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極私的コンシューマゲームセレクション:第1回「ファイアーエムブレム 暁の女神」
2007/05/02 22:16

» 4Gamerの編集部員が,リレー形式でコンシューマゲーム機のタイトルを思い思いに紹介していくこの企画。スタッフの思い入れでタイトルを選ぶので,紹介するのは新作に限らない点はご了承を。なお,本連載は週刊ではなく,今後は4Gamerだけに(?)毎月“4”の付く日(4/14/24日)の更新を予定しているので覚えておいてほしい。第1回は編集部のウォーチーフことTAITAIが,Wiiで発売された「ファイアーエムブレム 暁の女神」を紹介する。


■“手強いシミュレーション”はどう進化したか?
■人気シリーズの最新作「ファイアーエムブレム 暁の女神」


ファイアーエムブレムシリーズの11作めとなる本作は,Wii専用タイトルとして発売。ちなみに本作は,Wiiリモコンを振ったりせず,ボタン操作だけでプレイする
 「ファイアーエムブレム」(以下,FE)といえば,シミュレーションゲームに“キャラクター性”や“壮大なシナリオ”といったRPGの流儀を持ち込んだ,“シミュレーションRPG”(以下,SRPG)の金字塔的なタイトルだ。
 多種多様なユニットを使いこなし,マップ上に存在する敵を撃破していくシミュレーションゲームならではのゲーム性をおさえながらも,キャラクターの成長や彼らが織り成すドラマを描いていくという,現在のSRPGの王道スタイルの一つを確立した作品である。
 ユニットを“駒”から“キャラクター”へと昇華させることによって,それまでは比較的無機質なものが多かったシミュレーションというジャンルに,「ストーリーを語るジャンル」への道が開かれたわけで,その後のシミュレーションゲーム(ひいてはゲーム業界)に与えた影響は計り知れないものがあると筆者は考えている。
 またRPGの要素を盛り込むことで,それまでシミュレーションゲームを遊んだことがないようなユーザー層までをも惹きつけたFEシリーズだが,“武器の使用回数制限”や“一度死んだら生き返らない”など,難度の高い要素が多いところも大きな特徴だ。
 とはいえ,厳しいながらも決して理不尽ではなく,あくまでも「手強い」というところでまとめ上げられている点は,絶妙なゲームバランスのなせる技として,本シリーズの最大のウリの一つとして受け継がれている。

SRPGの中でも群を抜く熱中度は今作でも健在。また,蒼炎の軌跡からのものも含めて,今作ではかなりの数のキャラクターが登場。前作で解けなかった謎が明らかにされていく





物語の鍵を握る少女ミカヤは,占い師としてのずば抜けた能力と,傷を治す不思議な力を有する
 さて,2007年ではや17年めという長い歴史を誇るFEシリーズだが,今回紹介するのは,2007年2月23日にWii専用ソフトとして発売された最新作「ファイアーエムブレム 暁の女神」(以下,暁の女神)である。本作は,2005年にゲームキューブ(GC)で発売された前作「ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡」(以下,蒼炎の軌跡)の続編に当たり,蒼炎の軌跡と同じテリウス大陸を舞台に,その3年後の物語が描かれるという内容だ。

 物語全体のあらすじを簡単に説明しておくと,前作である蒼炎の軌跡は,テリウス大陸の北方に位置する二つの王国,デインとクリミアの両国の衝突を描いている。狂王アシュナード率いるデイン軍が突如クリミアに侵攻し,テリウス大陸全土が混乱に陥るという内容である。前作の主人公のアイクと彼の率いる傭兵団は,その戦乱に巻き込まれる形でクリミアの解放戦争に参加,そしてデインへの逆侵攻という道筋をひた走るのだ。
 暁の女神では,そんな前作で“悪役”だったデイン王国から物語はスタート。先の大戦で敗北したデイン王国は,宗主国たるベグニオン帝国の統治下におかれ,駐屯軍による圧政に苦む日々が続いていた。それを見かねた今作の主人公ミカヤは,義賊「暁の団」を組織し,王都ネヴァッサの貧民窟での決起に至る――というのが,大まかな内容だ。

蒼炎の軌跡の3年後の物語が描かれる本作では,戦乱の渦はさらに大規模なものへと発展していく。「ベオク」(いわゆる人間)と,獣/鳥/竜に姿を変えられる半獣半人の「ラグズ」。この二つの種族の間で昔から続いている人種差別や争いも,根底に流れるテーマの一つだ


 本作のシナリオは,全4章で構成されている。第一章では暁の団のミカヤとザザが,第二章ではクリミア女王エリンシアが,第三章では解放戦争を戦った英雄アイクがそれぞれ主人公を務めるという形だ。そして第四章からは,第三章までの主人公すべてを巻き込みつつ,物語が核心へと進んでいくのである。
 最初は数人しかいない味方も,章が進むにつれてさまざまなキャラクターが参戦する。兵種や地形も複雑になっていき,徐々に手応えを感じるようになるという,絶妙なゲームバランスはさすがの一言である。今作も,「一度死んだら生き返らない」に代表される硬派なシステムをベースに,非常にやりごたえのある内容に仕上げられている印象だ。



■戦い,成長し,また戦う。
■魅力的なキャラクター達と共に戦乱を駆け抜けろ


ファイヤーエムブレムの基本システムとして定着した感のある「絆システム」。絆を結んだユニットが近くにいると,より戦闘を有利に進められるのだ。絆がより深まるほどに個性豊かな「会話」も楽しめるので,誰と誰を組み合わせるか,戦闘で勝つこと以上に悩んだりする
 本作の基本的な流れは,マップごとに演出,準備,戦闘といったパートを繰り返す形で,前作までのスタイルをそのまま踏襲するオーソドックスなものとなっている。
 準備パートでは,アイテムの売買や武器の錬成といった戦闘の下準備ができるほか,各キャラクターの背景を描く「会話」が楽しめる点も前作と同じ。
 また各ユニットには,武器/アイテムの装着のみならず,「スキル」と呼ばれる各種特殊技能を設定できるのも大事なポイントだ。スキルには,クリティカル率を上げる「必殺」や経験値を2倍にする「エリート」,一定の確率で連続攻撃を行う「連続」など,さまざまなものが用意されており,各ユニットの長所を伸ばしたり,あるいは短所を補ったりと,より深い戦略性を実現する要素として機能している。



 成長要素に関して言えば,従来の下級クラス/上級クラスに加えて,「最上級クラス」が追加されたのも,本作からの新しい要素だ。とくに前作からのキャラクターは,先の戦争をくぐり抜けてきたという物語上の設定から,かなりの“古強者”として表現されている。おそらくは,彼らの能力限界値をさらに引き上げるという意味合いもあるのだろう。そのうちいくつかを紹介しておこう。

剣士剣豪剣聖
弓兵狙撃手神射手
剣騎士剣騎将黄金騎将
竜騎士聖竜騎士神竜騎士
神官司祭聖者

 ちなみに最上級クラスに昇格すると,能力の限界値が大幅に上昇するだけでなく,「奥義」と呼ばれる特殊スキルを覚えられる。奥義は,反則的とも呼べる強力なものばかりで,最上級クラスに昇格したキャラクターは,鬼神のごとき強さを発揮してくれる。お気に入りのキャラを丹念に育て上げる楽しみは,今作も健在だ。
 ただ,全員を昇格させられるわけではないので(数に限りのある特殊アイテムが必要),誰を最上級クラスにするかで,後半は思い悩むことになる。

誰を最上級クラスにするかは大きな問題だが,機動力の高い騎馬や竜騎士系ユニットを最上級クラスにすると,かなりゲームを攻略しやすくなる


■改良に改良を重ねられたゲームシステムが支える
■「死線をくぐり抜ける面白さ」


格好いい動きの戦闘シーンは,初代ファミコン版以来の伝統。最新ハードWiiの性能を生かし,シリーズ最高峰のクオリティを実現している
 さてFEシリーズは,17年めに突入する歴史の長いシリーズだけあって,本作のゲームシステムは秀逸の一言に尽きる。
 とくに戦闘に関しては,ユニットの能力やバイオリズム,武器,地形など,もろもろの条件を計算した事前情報が表示されるし,マップ上における敵の移動距離や攻撃範囲の確認も非常にスムースに行える。昔からのFEファンとしては「便利になったよなぁ」と感じ入る部分だ。このようにシステムがしっかりして,プレイ時に不便を感じないからこそ,「ユニットが死んだら生き返らない」というシビアなルールがあっても,本作に不満を抱くことはなかったりするのだ。
 むしろ「生き返らないというリスク」の存在が,詰め将棋のように,一手一手を詰める面白みを生み出しているともいえる。相手の動きをスマートに吟味できるシステム,言い換えれば,「一回攻撃されたら死ぬ!」といったギリギリの綱渡り感を演出してくれるシステム(とバランス)が,適度な緊張感と,それをくぐり抜ける達成感を生み出しているのである。シビアさと快適さの両立こそ,FEシリーズの面白さを支えている本質の一つだといっても過言ではないだろう。
 敵の一手を正確に把握できるからこそ,勝利も敗北も「必然の結果」となる。これが,敵に倒されてしまったときに「納得できるかどうか」の境目になるわけだ。もちろん,命中率やクリティカルというランダム要素もあるにはあるが,明確なリスクとして認知できるところが,やはり大事な部分なのである。



■前作のプレイヤーなら絶対買い
■ただ初めてのプレイヤーには……


「ファイアーエムブレム 封印の剣」から採用されたチュートリアルモードもしっかりと完備。根強いファンに支えられる本シリーズだが,初心者へのフォローもしっかりしている
 結論を言うと,本作は,前作までのFEシリーズをプレイしたことのあるファンには,迷わずお勧めできる作品だ。
 ゲームシステムにほとんど隙は見つからず,正統進化を続けるFEシリーズを,文字通り安心して楽しめる最新作だといえる。蒼炎の軌跡から続く壮大なシナリオは,さらにスケールを増し,プレイヤーをぐいぐいと引き込んでくれる魅力に溢れている。前作のキャラクターの登場と活躍は,前作を知るものならば,思わずニヤリとしてしまう場面も少なくない。
 ただ逆に言えば,前作をプレイしていない人にとっては,ストーリー面でやや分かりにくい,説明不足な部分が多いと感じるのも正直なところ。ゲーム中に人物相関図や用語集が用意されるなど,システム的に人間関係や歴史的背景を知るためのサポートがあるにはあるのだが,あらすじの説明が本編内のセリフでほとんどされない以上,ご新規さんお断り的な雰囲気を感じてしまうのだ。
 ただこの点に関しては,ゲームが「悪い」というよりは,むしろ「もったいない」という表現が正しいだろう。先ほども述べたように,ゲームそれ自体にはなんの不満もなく,それどころかクオリティの高い素晴らしい作品であるからだ。
 素晴らしい作品であるからこそ,前作をプレイしていないと(少なくともストーリー面に関しては)面白さが半減してしまうというのが,非常に「もったいない」のである。チュートリアル機能などが充実しており,初心者向けの配慮もばっちり盛り込まれているだけに,このあたりには何かしらの工夫がほしかったところだ。
 例えば,これは本作の話とは少しずれるが,2006年,セガが「龍が如く2」というタイトルの発売に先駆けて,廉価版を非常に安い価格で売り出したという例があり,売り上げと広告効果の両方に成果を上げるという結果を出した。結果論ではあるが,こういったマーケティング的な方面での解決方法も,今作に関してはありだったのかもしれない。
 ただ幸いなことに,Wiiはゲームキューブと互換性があり,前作の蒼炎の軌跡もWiiで動かすことが可能だ。さすがにもう新品では手に入らないかもしれないが,本作「暁の女神」をより楽しみたいなら,蒼炎の軌跡を先にプレイするというのも悪くはないだろう。というか,むしろお勧めしたい。

 ともあれ,独特のファンタジー世界を背景に,シミュレーションRPGの醍醐味が楽しめる本作。シリーズファンはもちろん,まだ遊んだことがないという人にも,ぜひ遊んでみてほしい作品だ。筆者は,本作のためにWii本体を購入したのだが,まったく満足のいく完成度であった。今後登場するであろう,次回作にも期待したいところだ。FEと出会って17年,本シリーズとの付き合いは,これからも続きそうである。

本作「暁の女神」は,ストーリーが完全に前作からの続きとなっているため,人物関係図や用語集といったサポートシステムも実装。非常に嬉しい要素ではあるが,初めての人への配慮というよりは,前作をプレイした人への補完システムといった雰囲気が強いかもしれない


■■TAITAI(4Gamer編集部)■■
4Gamer最古参スタッフの一人で,エイジ オブ エンパイアシリーズなど,RTSを得意とする。通勤のお供はニンテンドーDS。Xbox 360/PlayStation 3/Wiiを自宅にコンプリートするなど,コンシューマゲーム機大好きっ子の一面も持つ。


ファイアーエムブレム 暁の女神
対応機種:Wii
メーカー:任天堂
発売日:2007年2月22日
価格:6800円(税込)
CEROレーティング:A(全年齢対象)
公式サイト:http://www.nintendo.co.jp/wii/rfej/index.html

(C)Nintendo / INTELLIGENT SYSTEMS

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連載:コンシューマゲームセレクション
■開発元:4Gamer
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