファレンスカードのものよりかなり静かである。

 

 ファンレスの2製品は温度でずいぶんと差がついた。純粋な自然対流に頼るGV-NX76T256Dは高負荷時にリファレンスカードを大きく超える温度を記録していたのに対し,CPUクーラーによる風を最大限利用できるSikent Cool 2を採用したEN7600GT SILENTの冷却能力は光る。

 

 

 

 温度に関しては,もう少し突っ込んで見てみよう。以下に挙げるA/B/Cの場所について,放射温度計で計測することにした。EN7600GT SILENTに関しては,可動放熱フィンをCPU側に向けた場合(向きα)と,カードと平行になるようにした場合(向きβ)の2パターンでテストを行っている。

  • A:グラフィックスコア上のヒートシンク
  • B:グラフィックスコアが配置された裏側の基板もしくは放熱フィン
  • C:任意の場所
  •   PX7600GT Extreme〜ヒートシンク側面
  •   EN7600GT SILENT〜基板上部の回転する放熱フィン
  •   GV-NX76T256D〜ブラケット部の吸気口部にあるフィン
  •   リファレンスカード:ヒートシンク側面
PX7600GT Extremeの温度計測部。Cはやや分かりにくいかもしれないが,「ヒートシンクの排気口部」である

 

これはEN7600GT SILENTの温度計測部を示したもの。左の写真が「向きα」,右が「向きβ」に相当する。計測部は向きにかかわらず同じ

 

GV-NX76T256Dの計測部。計測部Cだが,実際にはケースの外側から吸気口に向かって放射温度計のセンサーを向けている

 

 テスト結果はグラフ3にまとめたとおりだが,順に見てみると,まずアイドル時は,GeForce 7600 GTの発熱がそもそもそれほど高くないため,製品ごとの差はあまりない。PX7600GT Extremeの冷却能力は完全に頭一つ抜け出しているが,GV-NX76T256Dの42.4℃も許容範囲内だ。
 高負荷時に目を移すと,やはり大口径のファンを内蔵するPX7600GT Extremeの冷却能力が優秀だ。計測部Aの温度はアイドル時から4℃程度しか変化しておらず,冷却機構の構造自体は同じリファレンスカードと比べて10℃も低い点は特筆に値する。

 

 EN7600GT SILENTは向きαと向きβの違いに注目したい。可動放熱フィンがCPUクーラーのすぐ上になる向きαでは,高負荷時における計測部Aの温度が約7℃下がっており,やはり基本的には,可動フィンは向きαで利用するのが正解のようだ。
 高負荷時における計測部Aの温度は同じファンレスモデルのGV-NX76T256Dより高いが,グラフ2で明らかになっているとおり,グラフィックスチップの冷却能力自体はEN7600GT SILENTのほうが高い。ここは「Cool-Pipe IIよりも,Silent Cool 2のほうが効率的にグラフィックスチップの発熱をヒートシンクに伝導させている」と見るべきだろう。
 もっとも,GV-NX76T256Dの冷却能力が低いというわけではない。温度は計測部A,B,Cでほぼ揃っており,ヒートパイプによる熱の伝導がうまくいっていることが分かるからだ。

 

 

 

パフォーマンスはほぼクロックどおりだが
オーバークロックのメリットはゲームによる

 

 すべて同じグラフィックスチップを搭載する以上,パフォーマンスが劇的に変わるというのは想像しづらいが,念のためチェックしておきたい。
 初めにお断りしておくと,本稿からベンチマーク方法をアップデートしている。FPSが2本,負荷の軽いレースゲームが1本という構成はそのままにタイトルを見直し,さらに3Dエンジンを採用したMMORPGのテストを加えた。汎用ベンチマークテストについては,「3DMark06」は似た挙動のゲームタイトルがいくつか出てくるまで参考扱いとし,基本的には3DMark05のスコアで分析を行うことにする。
 また,2006年は初夏から秋にかけて多くの大作が予定されているが,これらは「ベンチマークテストで信頼できる値を取得でき,かつ読者にとって性能評価の目安になる」と判断した時点で,テスト対象に加えていく予定だ。

 

 なお,これはいつものことだが,以後,グラフィックスドライバ側から垂直同期のみオフに変更した状態を「標準設定」,同じくドライバ側で強制的に8xのアンチエイリアシングと16の異方性フィルタリングを適用した状態を「8x AA&16x AF」と呼ぶ。

 

 というわけで,まずは3DMark05から。これまでとテスト方法は変えていない。
 結果はグラフ4,5にまとめたとおりだが,PX7600GT Extremeのスコアが順当に高い。リファレンスカードと比べて10%弱ほどだが,確実に高速化されているといっていいだろう。ファンレスの2モデルは,動作クロックがリファレンスカードと同じなので,ベンチマーク結果もほぼ同じところで落ち着いている。
 ちなみに,3DMark06 Build 1.0.2のテスト結果は,Basic Editionで計測できる1280×1024ドットについてグラフ6にまとめておいたので,興味のある人は参考にしてほしい。

 

 

 

 

 続いて「Quake 4」だが,こちらは高解像度環境&マルチスレッド最適化を果たしたVersion 1.1βパッチを適用している。すでにVersion 1.2パッチが登場しているので,適切なリプレイデータが用意でき次第そちらへ移行する予定だ。

 

 さて,Version 1.1βパッチを適用したQuake 4では,「Over The Edge」というマップにおいて,4名によるデスマッチを行ったときのリプレイデータを利用し,Timedemoから平均フレームを取得。その結果をグラフ7,8ににまとめている。
 ここから言えるのは,PX7600GT Extremeのメリットが,描画負荷の相対的な高まりに伴って生じるということだ。逆に言えば,描画負荷が軽い場合や,CPUがボトルネックになってしまう場合は,動作クロックの違いがゲームのフレームレート向上には寄与しない可能性があるというわけである。

 

 

 

 続いて,グラフ9,10は,「F.E.A.R.」(Version 1.04パッチ適用済み)における平均フレームレートをまとめたものだ。F.E.A.R.では,トップメニューからベンチマークモードを選択できるため,それを選択して行っているが,ここでは標準設定の1024×768ドットであっても,PX7600GT Extremeが明らかなスコアの差をリファレンスクロックの3枚に対してつけている。もっとも8x AA&16x AF設定時だと,負荷が重くなって,この差は失われるが。

 

 

 

 “軽くなりすぎた”「TrackMania Sunrise」の代わりに導入したのが,その後継となるe-Sports用無料ゲーム「TrackMania Nations ESWC」である。テストは,「I-1」を数周する約87秒のリプレイデータを用意し,その間のフレームレートを「Fraps 2.60」で取得する。その結果をまとめたのがグラフ11,12だが,PX7600GT Extremeのスコアは,リファレンスクロックの3枚よりも高いものの,劇的ではない。FPSほど厳しくフレームレートが求められるわけではないレースゲームにおいて,これしか差がない状態では,オーバークロックモデルのメリットを体感するのは不可能と思われる。

 

 

 

 最後に,MMORPGにおけるパフォーマンスを確認すべく「Lineage II」のリプレイデータを利用したベンチマークを行った。Lineage IIなどのMMORPGでは,毎日のようにアップデートが入るが,描画エンジン関連の大規模なアップデートは多くて年に数回であるため,評価には十分利用できると判断した。

 

 用意したリプレイデータは「7人パーティが,狭い建物内で戦闘を行う」というもの。このデータをLineage IIのログイン画面から「リプレイ」を選択して再生し,1分30秒間の平均フレームレートをFraps 2.60で計測してグラフ13にまとめた。
 結論からいうと,TrackMania Nations ESWCと同様,オーバークロックモデルのメリットは見えにくい。どうしてもCPU処理が多くなるMMORPGにおいて,オーバークロックモデルの必要性は薄いと言わざるを得ないだろう。

 

 

 

■特徴を踏まえたうえで選択すればハズレはない

 

 純粋にパフォーマンスを考えれば,今回採り上げた製品群の店頭価格にあと数千円を加えるだけで(店頭在庫の)GeForce 7800 GT,あるいはあと1万円でGeForce 7900 GT搭載製品を購入できる。だが,GeForce 7600 GTを選択するユーザーの多くは,おそらく予算という現実的な縛りがあるはずだ。

 

 それを踏まえて,3万円という予算で考えたとき,ゲームを楽しむという観点では,オーバークロックモデルを選択するか,ファンレスモデルを選択するかというのは,非常に悩ましい問題といえる。
 ベンチマークテストの結果を見る限り,少しでも高いフレームレートを維持したいFPSなどでは,オーバークロックモデルが最良の選択肢となるだろう。とくにPX7600GT Extremeは,オーバークロック設定が行われつつ,高い冷却性能を持ったクーラーを装着している。動作保証外になるのを覚悟するなら,ユーザーレベルでもう少しクロックを上げていくことすら可能かもしれない。それでいて,2006年5月中旬現在の実勢価格は2万8000円前後なので,買い得感は高い。

 

 一方,数フレームでは体感にあまり影響しないレースゲームや,30fpsを超えていれば,グラフィックスカードがゲーム性に悪影響を与える可能性はほぼなくなるMMORPGでは,ゲームをプレイしないときに不必要な騒音を立てないファンレスモデルのほうが魅力的といえるのではなかろうか。
 2製品では,冷却能力と1スロット仕様がより魅力的なEN7600GT SILENTを推すが,同製品の実勢価格は3万円前後。その点GV-NX76T256Dは2万8000円前後で,温度が高いとはいえ,動作に問題があるわけではないから,コスト重視でこちらという選択肢はアリ。いずれにせよ,3モデルの特性をきちんと理解したうえで,自分のニーズに必要なものを選択すれば間違いないはずだ。

 

タイトル GeForce 7600
開発元 NVIDIA 発売元 NVIDIA
発売日 2006/03/09 価格 製品による
 
動作環境 N/A

Copyright(C)2006 NVIDIA Corporation

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/7600gt_roundup/7600gt_roundup.shtml