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「俺たちのインディーゲームは世界にむけて売れるのか?」日本を代表する3人の開発者が語り合ったBitSummit 2014のラウンドテーブルをレポート
「俺たちのインディーゲームは世界にむけて売れるのか?(IS IT POSSIBLE FOR US TO SPREAD OUR INDIE GAME TO THE WORLD?)」と題された,このラウンドテーブルの模様をレポートしよう。
BitSummit 2014 公式サイト
「俺たちのインディーゲームは世界にむけて売れるのか?」
ZUN氏の一言で壇上に3本の缶ビールが並ぶところから,ラウンドテーブルは始まった。
それはともかく,「俺たちのインディーゲームは世界にむけて売れるのか?」との議題で,今最も動向が注目されるのは,Kickstarterで26万ドル以上の出資を集めた楢村氏だろう。
この件について,楢村氏は「もともとアマチュアで始めて,仕事にしようと決めてからも何年か続けてきたので,ゲーム制作は結構長くやっている。が,NIGOROを立ち上げてからは,最初から世界に向けて売らないと数が出ないと分かっていた」と語る。
ただ,Kickstarterを利用した理由は,海外に目を向けているから,というだけではない。ゲーム制作には何かとお金と時間がかかるが,それゆえに楢村氏は「LA-MULANA」の制作時,そのほかの外注仕事と並行して開発を進めなくてはならなかったと明かす(まさにこれと同じ悩みを木村氏も現在進行形で抱えているという)。Kickstarterで開発資金を確保することで,「LA-MULANA 2」の開発に専念できるようになったというわけだ。
もっとも,こうした資金確保はインディーズゲームの開発において必須かといえばそうでもないようで,ZUN氏は「僕の場合,一人で作ってるから,そりゃ開発費用も安いですよ」と“缶ビール”を掲げて語った。
さて,楢村氏は明らかに「海外に自分のゲームを広めたい」という気持ちがある。では,ZUN氏はどうなのだろうか。
木村氏のこの疑問に対し,ZUN氏は「10年くらい前は,あまり世界の人に売りたくなかった。東方は日本の狭い文化の中にあるゲームで,世界の人が見ても理解できないだろうし,遊んでも面白くないだろう,と思っていた」と回答した。
しかし,状況は変わった。今では「外国の友人が秋葉原に行ったとき,東方の新作をジャケ買いしていた」(木村氏),「アメリカで5000円くらいで売ってた」(ZUN氏)など,「東方Project」は世界での理解を得られている。
これを受けてZUN氏は「僕もようやく,世界に向けて売ろうかなと思うようになった。世界を目指す仲間入りをしたい(笑)」と宣言。とりあえず既存の作品のうち,新しいものをダウンロード販売に乗せていくとのことだ。
「世界は本当に日本のゲームを遊びたがっているのか?」
木村祥朗氏 |
この疑問について,楢村氏は「海外のメディアと話をすると,古い日本のゲームが大好きで,今の仕事をしているきっかけになったのは,そういう日本のゲームだという人は多い」と指摘した。
実際,「LA-MULANA」は当初フリーゲームとして公開されていたが,この段階では「自分に近い人にだけ,遊んでもらえればいい」と楢村氏は考えていたそうだ。それが海外のゲームファンの目に留まり,翻訳の許可を求めるメールが到着。喜んで許可したところ,今につながる流れができたと明かした。
また,ZUN氏は「コミケでは,海外からの参加者がゲームを買って行くことも多い」と語る。コミケは観光資源になっているようで,コミケ参加ツアーといったものも存在するようだ。
それでは,コミケでゲームを発表している同人ゲーム作家が,総じて海外市場を意識しているかというと,ZUN氏は「自分の意見がすべてだと思われると困るが」と前置きしつつ,「結果論として海外でも売れたら嬉しいけれど,自分から積極的に海外市場を目指している人は少ないのではないか」という観測を示した。
「同人とインディーズの違い」についてはさまざまな意見があるが,木村氏は自身の経験を踏まえて「同人ゲームは海外からは隠れた存在になっていることもあって,海外のゲーマーが日本の同人ゲームに高い興味を寄せている」と語った。
一方,楢村氏は「この会場にも,同人ゲーム制作者はたくさん出展しているし,その中には海外を目指している人もいる」と指摘した。ZUN氏は「そういう人は,いわば意識の高い同人制作者であって,人によるところが大きい」と補足していたが,同人ゲームに海外の注目が集まっていることは確かだろう。
数の大小はあれど海外に乗り出したい同人制作者がいるという点でも,一次創作であれば,同人とインディーズを分けて考える意味はほとんどないのかもしれない。
今回のラウンドテーブルにしても,商業出身の木村氏,インディーズの楢村氏,同人のZUN氏と,まったく異なる経歴の3名が集まっている。しかし,楢村氏は「3人ともゲームを作り始めたきっかけは同じだし,トラウマとかも一緒」,ZUN氏は「やっていることは一緒だし,できたゲームもそんなに変わらない」と語っていた。
つまりは「売っている場所の違いでしかない」(楢村氏)というわけだ。
では,具体的に何をすれば,世界に広まるゲームを作れるのだろうか。
この問いに楢村氏は「極論だが」と前置きしたうえで,「ものすごく面白いゲームを作れば,世界に広まります」と回答。ZUN氏もまた「コンシューマゲームでは,しばしば途中から海外展開だ何だと海外に目を向けるけれど,日本を飛び越えて最初から海外を目指すのではダメ。日本で面白さが認められたものが,海外に広まると思います」と語った。
あたかも“文化祭”のように
楢村 匠氏 |
これには,木村氏が「戻りたいというより,自分が思ったものを思ったとおりに作るには,限りなく個人制作に近づけたほうがいい。理想を言えば,プログラムも音楽も絵も宣伝まで,全部一人でできてしまうのが望ましい」と指摘。なるほど,いかに少人数制作が大手デベロッパでも一般化したとはいえ,全部一人で……というのは難しい。
実際,本当に全部一人でできる人間は極めて少ないだろう。かくして,インディーズの小規模開発においても,仲間を集めることになる。木村氏曰く「自由を得るために仲間を集める」というわけだ。
こうしたチーム作りについて,楢村氏は「NIGOROを始めるにあたって,昔大好きだったゲームの開発風景に憧れた。小さいチームがすごく楽しそうに作っていて,ああいうノリで続けたいと思った」と自身の見解を述べた。また,ZUN氏も「コミケのサークルでは,その楽しそうな様子が直に見れる。たとえゲームが売れてなくても,開発者達はすごく楽しそうで,それが憧れになる」と語っている。
このような――いわゆる“文化祭”のような――感覚は,少なからぬ開発者にとって魅力的らしく,楢村氏が「BitSummitで一番注目すべきだったのは,ゲーム開発者達が嬉しそうに会場設営をしている,開催前日だったのでは」と話を振ると,木村氏も「BitSummit向けのポスターやフライヤーができていく隣りで,ゲームのバグ取りをし続けるのは辛かった」と吐露していた。
もっとも,昔ながらの小規模制作に対する憧れはあるにしても,実務面では現代のテクノロジーを駆使して,遠隔地にいる仲間と共同制作を行ったりもしているとのことで,このあたりは時代の変化ということだろう。
インディーズブームの未来はどうなる?
ZUN氏 |
この疑問について,楢村氏とZUN氏は一様に厳しい見解を示した。楢村氏は「今のインディーブームに乗るなら,今年か来年が限度」,ZUN氏も「去年,インディーに注目して作り始めて,今年リリースというスケジュールが限界」と語っている。
「『Mighty No.9』などが登場する2015年までにリリースするか,さもなくば『Mighty No.9』に乗っかるかがタイムリミット。今はハードウェアメーカーも注目して,さまざまなサポートに出ているが,その時期になってもインディーゲームが,彼らの望むような売上を立てられなかったら,翌年からインディーなんて注目されなくなる」という楢村氏の観測は手厳しいが,説得力がある。
「LA-MULANA 2」 |
この発言を受けて,木村氏は「自分がインディー制作者に対して感動するのは,彼らがアイデアを絞りながら,自分達の好きなものを作る。そのことを継続していることだ」と語った。無論,売れればそれは嬉しいことだし,今はインディーのブームが来ている。しかし,それとは関係なく「作り続けていること。それがインディーのパワーだし,楢村さんもZUNさんもそこがすごい」と木村氏は続けた。
イベントを通じて広報のコネクション作りを
さて,ゲームを作り続けるパワーを持った開発者がいて,彼らによって作られたゲームを世界に送る販路も大きく開かれている現在,「インディーズゲームを世界に売ることは可能か」という問いには,「可能である」以外の答えはありえない。そこで,木村氏は「売るだけではなく,広めることは可能か」を問う。
楢村氏も「僕らが一番苦労していたのは,広げるということ。自分達のゲームのことを知っている人は,国の内外を問わずに評価してくれる。でも,その“知っている人”を増やすにはどうしたらいいかは,Kickstarterのときも非常に苦労した」と述べている。
とはいえ,この両者の作品は「東方Project」に「LA-MULANA」である。つまり,この問題は,まず大前提として「そのゲームが面白い」,それでもなお「広げるのは難しい」ということである。「面白いゲームを作る」という,開発者にとって楽しくも困難な課題をクリアしなくてはスタートラインに立てないが,「面白くても広まらないゲームはたくさんある」(ZUN氏)のが実状なのだ。
この問題に対して,楢村氏は「海外のメディアから取材を受けるチャンスがあったら,メディアの人の名刺をもらって,必ずその人にはリリースを送る」といった,広める努力をしていたと語った。これは,ゲームを面白くするという努力とは別に行わなくてはならない部分と言えよう。
一方,この点で木村氏は恵まれた状況にあるが(実際,BitSummitで発表した新作「Million Onion Hotel」のニュースは多くのメディアで報じられた),それでも「知り合ったライターにリリースを送るのは,とても大事」とコメント。BitSummitのようなイベントで知り合ったライターに情報を送ることは,現在開発中のゲームの広報というだけでなく,将来的に自分が作るゲームの広報にもつながるという。
インディーズゲームの成功とは?
インディーズゲームを売り,それを広めていく努力を続けていくとしよう。それでは,どれくらい売れたら,それは“成功”なのだろうか。
このテーマについて,楢村氏は「『インディーは作り続けているのがいい』という指摘があったが,まさにそれで,継続できるだけの売上があればいい。無論,バカ売れしてくれるぶんには困らないけれど(笑)」と回答。木村氏も「自分が面白いゲームを作り続けるために,自分と仲間が生きていけるくらいに儲かれば十分。100万本売れなくても,たとえ5000本でも,それで続けられるなら問題ない。月に何億円も儲ける必要はない。世界各国のマイナーゲーム好きが,ちょっとずつ買ってくれたらいいなと思っている」と述べている。
ZUN氏もまた,両者に同意しつつ,あえて違う見解として「インディーゲームは,ゲームを作って,完成させるのが目的であり,それが成功。売れる売れないは関係なしに,まずは完成させなくては,続けることもできない。そうやって作りたいものを作っているうちに,最初は他人のゲームを参考にして,あるいはそれを改良することを目指していたとしても,だんだん自分が作ったゲームを改良していくようになる。そうすれば,面白いゲームも作れるようになる」と語った。
この発言は,来場者だけでなく登壇者にも感銘を与えたようで,「これからも面白いゲームを作り続ける」ことを力強く誓い,最後は“乾杯”でラウンドテーブルを締めくくった。
BitSummit 2014 公式サイト
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