ニュース
MMORPG「ベルアイル」が基本プレイ無料に移行。その真相を,ELEVEN-UPに直撃インタビュー
2007/03/05 17:17
 2月28日,ELEVEN-UPはMMORPG「ベルアイル」の課金方式を,従来のハイブリッド課金制から基本プレイ無料へ移行すると3:00PMに発表,同日のメンテナンス終了時をもって移行を実施した。発表から実施までわずか数時間という異例のスピード移行に,驚いたプレイヤーも多かったことだろう。

 今回は,ベルアイルのプロデューサーである柿添尚弘氏とディレクターの楢 和隆氏に,ベルアイルの基本プレイ無料化に至った経緯,発表から実施までを極端に短時間にした理由,そして2006年末から大幅に延期となっている大型アップデートについてなど,さまざまな疑問をぶつけてみた。



■基本プレイ無料でもベルアイルの運営は十分に成り立つ
■既存プレイヤーの金銭的負担減と会員数増加が目的


4Gamer: 本日はよろしくお願いします。
 このインタビューが掲載される頃には,ベルアイルの基本プレイ無料化が,各方面で話題になっていると思うのですが。

プロデューサーの柿添尚弘氏
柿添尚弘氏(以下,柿添氏):
 発表後,即基本プレイ無料化ということで,プレイヤーの皆さんを少々混乱させてしまったかもしれません。しかし告知してから時間を置いて無料化したとしても,やはり混乱は起きるでしょう。それならば短期間で一気にやってしまおうということで,今回の実施となりました。

4Gamer:
 最初に,ベルアイルが基本プレイ無料化に至った経緯を教えてください。

柿添氏:
 順を追って説明していきますと,ベルアイルの課金方式を検討していた正式サービス前の時点では,基本プレイ無料で有料アイテム販売をする部分課金方式のタイトルが増加する一方,伝統的な月額固定課金制のタイトルもまだまだ多いといった状況でした。
 どちらがいいのか,かなり悩んだのですが,2006年5月に正式サービスをスタートしたときには,当時としては珍しい月額固定+ポイント課金というハイブリッド課金方式を採用しました。

4Gamer:
 正式サービス開始時にハイブリッド課金方式を選んだ理由は,どこにあったのでしょうか?

ディレクターの楢 和隆氏
楢 和隆氏(以下,楢氏):
 いろいろ検討している段階で,「プレイヤーのスタイルに合わせてそれぞれ選択ができる形態が一番いいのではないか」と考えた結果,ハイブリッド課金という選択肢が浮かんできました。
 例えば,ゲームを週末しか遊べない人もいれば,1日あたり5〜6時間遊べる人もいます。そこで,月額固定の部分は当時のMMORPGとしてはほぼ最安といえる900円と低めに設定して,遊べる時間が少ない人の負担を減らし,毎日長時間プレイできる人には,ゲーム内ポイントの「リーフ」を購入することで,もう少し負担していただこうというわけですね。

4Gamer:
 ではなぜ正式サービスを開始してから約9か月というタイミングで基本プレイ無料化に踏み切ったのでしょうか?

柿添氏:
 ベルアイルでは,正式サービス開始以降,毎月/毎週のように拡張を実施して,さまざまな遊び方を提案してきました。そうした経過の中で,プレイヤーの皆さんが購入するリーフだけでも十分にベルアイルの経営が成り立つという見解に達したというのが最初にあります。市場のトレンドに合わせたとか,有料アイテムを販売するのが目的で無料化したというわけではありません。

4Gamer:
 なるほど。

柿添氏:
 そうなると今度は,900円という月額固定料金が足かせとなる部分も見えてきました。ベルアイルでは,ID一つにつき7日間無料でプレイできるキャンペーンを行っているのですが,「ほかのタイトルなら無料なのに,毎月900円払うのはちょっと……」というように,無料期間後はプレイを断念してしまう人が多く,実際そのようなご意見も数多くいただきました。

4Gamer:
 プレイヤー側には「MMORPGは基本プレイ無料」という“常識”が強くあったというわけですね。

柿添氏:
 そうですね。この1年で基本プレイが無料となったMMORPGはかなり多かったですし,プレイヤーの皆さんにも,基本的には無料でプレイ可能なものだという認識が浸透しつつあると感じています。
 そこで,プレイヤーの金銭的な負担を軽減すること,プレイヤー数を増やすことという二つの意味で,今回の基本プレイ無料化に踏み切ったわけです。

4Gamer:
 さしつかえない範囲でかまわないので,現状でのプレイヤー一人の1か月あたりの利用額を教えてもらえますか?

柿添氏:
 5000円分のリーフチケットを購入される人も多いのですが,使い切るには2か月くらいかかるようです。ごく平均的なプレイヤーだと,平均しておよそ2500円から3000円の間といったところで落ち着いています。ベルアイルを積極的にプレイしている人だと当然利用額は多く,中には数万円分利用される熱心な人もいます。また,全体のうち3割は,月額固定料金分の900円だけでプレイされていますね。

楢氏:
 皆さん,自分のプレイスタイルに合った利用をしているという印象が強いですね。

4Gamer:
 今回,基本プレイ無料化にあたって一人あたりの利用額も増加すると考えていますか?

柿添氏:
 一人あたりの利用額が伸びたら非常にありがたいですが,むしろ無料化によって新規にプレイする人が増えること,そして「月額料金を払えない/払いたくない」という理由でプレイをやめる人がいなくなることが重要だと考えています。プレイヤーの数が増えればゲーム内のさまざまな活動も活発化しますから,新規プレイヤーにとっても既存プレイヤーにとっても,それは非常にいいことなのではないでしょうか。

4Gamer:
 全体のプレイヤー数が増加することによって,従来の月額料金分の売り上げがなくなっても十分にカバーできるというわけですね。

柿添氏:
 そうですね。仮に全体のプレイヤー数が3倍になれば,そのうち3〜4割の人が無料で遊ぶとしても,現状より2倍以上の売り上げを見込めるのではないかと考えています。まあ,こればかりはフタを開けてみないことには分からないんですけど。

■基本プレイ無料化で会員数は2〜3倍以上の増加を目標
■女性プレイヤーを増やすためのキャンペーンも


4Gamer:
 今回の無料化にあたって,プレイヤー数はどの程度増加すると考えていますか?

柿添氏:
 基本プレイ無料化した他社タイトルの事例を参考にすると,総プレイヤー数は2〜3倍,場合によっては4倍近く増加するようです。ベルアイルでも同様の予想を立てています。その中で課金してリーフを購入する人も,現状の2〜3倍の数を見込んでいます。

4Gamer: なるほど。参考までに,現状のアクティブなプレイヤー数やプレイヤー層を教えてもらうことは可能ですか?

柿添氏:
 具体的な数は公表できないのですが,現在アクティブなプレイヤー数は4ケタと考えてもらってかまいません。プレイヤー層ですが,アクティブな女性プレイヤーの比率がほかのタイトルより若干高いと分析しています。そのほかのデータやログイン傾向などを踏まえると,学生よりはもう少し年齢層が上,社会人のプレイヤーが中心になるのではないでしょうか。

4Gamer:
 女性プレイヤーの比率について,もう少し具体的に教えてもらえますか?

柿添氏:
 プレイヤー全体の比率では,約2割が女性プレイヤーです。要望を送ってもらったり,ベルアイルを積極的にブログで取り上げてもらったりと,熱心な人がけっこう目立つという印象を持っています。
 ゲーム内で結婚した旦那が帰ってこないとか,子供の養育費がかかるとか,深刻な悩みも多いようです(笑)。

4Gamer:
 それほど熱心な女性プレイヤーが多いのは,いったいどういった理由だと考えていますか?

柿添氏:
 やはりベルアイルの生活を楽しんでもらっていることが一番だと思います。ベルアイルは,ほかのMMORPGと比べて「ここがすごい!」というような派手さはありませんが,生産システムや,結婚や育児といった恋愛シミュレーション的な要素が影響しているのかもしれません。
 また,スクリーンショットも可愛らしく撮れて非常にいいという意見も寄せられています。そういった意味では,無料体験で始めた女性プレイヤーがハマりやすい,プレイを続けやすいという要素が多かったのではないかと分析しています。

4Gamer:
 今回の無料化で,女性プレイヤーの数も増加する見込みなのでしょうか。

楢氏:
 「無料なら続けるのに月額料金があるから継続を見合わせる」という感想は,いわゆるライト層のプレイヤーに多いんですよね。一般的には,コアなプレイヤーというと男性層が中心ですが,ライト層に近づくにつれて女性層の比率が高くなります。そこから考えると,無料化に伴ってライトプレイヤーが増加し,結果として女性プレイヤーが増加する可能性はあります。

柿添氏:
 ゲームが好きな女性をターゲットにしたプロモーション展開の強化などを実施し,さらに会員数を加速させたいというプランもあります。

4Gamer:
 具体的には,どういった展開を予定しているのでしょうか?

柿添氏:
 展開方法としては,タイアップに近い形式になると思います。以前行った例としては,ベルアイルのテーマソングを書き下ろしてもらった幻想楽団「Sound Horizon」とのタイアップがあります。
 その内容は,マキシシングルCD「少年は剣を・・・」のCDを購入した人には限定アイテムが支給されたり,Sound Horizonの“領主”ことRevoさんをモデルにしたキャラクターがゲーム内に登場して,特別なミッション受けられたりしたというものです。Sound Horizonには元々女性ファンが多いということもあり,タイアップ効果は上々でした。
 女性プレイヤーに対する訴求の方法は,従来の展開とはアプローチが異なりますので,一概に男女比をどうこうするとはいえないのですが,このようなタイアップは今後も積極的に展開していこうと考えています。

4Gamer:
 ちなみに,無料体験後にチケットを購入してプレイを継続する人の割合はどのくらいなのでしょうか?

楢氏:
 3〜4割ですね。無料体験では,プレイヤーは「継続するなら料金を払う」という意識を持っているはずなので,当然といえば当然なのですが,ほかのタイトルと比較しても高い割合だと思います。

柿添氏:
 あと,900円という月額固定料金の価格設定も良かったと思います。例えば,WebMoneyなら1000円分あればお釣りが出るので,比較的気軽に購入してもらえたのではないでしょうか。

4Gamer:
 なるほど。クレジットカードは別として,WebMoneyなどで支払う場合,月額料金が1000円を超えていたら,初回は2000円とか多めにチャージする必要がありますもんね。

柿添氏:
 またゲームデザイン上,1か月弱プレイすれば“仕官”できるようになるので,ゲームとしてもより楽しくなっていきます。その流れで2か月,3か月と継続していただけるという,プレイしやすい状況ができあがっているのかもしれません。

■少人数のプレイヤーでも運営できるビジネスモデル
■新規プレイヤーがコミュニティにとけ込める環境作りを


4Gamer:
 仮にですが,基本プレイ無料化によってビジネス的な状況が悪化してしまった場合には,どういった対策をお考えですか?

柿添氏:
 もともとベルアイルは,少人数のプレイヤーでも運営できるようなビジネスモデルでスタートしています。基本プレイ無料化で状況が悪化して,致命的な事態になりうる可能性は低いと考えています。

楢氏:
 売り上げの側面からいうと,今までハイブリッド課金だったことが非常に大きなメリットになっています。完全な月額課金制から完全なポイント課金制への移行であれば,まるっきりビジネスモデルが変わってしまうので,傾向が読めない部分が大きくなります。

柿添氏:
 例えば,月額1500円のMMORPGタイトルが基本プレイ無料+アイテム課金に移行すると,いったい月にいくら分のアイテムを買ってもらえるだろうか,1500円分も買ってもらえるだろうかと不安になるでしょうが,ベルアイルはそうではありませんから。

楢氏:
 ベルアイルでは,プレイヤーの何割が毎月どれくらいリーフを購入するのか,すでにデータとしてありますから,売り上げ悪化のリスクは非常に低いと考えています。

4Gamer:
 なるほど,月額固定料金ながらポイント課金で半年のデータ蓄積があるというのは重みが違いますね。

柿添氏:
 ハイブリッド課金の実績はもちろんですが,基本プレイ無料化にあたって,いくつものビジネスモデルを考慮に入れてシミュレーションした結果,今回の決断に踏み切っています。既存プレイヤーの皆さんに飽きられず新規プレイヤーが増えれば,今後とも十分にビジネスとして成立するでしょう。

4Gamer:
 それでは,基本プレイ無料化にあたって何か不安に感じていることはありますか?

柿添氏:
 我々運営サイドがアクティブな高レベルの既存プレイヤーと協力して,新規プレイヤーがゲーム内のコミュニティにとけ込める環境を作れるかどうかですね。もちろんうまくやっていくつもりですし,その自信もありますが。
 だから不安というよりは,ワクワクしているといったほうが正しいですね。何かトラブルが起きても最後までしっかり対処する覚悟で,気を引き締めて頑張りたいところです。

楢氏:
 我々にとっては楽しい部分でもありますから,あまり不安というのはないんですよね。トラブルはないに越したことはないですが,仮に発生してもそれを楽しめるくらいの心構えでいたいです。

4Gamer:
 トラブルといえば,サーバー面での不安はどうでしょう? 昨今では,話題作のオープンβテストや基本プレイ無料でのサービスがスタートしたときに,アクセスが集中してサーバーがダウンするようなトラブルが発生するケースが見られますが。

柿添氏:
 もちろん,従来の10〜20倍といったプレイヤーが殺到すれば,即サーバーを増やすなどの対応を考えています。基本プレイ無料化後,すぐにアクセス増が予想される春休みの時期に突入するということもあり,さまざまなケースを想定して準備しています。

楢氏:
 万が一に備えた緊急態勢は整えていますから,皆さんにご迷惑をかけるようなことはほとんどないと思いますよ。

柿添氏:
 外国産のタイトルだと,開発側とコンタクトを取るさいなど時間がかかることもあるでしょうが,ベルアイルの開発拠点は日本の東京にありますから,迅速な対応ができると思います。深夜にトラブルが発生してもスタッフを叩き起こしますし(笑)。
 場合によっては我々が直接開発側に乗り込みますし,すでに起こりうる事態に備えてシミュレーションも行っていますから,ある程度までは問題ないです。その程度を超えてしまったとしても,「あれをやってこれをやって……」といった,事後の策も考えてあります。



■基本プレイ無料化以後もこれまでと変わりない運営を
■初心者向けには“赤い紙袋”キャンペーン(?)を実施


4Gamer:
 何か新しい課金オプションは登場するのですか?

楢氏:
 基本プレイ無料化にあたって,新しいオプション販売はありません。今までゲーム内でできていたことが,いきなり有料コンテンツになったりというようなことも一切ないですね。今までプレイしてきた人にとっては,単純に月額固定料金の900円分の負担がなくなったと思ってもらえればと。

4Gamer:
 既存プレイヤーにとって,従来より900円分安くなること以外に,何か補償は考えていますか?

柿添氏:
 30日分のチケットでまだ利用日数が残っている人には,リーフで払い戻しを行います。チケットは30日分で900円ですから,本来は1日当たり30円という計算になるわけですが,そこを1日につき50円(500リーフ)でお返しする形になります。

楢氏:
 今回は,告知して即無料化ということで,切り替え直前に従来のチケットを買ってくれた人も多いと思います。できるだけ手厚く対応できればと考えています。また,それとは別に記念アイテムの配布も実施します。

4Gamer:
 では今回,基本プレイ無料化にあたって特別に追加されるコンテンツはあるのでしょうか?

柿添氏:
 ベルアイルでは,基本的にアイテムに対して直接課金せず,リーフというゲーム内ポイントの形をとっています。基本プレイ無料化後もそのスタンスは変わりませんし,そこが魅力であるとも考えています。なので,今回“特別に販売する”というものは用意していないんです。4Gamerさんにしたら,記事にしづらいようで恐縮ですが(笑)。

楢氏:
 ベルアイルでは,リーフを購入しなくても月額料金のみで遊べることを,これまでコンセプトにしていたわけですが,基本プレイ無料になったといってもそれは変わらないです。アイテムの追加は,引き続きほぼ毎月/毎週のペースで行っていきますし,季節イベントなども,スケジュールに沿ったアップデートを今後も心がけていきます。無料になったからといって,課金アイテムを追加するようなことや,運営におけるサービスの質を落とすようなことはしません。

柿添氏:
 今後も“お金を払わないと手に入らない”課金アイテムを作る予定はありません。リーフを使った「大樹の恵み」などでしか手に入らないレアアイテムもありますが,ベルアイルでは,ゲーム内通貨や物々交換によって,どんなアイテムでも頑張れば入手できます。

4Gamer:
 リーフを使ったコンテンツに関して,価格帯の変更はあるんでしょうか?

楢氏:
 大樹の恵みで入手できるアイテムやルーンカードなど,アイテムはどんどん追加していきますが,値上げする予定はありません。

4Gamer:
 追加アイテムについても従来同様の価格帯で提供するということですか?

楢氏:
 そのとおりです。まあ多くの皆さんが欲しがるものなら若干お高くというのはあるかもしれませんが(笑),その点に関しては今までも同じですから,とくに方針を変更するというわけではないです。

4Gamer:
 なるほど。ちなみに,ベルアイルのアイテムについて,現在人気があるジャンルを教えてください。

柿添氏:
 今人気があるのは,2006年末に投入した倉庫の枠を広げるものですね。また,ベルアイルには時間の概念がありますから,普通の倉庫だといろんなものが腐ってしまうんです。そこでアイテムが腐らない「冷凍倉庫」の人気が高いです。あとは「ガーディアン」に特殊能力を付与させる「ルーンカード」も人気です。

楢氏:
 それと,見た目が変わる装備はやはり人気が高いですね。見た目が変わって,さらに何かしらの能力値が付いたりすると大人気です。

4Gamer:
 キャラクターの見た目については,プレイヤーからのリクエストも多く寄せられていると思いますが,どのようなものが多いのでしょうか。

柿添氏:
 そうですね。正式サービス開始以来,リクエストにはお応えし続けてきましたが,今だと髪型についてのものが多いですね。あとはゲーム中で産まれた子どもに着せるための「子供服」のリクエストは多いです。投入すると,皆さんこぞってお求めいただけるようです。

4Gamer:
 ベルアイルの世界観にそぐわないようなリクエストも多いのではないかと想像しているのですが。

柿添氏:
 確かに個人の趣味によるリクエストもありますが,我々としては世界観に合致するものから実現していく方向でやっています。

楢氏:
 要望が多ければ当然検討の対象になりますし,絶対ダメというものはないですね。以前の話ですが,「追加して欲しい水着」のアンケートを行ったんですよ。そのときはパレオを巻いたタイプのものが最終的に残ったんですが,実は候補の中にお約束の「スクール水着」も入っていたんです。しかし,あまり人気は高くなかったのがベルアイルでの現実です。

4Gamer:
 それは,プレイヤーもベルアイルの世界観を尊重しているということなんですかね。

楢氏:
 そうですね。とくに運営で制限をかけているわけではないのですが,プレイヤーの皆さんがイメージをとても大切にしてくれていると感じています。

4Gamer:
 基本プレイ無料化を機にベルアイルを始めるプレイヤー向けに,キャンペーンなどは考えていますか?



楢氏:
 運営としても新規プレイヤー,初心者プレイヤーを歓迎する雰囲気を率先して作っていこうと考えていまして,“赤い紙袋初心者応援キャンペーン”を無料化直後から開始しようと考えています。

4Gamer:
 それはどのようなものですか?

柿添氏:
 ベルアイルの中で,なぜか“紙袋のかぶりもの”がはやってる現象に端を発したアイデアなんですが,その中でも赤い紙袋を「初心者にいろいろ教えてあげます」というサインにしてしまうものです。
 初心者が何か分からないことがあれば,赤い紙袋をかぶっているキャラクターに「すみませ〜ん」と声をかけると,いろいろと教えてもらえるというキャンペーンを行います。キャンペーンといっていいのか分かりませんが(笑)。

楢氏:
 タイトルだけだとふざけているように聞こえるかもしれませんが,初心者に対して,既存プレイヤー,とくにベテランプレイヤーに積極的に教えてもらいたい,という趣旨のものです。赤い紙袋をその象徴にしましょうということですね。

4Gamer:
 確かに,ベルアイルではそうしたキャンペーンが自然に受け入れられる土壌というか雰囲気ができあがっていますね。

柿添氏:
 そうですね。私もチェック用のキャラクターでログインするんですが,すぐに“tell”で話しかけられたり,「ギルドに入ってないんですか」といった質問をされたりします。初期装備でウロウロしていると頻繁にそういうことがありますから,雰囲気は非常にいいといえるのではないでしょうか。

4Gamer:
 そのあたりは既存のプレイヤーを全面的に信頼されているわけですね。

柿添氏:
 そのとおりです。ベルアイルでは,プレイヤーの皆さんが主催する自主イベントが非常に多いんです。そういったことをありがたいと感じると同時に,ゲーム内で強制的に何かやらせる,というのはベルアイルのコミュニティにそぐわないのかなとも感じています。
 もちろん,我々が率先してシステムを準備しなければならない局面も多々ありますが,プレイヤーの皆さんによる良い自治が行われている状況です。

4Gamer:
 ほかのタイトルの例を見ると,基本プレイ無料化にあたっては,既存プレイヤーから運営や新規プレイヤーに対する大なり小なりの反発があると思います。ベルアイルでもそれは起こる可能性があるわけですが,何か対策を練っていますか?

柿添氏:
 自分の担当するタイトルへの愛情からのひいき目と言われてしまうかもしれないんですが,ベルアイルは非常にプレイヤーの皆さんの雰囲気がいいんです。
 新規のプレイヤーが入ってくると,すぐにほかのプレイヤーから声がかかったりと,非常に歓迎するムードが高いんです。そういった意味ではとくに問題なく,これまでどおり歓迎ムードになるのではないかと期待しています。これは確信に近いですね。

4Gamer:
 なるほど。しかし基本プレイ無料化となると,マナーに欠けたプレイヤーが流れ込んできて,ゲーム内の雰囲気が荒れてしまうこともあるのではないでしょうか? これは多分にうがった見方だとは思いますけど。

柿添氏:
 それはもう,実際に始まってみないと分からないことではありますよね。ただ,ベルアイルのGMチームは,さまざまなタイトルを経験しているので,そうした状況に対応できるノウハウを持っています。もちろん,それで足りないという事態が発生すれば監視役といいますか,より多くのGMを投入して対応していくしかないでしょう。

4Gamer:
 もう一つ,RMTについての対策は講じていますか?

柿添氏:
 RMTについては,例えば,食料などは時間の経過とともに腐ったりしますし,武器/防具には耐久度があるなど,ゲームシステム上非常にやりにくくなっています。また,インフレが起こらないよう常に経済バランスの調整を行っています。GMの対応などさまざまな点を加味したうえで,ゲーム内が荒れることは起きない,起きてもすぐ沈静化できるだろうと自負しています。

■延期された「地上世界」アップデートの真相と今後の展開
■単なるマップの追加ではないアップデートに期待してほしい


4Gamer:
 それでは,今回基本プレイ無料化で多くの新規プレイヤーが入ってくると予想されますし,その人達に向ける意味も含めて,今後のアップデート予定について教えてもらえますか?

楢氏:
 初心者向けということであれば,これまでサービスを続けてきた中で常に充実させてきた部分ですから,実はとくに大きく追加するものはないんですよ。

4Gamer:
 これまた記事にしづらい回答ですね(笑)。

柿添氏:
 サービス開始直後はチュートリアルもなかったような状態だったのですが,今ではかなり充実していますので,初心者でも安心してプレイできます。

楢氏:
 先ほど話した赤い紙袋のキャンペーンも行いますし。初心者からすると,NPCから機械的に説明されたり,Webサイトでチュートリアルの長い文章を読むよりも,ベテランのプレイヤーから直接教えてもらったほうが分かりやすいし,楽しいと思うんですよ。
 もちろん,そういった流れになるように我々で誘導していこうと考えています。それから,その中で出てきた要望などは,きちんと反映させていきますよ。

4Gamer:
 既存のプレイヤーに向けてはどうでしょう?

楢氏:
 まず当初から発表していた「地上世界」の実装ですね。申し訳ないことに,2006年末に延期というお知らせを出して以来,ずっとお待たせしているものです。
 実は,単なる追加実装という形式でなら,皆さんにプレイしていただけるところまで完成していたんですが,皆さんの要望をあらためて見直すと,どうも求められているものと違うのではないかという見解に達しまして,思い切って最初から開発し直すことにしたんです。
 同時に地上世界に関してのアンケートを募ったんですが,そこからはプレイヤーの皆さんが「新しい遊び方」を欲していることが読み取れたんですよ。そのまま実装していたら,本当に期待外れに終わるところでした。

柿添氏:
 地上世界に関しては,新しい遊び方を提案するために根本から作り直しているということですね。スケジュール的には今年中のなるべく早い段階にと考えて,制作およびチェックを続けているところです。今回の無料化の作業に伴って数週間ほど遅れが出ていますが,鋭意制作しています。こちらはめどが立った時点で,随時発表していく予定です。

4Gamer:
 新しい遊び方の提案とのことですが,具体的にはどういった内容になるのでしょうか。

楢氏:
 そこはまだ,さすがにご勘弁願いたいところです……。

柿添氏:
 単に,強いモンスターがいるダンジョンを実装するというような内容でないことは確かです。それだとプレイヤーの皆さんも「何だ,インフレか」みたいな感想を抱いてしまうだけで,あまり面白がってもらえないでしょう。それに我々のほうも新しいことにチャレンジしていきたいですから,そういった単純なものにはなりません,ということだけはお約束します。

4Gamer:
 では,プレイヤーに向けて,せめてヒントのようなものだけでも。

柿添氏:
 そうですね……。ベルアイルの世界観と密接な関係にあるものとなります。ベルアイルでは,デモニカの来襲によって地上を奪われた人間達が,神々が庇護する巨大な木の上に世界を構築して生活しているという背景があるんですが,単純に地上世界にダンジョンを作ったとしても皆さんは納得しないだろう,と。そこでもっとベルアイルの世界観の根本に絡んだものにしていったほうがいいだろうということで,プレイヤーのリクエストを受けたり,我々もいろいろシミュレートしたりしたんですが,その結果,どれに決定したかまでは,今はまだお話しできないということですね。

4Gamer:
 それはプレイヤーからの意見を反映させた内容なんですか?

柿添氏:
 いえ,そういう意味ではないです。プレイヤーからは「単に高難度のダンジョンではつまらない」という意見が多く寄せられたので,そうならないようにいろいろ考えたということです。なぜ人間は木の上に逃げなければならなかったのか,地上世界をデモニカから奪い返すとはどういうことなのか,また追ってくる種族の中には「巨人族」もいるが彼らは神話の中でどういう位置づけなのか……。ちょっとまだ,なかなか言及しにくい部分が多いですね。

4Gamer:
 既存のフィールドを延長するだけではなく,もともとあった世界観を掘り下げるアップデートというわけですね。

柿添氏:
 そういうことですね。まだまだゲーム中には出てこない設定もたくさんありますから,うまく地上世界に絡めて,機会を見つけて表に出したいですね。

楢氏:
 プレイヤーの皆さんには,ベルアイルの住人として驚いてもらう。そういう風に考えています。

4Gamer:
 なるほど,続報に期待してアップデートを待ちたいと思います。
 それでは最後に,既存のプレイヤー,またこれからベルアイルを始ようと思っている人に向けてのメッセージをお願いします。

柿添氏:
 既存のプレイヤーの皆さんにとって今回の基本プレイ無料化は,純粋にプレイに必要な料金が安くなるという認識を持っていただきたいです。アップデートも現在は最新スケジュールどおりに進行しておりますので,ご期待ください。それから我々運営も厚く歓迎しますが,皆さんも新規のプレイヤーとぜひ仲良くしてあげてください。
 新規のプレイヤーの皆さんにとって,ベルアイルはかなり骨のあるゲームかもしれません。というのは,レベル制でなくスキル制を採用しているからです。そのため,多くの人の力を借りないとうまくいかないこともあるかもしれません。そういう場合には,遠慮なく周囲の人に声をかけてみてください。また生産要素も充実しており,戦闘をしなくとも十分遊べるようになっています。いろいろ楽しんでみてください。

楢氏:
 ベルアイルは非常にプレイヤーの雰囲気がいいゲームです。初心者の方は,まず一度ログインしてもらって,ベルアイルの生活を体験していただきたいです。
 ベテランの方は,ぜひ初心者に優しくしてあげてほしいですね。プレイヤー,開発,運営が一体となってベルアイルを大きく育てて生きたいと考えています。

4Gamer:
 本日はお忙しいところ,どうもありがとうございました。

 MMORPGの基本プレイ無料化というと,どうしても月額課金制での売り上げ不振やユーザー数の低迷といったマイナス要因と結び付けて考えがちだが,どうやらベルアイルはそうした例に当てはまらないように見える。
 今回の無料化は,リーフによる売り上げが全体の70%以上を占めている状況から,月額課金分をなくしても十分な売り上げが確保できるという予測を基盤として,さらなるプレイヤー数の増加を狙ったものだという。これまでのハイブリッド課金制での実績/データが,ポイント課金のみで運営が成り立つという根拠となり,基本プレイ無料化においてはプラスに働いたといえるだろう。今回のインタビューにさいして,かなり厳しめの質問も用意していたのだが,肩すかしを食らってしまったような格好だ。話を聞く限り,基本プレイ無料化には,かなり自信を持って臨んでいる様子が感じられた。
 また,柿添氏や楢氏をはじめとする運営スタッフが抱いているプレイヤーへの信頼,そして共にベルアイルを3年後,5年後にも存続しているようなタイトルに育てていきたいという思いが伝わるインタビューだった。
 ただ,基本プレイ無料化の発表については,話題性という面では非常にインパクトがあることは確実だが,やはり唐突な印象をぬぐえない。既存プレイヤーがどう感じたのかは,ベルアイルの今後の会員数などで,形となって表れるだろう。
 ベルアイルが基本プレイ無料化することで,プレイヤー数が増加して一気にメジャータイトルとなれるかどうか,今後も注目していきたい。(ライター:大陸新秩序)

(収録:2007年2月23日)


ベルアイル
■開発元:ヘッドロック
■発売元:VerX
■発売日:2006/05/25
■価格:基本プレイ無料
→公式サイトは「こちら」

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/news/history/2007.03/20070305171718detail.html