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中国最大規模のゲーム開発アウトソーシング会社「VYKARIAN」を訪問。そこでは一体,何がどのように作られているのか?
2007/07/21 13:20
 4GamerでChinaJoyの取材を開始したのは2005年。今回で3回目の取材となったが,この2年でその技術力が上がっているのは,記事をチェックして画面写真を数枚見れば一目瞭然だ。むろん,すべてのゲームが「Perfect World -完美世界-」「Myths&Heroes3」のレベルを達成しているわけはないが,数百人規模の体制で開発されているゲームもザラで,しかも彼らがすごい勢いで会社間を“移動”するので,その開発力はあなどれない。
 そんな中国も,まだまだ「輸出大国」になるには時間がかかると見る向きも多く,現状では,開発のアウトソーシング先として注目している欧米や日本の開発会社が多い。読者のみなさんが知っているあんなゲームやこんなゲームも,グラフィックスデータは中国に発注されていたりする。では具体的にどのようなオーダーが中国の会社に出され,どのように作業が進められているのか,どんな会社がやっているのかといったところは,決して一般の目に触れることはなく,ほとんどその実態が知られていない。
 そこで,今回ChinaJoyを取材するために上海を訪れたのを機に,開発のアウトソーシングを主な業務としているVYKARIAN(ヴァイカリアン,とそのまま読めばいい)を訪問。CEOのXin Chung(シン・チェン)氏とシニアディレクターのShahzad Khan(シャザード・カーン)氏に,具体的な業務内容を聞いてみた。

 余談だが,シン氏とゲームクリエイターのAmerican McGee(アメリカン・マギー)氏は,ロサンゼルスで出会った友人同士。VYKARIANとマギー氏のSpicy Horseは同じ建物の中にあり,会社の入り口などは共有されている。二人の接点を交え,中国でのアウトソーシングの実態をお伝えしよう。

左:VYKARIAN CEO Xin Chung氏 右:Senior DirectorのShahzad Khan氏


■お金稼ぎは二の次
■人材を育成し中国のゲーム産業を豊かに


VYKARIANの外観。入り口では,シン氏の友人が制作した銅像が訪問者を迎える。外観と同様に,社内もガラスなど透明な素材が多く使われている
4Gamer:
 こんにちは,お仕事中に時間を割いていただきありがとうございます。VYKARIANという会社で,どんな業務が行われているのか,色々と質問させてもらいますね。

Xin Chung(シン・チェン)氏(以下,Xin氏):
 こちらこそ,よろしくお願いします。ところで,日本から来たんですよね? 日本のデザインブランドで一つ好きなのがあるんですよ。雑貨とかで有名な。

4Gamer:
 ええと。雑貨ですか……?

Xin氏:
 ええ。ほら,シンプルさがウリの……。

4Gamer:
 無印?

Xin氏:
 そう,それ! 飾り気はないのに,ちゃんと存在感があるデザインが大好きなんですよね。日本はデザインもすごいですよねえ。アーティストとして参考になるものがありますね。

4Gamer:
 なんかちょうどよい感じなので,このまま質問につなげちゃいますね。まさに今からシンさんの経歴を聞こうと思ってたのですが,アーティストだったんですか?

Xin氏:
 ええ,そうです。1982年からデジタルで絵を描くようになって,1987年頃から3Dに移行しました。その後は,日本の大きなゲーム会社で働いていました。ゲーム会社を辞めたあとに,中国やインドの人などと一緒に働き,開発のアウトソーシングについて学び,VYKARIANを上海に設立しました。会社の代表は私ですが,経営面についてはシャザードが全部みています。デザインしたり,絵を描いたりするのは得意なのですが,数字は苦手で……。

Shahzad Khan(シャザード・カーン)氏(以下,Khan氏):
 じゃあ続いて私が。私は,VYKARIANに来る前はShanda(上海盛大網絡發展有限公司)にいて,さらにその前は韓国のActoz Softwareにいました。いまは,VYKARIANの経営面に携わっています。

4Gamer:
 では,VYKARIANがどんな会社なのか,改めて教えてください。

Xin氏:
 ひと言で言うならば,ゲーム開発会社向けのアウトソーシング会社です。主に,日本やアメリカの開発会社からグラフィックスデータ作成などの発注を受けています。

4Gamer:
 どういった経緯で,日本やアメリカの開発会社から発注を受けるようになったんでしょう?

Xin氏:
 私が日本とアメリカで働いていたときのコネクションが大きいですね。

4Gamer:
 日本とアメリカのゲーム開発の手法はずいぶん違うと聞いたことがありますが。

Xin氏:
 そうですね。アメリカの会社は,すべての情報をデータとして記録する傾向が強く,日本の会社はチームのメンバーや,代表者の頭の中だけに情報が蓄積されていることが多いです。ですから,同じようなゲームのことについて書かれたドキュメントでも,アメリカでは200ページ,日本では20ページほど,といったこともしばしばあります。
 どちらの国でも仕事をしたことがあり,そういったゲーム開発における日本とアメリカのスタイルを把握しているので,どちらの会社ともうまくやっていけています。

4Gamer:
 なるほど。現在何名くらいの人がここで働いてるんですか?

Xin氏:
 このオフィスで働いているのは,だいたい120名です。さらに,ここから車で2時間ほど離れた南京にもスタジオがあるのですが,そこには30名ほどがいます。このオフィスでトレーニングを積み,そのうち何人かが,南京スタジオで働いているんですよ。

4Gamer:
 トレーニングもしてるんですか?

Xin氏:
 ええ。VYKARIANを設立するときに,ゲームの開発プロセスについて徹底的に調べ,ゲーム開発のスタッフに必要な知識/技術を洗い出し,それを新しく入ってきた人達に伝えることにしたんです。初めから才能とスキルがある若者が山ほどいるわけはないですしね。

4Gamer:
 中国には,VYKARIANと同じような会社はどのくらいあるんですか?

Xin氏:
 そうですね……小さい会社を含めると100を超えると思いますが,ある程度の大きさの会社は,10社ほどだと思います。ちなみに,インドや東ヨーロッパ,ベトナムなどにも増えてきてますね。オーストラリア,カナダ,韓国などにもありますが,それらの国ではコストが高すぎるので,中国などにシフトしています。

学校の美術室を思い出すような場所だが,ここがVYKARIANのライブラリーだ。すべての資料やトレーニングの課題で制作したものはここに蓄積されていく


■ハイクォリティのプロダクトを支えるのは“気持ち”

さまざまなメーカータイトルの開発を担当しているので,社内の各開発チーム間の情報は遮断されており,部屋の出入りも管理されている。CEOであるXin氏だけが,すべての部屋に入れるようになっている
4Gamer:
 大小含めてそれだけあると,競争が激しいと思います。VYKARIANがほかの会社と明らかに違う点,秀でている点はどこでしょうか?

Xin氏:
 秀でている点は全部で三つあります。
 まず人材です。過去にEAやMicrosoft,盛大などで働いていた人々が集まっていて,さまざまな方向にコネクションがあるというのが大きいです。二つめは,先ほどお伝えしたように,ゲーム開発におけるプロセスを詳細にわたって把握していることです。単なるグラフィック起こしの会社ではありません。そして三つめは,そのプロセスをデータとして記録してあり,トレーニング方法を確立していることです。

4Gamer:
 社内で本格的なトレーニングをしている会社は,ほかにあるんですか?

Kahn氏:
 あるにはありますが,VYKARIANはかなり先駆けかつ先進的な存在だと思います。私達は地元の美術学校と協力し,そこの生徒達をゲーム開発者としてトレーニングしているのです。
 我々のような会社も,そのほとんどがお金を稼ぐことに注力していますが,私達は,最終的な環境が大切だと考えていて,人材の育成に力を入れています。ここで力をつけた人の中には,大きなゲーム会社に入っていく人もいますよ。

4Gamer:
 そこで言う「環境」とは何を指しますか?

Xin氏:
 ハイクォリティのプロダクトを作るには,もちろん技術も重要ですが,それ以上に“気持ち”が大切です。ここで働いている“子供達”――平均21歳のスタッフをあえて私は子供達と呼んでいます――彼らはEAのような大きなゲーム会社で働くことを夢見ています。ここで働くことが,その夢の達成の第一歩になっていて,子供達のモチベーションをアップさせているんですよ。普通に中国で働いていたのでは,アメリカや日本の会社へはなかなか就職できないですからね。

4Gamer:
 そのように若手の育成に力を入れていることは,結局のところ彼ら自身のためだけでなく,中国のゲーム産業に貢献しようとしているように思えます。そういったことを考えて実際にこの会社をやっているのでしょうか? それとももっと単純にゲームへの情熱だけで,やっているのでしょうか?

Xin氏:
 もちろん,中国のゲーム産業へ貢献したいと思ってやっていますよ。いろいろな国で働いた経験がありますが,なんといっても私は中国人ですからね。

Khan氏:
 地元の学校の生徒達をトレーニングして,彼らがここを出たあとでVYKARIAN出身ですと胸を張って言えるように努力しているんですよ。ゆくゆくは,VYKARIANを日本やアメリカの開発会社に負けないようなところにしたいとも考えています。

VYKARIANがある上海市武夷路付近。この辺りはイギリス人が多く住んでいたことなどもあり,上海の中心地とは雰囲気が異なる。近くにはスポーツバーなどもあった


■アウトソーシング会社からみた中国のゲームマーケット

4Gamer:
 そういった高い理想を掲げている人達からみて,最近の中国のゲームマーケットをどう思いますか? 利益を最優先に動く会社が多い中で――もちろん会社としては,利益を最優先するのは当たり前ですが――その思想を掲げること自体がかなり珍しい存在だと思っています。そんな存在のVYKARIANから見て,現在の中国ゲームマーケットはどうですか?

Khan氏:
 いま,おそらく中国では100以上のゲームが開発されているという状況です。そして,それはすべてMMOです。1タイトルを作るのに大体2年半ぐらいかかり,1社で三つから四つ以上のプロジェクトを動かしているというのが典型的なパターンです。大量のMMORPGが中国市場に投下されますが,成功するタイトルは少なく,10個のMMORPGが世の中に出たとしたら……そうですね,せいぜい二つほどが成功するといった感じでしょうか。

4Gamer:
 そんな確率でも,多くの会社がMMORPGで勝負するのは,どうしてだと思いますか?

Khan氏:
 中国は13億人という人口の国で,世界の人口の約20%を占めており,言うまでもなく大きなポテンシャルを秘めています。成功しているMMORPGは百万人単位のプレイヤーがいるので,ヒットすれば莫大な利益を得られるからでしょう。いわゆる,ハイリスク・ハイリターンなビジネスですね。

Xin氏:
 そんな中我々は,ゲームのアートワークを制作しています。MMORPGの運営会社同士が戦争をしているのだとすれば,そこで弾薬を売っているというイメージに近いでしょうか。

4Gamer:
 あぁなるほど……分かりやすい例えですね。

Khan氏:
 例えば,Aという会社とBという会社が競っていて,どちらかがダメになったとしても,その両方にアートワークを提供している我々に経済的なダメージはありません。リスクを負わずに人材育成を行っているのです。

4Gamer:
 ……ということは,アメリカや日本から仕事を受けているものとばかり思っていましたが,実際は中国国内の仕事もやっているんですね。

元Electronic ArtsでCommand & Conquerなどの開発に携わっていたMark Matthew氏。講師としてVYKARIANで働いている
Xin氏:
 ええ,世界中の会社がクライアントです。中国の会社はすでに熾烈な競争を続けており,どこの会社も,より良いものを作ろうと必死です。内部の開発力には限界がありますので,私達を頼ってくるというのが実情です。もちろんそういった会社にとって,同じ国内の会社にアウトソーシングをするのはコストの面で不利になりますが,海外からのコンテンツに対抗するためには,必要なのです。

4Gamer:
 ここでやっと核心の質問なんですが,具体的にはどんなデータを作ってるんですか?

Xin氏:
 例えば,車10台と銃5丁,5台の戦車……のデータがあるオンラインゲームがあるとします。うまくいっているとアップデートがあり,そういったアイテムの数を増やす必要がでてきます。その増加分を制作するのが,我々の仕事というわけです。
 
4Gamer:
 しかし,コストをかけてでもそういった仕事を外に出したほうが開発元にとっては得なんでしょうか?

Xin氏:
 開発するメンバーの数は,当然限られています。もとのゲームをデザインしたメンバーが,そういった増加分のデータを作り始めてしまうと,ほかのことに手が回らなくなるのです。ゲームをより良いものにしようと思ったら,オリジナルメンバーはそういった仕事をするのではなく,新たな要素の実装に向けて開発を進めるべきです。さっきの例で言うならば,例えば飛行機を登場させるといった要素です。
 我々は,オリジナルを作った人達の手助けをするといった感じで,彼らの仕事を奪うわけではありません。うまく共存できているといえるでしょう。

ここが“子供達”のトレーニングが行われている教室だ。マギー氏も週に2〜3時間はここで教壇に立っている。VYKARIANに入れば,マギー氏の指導を受けられるわけだ。ちなみに,人材は世界中から募集しているとのことで,日本人でも何ら問題はないとのこと。興味とやる気があったら,ぜひコンタクトを取ってみてほしい
4Gamer:
 実際には,どういった形でオーダーが入るんですか? 第二次大戦のドイツ軍っぽい戦車を100台頼む,とかそういう感じですか?

Xin氏:
 ほとんどの場合はサンプルが届きます。戦車を100台作ってくれというオーダーの場合は,10台分くらいのサンプルデータが届き,残りの90台分を我々が制作します。

4Gamer:
 なるほど。でも,戦車とか例えば灰皿とか,誰が見てもあまり変わらない工業製品のようなものは問題ないと思いますが,文化に根付いたものなどの場合は難しくないですか?

Khan氏:
 そうくると思ってました(笑)。私達のチームは,デザインを行う部隊と,データを作成する実作業部隊に分かれています。デザイン部隊がペンを使ってディテールを描き,それを実作業部隊がデータに落とし込みます。実際に注文をもらうときにはたいがいサンプルがあるので,それをもとにデザインすれば大きな問題はありません。

Xin氏:
 そしてそのプロセスラインは,日々レベルアップしています。PlayStation 3が発売されたとき,いままでの技術では対応できないことに遭遇しました。ですが,日本からその技術に明るい人が通訳と共にここに来てくれて,我々に技術指導を2週間ほど行ってくれたのです。そして,そのときの技術指導はすべて記録してあり,いつでも参照できます。そういったことを繰り返しているので,同じ問題でつまずくことはなくなります。

Khan氏:
 さらにチームのメンバーをアメリカに1〜2週間送り,そこで勉強させてくるということもしています。そして,帰国後にほかのメンバーにその技術を伝えるのです。

4Gamer:
 その技術指導をする人や,人員の派遣先はどうやって決めるのでしょうか?

Xin氏:
 クライアントと深いつながりがあるので,基本的にはそこから人が来たり,そこへ人を送り込んだりといった感じです。場合によっては,クライアントの費用で別の学校に通わせるということもあります。

4Gamer:
 信用を得ているからこそ,そういったことができるわけですね。

Xin氏:
 そうですね,光栄なことに。そこがVYKARIANの強みです。

4Gamer:
 そろそろお時間のようですね……。通常だと,インタビューの最後は読者に向けて一言もらうのですが,今回は日本のパブリッシャやデベロッパに向けてメッセージをください。

Xin氏:
 難しいな。ちょっと待ってください……(といって2分近く悩む)。
 中国は大きなチャンスにあふれています。中国に時間をかけて技術投資すれば,近い将来,必ず良い結果となって返ってくるでしょう。国や慣習が違うので難しい面があるとは思いますが,私は中国人の能力を信じています。それをいろいろな国のパブリッシャに知って欲しいです。

4Gamer:
 本日は,ありがとうございました。

 取材のタイミングは,日本の“超大手ゲーム会社”(名前は明かしてもらえなかった)から仕事を受け,その作業が大詰めに差し掛かったところだった。ChinaJoy直前だったにも関わらず社内は活気に溢れ,あらゆる小部屋(情報漏洩防止のため,一つ一つがプロジェクトルームになっている)に,若者がぎっしりと詰まって作業を行っていた。

 トレーニングルームなども見せてもらったが,元Electronic ArtsでCommand & Conquerなどの開発に携わっていた人などを招き入れ,地元の学生達をトレーニングし,ゲーム開発者として育て上げている。中国のゲーム開発者は流動性が高いのだが,人材育成に力をいれているおかげで,VYKARIANのメンバーは,比較的安定しているという。
 ただし,二人の話を聞いている限り,VYKARIANをスタート地点として日本やアメリカのゲーム会社に就職するというキャリアパスを提示しており,VYKARIANに縛り付けようという気はないようだ。むしろ,そういった場所で中国人が新たな技術を身につけていくことが,中国ゲーム産業の発展につながると彼らは考えている。

 いまはマギー氏のSpicy Horseとは別の会社だが,マギー氏によれば,お互いの会社が成長した暁には,合併する計画もあるという。今でこそいわゆる下請け的な業務に従事しているが,さまざまな国のゲーム開発会社の技術を吸収し,数年後には世界に打って出られるゲームが,ここから誕生するかもしれない。(Kazuhisa/noguchi,photo by kiki)


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