― レビュー ―
2500円で購入できるネックバンドタイプの低価格ヘッドセット
Internet Chat Headset
Text by 榎本 涼
2006年7月20日

 

 量販店などのヘッドセット売り場に行くと分かるが,スペースの大部分を占めているのは,ボイスチャットソフト「Skype」対応を謳った低価格製品だ。Skypeの詳細は特集記事を参照してほしいが,4Gamerの読者がヘッドセットを購入しようと思って最寄りのPCショップへ出かけたとき,最も目にすることが多いのが,これら「電話代わりの純粋なボイスチャット環境」向け製品である。

 

Internet Chat Headset
メーカー:Logitech(ロジクール)
問い合わせ先:ロジクール カスタマーリレーションセンター
電話:03-5350-6490
直販価格:2604円(税込)

 Logitech(日本法人名ロジクール)の「Internet Chat Headset」(インターネットチャット ヘッドセット,型番 A-350)は,そういった低価格なヘッドセットのなかでも,とくに店頭で見かけることの多い製品の一つだ。
 Internet Chat Headsetの直販価格は2006年7月時点で2604円。低価格低価格と繰り返してきたが,量販店の店頭で見れば,もっと安価な製品は存在する。実際,ロジクールの製品ラインナップからすれば,Internet Chat Headsetはアナログ接続タイプのミドルレンジ向けという位置づけ。「ヘッドホンパネル」と呼ばれるヘッドフォンのカバーとして,標準となるオレンジのほか,黒/紫/赤 3色のカバーが付属し,外観をカスタマイズできるようになっているのは,ミドルレンジ向けらしいというか,「手軽なボイスチャット用としての高級機」らしいといえる。

 

Internet Chat Headsetには,黒/紫/赤のヘッドフォンカバーが付属する。パッケージを見たときに判別できるのは各1枚ずつだが,実際にはちゃんと各色2枚ずつあるのでご安心を

 

 

ネックバンドタイプで軽い装着感

 

Internet Chat Headsetでは,ネックバンドで左右のヘッドフォン部をつないでいる

 ネックバンドタイプでは,頭部にヘッドバンドが触れるように装着する一般的なヘッドフォン/ヘッドセットとは異なり,バンドが首の後ろを回る格好で装着される。ネックバンドタイプのヘッドフォンは,国内だとソニーのヘッドフォンなどに時折見られるが,ヘッドセットとしてはやや珍しい。
 ちなみにネックバンドそのものはプラスチック製で,長さの調節は不可能。ただ,ゆったりした作りになっているため,よほど首が太いユーザーでもない限り,問題はない。むしろ,可能部がほとんどないこともあって,細い外観の割に,本体は比較的丈夫な印象を受けた。

 

ヘッドセット全体の調整は,プラスチック製ネックバンドの「しなり」を利用して行う仕様。実際には,首の付け根のすぐ上をネックバンドが走るような格好で装着すればOKだ。プラスチック製で軽いため,長時間使っても疲れにくいのはありがたい

 

 残念なのは耳と直接触れるイヤーパッドで,薄いスポンジ製のこれは決して心地よい装着感ではない……が,価格を考えれば,目くじらを立てるほどではないのも確か。むしろ全体的には,ネックバンドタイプのヘッドフォンと同じ使い勝手といっていい。ネックバンドという仕様そのものに抵抗がなければ,まず違和感なく利用できるだろう。

 ヘッドフォン部に用意されるスピーカーの本体(スピーカードライバー)は「30mmサイズのセラミックマグネット式ユニット」とのことで,決してチャチな作りではないものの,エンクロージャーが極めて小さく,この点は気になった。なお,エンクロージャーは若干の音漏れが発生する,セミオープンタイプのオープンエア型だ。

 

 一方,ブームマイク部は,価格からするとかなりよくできている。全長10cmほどのブームは自由に調整でき,「ここに配置したい」と思ったところでピタリと固定可能。マイクがブレスノイズ(=息継ぎ音)を拾ってしまうのを防ぐ,スポンジ製のウィンドスクリーンが標準で取り付けられているが,マイク本体が比較的小型なこともあって,ゲーム中に視界を遮ることはまずない。

 アナログケーブルの長さは2.4m。途中に,ボリューム変更用のノブとマイクのオン/オフを切り替えるボタン付きのコントローラが用意されている。コントローラの品質は,価格と照らし合わせてみて,可もなく不可もなくといったところである。
 接続端子は入出力ともにステレオのミニピンで,黒いほうがヘッドフォン用,ピンクのほうがマイク用。PCのオンボード端子や,ゲーマー向けの標準サウンドカードであるSound Blasterシリーズなら,問題なく接続できる。

 

アナログケーブルの途中に用意されているコントローラと,終端に用意されるステレオミニピンの接続端子。ごくごく一般的な作りで,接続やボリューム調整にとまどうことはまずないだろう

 

 

かなりクセのあるヘッドフォン品質
音声用と割り切る覚悟が必要

 

 以上,仕様を理解したところで,出力品質と入力品質をチェックしてみたい。
 Internet Chat HeadsetとPCは,2006年7月19日時点の最新ドライバ(2.07.0004)を適用したサウンドカード「Sound Blaster X-Fi Elite Pro」(以下X-Fi EP)を介して接続。出力/入力とも,ステレオミニ→ステレオ標準変換プラグを利用して,X-Fi EPのブレイクアウトボックス前面にある「MIC2」端子とつないでいる。

 

 まずはヘッドフォン出力品質からだが,一般に男声の範囲といわれる80〜500Hzだけはなく,か/さ/た/ば/ぱ行のような破裂音に含まれる1〜2kHzの帯域に強いピークがあるようで,人の声は総じて聴き取りやすい。だが,中域の音だけが強く聞こえる結果として,低域(≒低い音)も高域(≒高い音)は,相対的に非常に弱く聞こえる。出力されていないわけではないのだが……。
 このような特性を持つため,ネットワーク越しにほかのプレイヤーの声を聴き取るのに,Internet Chat Headsetは適している。だが,ゲームの効果音やBGM,あるいは音楽や映画などといった,低域から高域までまんべんなく音が出力されるようなコンテンツを聴くにはまったく向かないのも,また確かだ。

 また,X-Fi EPからバーチャルサラウンド機能「CMSS-3DHeadphone」を使ってみると,かえって音の広がりが狭まった印象。サラウンド感も増えず,使わないほうがマシなくらいだった。
 これはおそらく,耳を“覆う”のではなく耳に“当てる”タイプであるがゆえに,音場が作りにくくなり(≒セミオープン型ヘッドフォンの意図しない部分からも音が漏れてしまい,音に包まれるような感覚が失われ),サラウンド感が失われてしまうためと思われる。4Gamerで高い評価を与えてきたCMSS-3DHeadphoneだが,万能ではないということなのかもしれない。

 

 

入力特性は高域重視型
環境によっては設定音量に注意

 

 さて,Internet Chat Headsetのマイクは,カタログスペック上,100Hz〜16kHzの周波数帯域をカバーし,「NCAT2」(Noise Canceling Technology 2)という独自のノイズキャンセリング機能を搭載。フロアノイズ(≒室内に,自然にあるノイズ)を減らしながら,通話時にとくに重要な350Hz〜7kHzの帯域を重視した設計になっているという。
 では,実際はどうなのか。いつものように,波形で確認してみよう。

 詳細なテスト方法については,2005年9月12日の記事を参照してもらうとして,ここでも簡単に説明しておきたい。
 マイク入力に当たっては,口の代わりとなるスピーカーをマイクの正面5cmのところへ置き,スピーカーからモノラルの「ピンクノイズ」という,低域から高域までまんべんなく持つノイズを出力する。そして,マイクが拾った音をサウンドカードへ入力。さらに,PCへあらかじめインストールしておいたWaves Audio製のオーディオアナライザソフト「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(以下PAZ)を用いてグラフ化することにした。

 下がそのピンクノイズの波形だ。「周波数特性」とある部分の一番左が0Hzで,右に行くに従って高域(≒高い音)になる。ピンクノイズが,全周波数帯域(≒グラフの左端から右端まで)でまんべんなく音を持っていることが分かるだろう。これをリファレンスとする。

 

上段は周波数特性,下段は位相特性の波形をグラフ化したものだ。周波数特性は,オーディオレベル(≒音の大きさ)を周波数(≒音の高さ)ごとに並べたもの。単位はdBで,グラフ左端で縦に並んでいる数字がオーディオレベルの値を示している。位相特性は,「青い扇状の部分にオレンジの波形が入っていれば,ステレオ感という意味で入力した音に不自然さはなく,ヘッドセットのマイクとして合格」と理解してくれれば問題ない

 

 続いて,テスト結果を下に示す。
 見ればすぐに分かるが,リファレンスとはかなり波形が異なっている。とくに,低域から中低域がリファレンスと比べて下がっており,逆に4〜8kHzあたりの中高域が上がっているのが特徴的だ。4Gamerでこれまでテストしてきたヘッドセットでは,どちらかというと中低位機をしっかり入力できる設計のものが多かっただけに,異色の波形といえる。
 もっとも,決して低域を拾わないわけではなく,250Hz〜500Hz付近の大きな谷を除けば,それ以下の帯域は比較的しっかりと集音されている。測定波形ほどには,実際に入力される声は不自然ではない印象だ。高域が強いこともあって,録音した声はクリアな傾向を示していた。

 

リファレンスと比べると,4〜8kHzの中高域が強く,逆にそれ以外は相対的に弱めだ。ただ,「リファレンスよりオーディオレベルの低い波形」というように視点を変えると,4〜8kHzが高いのと,250〜500Hzが低いのを除けば,そこそこ見られる波形なのも確か。これが本文で触れた,それほど不自然ではない印象につながっていると思われる。なお,位相はモノラルマイクらしく,問題のない波形だ

 

 ただ,「高域の音をよく拾う」ことが,人間の声に含まれない高い音,つまりヘッドセット用のマイクが拾うべきでない音=ノイズをよく拾ってしまうことと同義という点は,注意しておきたい。
 結果として,Internet Chat Headsetは,声以外のフロアノイズを拾いがちである。先述したように,同製品はNCAT2というノイズキャンセリング機能を持つが,過度の期待はしないほうがいい。

 また,“高域を拾いすぎる”特性は,別の問題も引き起こした。
 例えば,Internet Chat Headsetをゲーム用PCとは別のPCに接続してボイスチャット専用に用い,ゲームの効果音やBGMはゲーム用PCのスピーカーから出力する場合。実際に試したところ,スピーカーからゲームの効果音やBGMを大きな音で出力していると,それらの音(正確にはそれらの音に含まれる高域成分)をマイクが過剰に拾ってしまい,「拾った音をヘッドフォンへ入力→サウンドカードを介してヘッドセットのヘッドフォンから出力→音漏れ→漏れた高域成分をマイクが再び拾う」という問題「フィードバック」が発生し,「キーン」とか「ピー」といった不快な音が耳を襲うことがあった。

 スピーカーを使用していないときにも,ヘッドセットが持つヘッドフォン部の出力ボリュームを上げすぎると,やはりキンキンとした金属質なノイズが混じるという問題が発生。環境によっては,出力や入力ボリュームを絞るといった対策が必要になる。

 

 

文字どおり「Internet Chat Headset」
音声通話専用なら環境次第でアリ

 

 つまるところ,Internet Chat Headsetは,あくまで「インターネットを介してボイスチャットを行うためのヘッドセット」なのだろう。長時間装着時のストレスが少ない,重量の軽いネックバンド仕様は魅力的で,ヘッドフォン部は音声を聞き取るなら問題なし。また,ブームマイクも,やや高周波ノイズが気になるものの,音声はクリアに入力されるため,純粋な意味でのボイスチャットで利用するなら,価格以上の品質を持っているといっていい。

 では,これがゲームで利用できるかというと,「Yes」と答えるにはいくつか条件が付く。
 上で触れたように,ヘッドフォンは,ゲームの効果音やBGMを「いい音で」聴くことを念頭においた設計にはなっていない。また,マイクは高域を拾いすぎるため,ゲームの周辺環境に気を遣う必要がある。

 以前筆者は,ヘッドセットのユースモデルとして,大きく3パターンを示した。2005年9月12日の記事に詳しいが,ここで概要を改めて示しておこう。

  • 出力/入力を1台のヘッドセットでまかなう
  • ヘッドセットを首に掛けてマイクだけ利用し,効果音やBGMは別途用意したスピーカーやヘッドフォンから出力する
  • ゲーム用PCとは別のPCにヘッドセットを接続し,音声出力/入力はゲーム用PCと完全に切り離す
(2)の例。ヘッドフォンではなく,スピーカーから音を出力する選択肢も,もちろんある

 こうやって並べてみると,Internet Chat Headsetの向き不向きははっきりする。(1)にはまったく向かないが,(2)と(3)のタイプなら,効果音/BGMの出力ボリュームと,マイクの入力ボリュームに気を配ることで,ゲームでも利用できるヘッドセット……というのが,Internet Chat Headsetについてのまとめということになろう。

 そもそも,実勢価格3000円以下の製品に,「オーディオヘッドフォンとして優秀で,マイク入力品質も高い」ことを期待するのは限りなく難しい。安価である以上,必ずトレードオフになっている部分があり,それが今回の場合は,オーディオヘッドフォンとしての品質,そしてノイズキャンセリング能力だったというだけの話である。
 繰り返すが,少なくとも通話品質はまずまず。それ以外の弱点に対し,適切な対策が取れる人にとっては,Internet Chat Headsetはコストパフォーマンスの高いヘッドセットになるはずだ。

 

タイトル ヘッドセット
開発元 各社 発売元 各社
発売日 - 価格 製品による
 
動作環境 N/A