― レビュー ―
NVIDIAの新世代グラフィックスチップで明らかにするSLIの意味
GeForce 7900 GTX/GT&GeForce 7600 GTリファレンスカード(後編)
Text by 宮崎真一
2006年3月17日

 

GeForce 7600 GTリファレンスカード

 2006年3月9日に掲載した前編では,主に新世代ハイエンドであるGeForce 7900 GTXを中心に,GeForce 7900 GTやGeForce 7600 GTについても,シングルグラフィックスカードとして,そのポテンシャルを明らかにしてみた。後編となる本稿では,NVIDIA SLI(以下SLI)構成を採った場合に,シングルカード動作時と比べてどれだけの性能向上を示すかをチェックしていきたい。
 とくに,新たにミドルレンジ向けとして投入されたGeForce 7600 GTに関しては,かつてミドルレンジと位置づけられていたGeForce 6600 GTの正統後継として,今回はどれだけのコストパフォーマンスを見せてくれるのか,気になっているゲーマーは多いだろう。同時に,SLI動作によって,どこまで上位モデルに迫れるのか注目している人も少なくないと思われる。今回は,このあたりを中心に,掘り下げてみようと思う。

 

 

■前回と基本的には同じテスト環境で検証

 

 テスト環境は,基本的に前編と同じ。まず完全に同じところから説明していくと,グラフィックスドライバは前編同様,NVIDIAから報道関係者向けに提供された「ForceWare 84.17」を利用する。これは,2006年3月17日現在,依然としてGeForce 7900/7600シリーズに対応した公式ドライバがリリースされていないためだ。
 シングルグラフィックスカードのテストは,GeForce/Radeon問わず,同じマザーボード上で行うのも変わらない。前回「あくまで参考に」ということで,本誌の過去記事からGeForce 6800 GSリファレンスカードのスコアを一部流用していたが,今回はForceWare 84.17を利用して,すべて計測し直している。

 

 続いて変更点。比較対照用のRadeon X1900 CrossFireは,当然のことながらCrossFire対応マザーボードでテストする必要があるため,CrossFireだけは,Radeon Xpress 200 CrossFire Editionマザーボード上でテストを行っている。
 また後編では,主にGeForce 7600 GTの比較用として,前編のテスト環境に加え,新たにGeForce 7800 GTとGeForce 6600 GTを搭載するグラフィックスカードを用意。GeForce 7800 GTは,シングルグラフィックスカードのテストをリファレンスカードで,SLIテストは「リファレンスカード+GIGABYTE TECHNOLOGY製品」で行っている。
 あと,これはあらかじめお断りしておく必要があるのだが,機材調達の都合で,今回はどうしてもGeForce 7900 GTリファレンスカードを2枚用意できなかった。このため,GeForce 7900 GTのスコアはグラフ中でブランクになっているので,注意してほしい。

 

 なお,念のためテスト環境の表を別途用意した。詳細を確認したい人は参照してほしい。また,本来であればATI Technologiesのミドルレンジ向け製品であるRadeon X1600 XTを用意すべきかもしれないが,Radeon X1600 XTはGeForce 6800 GSよりも3Dパフォーマンスで劣るため,前編の結果から,重要度は低いと判断した。

 

Radeon X1900 CrossFireテスト用には,ASUSTeK Computer製品を利用した。左から順に「EAX1900CROSSFIRE/2DH/512M」(Radeon X1900 CrossFire Edition),「EAX1900XTX/2DHTV/512M」(Radeon X1900 XTX),「A8R-MVP」(Radeon Xpress 200 CrossFire Edition)
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション
news@unitycorp.co.jp

 

GeForce 7800 GTのテストには,GIGABYTE TECHNOLOGY製の「GV-NX78T256V-B」を利用。GeForce 6600 GT搭載製品はASUSTeK Computerの「Extreme/N6600GT/TD/128M」を用いている
GV-NX78T256V-B問い合わせ先:リンクスインターナショナル
http://www.links.co.jp/

 

 さて,以後本稿ではグラフィックスドライバ側から垂直同期のみオフに変更した状態を「標準設定」,同じくドライバ側で強制的に4倍(4x)または8倍(8x)のアンチエイリアシングと16倍(16x)の異方性フィルタリングを適用した状態を「4x AA&16x AF」および「8x AA&16x AF」と呼ぶ。さらに本文,グラフとも,SLI動作を「(SLI)」付記することで表現する。「GeForce 7600 GT(SLI)」といった具合だ。
 同様に,CrossFire動作は,グラフィックスチップの後ろに「(CF)」と付けることで表す。

 

 

■SLI動作時に大きくスコアが伸びるGeForce 7600 GT

 

 というわけで,ここからテスト結果を見ていくことにするが,例によって「3DMark06 Build 1.0.2」(以下3DMark06)の結果は,現時点ではあくまで参考値として扱う。グラフ1に標準設定,1280×1024ドットのスコアを掲載しておくので,気になる人はチェックしてみてほしい。

 

 

 今回はテスト対象となるグラフィックスチップの数が多いため,解像度別に見ていくことにしよう。グラフ2〜5は「3DMark05 Build 1.2.0」(以下3DMark05)の標準設定時における解像度別のスコアだ。
 まず,1024×768ドット時のスコアとなるグラフ2から。注目したいのは,GeForce 7600 GT(SLI)が,GeForce 7900 GTXと互角のスコアを出していることだ。また,GeForce 7800 GTとの比較では,シングルカード動作時に15%近くある差が,SLI動作では5%程度まで差が縮まっているのが分かる。
 続いてグラフ3〜5を見ていくと,高解像度になるにつれてGeForce 7600 GT(SLI)のスコアが伸びなくなっていく。前編でも指摘したように,GeForce 7600 GTはミドルレンジの製品らしく,高解像度になると,SLI構成であっても,上位モデルには置いて行かれてしまう,というわけだ。
 もっとも,“新旧ミドルレンジ対決”ではGeForce 6600 GTに完勝といっていい。GeForce 6600 GTと比べれば高解像度でもパフォーマンスが十分に高いことは,GeForce 6600 GT(SLI)とGeForce 7600 GTのシングルカード動作時を比較すると明らかである。

 

 

 

 

 

 グラフ6〜9は,SLI動作時において,8x AA&16x AFという,高いレベルのフィルタリングを適用した状態のスコアを比較するものだ。まずハイエンドで比較すると,GeForce 7900 GTX(SLI)がRadeon X1900(CF)よりスコアが高い。
 続いてGeForce 7600 GT(SLI)だが,一貫して,見事なまでに「GeForce 6800 GS以上,GeForce 7800 GT以下」となっている。描画負荷が高い状態では,“型番どおり”のパフォーマンスを示すといったところだろうか。
 なお,グラフ10〜13は,シングルグラフィックスカードで4x AA&16x AFを適用したもの。GeForce 7600 GTがGeForce 6600 GTにダブルスコアの大差をつけているなど,見どころはあるものの,前編で語った内容を超えるものはとくにないので,リンクを用意するに留めておく。

 

 

 

 

 

グラフ10 3DMark05:総合スコア(4x AA&16x AF,1024×768ドット)
グラフ11 3DMark05:総合スコア(4x AA&16x AF,1280×1024ドット)
グラフ12 3DMark05:総合スコア(4x AA&16x AF,1600×1200ドット)
グラフ13 3DMark05:総合スコア(4x AA&16x AF,1920×1200ドット)

 

 続いて,実ゲームベンチマークに移ろう。テスト方法は前編と完全に同じなので,詳細はそちらを参考にしてほしい。
 まずグラフ14〜16は,標準設定における「Quake 4」の平均フレームレートだ。描画負荷の低い1024×768ドットでは,120〜130fps程度でスコアが頭打ちになっているのが分かるが,これはグラフィックスカードではなく,CPUがボトルネックになっているため。その証拠に,描画負荷が高まっていくと差が付き始める。
 ただ,SLI動作では1600×1200ドット(グラフ16)でもCPUがボトルネックになってしまっているようで,スコアはそれほど伸びない。その意味では,同じCPUを利用しながら,CrossFire動作時に常時安定したスコアを出しているRadeon X1900(CF)のほうが,Quake 4の標準設定においては,デュアルグラフィックスカード動作の効率がいいということになる。

 

 

 

 

 もっとも,SLI動作させながら標準設定でゲームをプレイするというのは非現実的。というわけで,8x AA&16x AFでグラフィックスカードの負荷を高め,あらためてSLI動作のパフォーマンスをチェックしてみる。
 結果はグラフ17〜19にまとめたが,3D描画負荷が高くなると,GeForce 7900 GTX(SLI)のパフォーマンスが目立ってくる。GeForce 7600 GT(SLI)も健闘しているが,解像度が高くなると60fpsを割ってしまう。標準設定と比べた場合,Radeon X1900(CF)のスコアが低めなのは少々気になるが,それでも全体的に「高レベルのフィルタリングを行うと,ハイエンドグラフィックスカードが“生きてくる”」とはいえそうだ。
 なお,3DMark05と同様,シングルカードで4x AA&16x AFを適用した結果は別途グラフ20〜22にまとめた。高レベルのフィルタリングを適用すると,GeForce 7600 GTのシングルカードはミドルレンジ製品ゆえの限界を見せ始める。

 

 

 

 

グラフ20 Quake 4(4x AA&16x AF,1024×768ドット)
グラフ21 Quake 4(4x AA&16x AF,1280×1024ドット)
グラフ22 Quake 4(4x AA&16x AF,1600×1200ドット)

 

 続いて「Battlefield 2」。グラフ23〜25は標準設定時のものだが,最新世代の中上位グラフィックスカードだと,描画負荷が低い状態では,まるで差がついていない。これはQuake 4と同じく,CPUがボトルネックになっているためだ。もっといえば,GeForce 6600 GTは明らかに一段落ちており,最新世代の中上位クラスとは差があることが明らかになっている。

 

 それを踏まえて1600×1200ドットのスコア(グラフ25)に目を向けると,ハイエンドクラスではシングルカードとSLI動作時にそれほど差がない一方,GeForce 7600 GTとGeForce 6800 GSの両ミドルレンジには,大きな差が見て取れる。これはもちろん,3D描画負荷が高まってくると上位との差が開くという,ミドルクラスのグラフィックスチップ(=カード)らしい特徴によるものだ。しかし同時にこのグラフからは,上位モデルとの差は,SLI動作させることで縮まるという重要な点も読み取れる。

 

 

 

 

 グラフ26〜28は,SLI構成に対して8x AA&16x AF設定を適用した結果だ。描画負荷が高まることで,各グラフィックスチップの差がより明確になってくるのが分かる。
 1024×768ドットではRadeon X1900(CF)に勝利しているGeForce 7900 GTX(SLI)が,1600×1200ドットで完敗している点に,ここでは注目しておきたい。実際のところ,1600×1200ドット,8x AA&16x AFという環境でBattlefield 2をプレイするユーザーはほとんどいないと思うが,それでも,描画負荷がかなり高くなる状況において,GeForce 7900 GTX(SLI)が,Radeon X1900(CF)にかなりの差を付けられる可能性があることは覚えておきたい。
 なお,ここでもシングルカード動作の4x AA&16x AF設定時の結果は,29〜31に別途まとめておくに留める。

 

 

 

 

グラフ29 Battlefield 2(4x AA&16x AF,1024×768ドット)
グラフ30 Battlefield 2(4x AA&16x AF,1280×1024ドット)
グラフ31 Battlefield 2(4x AA&16x AF,1600×1200ドット)

 

 最後に「TrackMania Sunrise」だが,テスト結果を述べる前に,NVIDIAが公開した資料を一つ紹介しておきたい。以下は「SLI/CrossFireが有効なタイトル一覧」だ。

 

SLIがサポートする多くのゲームを,CrossFireではサポートできていないとするリスト(出典:NVIDIA)

 

 この資料がどこまで正しいのかはさすがに検証できていないが,少なくとも一ついえるのは,4Gamerが「CrossFireでは対応していない」と指摘してきたTrackMania Sunriseについて,NVIDIAもCrossFireでは正しく動作しないと公式に述べていること。現に今回もRadeon X1900(CF)のスコアはTrackMania Sunriseでよく分からないものになっており,参考程度に留めるほかないのだが,それには“それなりの”理由がありそうである。

 

 さて,標準設定でテストした結果はグラフ32〜34にまとめた。はっきりいうと,もはや描画負荷が軽すぎて,比較にならない。GeForce 7600 GT(SLI)が最良のスコアをたたき出していたり,1280×1024ドットでGeForce 6800 GS(SLI)とGeForce 6600 GT(SLI)のスコアが相対的に低かったりしており,考察しようがない感じだ。ここは判断を保留して,次に進むことにしよう。

 

 

 

 

 8x AA&16x AFを適用したときのSLIスコア(CrossFireは参考値)がグラフ35〜37である。それでもまだSLIだと描画負荷が低いようで,描画負荷の低いゲームで起こりがちな「カードの動作クロックの高いほうが有利」という現象が,GeForce 7800 GT(SLI)/コア400MHzとGeForce 7600 GT(SLI)/コア560MHz,GeForce 6800 GS(SLI)/コア425MHzの間に起こっている点は興味深い。描画負荷が低い場合は,GeForce 7600 GTのコアクロックの高さが効いて,上位モデルに迫り,下位モデルには差を付けるという特性を,改めて確認できた格好だ。
 ちなみにここでも,シングルカード動作時における4x AA&16x AFのスコアは別途グラフ38〜40にまとめてあるので,チェックしてみてほしい。

 

 

 

 

グラフ38 TrackMania Sunrise(4x AA&16x AF,1024×768ドット)
グラフ39 TrackMania Sunrise(4x AA&16x AF,1280×1024ドット)
グラフ40 TrackMania Sunrise(4x AA&16x AF,1600×1200ドット)

 

 

■SLIでも低消費電力なGeForce 7600 GT

 

 恒例,システム全体の消費電力についても見てみよう。グラフ41は,ワットチェッカーでシステム全体の消費電力を測定したものだ。OS起動後30分間放置した状態を「アイドル時」,3DMark05を30分間リピート実行した状態を「高負荷時」としている。
 GeForce 7900 GTX(SLI)の消費電力は,「GeForce 7800 GTX 512が動作する環境なら問題ない」という言葉どおり,かなり高い。もっとも,GeForce 7800 GTX(SLI)とはほぼ互角であり,NVIDIAの主張する低消費電力化がウソではないと分かる。Radeon X1900(CF)と比べれば,高負荷時の消費電力は40%,130Wも低い。高クロックのPentium 4/D 1個分低いわけで,これは大きな差だ。
 また,GeForce 7600 GT(SLI)にも注目したい。システム全体の消費電力は高負荷時でも192W。シングルカード動作のGeForce 7800 GTXを下回っている点もポイントが高いといえるだろう。
 なお,グラフが大きくなりすぎたのと,各カード間であまりにも冷却機構に差があるため,今回グラフィックスチップの温度は別途グラフ42として用意するに留めた。

 

 

 

グラフ42 グラフィックスチップの温度

 

 

■SLI動作も含めて魅力的なGeForce 7600 GT

 

 今回,新旧の中上位クラスを並べて評価してみた。そこで改めて浮き彫りになったのは,ハイエンドのグラフィックスカードでSLIを構築したときに,メリットが得られるのが「高解像度に設定したり,高レベルのフィルタリングを適用したときに限られる」ことだ。付け加えるなら,GeForce 7900 GTX搭載製品の店頭価格は,原稿執筆陣点で7万円前後。それをもう1枚用意しても,メリットが得られる局面は限られてしまう。

 

 現実的な話として,1600×1200ドットクラス,あるいは8x AA&16x AFクラスの高レベルフィルタリングを適用する局面というのは,一人プレイ用ゲームを遊ぶときになるはず。FPSなのかRTSなのかMMORPGなのかはともかく,“相手”のいるオンラインゲームでは,画質を維持しつつも,できる限り軽快に動作することが求められるわけで,NVIDIAやATI Technologiesがなんと言おうと,ディスプレイ解像度はそこそこのところで落ち着くだろう。

 

 また,Quake 4やBattlefield 2においては,“現実的なハイエンドCPU”であるAthlon 64 4000+/2.4GHzでも,ボトルネックになってしまう場合がある。要するに,SLI(やCrossFire)を生かすには,CPUもそれなりに高速なものが必要なのだ。コストと,得られるメリットなどを総合的に勘案するに,現時点において,GeForce 7900 GTXのようなハイエンド品は,やはり1枚で利用することを勧めたい。

 

カードサイズはGeForce 6600搭載製品(右)とほぼ同じ。ケース内の取り回しやすさもGeForce 7600 GTの魅力だ

 一方,ミドルレンジのGeForce 7600 GTは,シングルカードにおけるパフォーマンスもさることながら,SLI動作させることで,大きくパフォーマンスが向上することが期待できる。ミドルレンジグラフィックスチップに特有の弱点――描画負荷が高くなると,とたんにパフォーマンスが落ちる――を解決できるのは,GeForce 7900 GTXにないメリットだ。
 しかも,消費電力が低いため,電源ユニットの要求がそれほどシビアではない。さらにカードの実勢価格も2万円台後半と,ゲーマーにとって比較的手の届きやすいところに落ち着いている。GeForce 6600 GTとは比較にならないパフォーマンスをひとまず味わっておいて,将来的に“重い”ゲームが登場したら,もう1枚買い足すことで,かなりのパフォーマンス向上が期待できるのだ

 

 コストを重視するユーザーにとって,GeForce 7600 GTが「GeForce 6600 GTの再来」になる可能性は,かなり高そうである。

タイトル GeForce 7600
開発元 NVIDIA 発売元 NVIDIA
発売日 2006/03/09 価格 製品による
 
動作環境 N/A

Copyright(C)2006 NVIDIA Corporation

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/g71_and_g73_02/g71_and_g73_02.shtml