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[AGC 2006#03]MMORPG界の賢人,ラフ・コスター氏が語る 「恐竜とMMORPGの関係」
2006/09/08 15:10
 Raph Koster(ラフ・コスター)氏は,アメリカの開発者向けカンファレンスでは今や常連といえるスピーカーで,Game Developers Conferenceでは必ずといっていいほど何らかの講演をしている。資料を多用する彼のゲーム理論は明確であり,その表現の巧みさと相まって,彼の講演は高い評価を得ているのだ。
 もともとテーブルトークゲームに熱中してテキストMUD(マルチユーザー・ダンジョン)を開発し,それを見たRichard Garriott(リチャード・ギャリオット)氏によって,Origin Systems(当時)が開発していた「Ultima Online」のリードデザイナーに抜擢された。「Ultima Online: The Second Age」の後にはSony Online Entertainmentに移り,そこで「EverQuest II」「Star Wars Galaxies」の開発チームを総括した。しかし,今年4月には退社しており,今は静かに時が熟すのを待っているといった様子である。

 一貫してオンラインゲーム畑を歩んできたコスター氏は,GDCでは“MMORPG 2.0”という表現を使って既存のゲームシステムやビジネスモデルからの脱却を説いていたが,その半年後のこのAGCでは,さらに自分の考えを推し進めている。MMORPGを絶滅直前の恐竜になぞらえ,「滅亡の危機に瀕したとき,進化を遂げた者だけが生き残る」と言い放ったのである。
 確かに,北米市場の55%近くを1作で握る「World of Warcraft」の一人勝ちにより「MMORPG市場は停滞期に入った」と言われて久しい。実際,コスター氏のようにハッキリとした言葉は用いないまでも,AGC会場内は「何か変革を起こさなくてはMMORPGは潰れてしまう」という危機感で満ちているように感じられる。当然ながら,コスター氏は「ダメっぽいから(MMORPGを)諦めよう」と提言しているのではなく,「この状況に果敢に適応してこそ,新しい時代を迎えられる」と言っているわけである。

World of Warcraftは,実は欧米トップのオンラインゲームではなかった。大きな恐竜ばかりに注目しているため,環境の変化にいち早く適応しているほ乳類に気付いていない,というのがコスター氏の意見である
 巨大隕石の衝突と考えられている大災害によって,それまで繁栄していた恐竜は一気に絶滅したといわれる。しかしサメ,ワニ,シーラカンスなどは新しい環境に適応することで生き延びたし,羽をつけて鳥になった種や,再び海に戻ったものなど,生物にはさまざまな進化パターンがある。そもそも恐竜繁栄の時代にしても,扇のような背びれを成長させて熱吸収率を上げたり,二足歩行で高速移動して獲物を狩るといった“適応”により,恐竜は繁栄してきたのである。MMORPG開発者も,このような環境に適応した“ニッチ”な生存を図るのであれば,それはそれで良いとコスター氏は言う。
 彼が説明するところによると,恐竜の誕生から滅亡までと同じように,この世のおおよその文化は,「発生 → 成長 → 成熟 → 衰退 → ニッチ化」という経路をたどる。今,MMORPGというジャンルが衰退期にあるとすれば,何か抜本的な改革を施さない限り,やがて税法の規制が及ばないのをいいことに,RMT(リアルマネートレード)で短期間に荒稼ぎするか,「お客をプレイヤーから広告主に変えて」薄い利益を得るといった,ニッチなことになってしまうのである。

 「市場の50%がたったの1作で占められるMMORPGなんて,まだマシなほう」と,コスター氏は続ける。彼は,例えばリリースから8年近くがたった「Counter-Strike」が,GameSpyなどの統計によると,依然として80%以上のプレイヤーを得ていることから,すでにFPSはニッチなのであると断言する。

MMORPGという恐竜が衰退したあとから,小さなWeb系PCゲームが台頭し,さまざまに変化しながら成長することになるのだろうか?  「コンシューマ機はニッチ化する」というコスター氏の指摘に注目したい
 MMORPGやFPSだけでなく,シングルRPGやアクションゲームなどでも同じようなものだろう。実際,日/米/欧/韓に共通して,数打ちゃ当たる方式のゲーム濫発によって息を継いでいるパブリッシャは少なくない。はるかな高みから俯瞰すれば,ゲーム産業そのものがニッチだったということになるかもしれない。

 では,恐竜の時代から存在し,やがて恐竜を押しのけて繁栄するに至ったほ乳類は,いったいどこにいるのだろう? 「皆さんは知っているけど,ずっと気付かないふりをしていたのです」とコスター氏は語る。ゲーム雑誌にこそ載らないが,World of Warcraft以上に人気があるとされる「NeoPets」や「Runescape」,そして「Habbo Online」といった,Web系オンラインゲームを挙げ,今は恐竜の足元でウロウロしているに過ぎないといえ,そのフレキシブルな姿に将来性を見出す。彼は,「Web 2.0革命を無視してはいけません。いまや門番はいなくなり,新世代の扉は誰でも開くことができる時代になっているのです」と締めくくった。
 今回の講義でも語られていたが,デジタル・ディストリビューションやWeb2.0的なユーザー参加型のシステムに,現在の流通モデルは当てはまらない。すなわち,開発者ばかりでなくゲーム産業そのものが変革を迎えるときに来ているのかも知れない。(ライター:奥谷海人)


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