― レビュー ―
特殊形状ヒートシンクを搭載したファンレスGeForce 6600 GTカードは実用に堪えるか
Extreme N6600GT Silencer/HTD/256M
Text by 石井英男
2005年9月2日

 

■独自の冷却機構「ASUS SilentCool Technology」を採用

 

 グラフィックスカードの3D描画性能はゲーマーにとって非常に重要なスペックだが,高性能なグラフィックスチップは消費電力(≒発熱)も大きい。そしてそれを冷却するため,チップクーラーのファンから出る音は大きくなりがちだ。
 グラフィックスカードの騒音をなくすには,ファンやモーターが駆動しなければいいから,実際に,放熱面積の大きい,大形のヒートシンクのみを搭載するグラフィックスカードはいくつも登場している。しかし,これらはファンレスであるがゆえ,GeForce 6600 GTクラス以上のグラフィックスチップを搭載すると,冷却能力が足りないという事態にしばしば陥る。ファンレスのグラフィックスカードを購入したとしても,ユーザーが静音タイプなりなんなりのファンをケース内に取り付けるなどの対策を講じなければ,正常に動作しないことのほうが多いだろう。非常に分かりやすい静音化ソリューションということもあり,初心者がしばしば手を出すファンレスのグラフィックスカードだが,ミドルクラス以上は,決して初心者向けではなくなってしまっているのが現状だ。

 

Extreme N6600GT Silencer/HTD/256M
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション(販売代理店)
news@unitycorp.co.jp

 今回採り上げるASUSTeK Computer(以下ASUSTeK)製のGeForce 6600 GT搭載グラフィックスカード「Extreme N6600GT Silencer/HTD/256M」(以下EN6600GT Silencer)は,ファンレスのグラフィックスカードである。ただし,ただ大形のヒートシンクでカードを覆ったのではなく,独自の冷却機構「ASUS SilentCool Technology」(以下SilentCool)を採用しているのが特徴となっている。
 SilentCoolは,グラフィックスチップに取り付けられているヒートシンクと,おろし金のような外観のヒートシンクから構成されている。この"おろし金"ヒートシンクを以後は便宜的に「可動ヒートシンク」と呼ぶことにするが,可動ヒートシンクは,写真を見ると分かるように,カードに対して垂直方向に取り付けられており,この状態のまま,カード側ヒートシンクとの接点を中心に,写真奥の方向(CPUがあるほう)へ,最大90度回転できるのだ。

 

ヒートシンク部を取り外してみた。可動ヒートシンクは左の写真で示した"おろし金"のようなフィンでヒートパイプを囲む形状になっており,写真上の方向へ最大90度傾けられる。右の写真は,グラフィックスチップやメモリチップとの接触面側から見たものだ。ヒートパイプが可動ヒートシンクに向かって伸びているのが分かる

 

ASUSTeK製のGeForce 6600 GTカード「Extreme N6600 GT」(上)とカード長を比較してみた。カードそのものの長さは同じだ

 このため,可動ヒートシンクを90度回転させてCPUクーラーの上空に置くと,CPUクーラーのファンが起こすエアフローを利用できるようになるため,グラフィックスカード自体はファンレスのまま使える。こうやって利用する場合,国内で人気の某社製ファンレスGeForce 6600 GTグラフィックスカードを追加ファンなしで運用したときと比べて,グラフィックスチップの温度が最大40℃も低くなるという。

 

 基板部分のカード長は175mmで,リファレンスのGeForce 6600 GT搭載グラフィックスカードと同じ。ただし,可動ヒートシンクの長さは58mmあるので,CPUクーラーの上空に配置せず,別の手段を講じる場合は,ケース内の各部と干渉する可能性があり,注意が必要だ。とくに可動ヒートシンク部の厚みは25mmあるので,ケースの横幅によほどの余裕がなければ,可動ヒートシンクとPCケース側板との間に冷却用のファンを取り付けるのは難しい

 

ごく一般的なPCケースに組み込んでみたところ。ケースの側板に対して可動ヒートシンクはかなり近い場所に来ることが分かる。側板にパッシブダクトがあるようなPCケースでは,ダクトと干渉することもありそうだ

上の状態の別角度。CPUクーラーの上に可動ヒートシンクを配置する,この形が標準状態になるだろう。CPUクーラーの真上に置くため,もう少し傾けるのもアリだ

 

 カードそのものの仕様を見ていくと,コアクロック500MHz,メモリクロック1GHz(500MHz DDR)であって,スペックは基本的にリファレンスどおり。グラフィックスメモリは256MBなので,メモリバス帯域幅よりも純粋なメモリ容量が問われる場合には,フレームレートの向上が期待できるだろう。

 出力インタフェースはDVI-IとD-Sub15ピンアナログRGB,ビデオがそれぞれ1系統ずつと標準的。DVI-I→D-Sub15ピンのRGB変換アダプタが付属する。ビデオ出力はコンポーネント/S/コンポジットビデオ対応だ。同梱のゲームタイトルは「Second Sight」「Chaos League」「Joint Operations:Typhoon Rising」「Xpand Rally」とレースゲーム「Power Drome」という,計5タイトルの英語版フルバージョン。2005年9月という時期を考慮すると,ラインナップはやや微妙か。

 

 

■ファンレスだが,十分な冷却性能を実現

 

 EN6600GT Silencerについては,何よりもその冷却能力が気になるところだ。さっそくベンチマークで,冷却能力をチェックしていきたい。
 今回は同じASUSTeK製のGeForce 6600 GT搭載グラフィックスカード「Extreme N6600GT」(以下EN6600GT)と比較してみることにする。このほかテスト環境はのとおりだ。

 

 

SLI動作テストのイメージ。追加でファンを用意するとなると,SLIにおいてはこの配置が最も現実的だろう。テスト自体はケースに入れず,バラックで行っている

 テストに当たっては,PCを起動してから30分間放置した状態を「アイドル時」,「3DMark05 Build1.2.0」(以下3DMark05)を30分間連続実行させた直後を「高負荷時」と呼ぶことにして話を進める。計測時の室温は27℃で,テスト用システムはケースに入れず,バラックの状態だ。なお,カード1枚でテストを行うとき,EN6600GT Silencerの可動ヒートシンク部は90度回転させてCPUクーラーの上になるよう配置。SLI動作時は二つの可動ヒートシンクを並行に並べた状態で計測している。このとき,追加のファンは利用していない。

 結果はグラフ1に示したとおり。アイドル時で比較すると,EN6600GT Silencerのグラフィックスチップ温度は55℃になっている。ファン付きのチップクーラーを搭載するEN6600GTと比べると11℃ほど高いが,ファンレスカードとしてはかなり優秀な値だ。高負荷時には78℃まで上昇しており,少々高め。だが,動作に問題が生じるレベルではなく,許容範囲といえるだろう。
 SLI動作時には,アイドル時で3〜7℃,高負荷時は3〜10℃上昇している。さすがに完全ファンレス動作となるので少々気になる温度だが,動作そのものは安定していた。十分なエアフローの生じるケース内で運用すれば,もう少し温度は下がるはずで,SilentCoolの能力は確かにあると判断していいだろう。

 

 

 

■グラフィックスメモリ128MB搭載製品よりは高い性能を発揮

 

 続いて,パフォーマンスについても見ていくことにしよう。このあたりは恒例のテストとなるが,垂直同期と解像度以外の設定を変更していない状態を「標準設定」,8倍(8x)のアンチエイリアシングと16倍(16x)の異方性フィルタリングを適用した状態を「8x AA&16x Anisotropic」と呼ぶことにして,二つの条件でベンチマークスコアを比較していく。
 なお,EN6600GT Silencerのグラフィックスメモリ容量は前述のとおり256MBであるのに対し,EN6600GTは128MBである。動作クロックは同じだが,スコアはEN6600GT Silencerのほうが若干よくなると想像できる。
 また,グラフィックスメモリが128MBだと,8x AA&16x Anisotropic時にいくつかの解像度で正しいスコアが得られなかった。理由は「こちら」の記事でも言及しているように,メモリ容量が128MBだと,大量のエフェクトを処理するにはメモリ容量が足りないためと思われる。いずれにせよ,以下のグラフにおいて,1024×768/1280×1024/1600×1200ドットの解像度のうち,結果が割愛されているものは,以上の問題により,比較できるだけのデータを取得できなかったものと判断してほしい。

 グラフ2,3は3DMark05のスコアだが,EN6600GT Silencerの1枚差し動作時は,メモリ容量の差もあって,標準設定で4〜11%,8x AA&16x Anisotropic有効時は19%ものスコア向上を確認できた。SLI動作をさせると,この差はさらに大きくなっている。

 


 

 続いて,「DOOM 3」のTimedemoを利用し,平均フレームレートを計測してみた結果をグラフ4,5に,「TrackMania Sunrise」を用いて53秒程度で1周する「Paradise Island」というマップのリプレイを3周繰り返し,その間の平均フレームレートを「Fraps 2.60」を利用して計測した結果をグラフ6,7に示す。DOOM 3の標準設定では解像度にかかわらず3%ほどのスコア向上が見られた。DOOM 3と比べると負荷の低いTrackMania Sunriseでは,1枚差しの標準設定だとフレームレートはほとんど変わらないが,メモリ負荷の高くなる8x AA&16x Anisotropic有効時は,10〜17%ものフレームレート向上を確認できた。この差はSLI動作時だとさらに大きくなり,標準設定でも3%の差がついたほか,8x AA&16x Anisotropic有効時には24〜33%という大きな差が生まれている。

 




 

 最後に,システム全体の消費電力をワットチェッカーで計測した値をグラフ8にまとめてみた。ここで計測しているのはあくまでシステム全体の消費電力だが,グラフィックスカード以外のパーツ構成は同じなので,その差はグラフィックスカードの消費電力の差と等しくなる。
 メモリ容量の差によって,EN6600GT Silencerのほうが全体的にわずかながら消費電力が大きくなっている。とはいえ,気にすべきほどの差ではないともいえよう。

 

 

 

■価格は高いが,静音性重視ならアリ

 

 2005年9月1日から販売の始まったEN6600GT Silencerの実勢価格は,2005年9月2日現在2万8000円前後。グラフィックスメモリ128MB版GeForce 6600 GT搭載グラフィックスカードの相場からすると,少なくとも8000円近く高い。グラフィックスメモリ256MB版と比較しても,3000〜6000円程度高い計算だ。GeForce 7800シリーズが登場して“一世代前のミドルクラス”となったGeForce 6600 GTに3万円近く払える人はそう多くないはずで,遅きに失した感は否めない。
 しかし,そこそこのパフォーマンスが期待でき,また,自作PCの冷却に関するノウハウがあまりなくても,とりあえず可動ヒートシンク部をCPUクーラーの上に配置してしまえば,無音グラフィックスカードとして簡単に利用できるという点は評価に値する。

 深夜に3DのMMORPGをプレイしたい場合や,普段は2Dゲームが中心だが,たまに3Dゲームもプレイするというスタイルで,普段はなるべく静かにPCを運用したいのであれば,EN6600GT Silencerは,今からでも購入の選択肢に入れていい製品だ。(石井英男)

 

タイトル GeForce 6600
開発元 NVIDIA 発売元 NVIDIA
発売日 2004/08/12 価格 製品による
 
動作環境 N/A

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/en6600gt_silencer/en6600gt_silencer.shtml