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ゲーム開発会社とパブリッシャをつなぐ「Game Connection」の運営者が語る,その開催主旨とEUゲーム市場
2006/09/26 15:25
Connection Events CEO Pierre Carde氏
 フランスのリヨンゲーム協会主催の「Game Connection Tokyo-ASIA」が9月20日と21日に,第一ホテル東京で開催された。これは以前お伝えしたとおり,世界各国のゲーム開発会社とパブリッシャが一堂に会するビジネスイベントだ。
 4Gamerでは,このイベントを運営しているConnection EventsのCEO Pierre Carde(ピエール・カルド)氏に,インタビューを行い,フランスの会社が日本でイベントを行う意味や,Game Connectionの主旨などについて聞いてみた。まさにイベント前日の9月19日,“さあ,これからパーティだ”というタイミングだ。欧州のゲーム事情など日本にはあまり伝わって来ない情報も聞かせてもらえたので,その様子をお伝えしよう。

■開発会社とパブリッシャが双方向でやり取りできるオープンなイベント

4Gamer:
 初めまして。すいませんお忙しいところ。

ピエール・カルド氏(以下,カルド氏):
 初めまして。実はフランスに名刺を忘れてしまったので,手書きのものをわたしますね。

4Gamer:
 おお,わざわざありがとうございます。でもこれからイベントが開始されると,名刺をたくさんわたすことになるから大変じゃないですかね。

カルド氏:
 ええ,まあそうですが,そのときになったら対策を考えますよ(笑)。

4Gamer:
 では,早速ですがGame Connectionの開催主旨を説明していただけますか?

カルド氏:
 Game Connectionは,2001年にフランスのリヨンで始まったビジネスイベントです。主催はリヨンゲーム協会で,実際の運営は私がCEOを務めるConnection Event社が行っています。開催主旨は,ゲームの開発会社とパブリッシャとの架け橋になることですね。ショウ的な要素はない純然たるビジネスイベントです。
 基本的に,開発会社はゲームを売るために,パブリッシャはゲームを買うために集まります。

4Gamer:
 なるほど,ピュアなトレードショウですね。では,このイベントを開催しようと思ったきっかけはなんでしょうか?



カルド氏:
 きっかけは,フランスのリヨンにあるゲーム開発会社から,パブリッシャとコンタクトを取る機会があまりない,という声が上がっていたことです。だったら,その機会を作ればいいじゃないかということで,このイベントを開催したんですよ。
 最初はリヨンで開催したということもあって,フランスの開発会社とEU各国のパブリッシャのみが参加しました。これが好評で,2回目からはフランス以外の国の開発会社も参加するようになったのです。現在では,ヨーロッパだけでなく北米,アジアなど30〜40カ国から集まってきていますよ。最終的にはフランス第二の都市であるリヨンを,このイベントを通じて,世界的に有名にしたいという思いもあります(笑)。

4Gamer:
 フランス以外の国の会社は,どういった経緯で集まってきたんですかね?

カルド氏:
 初めはこちらからコンタクトを取っていました。ただ最近は,このイベントがフランスで成功したということが広まったので,各会社のほうからコンタクト取ってくるケースが増えてきましたね。

4Gamer:
 開発会社とパブリッシャの両方とも,いろいろな国から集まってくると考えてよろしいでしょうか? 

カルド氏:
 ええ,そうですね。今回も中国,フィンランド,ヨルダンなどバラエティー豊かな国の会社が参加していますよ。

4Gamer:
 参加している会社のリストを見る限り(編注: さすがにリストは公開不可)開催国のゲームを買い付けにくるパブリッシャだけでなく,その開催国のパブリッシャへゲームを売りに来るデベロッパも参加しているんですね。

カルド氏:
 その通りです。開催国の会社が開発したゲームを他国のパブリッシャが買いに来るだけ,といったような一方通行ではなく,さまざまな国の開発会社とパブリッシャが互いにやりとりができる双方向なイベントなんですよ。

4Gamer:
 名の知れた会社がいくつも見えて,日本人としては今後に期待できますね(笑)。Game Connectionは,リヨン,サンフランシスコ,東京,上海で行われていますが,どの会場もいろいろな国の開発会社とパブリッシャが参加して,双方向のやりとりが行われているということでしょうか?

カルド氏:
 上海以外はそのような形式のイベントです。上海の場合は,開発会社とパブリッシャを繋ぐのではなく,CG制作スタジオなどと開発会社を結びつけるイベントを行っているんですよ。

4Gamer:
 なるほど,中国をアウトソーシング先として捉えているわけですね。ただ数年後には,開発会社とパブリッシャをつなぐというGame Connection本来の目的にそったイベントを,上海でも行うことを考えているのでしょうか? 

カルド氏:
 中国の技術力は高まっていますが,ゲームを輸出するということはあまり行われておりません。近いうちにGame Connectionがその手伝いをできるようになればと考えています。

4Gamer:
 しかしご存知の通り中国は,ビジネス習慣,著作物などに対する考え方などが,かなり異なります。中国の会社とビジネスを行うことになると,そういった点で気をつけなければいかないと思いますが,どのようにお考えですか?

カルド氏:
 そうですね。でもそういった問題は,一朝一夕にどうにかなるものではありません。まして私達だけで解決できる問題ではないので,日本のCESA(社団法人コンピュータエンターテインメント協会)にあたる,CGPA(Chinese Game Publisher Association)などと協力していきながら徐々に解決していき,将来的にはよい関係を築きたいと思います。



■カルド氏が語るヨーロッパゲーム市場の傾向

4Gamer:
 なかなか日本にいるとヨーロッパの情報が伝わってきません。せっかくの機会ですので,ヨーロッパのゲーム市場について,お話を聞かせていただきたいと思ってます。どの国のゲーム市場が一番大きいのでしょうか?

カルド氏:
 プラットフォームを問わないゲーム市場の規模ですと,EU加盟国ではイギリスが圧倒的に大きく,フランスとは倍近くの開きがありますね。ドイツとフランスは,ほぼ同じくらいです。ただし,これをPCゲーム市場に限定すると,ドイツが1番大きくて,フランスやイギリスの2倍ほどあります。

4Gamer:
 どんなゲームが売れているのかも教えてください。

カルド氏:
 2005年のデータだと,イギリス,アイルランド,オランダ,ベルギーでは「FIFA 06」(米題 FIFA Soccer 06),フランス,スペイン,ポルトガル,イタリアでは「Pro Evolution Soccer 5」(邦題 ウイニングイレブン 9)が全プラットフォームの中で,1番売れたゲームです。面白いことに地図に当てはめると,南北で綺麗に分かれているんですよ,これ。まあ,ドイツだけは「Need for Speed: Most Wanted」(邦題 ニード・フォー・スピード モスト・ウォンテッド)ですけどね。

4Gamer:
 なるほど,ほぼサッカー一色なわけですね。基本的にプラットフォームを問わず,サッカーやレースといったスポーツ系のゲームに人気が集まっているのでしょうか?

カルド氏:
 確かにサッカーのゲームは売れていますが,1番売れているタイトルでも,市場全体の3%に満たないので,一つのジャンルや一部のタイトルに人気が集中しているわけではありません。スポーツ以外だと「KING KONG: OFFICIAL GAME OF THE MOVIE」(米題 Peter Jackson's King Kong)や「POKEMON EMERALD」(邦題 ポケモンエメラルド),「The Sims 2」(邦題 ザ・シムズ2)なども相当人気が高いですよ。

4Gamer:
 オンラインゲームはあまり人気がないのでしょうか?



カルド氏:
 ヨーロッパで一番大きいオンラインゲーム市場を持っているフランスでも,ゲーム市場全体の10%ほどなので,まだまだこれからといったところですね。ただ,インターネットに接続できる人の数は,年々増えており,潜在的な市場規模は大きくなりつつあります。次世代機が発売されれば,さらに増える可能性は高いと思います。

4Gamer:
 そうですね,確かに次世代機では,なんらかの形でインターネットに接続できるゲームがさらに多くなるでしょうし。ところで,ヨーロッパで,1番オンラインゲームが盛んなフランスの回線事情を教えていただけますか? 一般的な人は,だいたいどのくらいの速さの回線を,いくらぐらい払って使っているのでしょうか?

カルド氏:
 平均すると回線速度は4Mbpsくらいで,料金は1カ月使い放題で30ユーロ(約4500円)ぐらいです。

4Gamer:
 日本より若干高いといったところですかね。

カルド氏:
 ただし,この値段にはインターネットの接続以外にも,100チャンネルぐらいのテレビや,電話のサービスも含まれています。特に電話は安くてEU圏内ですとほぼ無料ですし,日本にかけても1時間で1ユーロ(約150円)ほどなんですよ。

4Gamer:
 なるほど,“EU”という巨大な塊のメリットですね。そういったことを考慮すると,日本よりも安いサービスかもしれないですね。

カルド氏:
 この価格はヨーロッパ内で1番安いので,フランスのオンラインゲーム市場拡大の一因を担っているでしょう。
 



■ヨーロッパ市場が見る次世代機の展望

4Gamer:
 今年から来年にかけて,いわゆる次世代機が発売されますが,ヨーロッパではどう受け止められていますか?

カルド氏:
 価格が1番安く,開発もしやすいWiiの評判がいいですね。多くの人は任天堂がこのプラットフォーム戦争に勝つと思っていますよ。プレイステーション 3は,ヨーロッパでの発売日が2007年3月に延期されたこともあり,ソニーは苦戦すると考えられています。

4Gamer:
 似たような捉え方ですね。では,そういったことも踏まえて,EUのゲーム業界は,今後どのようなカラーを持って行くとお考えですか?

カルド氏:
 国によってカラーが違うので,答えは一つではありません。いままで以上に各国のカラーがよりはっきりと現れてくると思います。ゲーム産業の市場は,非常に活発な市場ですので,アメリカやアジアとのつながりが,より密接になってくるでしょう。
 また,輸入に頼っている市場でしたが,今後は各国のゲームを海外へ輸出するようになると思います。

4Gamer:
 では,フランスゲーム業界の立場から,日本のゲーム業界に期待していることなどはありますか?

カルド氏:
 日本の開発会社やパブリッシャーは,日本国内だけで市場を拡げてきた傾向が強いですが,もっと海外の会社と仕事をして,海外市場の開拓を行ってほしいと思っています。
 
4Gamer:
 本日はお忙しい中,ありがとうございました。


 Game Connectionは,日本のゲームをヨーロッパのパブリッシャが買い付けに来るだけというイベントではなかった。今回参加した会社は,日本へゲームを売りに来た会社,日本のゲームを買いに来た会社,海外のパブリッシャへ日本のゲームを売りに来た会社などで,カルド氏が述べていたように,開発会社とパブリッシャの両方ともに世界各国から集まっていたのだ。こういったイベントは,ややもすると一方通行になりがちだが,Game Connectionは,双方向のやり取りが発生する,オープンビジネスイベントとして確立されているようだ。
 Game Connectionは,我々のようにゲームの開発や売買に関わっていない者には,直接的な関係はないイベントだが,こういった活動がゲーム業界の発展を根元から支えているということは間違いない。いままでコネクションがなかった会社との関係構築が可能という意味で重要なこのイベント。日本語の公式サイトも用意されているので,一度覗いてみてはいかがだろうか。(Interviewed by Kazuhisa/noguchi,Photo by kiki)

2006年9月19日収録


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