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ゲームを支える小物達「Game Tools&Middleware Forum 2006」開催
2006/06/07 23:48
 6月7日,東京・南青山で「Game Tools & Middleware Forum 2006」が開催された。
 このイベントでは,ゲーム開発で用いられるツールやミドルウェアを紹介する展示のほか,セミナー形式で各社製品の紹介が行われた。

・ドルビーラボラトリーズインターナショナルサービス
 サラウンドサウンド関係。画面がHDになると,サラウンド再生環境との親和性も高まるので,ゲームもサラウンドに対応しようという話。概要やドルビーでのサポート体制の紹介。

・オートデスク
 3Ds Max,Maya,MotionBuilder関係。モーションキャプチャしたデータの編集や,3Ds Max−Maya間でのデータのやり取り,機能紹介やTipsなど。

・日本ヒューレット・パッカード
 新型ワークステーションの紹介。

・ウェブテクノロジ
 テストツールのThunderGateやTestingStudio,2DグラフィックスツールのSpriteStudio,OPTPiX ImageStudio最新版の紹介。

・シリコンスタジオ
 マルチプラットフォームミドルウェアALCHEMY,シェーダ活用パッケージDAIKOKU,ポストエフェクトライブラリYEBIS,フェイシャルアニメーションツールMotion Portraitなどの紹介。

 主にコンシューマ機用ゲームの開発をターゲットとしたものが多く,直接PCを相手としたツールは少ないのだが,そもそも新世代のゲーム機はスペック的にPCとかなり似通ってきている。その開発に向けたツールやミドルウェアであれば,あながちPCと無縁ともいえないだろう。興味深いものをいくつか取り上げて紹介してみよう。

左:2体のモデリングが接触した状態で片方を動かしたときの,もう片方への影響を解析する。MotionBuilderの高度な機能だ
右:単なるスキニングではなく,皮膚の下の筋肉の動きを再現する機能を3Ds Maxで解説。意外と簡単


ThuderGateシステム。コントローラ入力を記録すれば,複雑なコマンド技を誰でもテストできるようにもなる
 ゲーム開発関連のツールということだったので,テスト用のツールなどが見られたのは少々意外だったが,バグレポートを効率よく管理することも高品質な製品を作るうえでは重要なことであろう。コンシューマゲーム機のデバッグでは,ゲームプレイをすべてビデオテープに録画してバグ部分をチェックする作業が行われているようだが,これをビデオテープレスのノンリニア型(?)にしようという試みをしているのが,ThunderGateという製品である。コントローラ入力と画面キャプチャをリンクして編集できるシステムだ。

 ゲームの主流は3Dに移行しているとはいうものの,2DグラフィックスツールのSpriteStudioやOPTPiX ImageStudioといったものもそれなりに注目を浴びていた。ゲームでの2Dの需要は依然として存在し,最近ではパチンコ,パチスロなどの開発や携帯電話向けコンテンツの開発でも使われているという。
 とはいえ,時代の流れか,減色ツールとして有名なOPTPiXに,ノーマルマップ画像をDXT1形式で圧縮する際の最適化処理が加わった。

 DXT1(S3TC)は,どんな画像でも一律にデータ量を4分の1に縮小するという優れた圧縮効率を誇るものの,ブロック単位で強引な変換をする関係で,ブロックノイズが発生しやすい。ノーマルマップでは,ノイズがそのまま形状としてレンダリングされてしまうので,クオリティを上げようとすると,どうしても巨大なノーマルマップ画像が必要になる。
 ATI Technologiesは,3Dcというノーマルマップ用のデータ圧縮アルゴリズムを提唱し,この問題に対応している。3Dcは次期DirectXでは標準化される見込みである。
 3Dcは,現状ではATI製品にしか搭載されていないのだが,ノーマルマップの需要はすでに発生している。むしろ,今後は必須といえるものにもなってきつつある。
 新世代のゲーム機は,PC並に256MB程度のグラフィックスメモリを持っているので,ある程度は大丈夫だとはいうものの,フルHD解像度だとか,HDRレンダリングといった,前世代とは違うという部分を強くアピールする必要もあり,256MBでも決して安泰とはいえない。
 ということで,ノーマルマップを綺麗に,しかも少容量でというのが,ツールで実現できるのならば開発者には願ったりかなったりだろう。なお,その機能は,幾何学図形に限定して,ノイズ部分の最適化を行うというものとなっている。

 ALCHEMYは,シリコンスタジオとIG社で共同開発されているもので,プレイステーション2,ニンテンドー ゲームキューブ,Xbox,Xbox 360,プレイステーション3,Wii,Windows,Linux,TypeX,N2,SH4,NVIDIA,ATIといったさまざまなものに対応しており,ソースコードとデータはプラットフォームに依存せず,100%の互換性を持つという。IGがActivisionに買収されたこともあり,Activisionでの活用例が挙げられていた。
 「Marvel: Ultimate Alliance」の開発では,7機種同時リリースが予定されており,プレイステーション3版はXbox 360版から3週間で移植が完了したという。聞くと,この3週間というのも,プレイステーション3の開発機が到着して3週間後とのことで,機種別のデータ最適化や微調整などを考えると,驚異的に早い移植である。

 Activisionのすべてのゲームがこのミドルウェアで作成されているわけではないが,すでに多くのゲームで使われており,同社はマルチプラットフォーム展開を強化する方向であることからも,今後は同社の主力開発環境になるものと思われる。PCで原型を作っていって,それを各機種に展開できるので,開発コストが下げられるという(なら,ついでにPC版も出してくれるとよいのだが)。

 シリコンスタジオが日本で開発しているDAIKOKUとYEBIS,BISHAMONの3パッケージは,シェーダなどを手軽に扱うためのものである。
 従来のゲーム機であれば,ハードウェアで用意されたなにかの機能を,特定のライブラリで処理できた。新世代機では,いわゆる「固定機能」は撤廃されており,なにかの処理を行うには,シェーダプログラムを用意しなければならなくなっている。そのため,柔軟な処理ができるものの,シェーダに慣れていないプログラマーには手間がかかる。
 DAIKOKUは,お決まりの処理をシェーダで用意しておき,プログラマー側からは固定機能っぽく使えるようにしたものだと考えればいいだろう。YEBISは,レンダリング後のポストエフェクトとしてシェーダを使った処理を手軽に使えるようにしたもの,そしてBISHAMONは,煙や火花などパーティクル系のエフェクトをシェーダで実装するためのものだ。
 これらはALCHEMYと同時に使えるので,マルチプラットフォームの次世代コンテンツではお馴染みのものとなるかもしれない。

左:DAIKOKUのサンプル
右:HDRの背景球を使ったYEBISのサンプル。場所は恵比須らしい


 シリコンスタジオのフェイシャルアニメーションツール「Motion Portrait」も面白い製品である。顔の表情専門のツールとしては,SOFTIMAGEのFace Robotが話題となっているが,Face Robotがファイシャルアニメーション専用のモーションキャプチャをサポートするツールであるのに対し,Motion Portraitは,表情の基本パターンをすでに内蔵しており,それをさまざまな顔に適用するものだと考えていいだろう。
 特徴的なのは,その作業が顔写真を1枚用意するだけでできてしまうことだ。正面からの顔写真1枚から自動的にその人の顔のポリゴンモデルを生成して,表情豊かなアニメーションを行える。また,音声に対応して口を動かすリップシンクにも対応している。

 あらかじめ基本的な顔のモデリングデータを用意しておき,正面からのデータで横幅などを変形してモデルデータを作成するので,横から見ると,本人とあまり似ていない可能性もあるのだが,表情が問題となるような正面付近の角度ではあまり問題にならない。
 アニメーション映像は,なかなか衝撃的である。テレビ電話などでの応用もできそうだが,写真1枚で,ゲーム中のキャラクターをプレイヤーそっくりにしてしまうゲームソフトなども,すぐに登場しそうだ。
 ゲームだと,こういったリアルなキャラクターはどうかと思われる向きもあるだろう。しかしこのシステムでは,写真ではなくて,イラスト1枚から表情豊かな3Dキャラクターを生成することもできる。サンプルでは,髪の毛などはレイヤー処理をしているということだが,ゲームキャラクターの作成が,驚くほど簡略化されそうなシステムであることは分かってもらえるだろう。

生成されたポリゴンキャラクターの表情アニメーション
2Dデータをキャラクターにも適用できる。中央はセリフとリップシンクもしているデモで右は写真から作成したキャラクターと2Dから作ったキャラクターとの表情をシンクロさせているデモ


 ゲームそのものではないので,あまり派手さはないが,こういったツールやミドルウェアによってゲームは作られていく。新作ゲームを見るときには,ゲームを支える縁の下の力持ち的な多くのツールのことを思い出してみるのもよいだろう。(aueki)


ミドルウェア/開発ツール
■開発元:各社
■発売元:各社
■発売日:-
■価格:製品による

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http://www.4gamer.net/news/history/2006.06/20060607234812detail.html