レビュー : GeForce 8600 SLI&クロックアップモデル検証

GeForce 8600のSLI構成&クロックアップモデルの意義を検証する

WinFast PX8600 GTS TDH
8600GTS 256MB DDR3 PCIE
PV-T84G-UDD3
Inno3D Geforce 8600 GT
WinFast PX8600 GT TDH
PV-T84J-UDD3

Text by 宮崎真一
2007年5月31日

 

» 「GeForce 8600 GTS/GT」は,少なくともリファレンスクロックで動作させる限り,DirectX 9世代のGPUとしてパンチの弱さが否めなかった。では,NVIDIA SLI構成や,クロックアップモデルだとどうだろう? 各社の新製品が出揃ったこのタイミングで,宮崎真一氏が追試を行った。

 

 GeForce 8600シリーズの登場から早くも1か月強が経過し,「GeForce 8600 GTS/GT」を搭載したグラフィックスカードは,リファレンス仕様だけでなく,クロックアップ済みモデルやファンレスモデルなど,さまざまな製品が登場している。
 リファレンス仕様のGeForce 8600 GTS搭載カードについては2007年4月17日の記事で,同じくリファレンス仕様のGeForce 8600 GT搭載カードについては4月18日の記事に詳しいので,詳細はそちらを参照してほしい。そのとき筆者は「GeForce 8600 GTSのコストパフォーマンスには疑問があるものの,これからGeForce 7600 GTカードを買うつもりなのであれば,GeForce 8600 GTのほうがよい」と評したが,果たして,NVIDIA SLI(以下SLI)構成や,メーカーレベルのクロックアップ済みモデル単体では,絶対性能でどれだけリファレンスから変わってくるだろうか。店頭価格が若干下がってきたこのタイミングで,チェックしてみたいと思う。

 

 

用意したのは4社6製品
“いつも”とは異なるテスト環境に注意

 

 今回用意したのはGeForce 8600 GTS搭載製品が3モデル,GeForce 8600 GT搭載製品が3モデル。3モデル中,2モデルはSLI動作検証用のリファレンスクロック動作となり,残る1モデルはメーカーレベルのクロックアップが施された製品になる。以下,テストに先立って,写真とともに紹介しておきたい。

 

WinFast PX8600 GTS TDH
メーカー:Leadtek Research
問い合わせ先:アスク(販売代理店) TEL 03-5215-5650
実勢価格:2万9000円前後(2007年5月31日現在)
リファレンスクロックで動作するGeForce 8600 GTS搭載カード。詳細は4月17日の記事を参照のこと

 

ZT-86SE250-FSP
メーカー:ZOTAC International
問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp
実勢価格:2万9000円前後(2007年5月31日現在)
こちらもリファレンスクロックで動作するGeForce 8600 GTS搭載カード。DVI−HDMI変換アダプタが付属しており,標準でデジタルYCbCr&RGB(HDMI)出力が可能なのが特徴となる。チップクーラーは1スロット仕様。ゲームタイトルはとくに付属していない

 

PV-T84G-UDD3(GeForce8600GTS 256MB DDR3 XXX PCI-E)
メーカー:PINE Technology(XFX)
問い合わせ先:シネックス(販売代理店) info@synnex.co.jp
実勢価格:3万円前後(2007年5月31日現在)
“XXX”の名を与えられた,PINE Technology(XFX)のクロックアップ版GeForce 8600 GTSカード。GPUコアクロックはリファレンスの675MHzから730MHzに,メモリクロックは2GHz相当から2.26GHz相当へと,それぞれ引き上げられている。クーラーは1スロット仕様で,カードの歪みを防ぐ防護板の搭載も特徴だ。「Tom Clancy’s Ghost Recon: Advanced Warfighter」英語版フルバージョンが付属する

 

Inno3D Geforce 8600 GT
メーカー:Leadtek Research
問い合わせ先:興隆商事(販売代理店) support@kohryu.com
実勢価格:1万8000円前後(2007年5月31日現在)
リファレンスクロック動作となるGeForce 8600 GT搭載カード。詳細は4月18日の記事を参照してほしい

 

WinFast PX8600 GT TDH
メーカー:Leadtek Research
問い合わせ先:アスク(販売代理店) TEL 03-5215-5650
実勢価格:1万9000円前後(2007年5月31日現在)
リファレンスクロック動作となるGeForce 8600 GT搭載カードで,1スロット仕様の静音タイプとなる大型チップクーラーを搭載する。ゲームタイトルは現代戦RTS「Joint Task Force」の英語版フルバージョンが付属

 

PV-T84J-UDD3(GeForce8600GT 256MB DDR3 XXX PCI-E)
メーカー:PINE Technology(XFX)
問い合わせ先:シネックス(販売代理店) info@synnex.co.jp
実勢価格:2万円前後(2007年5月31日現在)
こちらも“XXX”を関したクロックアップ版となるGeForce 8600 GTカードで,コアクロックは540MHzから620MHzに,メモリクロックは1.4GHz相当から1.6GHz相当へとそれぞれ引き上げられている。チップクーラーは1スロット仕様。ゲームタイトルはとくに付属していない

 

Striker Extreme
オーバークロック機能充実のゲーマー向けボード
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション(販売代理店) news@unitycorp.co.jp
実勢価格:4万8000円前後(2007年5月31日現在)

 テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション3.1準拠で,テスト環境はのとおり。冒頭でお知らせしたとおり,今回はSLI構成でのテストを含むため,マザーボードがいつもの「Intel P965 Express」チップセット搭載製品ではなく,「nForce 680i SLI」を搭載したASUSTeK Computer製品「Striker Extreme」になっているので,この点は注意してほしい。
 比較対象として用意したのは,グラフィックスメモリ320MB版の「GeForce 8800 GTS」(以下GeForce 8800 GTS(320))と,「GeForce 7950 GT」「GeForce 7900 GS」「ATI Radeon X1950 Pro」を搭載し,それぞれリファレンスクロックで動作するカード4枚。時間の都合上,ForceWareのバージョンがいくつか最新でない点はご容赦いただきたい。
 なお以下,とくに断りのない限り,カード名ではなくGPU名で表記する。また,クロックアップモデルとなるXFXブランドの2枚については,GPU名の後ろに「XXX」を付記するほか,スペースの都合でグラフ中で「GeForce」「ATI Radeon」を省略することも,あらかじめお断りしておく。

 

 

 

1280×1024ドット以下なら意味のあるSLI構成
クロックアップには“それなり”の意義が

 

 まずグラフ1,2は「3DMark05 Build 1.3.0」(以下3DMark05)の結果である。
 SLI構成に注目すると,GeForce 8600 GTS SLIは,「標準設定」だと1920×1200ドットまで,「高負荷設定」だと1280×1024ドットまで,GeForce 8800 GTS(320)のスコアを上回る。一方,ざっくり“GeForce 8800 GTS(320MB)の半値”といってそう問題のない,実勢価格2万円前後のGeForce 8600 GTによるSLI構成だが,GeForce 8600 GTS SLIほどには景気よくないものの,低解像度ではGeForce 8800 GTS(320MB)相手に健闘しているといえるだろう。ただし,高負荷設定における1920×1200ドット時のスコアで比較すると,GeForce 8600 GT SLIはGeForce 8600 GTS XXXにも及ばず,絶対的な力不足は,SLI動作でも補いきれないことが分かる。
 クロックアップモデルに着目すると,GeForce 8600 GTS XXXは高負荷設定の1280×1024ドットまででGeForce 7950 GTのスコアを上回っている。メモリインタフェース帯域幅もメモリ容量も半分の割には,こちらもがんばっている印象だ。

 

 

 

 次に「3DMark06 Build 1.1.0」(以下3DMark06)の結果をグラフ3,4に示す。基本的には3DMark05と同じような傾向になるが,SLI構成のスコア落ち込みは,3DMark05よりも低い解像度で生じている。

 

 

 

 ……といったあたりを踏まえ,ここからは実際のゲームにおける平均フレームレートを見ていきたい。
 グラフ5,6は「Quake 4」(Version 1.2)の平均フレームレートをスコアとしてまとめたものだが,同タイトルでは,今回のテスト環境で,GeForce 8600 GTS/GT SLI構成時に「vid_restart」を実行するとQuake 4が不正終了するという不具合に見舞われたので,テストを行っていない。このあたり,最新バージョンのForceWareでは改善している可能性もあるので,これについて言及することは避け,クロックアップモデルについてチェックしてみると,GeForce 8600 GTS XXXのスコアは,GeForce 7950 GTにまったく届いていない。1280×1024ドット以上ではGeForce 7900 GS以下であり,実勢価格3万円ということを考えると,かなり残念な結果である。

 

 

 

 続いて「Half-Life 2: Episode One」(以下HL2EP1)の結果をグラフ7,8にまとめた。GeForce 8600 GTS SLIはGeForce 8800 GTS(320MB)に完敗。GeForce 8600 GT SLIは,GeForce 7950 GTと互角以上に渡り合っている。
 クロックアップモデルに目を移すと,GeForce 8600 GTS XXXは1024×768ドットでATI Radeon X1950 Proのスコアを上回るものの,1280×1024ドットではスコアが大きく落ち込んでいく。GeForce 8600 GT XXXのスコアはGeForce 7900 GS程度,といったところだ。

 

 

 

 もう一つFPSから,今度は「F.E.A.R.」(Version 1.08)の結果である(グラフ9,10)。レギュレーション3.1で採用しているFPSのうち最も描画負荷の高いF.E.A.R.だけに,GeForce 8600 GTS SLIのスコアがGeForce 8800 GTS(320)を上回ったのは標準設定の1024×768ドットのみ。GeForce 8600 GT SLIも,標準設定ではGeForce 7950 GTを全解像度で上回るものの,高解像度では地力,もっといえばメモリ周りやROPユニットの違いが原因でスコアを落としていく。
 この傾向はクロックアップモデルでもそう変わらず,GeForce 8600 GTS XXXは,GeForce 7900 GSに対して標準設定ではスコアで上回る一方,高負荷設定では歯が立たない。

 

 

 

 描画負荷の高いRTS「Company of Heroes」(Version 1.4)の結果は,F.E.A.R.と同じような傾向を見せる(グラフ11,12)。いずれにせよ,GeForce 8600シリーズを用いた場合における現実的なディスプレイ解像度はSLI構成で1280×1024ドット以下,シングルカードでは1024×768ドットということになるだろう。
 GeForce 8600 GTS/GT XXXのスコアは,比較的順当。GeForce 8600 GTS XXXのスコアはGeForce 7900 GSと同等か,若干上のところに落ち着いている。

 

 

 

 レースシム「GTR 2 - FIA GT Racing Game」(以下GTR2)の結果をグラフ13,14で見てみよう。GTR2は比較的描画負荷の低いタイトルであるため,標準設定の1024×768ドットだとCPUのボトルネックによりフレームレートの頭打ちが見られるのが,これまでのテスト結果と大きく異なる。
 さて,GeForce 8800 GTS(320)の優位は揺るがないが,GeForce 8600 GT SLIが標準設定でGeForce 7950 GTと互角以上,高負荷設定でも1280×1024ドットまではGeForce 7950 GTと互角に渡り合っている点には注目したい。もっとも,高負荷設定の高解像度ではまったく歯が立たないわけだが。また,GeForce 8800 GTS SLIのコストパフォーマンスの低さも気になるところである。
 クロックアップモデルにはあまりいいところがなく,標準設定でも1600×1200ドット以上だとGeForce 8600 GTS XXXはGeForce 7900 GSの後塵を拝してしまう。

 

 

 

 最後にMMORPG「Lineage II」のスコアをまとめたのがグラフ15だ。Lineage IIはSLIが“効く”タイトルなのだが,ここではGeForce 8600 GTS/GT SLIがGeForce 8800 GTS(320)に完勝。一方,クロックアップモデルの効果はわずかである。

 

 

 

消費電力とGPU温度は
どちらも至極真っ当な結果に

 

 パフォーマンス検証に続いて,消費電力の測定に入ろう。ここでは,OSの起動後30分間放置した直後を「アイドル時」,3DMark06を30分間リピート実行し,その間で最も消費電力の高かった時点を「高負荷時」として,それぞれの時点におけるシステム全体の消費電力をワットチェッカーで計測した。その結果をスコアとしてまとめたのがグラフ16である。
 当然ではあるが,SLI構成では消費電力が上昇してしまう。GeForce 8600 GTS SLIは高負荷時で280WとGeForce 8800 GTS(320MB)を超えてしまうほどだ。また,GeForce 8600 GT SLIも247Wと,シングル時に比べて40W強の上昇が見られる。一方,クロックアップモデルの消費電力上昇は高負荷時に10Wほどで,気に掛けるほどのものではない。

 

 

 そんなグラフ16時点におけるGPUの温度を,GeForceファミリーのGPU温度も測定できるATI Radeon向け多機能ユーティリティ「ATITool 0.26」で測定。その結果をグラフ17にまとめた。
 製品によってGPUクーラーの性能が異なるため,横並びの評価はできないが,クロックアップモデルは総じて温度が高い。この点は憶えておいたほうがよさそうだ。
 なお,ATI Radeon X1950 Proカードの温度が計測できていないのは,テストした個体にGPU温度センサーが搭載されていなかったためである。

 

 

 

GeForce 8600選択のカギは
「割り切れるか」

 

 まとめに入る前に,5月31日時点の実勢価格を,ざっくりと示してみたい。メーカーによって差があるので,ある程度幅が広くなってしまうのはご容赦を。

  • GeForce 8800 GTS(320):3万8000〜4万6000円
  • GeForce 8600 GTS(クロックアップモデル含む):2万7000〜3万4000円
  • GeForce 8600 GT(クロックアップモデル含む):1万7000〜2万3000円
  • GeForce 7950 GT:2万8000〜4万5000円
  • GeForce 7900 GS:1万7000〜2万6000円
  • ATI Radeon X1950 Pro(グラフィックスメモリ256MB):2〜3万円

 まず,確実にいえることは,SLI構成でもGeForce 8800 GTS(320)をほとんど脅かせず,クロックアップモデルでも低解像度でGeForce 7900 GSより上に行くのがやっとというGeForce 8600 GTSを選ぶ理由はほとんどないことである。
 GeForce 8600 GTについて,比較的低いディスプレイ解像度に絞って見ると,SLIのコストパフォーマンスはそう悪いモノではない。「PCを組むときにSLI対応マザーボードを用意し,予算重視でひとまず1枚購入しておいて,あとからもう1枚購入する」などといった,NVIDIAが推奨するモデルケースのようなやり方で3D性能の向上を目指すのであれば,GeForce 8600 GTは意外と悪くない選択肢になりそうだ。ただしその場合,もう1枚購入するのを決意する頃には,次世代GPUが登場しているような気もするが。

 

 というわけで,割り切りができるかどうかが,GeForce 8600 GT選択の決め手になる。今後DirectX 10環境(=Windows Vista)へ移行すると自分の中ですでに決断していて,コストには制約があり,ディスプレイを買い換える予定もとくにないのであれば,4月18日の記事の繰り返しになるが,GeForce 8600 GTにはやはり相応の価値があるといっていい。逆に,手堅く“DirectX 9世代の3Dコストパフォーマンス”を狙うのであれば,がんばってGeForce 7950 GTやGeForce 7900 GSを探すべきであり,3〜4万円の予算があるなら,できる限り安価にGeForce 8800 GTS(320)搭載カードを手に入れるべきだろう。

 

■■宮崎真一(ライター)■■
某有名PC専門誌の主力編集者として活躍した長いキャリアを持ち,「いかにして公正なデータを取得するか」のノウハウに長けているテクニカルライター。4Gamerでは主に,GPUやCPUの新製品をゲーマー視点で評価している。ゲーマーとしては「Diablo」以来のオンラインRPG好きで,ここ数年,「ファイナルファンタジーXI」をひたすらプレイし続けていることは,デバイスメーカーやパーツメーカーの間でも有名な話だ。
タイトル GeForce 8600
開発元 NVIDIA 発売元 NVIDIA
発売日 2007/04/17 価格 製品による
 
動作環境 N/A

Copyright(C)2007 NVIDIA Corporation

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/8600_supplement/8600_supplement.shtml