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2007年4月17日に検証した「GeForce 8600 GTS」に続き,今回はその下位モデルとなる「GeForce 8600 GT」および「GeForce 8500 GT」を評価したい。もちろんテスターは昨日に引き続き宮崎真一氏。コストパフォーマンスで勝負する下位モデルの実力は,魅力的といえるレベルにあるだろうか?
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購入してきたInnoVISION製品のボックス。表面のバーコードシールによれば型番はGeForce 8600 GT搭載製品が「I-8600GT-G5FTC」,GeForce 8500 GT搭載製品が「I-8500GT-G4F3」だ
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とうとうリリースされた,DirectX 10世代のNVIDIA製ミドルレンジ向けGPU(グラフィックスチップ)「GeForce 8600」「GeForce 8500」。2007年4月17日のレビュー記事では,そのうちの最上位モデル「GeForce 8600 GTS」搭載カードのみを扱ったが,よりカードの想定売価が低い,下位2モデルが気になっている人も少なくないだろう。
そこで4Gamerでは,発表から一夜明けた4月18日,朝一番で秋葉原へ出かけ,InnoVISION Multimedia製の「Inno3D Geforce 8600 GT」と「Inno3D Geforce 8500 GT」を購入してきた。さっそく,カードのテストを行ってみたい。
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Inno3D Geforce 8600 GT(左),Inno3D Geforce 8500 GT(右)
メーカー:InnoVISION Multimedia
問い合わせ先:興隆商事(販売代理店) support@kohryu.com
Inno3D Geforce 8600 GT実勢価格:1万8000円前後(2007年4月18日現在)
Inno3D Geforce 8500 GT実勢価格:1万2000円前後(2007年4月18日現在)
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かなりコンパクトにまとまった
GeForce 8600 GT/8500 GTカード
製品名からも分かるように,Inno3D Geforce 8600 GTは「GeForce 8600 GT」,Inno3D Geforce 8500 GTは「GeForce 8500 GT」を搭載する。発売当日の実勢価格は前者が1万8000円前後,後者が1万2000円前後だ。
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Inno3D Geforce 8600 GTからチップクーラーを取り外したところ |
順にカードを見ていこう。まずInno3D Geforce 8600 GTは,72mm角相当のファンを内蔵したクーラーを搭載する,1スロット仕様の製品だ。カードサイズは175(W)×117(D)mmで,GeForce 8600 GTS搭載カードより若干短くなっている。
NVIDIA製のユーティリティソフト「nTune」から確認すると,動作クロックはコア540MHz,メモリ1.4GHz相当(実クロック700MHz)。NVIDIAのリファレンスカードとほぼ同じカードデザインに見えるInno3D Geforce 8600 GTだが,動作クロックもリファレンスどおりということになる。
また,リファレンスどおりという意味では,PCI Express用外部電源コネクタを持たないこと,NVIDIA SLI(以下SLI)用コネクタを持つ点もそれに当てはまる。
搭載するグラフィックスメモリチップは,Infineon Technologyから分社化されたQimonda製の512Mbit品。これを4個搭載し,メモリ容量256MBを実現する仕様になっている。これは4月17日の記事で紹介したGeForce 8600 GTSカードと同じだ。
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入手した個体は,A2リビジョンのGeForce 8600 GT(左,ダイサイズは実測で128×128mm)と,1.4ns仕様のGDDR3メモリチップ「HYB18H512321AF-14」(右)をそれぞれ搭載していた
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こちらはInno3D Geforce 8500 GTを“剥いた”ところ。メモリチップ用のパターンが8個用意されている
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一方のInno3D Geforce 8500 GTは,カードサイズが168(W)×117(D)mmと,Inno3D Geforce 8600 GTよりもさらに小型。冷却機構はGPUだけを覆う1スロット仕様のシンプルなクーラーで,メモリチップの冷却はあまり考慮されていない。
そのメモリチップは,Samsung Electronics製の256Mbit品。これを8個搭載して,グラフィックスメモリ容量256MBを実現している。
同じくnTuneで調べたところ,コアクロックは459MHz,メモリクロックは800MHz相当(実クロック400MHz)。こちらもほぼリファレンスどおりといっていいだろう。カードデザインはこちらもリファレンスとよく似ており,PCI Express用外部電源コネクタを持たない点や,SLIをサポートするものの,SLIコネクタは用意されない点もリファレンスどおりだ。
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入手した個体が搭載する,A2リビジョンのGeForce 8500 GT(左,ダイサイズは実測で110×118mm)と,2.5ns仕様のDDR2メモリチップ「K4N56163QG-ZC25」(右)
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今回もドライババージョンの違いに注意
8600 GTと8500 GTはForceWare 158.16でテスト
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Inno3D Geforce 8600 GTの付属品一覧。ご覧のとおり,ゲームタイトルなどは付属していない。なおInno3D Geforce 8600 GTには写真左のコンポーネント出力アダプタが付属していなかった
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一通り眺めたところで,テストのセットアップに移りたい。
今回は比較対象として,2製品の上位モデルに当たるGeForce 8600 GTSと「GeForce 7900 GS」,そしてGeForce 8600 GTとGeForce 8500 GTによって置き換えられる直接の対象となる「GeForce 7600 GT」「GeForce 7600 GS」を搭載するカードをそれぞれ用意することにした。
ただし,時間の都合で,このうちGeForce 8600 GTSとGeForce 7900 GS,GeForce 7600 GTのスコアは,4月17日のレビュー記事から流用する。また,流用するデータと整合性を取るため,日本時間4月18日に公開された公式最新版ForceWare,「ForceWare 158.19」ではなく,NVIDIAから報道関係者向けに公開された「ForceWare 158.16」を利用するので,これらについてはあらかじめご了承いただきたい。
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InnoVISION Multimedia製の2モデルについて,nTuneから動作クロックを確認した結果。リファレンスクロック仕様となっている
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そのほか,4Gamerのベンチマークレギュレーション3.1に則ることなど,基本的なテスト条件は4月17日のそれと完全に揃えた。具体的には表を参照してほしい。ただし,製品の方向性と時間を考慮し,テスト解像度から1920×1200ドットは省いてある。
なお,本稿では以後,とくに断りのない限り,InnoVISION Multimedia製品も含めカードの製品名ではなくGPU名で表記する。またスペースの都合で,グラフ中は「GeForce」の表記を省略する。
「おおむね7600 GT以上」といっていい8600 GT
一方の8500 GTはかなり厳しい結果が
テスト結果を考察する順序も4月17日のレビューに準じることとして,まずはグラフ1,2,「3DMark05 Build 1.3.0」(以下3DMark05)の結果から見ていこう。
GeForce 8600 GTSは,3DMark05において非常に良好なパフォーマンスを見せていたが,それはGeForce 8600 GTSの低クロック版となるGeForce 8600 GTも同じ。1024×768ドットでGeForce 7900 GSを大きく上回るスコアを出しているあたりは,1万円台後半で購入できるグラフィックスカードなら完全に合格点だろう。ただし,高負荷設定の1600×1200ドットではわずかだか逆転を許すなど,描画負荷が高まる局面での弱さも見える。
GeForce 8500 GTは,いささかパンチに欠けるスコアではあるものの,“置き換え対象”のGeForce 7600 GSと互角に渡り合っており,「GeForce 7600 GSにDirectX 10のフィーチャーをプラスしたGPU」といえそうな雰囲気になっている。
続けて,3DMarkにおけるFeature Test,ピクセルシェーダと頂点シェーダのテスト結果を個別にまとめたのがグラフ3,4だ。
一言でまとめると,GeForce 8600 GTとGeForce 8500 GTは,ピクセルシェーダテストのスコアがよろしくない。GeForce 8600 GTSのレビューで指摘した,メモリバス帯域幅のボトルネックが下位のGPUを搭載したグラフィックスカードでも色濃く表れているわけだ。
「3DMark06 Build 1.1.0」(以下3Dmark06)のテスト結果をまとめたのがグラフ5,6である。基本的には3DMark05の結果を踏襲するが,よく見るとGeForce 8500 GTはGeForce 7600 GSに対して標準設定でも有意な差をつけられておらず,データ量が多く描画負荷の高い3DMark06において,下位グラフィックスカードの非力さがより顕著になっている。
なお,グラフ6でGeForce 7ファミリーのスコアがないのは,3DMark06の仕様上,GeForce 7ではテストを行えないためである。
GeForce 8600 GTSが実際のゲームにおいて3DMarkほど奮わなかったため,ここまでGeForce 8600 GTSのレビューをなぞるような結果になっているGeForce 8600 GTとGeForce 8500 GTには少々不安もおぼえるが,さてどうだろうか。グラフ7,8はFPSタイトル「Quake 4」(Version 1.2)の平均フレームレートをスコアとしてまとめたものである。
標準設定の1024×768ドットでGeForce 8600 GTはGeForce 7600 GTとほぼ同じ,GeForce 8500 GTに至ってはGeForce 7600 GSの6割強のスコアしか出ておらず,お世辞にも「パフォーマンスが高い」とは言いづらい結果だ。1280×1024ドット以上におけるスコアの落ち込みも少なくない。
一方,同じFPSでも「Half-Life 2: Episode One」(以下HL2EP1)では若干様相が異なる。そもそもHL2EP1ではGeForce 8600 GTSも高いスコアだったのだが,GeForce 8600 GTは――さすがにGeForce 7900 GSにこそ及ばないものの――安定してGeForce 7600 GTのスコアを上回っている。3DMarkほどの圧勝劇にはなっていないが,およそこのあたりが,GeForce 8600 GTのベストケースなのではなかろうか。
ただしGeForce 8500 GTのスコアはQuake 4のときと変わらず,GeForce 7600 GSの後塵を拝している。
続いてFPS「F.E.A.R.」(Version 1.08)の結果をグラフ11,12に示す。GeForce 8600 GTSのレビューで,筆者はF.E.A.R.のスコアを「ちょうどQuake 4とHL2EP1を足して2で割ったような感じ」と評したが,GeForce 8600 GTのスコアに関してはその評価がそのまま当てはまる。GeForce 8500 GTは,高負荷設定でこそ,統合シェーダ(Unified Shader)効果か盛り返すものの,基本的にはGeForce 7600 GSに届いていない。
グラフ13,14はRTS「Company of Heroes」(Version 1.4)のテスト結果である。結論からいうと,HL2EP1とほぼ同じような傾向になっており,GeForce 8600 GTはGeForce 7600 GT以上GeForce 7900 GS以下のあたりに落ち着いている。一方,GeForce 8500 GTはGeForce 7600 GSの7〜8割しかフレームレートが出ていない。
レースシム「GTR 2 - FIA GT Racing Game」の結果がグラフ15,16である。ミドルレンジ向けGPUは,描画負荷の低い局面で上位モデルに迫るスコアを出しやすいが,そもそもそれほど描画負荷が高くない同タイトルで,標準設定の1024×768ドットにおけるGeForce 8600 GTのスコアがGeForce 7900 GSに迫るあたりは,その典型例といっていい。ただ,描画負荷が高くなっていくと,GeForce 7600 GTよりも低いところまで落ち込むことがあるのは気になった。
Geforce 8500 GTはここでもまったくいいところがない。
最後に,MMORPG「Lineage II」における平均フレームレートをグラフ17にまとめた。Lineage IIは,ベンチマークレギュレーション3.1で最も負荷の低いタイトルだけに,GeForce 8600 GTは上位モデルのGPUと互角以上。GeForce 8500 GTも,ここでは高解像度でGeForce 7600 GSをリードしている。
置き換え対象となるGPUと揃った消費電力
クーラーの冷却能力は優秀
GeForce 8600 GTとGeForce 8500 GTは,PCI Express用6ピン補助電源コネクタが必要とされず,消費電力の低さを期待できるが,実態はどうだろうか。
いつものように,OSの起動後30分間放置した直後を「アイドル時」,3DMark06を30分間リピート実行し,その間最も消費電力の高かった時点を「高負荷時」として,それぞれにおけるシステム全体の消費電力をワットチェッカーで計測した。その結果をスコアとしてまとめたのがグラフ18だ。
GeForce 8600 GTとGeForce 8500 GTの消費電力は順当に下がっているが,ここではむしろ,GeForce 8ファミリーのGPU 3製品が,いずれも置き換え対象となるGeForce 7ファミリーと同じような値になっている点に注目したい。アイドル時,高負荷時ともほぼ完全に揃っているので,ひょっとするとNVIDIAは,GeForce 8600/8500シリーズのスペックを,GeForce 7世代の置き換え対象と同じレベルに揃える形で決定したのかもしれない。このあたり,ライバルとなるAMD(のATIブランド)が先にミドルレンジを発表していたら,別の決定がなされた可能性もあると考えると興味深い。
クーラーが異なるため,横並び比較に意味がないことを理解したうえで,グラフ18のスコア計測時点におけるGPU温度を計測した。テストは,PCケースに組み込まないバラックの状態で,計測には,ATI Radeon向けながらGeForceのGPU温度も計測できる多機能ユーティリティ「ATITool 0.26」を利用して行い,その結果をグラフ19にまとめている。
GeForce 8600 GT,GeForce 8500 GTとも,クーラーの冷却能力はかなり優秀といっていい。筆者の印象ではあるが,どちらも動作音は気にならないレベルだった点も付記しておきたいと思う。なお,GeForce 7600 GSのスコアが異常に高いのは,ファンレスモデルだからである。
少々力不足感は残るが,DX10を踏まえると
8600 GTのコストパフォーマンスは良好
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Inno3D Geforce 8500 GTのカード裏面
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以上のテスト結果から,まずはっきりしたことを書くと,GeForce 8500 GTをゲーム用途で積極的に選択する理由はほとんどない。いくらDirectX 10=プログラマブルシェーダ4.0完全対応といっても,GeForce 7600 GSに届くか届かないかというスコアでは,今後ドライバのアップデートによってパフォーマンスが改善したとしても,上位モデルのGPUと伍していくのはかなり厳しいというのが,偽らざる感想だ。ゲーマー向けというよりは,PureVideo HDに期待するユーザー向けの製品なのかもしれない。
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一方こちらはInno3D Geforce 8600 GTのカード裏面 |
これに対してGeForce 8600 GTは,多少スコアにバラツキがあるものの,おおむねGeForce 7600 GT以上のポテンシャルを秘めているといえる。高負荷環境での非力さは否めないが,そもそもInno3D Geforce 8600 GTの実勢価格が1万8000円前後,他社製品で高くても2万円強に留まっているGeForce 8600 GTを積極的に選ぶユーザーの場合,ターゲットとなる解像度は明らかに1280×1024ドット以下のはず。実勢価格3万円前後という価格のため,どうしても上のモデルと比較せざるを得ないGeForce 8600 GTSとは異なり,それほどマイナスには感じない。むしろ,低消費電力で補助コネクタもなしに,GeForce 7600 GTを凌駕する場面が多く見られ,しかもDirectX 10完全対応という点を素直に評価できる。
そういった意味において,GeForce 8600 GTはGeForce 7600 GTの正統な後継モデル。もっといえば,買い得感の高いGPUだ。これからミドルクラスのGPUを購入しようというのであれば,有力な候補となるだろう。