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[DICE 2006]MSピーター・ムーア氏,「義務を怠っていたことを後悔している」
2006/02/13 20:21
Microsoftでインタラクティブ・エンターテイメント部門副社長を務めるピーター・ムーア氏。Microsoftとしては久々のウィンドウズゲームについて語ってくれた
 昨年Microsoft社内の部門調整が行われた際に,インタラクティブ・エンターテイメント部門社長にRobbie Back(ロビー・バック)氏が昇格したことから,Sega of Americaを率いていた男として日本でも知名度の高いPeter Moore(ピーター・ムーア)氏が,同部門副社長として幅広い活動をしている。日本の開発者の抱き込みに奔走し,Xbox 360のローンチに際しては来日して気を吐いていた人物だ。
「Microsoft: Changing World of PC Gaming」と題された今回の彼の講演は,Microsoftとしては久々にPCゲーム市場に本腰を入れることをアピールしているようだった。今回のセッションで興味深かったのは,“謝る”“後悔する”という言葉が何度も繰り返されたこと。アメリカやヨーロッパでは需要が高いXbox 360が市場で品切れ状態にあること,PCゲーム市場が縮小していること,そして何よりこれまでPCゲームをないがしろにしていた同社の体制に対して,当日のスピーカーで唯一の“スーツ”(管理職である背広組,という意味)として腰を低くしていた印象だ。

「我々の会社のナンバーワンプラットフォームを長い間サポートする義務を怠っていたことを後悔しています」とムーア氏が話すが,このプラットフォームとはXboxではなくウィンドウズなのである。「ここ数年,我々は非常に忙しかった」と,XboxやXbox 360でのゲーム市場進出に奮闘していたことを理由に挙げているが,Xboxのローンチが行われた2002年以降のPCゲーム市場は,質の良いゲームの登場とは裏腹に縮小を続けており,Microsoftの“手抜き”が大きく影響していたのは事実であろう。
 その後,なぜかXbox 360に関しての説明が続くのだが,ここでは割愛させていただく。ただ,具体的なセールス状況には深入りしなかったものの,アメリカではXbox 360購入者の半数がXbox Liveにアクセスしているとのことで,オンラインゲームの浸透を強調していた。

 さて,数年間にわたってMicrosoftがゲームプラットフォームとしてのウィンドウズを忘れていたのは,Xboxだけが理由なのでもないようだ。DirectX 9以降のDirectXを核に据え,ユーザーインタフェースも一新される予定の次世代OS「Longhorn」の開発は遅れに遅れたのもその一因だろう。その後Longhornは「Windows Vista」という正式名称が公表されたが,現在のところ,リリース予定は2006年末から2007年の早い時期だろうと目されている。

左:Windows Vistaの新機能Games Explorerは,ゲームファイルが一か所でマネージメントできるMedia Playerのような簡素さが特徴的だ
右:ソリティア,マインスイーパ,セルなどのウィンドウズ付属カジュアルゲームも,Vistaではさらにカッコ良くなっている。写真のようなチェスゲームも追加された


 今回のスピーチでは,1月に行われたCES(Consumer Electronic Show)のビル・ゲイツ氏による基調講演よりも,さらに突っ込んだ形でVistaのゲーム関連機能が紹介された。
 まず,“Games”というフォルダがデスクトップに存在し,プログラムファイルの中ではなくマイ ドキュメントのように独立した形で用意されている。ここにソリティアのような付属ゲームはもちろん,後々ユーザーがインストールするゲームソフトも格納されることとなる。(ちなみに,XPではコンピュータやドキュメントなどの前にあった“マイ”の文字はすべて削除されている)。

 このGamesをクリックすると表示されるのが,Vistaで新採用された「Games Explorer」という専用ブラウザだ。これまでは,デスクトップにショートカットがないときには“スタート”の“すべてのプログラム”からゲームファイル,そして場合によっては販売元のフォルダをオープンしてからようやくゲームアイコンにまでたどり着くという作業を行わなければならなかった。
 Games Explorerには,販売元のフォルダもなく,直接ゲーム起動アイコンをマネージできるという点で,Media Playerのような感覚に発展させたわけである。それぞれのゲームには販売元や開発元,ESRB(Entertainment Software Rating Board)のレーティングシステム,そして公式ウェブサイトへのリンクなどの情報が表示されている。
 ゲームソフトのインストールも簡単になるらしく,ムーア氏は「Plug & Playの実態をコンシューマ機と同じくらいにしなければ,ゲームプラットフォームとしてのウィンドウズは敬遠されたままになる」と説明する。カジュアルゲームも配慮されており,ソリティアやマインスウイーパのグラフィックスが大きく向上したほか,チェスゲームもデフォルトで用意されることになった。

 ムーア氏は,VistaでフィーチャーされるDirectX 10についても触れている。さまざまな憶測があったが,DirectX 10はVistaに初期装備することが確定しており,DirectXを待たずして先行発売されたために混乱も起きたWindows 95の二の舞を演じることはなさそうだ。すでにDirectX 10 SDKも12月にリリースされており,380MBを超える大きなものになっている。Vistaには,LDDM(Longhorn Display Driver Model)に対応させたDirectX 9.0Lも付属する予定である。
 今回の講演では,Microsoft本社に近いシアトルの街を表示してみせたが,DirectX 9.0と比較して一本一本の雑草や雲や波の質感,光を反射するビルの様子などが明らかに異なっていた。深く説明されることはなかったものの,どうやらVistaと同時期にリリースされると思われる「Microsoft Flight Simulator X」のゲームエンジンを利用しているようだった。

Windows Vistaは,計画通りなら今年中のリリースとなる。Games ExplorerやDirectX 10などの諸機能によって,ゲーム用プラットフォームとしての復活なるか!?
 ムーア氏が強調していたのが,Parental Control(未成年者規制ツール)での改良だ。現在は,ESRBレーティングシステムに合わせた画一的な手法での規制が行われているが,Vistaでは一歩踏み込んで,血の量や言葉,セックスの描写など細かい項目が列挙されていて,子供がプレイするためにふさわしくないと思われる項目を親が一つ一つチェックし,パスワードで規制することが可能になっているのである。講演後の談話で「Microsoftとしては,今後もESRBと協力して,暴力ソフトに対する政治的圧力と取り組んでいくつもり」と話しているが,これはMicrosoft独自の対処法といえる。
 このParental Controlでは,「Outlook」のスケジュールのような形で,どの時間帯にどのゲームが遊べるかを制限する機能がついているのも面白い。今の小学生くらいなら,生まれたときから家にPCが備わっている家庭も普通だろう。言い換えれば,20代〜40代の親は,PCというテクノロジでの主導権を握っている世代であり,子に買い与えたらそのまま放置しておくのではなく,もっと能動的にPC利用を規制できるようにしようというスタンスなのである。

 この講演では,ほかにもデジタル・ディストリビューションなど,さまざまな話題にもさらりとタッチしていたが,開発者向けの踏み込んだ内容というよりは,新世代OSの魅力を宣伝する意図があったようだ。ムーア氏は,「プラットフォームホルダーとして,Microsoftはこのメディアの改革に積極的に取り組んでいます。今,ゲームが続編やありがちなゲームプレイ,ほかのメディアからのライセンスに頼っている状態は危機的で,今あるゲーム業界停滞の状況は,第2,第3のテレビや映画産業になることを示唆しているのかもしれない。しかし,我々は自己改革できる優れたメディアであり,新しいものを目指して恐れずにステップを踏んでいく必要があるのではないでしょうか」と力説して講演を終えた。(奥谷海人)

ムーア氏は,極寒のデトロイトで行われたスーパーボール(アメフトのチャンピオンシップ)観戦で風邪をこじらしてしまったらしく,赤い鼻がつらそうだった。この講演以外はほとんど顔を見せることもなかった

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http://www.4gamer.net/news/history/2006.02/20060213202120detail.html