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ついに本気? ガンホー,ROに不正対策ツールを導入
2005/12/15 23:59
 ここ数日間ラグナロクオンラインプレイヤーを賑わせていた事態も,一昨日の「パッケージを発売一時中止」というガンホー側のアクション,および昨日のツール導入による不正対策(*1),ガンホーサイドからの正式なコメントで一段落した。まだいくつか疑問点が残っているが,今回のガンホーサイドのアクションは(色々な意味で)素早く,コアなプレイヤーでないと,事態が追い切れてなかったのではないだろうか。わずか3日間の間に,事態が二転三転していたのだから。
 元々は「不要な(不正な?)ファイルが公式サイトのクライアントに混入していた」という事件から思わぬ方向に事態が転がり,最終的にここまで進んだことは,オンラインゲームを運営する会社が行うアクションとして,素直に賞賛すべきだと思う。いままでの情報公開体制や運営ポリシーなどにはやや疑問符を付けざるを得なかったが,ここまで一気に変わると,むしろ嬉しい誤算で当惑するくらいだ。

 各種大手ファンサイトなどでも話題になっているのでここで詳細を説明することは省かせてもらうが,今回の一連の事態に関してのガンホー側のアクションそれ自体は,前述のように素晴らしく速かった。異常事態に対しての公式サイトでの告知も迅速で,問題を抱えたクライアントが入っているパッケージも,企業にとっては痛手であろう回収/交換という手段をとっている。先日書いたことだが,オンラインゲームのリーディングカンパニーとしてのユーザーに対する「義務」は,ベストではないかもしれないが十分に果たしてくれているといえるだろう。
 “異物”として公式クライアントに同梱されていたファイルがWindowsのシステムファイルと同名であるにも関わらず無条件に削除してしまうという危険スレスレのことを行ってはいるが,緊急度を考えるとギリギリで「あり」ではないかと思う(*2)

 最終的に公式サイトに掲載された文面は「こちら」だ。一通りの報告および今後の方針などが書いてあるので,プレイヤーなら一読しておこう。
 問題を含むクライアントが2005年11月11日から1か月にわたって公開されていたこと,ROの動作に必要がないファイルが混じっていたこと,それが多重起動をするためのファイルだったこと,いままでの契約ではガンホー側からファイルの確認をできなかったこと……色々なことを,自ら明らかにしている。

 さて声明は,この数日間に起こったさまざまなことを踏まえ,その結果として,

1) 両社における正規クライアントマスターデータを媒体として別途厳重保管し,取扱者の限定及び刷新作業手順の見直しを行うこと
2) クライアントプログラムの作成作業に関する業務分担の見直しをすること
3) クライアントプログラム内におけるファイル構成など詳細な情報開示を行った上で,両者にて二重チェックを行う運用体制に変更を行うこと
4) これまで以上に情報開示を含め協力体制を強化していくこと

を宣言している。「今までやってなかったのか!」とコメントしたくなる場所もあるが,これを明確に発表したことの意味は大きい。違う声明文の中には「不正ツールに関する報告をする」ボタンまでもが導入され(いつ公式サイトTopページから飛べるようになるのだろう),気概のほどが伺える。

 むろん,まだまだ問題は多い。不正対策にしても,ガンホー自らが述べているようにこれですべてではないし,また終わりでもない。おそらくいたちごっこが始まるであろうこれからが,本当の勝負だ。いままで何度も「敵」に屈してきたが,今度こそ,真っ向から対応してほしい。
 またツールを導入した以上は,不正アカウントの適切な処理(Banなど)に期待も注がれることと思うし,いいことばかりでもなく,すでに一部起動や接続で障害なども起きていると聞く。“軽い”ことが売りだったROにとっては,結果的に必要スペックの引き上げになったことも,少なからず影響することと思う。またなにより,いままで不正にアクセスしていたプレイヤー達の分で,一瞬接続者などが減ってしまうかもしれない。
 だが,何かを大きく変えるときには,何らかの痛みが伴う。不正アクセス対策や運営体制変更に真摯に向き合ったこの流れを途中で崩すことなく,今後も続けていってほしい。わざわざ手を講じてきた以上,ガンホーとてその“痛み”は先刻承知だろう。ビジネスはビジネスで収益がないと話にならないが,だからといって不正やり放題のアクセスを許していてよいわけもない。正式サービス開始から,すでに4年目。ガンホーの正念場は,ここからだ。
 チートが存在するMMOは「不正アカウントとて正規アカウント」と,半ば揶揄するかのように言われがちだ。ビジネス的には確かにその通りかもしれないが,それは結果としてユーザーの不利益,業界の不利益にしかならない。そのイメージを払拭できるのは,誰でもない,業界大手の一つであるガンホーなのだ。今後の体制維持に期待したい。

 ……と良い面ばかりをclose-upしがちな今回の発表だが,まだ一つしっくりこない問題が残っている。多くの読者がメールで指摘してくれ,かつ各種ファンサイトなどでも話題に上っている「混入したファイルは第三者が作ったものなのではないか」(=著作権上の問題はないのか)という部分だ。
 その問題に関しては,MD5のハッシュ値(*3)が同じであるとか,作者自らが匿名掲示板で同じであると言っているとか色々な報告をいただいたが,それらはすべて「100%黒」である証拠にはなりえないと思っている。MD5のハッシュ値が同じものが存在する確率は0%ではないだろうし,匿名掲示板での発言は,キチンとした本人同一確認が取りづらい。それらだけをもって証拠とするわけにはいかない(*4)。そんなグレイな状態が続いていたわけだ。

 そんな中,一日置いて昨日の公式声明をいま一度読み返してみると,「不正対策の技術検証のため両社において外部より収集していたファイル」と書いてある。普通に読み取るならば,これは第三者が作ったファイルを意味しており,意図せぬ形とはいえ,それが公式クライアントに混入していたことを暗に認めていることにほかならない。削除したところをみても予想外のファイルであったことは想像できる。著作権者が訴えない限り法的な問題にまで発展はしないが,せめてそれを明記した上で,誠意あるコメントを見せてほしかったと思う。そこだけが唯一残念だ。

 しかし全体的に見れば,昨日の不正対策の導入を含む,今回の素早く柔軟な決断および情報公開は,いい方向に動いていると素直に思える。何千人,何万人にサービスを提供するオンラインゲーム運営会社として,この体制を今後も維持していってほしいと切に願う。
 今回の一連の件を通じ,事実上「変わった」といっても過言ではないガンホーの運営体制。まだ完全に収束はしていない今回の事態を含め,その今後の動向は,しばらく目が離せそうにない。ユーザーの期待を裏切る結果にならないことに期待したい。(Kazuhisa)

(*1)導入されたのは,韓国のセキュリティ会社が提供する「nProtect」である模様。韓国のセキュリティ関係ではnProtectとAhnLabという2社が有名だが,その中の一つ。オンラインゲームばかりでなく,各種銀行のWebやカード会社のWebのセキュリティツールとしても採用されている,実績のあるツールだ。

(*2)オンラインゲームのパッチというものは,その多くが「許諾を求めず」にユーザーのHDD内のファイルを操作している。その慣習としての観点および状況の切迫度合いを考えると,削除すること自体は問題にすることではないと個人的には思う。確かにかなり特殊な事情で,場合によってはOSの動作に必要なファイルまでも削除してしまいかねない危険性があるが,一般的に考えてそうなるような設定を明示的に行う人はまずいないとみてよいだろう。むしろ問題はそこではなく,パッチがあたるより前にその旨を明確に宣言しておかなかったこと,およびその後に至ってもまだ注意を促す告知および処理がなされていないこと,デフォルト以外の場所にインストールすることを公式に認めている(にも関わらず危険な動作をしかねない)ことではないだろうか。もう少し翻って考えてみると,実はHDD内のファイルは誰のものなのだろうかとか,オンラインゲームのアップデートにもInstallerのような許諾が必要なんじゃないだろうかとか,すべてのオンラインゲームはアップデート前に「ユーザーのHDD内のファイルを操作します」という注意書きがあったほうがいいんじゃないか,とか色々なことを考え出してしまうわけだが。

(*3)ID/Passwordの組み合わせや,ファイルの正当性を検証するときに使われることが多い数値の一つ。詳細な説明は省くが,違う内容でこの値が同一のものである確率は極めて低く,意図的に同じものを作り出せる可能性も,限りなく低い。「限りなく」という言葉から分かるようにゼロではないのだが,通常は事実上ゼロであると考えても差し支えないだろう。ただし,それだけをもって「同一のものである」と言い切れるほどの確固たる証拠ではないこともまた事実だ。

(*4)MD5ハッシュ値の有効性や匿名掲示板のトリップの効果については分かっているつもりだ。だがそれをもって「証拠」とするのは,あまりにも危険な気がする。あくまでもそれだけでは「黒っぽいグレイ」に過ぎない。……と思っているのだが,もし勘違いだったらご一報いただけると幸いだ。


ラグナロクオンライン
■開発元:Gravity
■発売元:ガンホー・オンライン・エンターテイメント
■発売日:2002/12/01
■価格:プレイ料金:1500円/月(税込)
→公式サイトは「こちら」

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/news/history/2005.12/20051215235920detail.html