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立命館大学 中村氏とハイファイブ 澤氏が語る,オンラインゲーム開発における日韓中の分業と協業。BBAオンラインゲーム専門部会
2006/07/10 19:54
■分業の核は「ブリッジスペシャリスト」人材?

 7月7日,都内でブロードバンド推進協議会 オンラインゲーム専門部会の第8回研究会が開かれた。今回のテーマは「ブロードバンド時代のグローバルコンテンツ開発 ― 国際分業の実際とアジア各国の政策事例 ―」。立命館大学政策科学部 助教授の中村彰憲氏による,アジア各国およびカナダなどにおけるゲーム産業の現状と政府による育成策についての講演と,ハイファイブ・エンターテインメント 代表取締役 CEOの澤 紫臣氏による,同社の日韓中国際分業に関する講演が順に行われ,最後にオンラインゲーム専門部会 部会長兼IGDA日本代表の新 清士氏を交え,パネルディスカッションも行われた。

アジア各国のゲーム産業と,それぞれの国の施策を簡潔に整理し,国際分業に当たっての課題を挙げる,立命館大学政策科学部 助教授 中村彰憲氏
 新氏の挨拶に続いて行われた中村氏の講演では,中国や台湾,フィリピン,タイ,ベトナム,マレーシア,シンガポールなど,各国,各地域でのゲーム開発体制と支援行政の現状について,順に説明がなされた。
 広い意味でナレッジ産業に分類されるゲーム開発の特質や,自国内市場に期待できる国とできない国の違いなどに触れながら,中村氏は,大手ゲーム開発会社の多くが海外開発拠点や下請け関係の構築に進みつつあることを指摘した。だが同時に,そうした関係が開発プロセスとして統合されたものにまでなっているかどうかについては,疑問を提示する。
 そして,下請け企業や海外開発拠点が担う作業を,「文化的ニュアンスの理解なしには不可能」なレベルと,「情報ツールの活用でなんとか達成できる」レベル,それ以下のレベルに区分し,発注元国と発注先国の間で,他方の国に数年単位で暮らし,それぞれの意思を円滑に伝えられる「ブリッジスペシャリスト」的存在が,国際分業のカギを握っていると結論づけた。



■ハイファイブが目指す,海外開発会社との一体化

韓国,中国での開発/ローカライズの実際に即して,自社の取り組みを語る,ハイファイブ・エンターテインメント 代表取締役 CEO 澤 紫臣氏
 いわばそうした中村氏の立論を受ける形で,ハイファイブ・エンターテインメントの澤氏は「ケンカするほどコンテンツ力がアップ」と題し,自社の韓国,中国における共同作業の取り組みを説明した。
 澤氏は,学生時代にゲームを使った教育の可能性を専攻,日韓間でのビジネスコンサルタント経験と,KESPIにおける「シールオンライン」の経験を経てここに至った経緯を手短に説明,次いでハイファイブ・エンターテインメントが国際分業を前提に既存ゲームのローカライズおよびオリジナル作品の開発に挑む理由を,以下のとおり二つ挙げた。

韓国製オンラインゲームだけでない方向性を求める必要
輸入だけでは日本化に限界があり,開発社と一体になる必要

 続いて氏は,日韓中それぞれのゲーム環境の特徴を要約した。氏の説明によれば,日本はコンシューマゲームに20年以上親しみ,最近海外製ゲームに食傷気味,オンラインゲームのプレイをコミュニケーションのネタとして楽しむ傾向を持つ。韓国は,オンラインゲーム分野においてこの5年で躍進を遂げており,しばしば揶揄的に「クリックゲー」と呼ばれる彼らの開発作品も,ゲーム初心者を引き込む意味で大きな役割を果たした。そして中国では,国策によって開発土壌が強化されつつあるとともに,その巨大な市場を目がけて韓国製タイトルを中心に多くの作品が流入し,急速に発展しつつある。また,若者達は日本のアニメ/ゲームを愛好し,それを貪欲に吸収していく力があるという。
 いささか先回りして言えば,そうした3国それぞれの特徴を背景に,日本の企画力,韓国のネットワーク技術,中国の厚い人材と開発力を結集することが,ハイファイブ・エンターテインメントの目指すところ,というわけだ。
 中村氏の言う「ブリッジスペシャリスト」をめぐって,輸入ゲームのローカライズにおいては,日本から韓国,中国の開発現場に日本人社員/役員を,常駐ないし出張の形で派遣するのが,ハイファイブ・エンターテインメントの採った方法である。また,現在企画/開発中の独自ゲームについては,韓国から中国に移住した開発者をコアメンバーとして,中国で設立された開発会社が担当し,開発が本格化したあとは,その会社から日本へ人員を派遣する形で,日本と中国の間をつなぐ予定だという。
 そして,例えば韓国作品のローカライズにおいては,派遣した人材を通じて客観的な状況を把握し,開発現場での「正論」よりも,市場が求める要素の貫徹を優先すべきこと,日本側と韓国側で板挟みになる派遣人員のメンタルケアや評価が重要であること,そして開発現場での衝突を恐れてはならないことなどを強調した。




 氏の報告は経験に基づくだけあって,非常に興味深いエピソードや考え方を含む内容だった。例えば,開発会社側に日本語と日本市場に通じた人がいれば優秀なブリッジ役を果たせるかといえば,決してそうでないという話などは,その端的な例だ。そうした人の優秀性はまさしく立場に応じて発揮されてしまい,日本側からの要望を巧みに回避したり,案件を自分の一存で差し止めたりする方向に動いてしまうことがしばしばなのだそうだ。また,開発会社側が「オンラインゲーム開発8年の実績」を拠りどころとして反対した日本市場対策案件を,派遣人員が「日本人歴30年の実績」に基づいて押し通すといった,どこかユーモラスでありながらシビアなやりとりの様子が,氏独特の語り口で生き生きと再現された。
 続いて氏は中国における協業の相手で,ハイファイブ・エンターテインメントの独自作品の開発を担当する北京の光宇維思科技有限責任公司(COSWIZ)の概容を語った。COSWIZは北京市政府などの厚い協力を受けるオンラインゲーム開発企業で,在中国の韓国人技術者がコアメンバーとなって設立した会社である。面白いのは「同じ釜のメシを食う」ことにより,現地採用人員を巧みに管理している点のみならず,人材育成も手がけている点だ。北京在住の美術大学在学生/卒業生を対象に4か月から半年間の教育を施し,ゲームグラフィックス専門人材を中心に育てているという。全員就業を前提に,年度末までに300名以上を輩出する予定なのだそうだ。

 話の結びとして,氏は先ほど述べた日韓中の得意分野を生かした開発分業の話に加え,それぞれの国でコネクションを持つことによる現地パブリッシングの円滑化,中国の厖大なゲーム人口によるテストのスピードアップ,プレイヤーからのフィードバック情報の集約や各地の嗜好に合わせた展開のしやすさなどを,分業/協業のメリットとして強調した。



■1年で50%が職場を移る中国の流動社会への対応とは

 澤氏の講演に続いては,質疑応答とパネルディスカッションが行われた。興味深い話題をいくつか拾うと,中国の若者が持つ独特の日本リテラシーの話題が筆頭に挙がるだろう。中村氏が会った中国の学生は,多くの日本人よりもよほど深く日本のアニメなどに傾倒しており,ざっと200作品くらいを観賞していたという。
 また,澤氏がビジネスのために東京に呼んだ中国の開発者は,観光地や普通の若者向けスポットにほとんど興味を持たず,秋葉原と池袋に行きたがり,秋葉原のゲームショップでは,自分が興味を持つ作品が並んでいるコーナーを“匂い”で嗅ぎ分けるセンスを発揮したのだという。加えて,澤氏が最近注目しているアニメーション作品を中国側開発陣に伝えたところ,その特徴がすぐさまサンプルグラフィックスに反映されて戻ってくるなど,彼らの積極性には目を見張るものがあり,そうした日本由来のコンテンツに関する共通理解が,日韓中の協業/分業を下支えしているようだ。
 そして,中国に人材を求める場合,避けて通れないのが定着率の問題だ。澤氏はCOSWIZの取り組みなどに鑑みて,コーディングを担当するコアメンバーをしっかり押さえておくことの重要性を強調すると共に,データ作成部分を中心に可能な限り開発手段をツール化して,担当者の退職と同時にプログラムコードが分からなくなるような事態を防止していると述べた。
 そして,有為な人材をキープするため,業績の可視化や,金銭のみに留まらない野心(例えば日本勤務の希望など)に配慮すると同時に,代替可能な人材は,一年で半分が入れ替わってもよいようにするという,中国社会の現状に合致した施策を語った。

 開発拠点として,また市場としての中国の魅力とリスクは,現在のオンラインゲーム業界にとって実にホットな話題といえる。その中でいち早く韓国,中国との高度な協業に踏み切ったメーカーの話が聞けた点で,今回の講演は非常に興味深いものだった。
 ちなみに,ハイファイブ・エンターテインメントが開発を進めているオリジナル作品は「純然たるRPGかどうかはともかくMMO作品」で「現在は部分的に動いている程度で,まだまだゲームの体を為していないが,2007年3月から4月くらいには形になる」見通しだそうである。講演内容そのものとはいささか異なるが,こちらにもぜひ注目していきたい。(Guevarista)



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http://www.4gamer.net/news/history/2006.07/20060710195415detail.html