インタビュー
PlayStationで培ったIPや経験を生かしたスマートフォン向けゲームが,2017年度に5〜6タイトル登場。SIEの新会社・フォワードワークスに,その狙いを聞く
今後はSIEが擁する多数のIPや,PlayStationでこれまで培ってきたゲーム制作のノウハウを活用し,スマートフォンを含めたモバイルデバイス向けに最適化したゲームを日本およびアジアにて展開するという。
今回4Gamerでは,フォワードワークス設立の狙いや今後の展開,将来的な展望について,同社のエグゼクティブディレクターを務める川口智基氏に聞いてみた。
モバイルにおいて私達がやりたいこと/やれることと
求められていることが合致した
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずはフォワードワークスを設立した経緯や狙いなどを教えてください。
川口智基氏(以下,川口氏):
昨年(2015年),つまりSIEがまだソニー・コンピュータエンタテインメントだったときにモバイルゲームビジネスに参入するべくプロジェクトを立ち上げました。そして,そのプロジェクトの存在を世間に発表したのが,2016年4月1日のフォワードワークス設立のタイミングだったというわけです。
なぜ私達がモバイルゲームに参入するのかと言いますと,皆さんご存じのとおり今現在,日本やアジアでは,モバイル市場が非常に大きくなっているからです。モバイルユーザーの皆さんの中には,PlayStationを介さずにモバイルゲームを楽しんでいる方が大勢いらっしゃいます。
以前から私達は,そういったモバイルユーザーの皆さんにどうやればPlayStationを利用していただけるか,さまざまなチャレンジをしてきました。
4Gamer:
PlayStation Mobileのような取り組みもありましたよね。
川口氏:
ええ。それらは,PlayStationのプラットフォーム戦略としてモバイルユーザーにアプローチしていくという取り組みでした。PlayStationに親しみのある方に向けた取り組みですね。ですが、「PlayStationです」と言ってもあまり響かないような,あまり接点のない方にも,やっぱり私達のゲームを楽しんでもらいたい。そのためには,私達はいったん自分達がモバイル市場に入ってモバイルユーザーの皆さんと直に接点を持ち,どんなゲームが求められているのか,本質的な部分を理解する必要があるという結論に至ったんです。
4Gamer:
なるほど。だからフォワードワークスは,あくまでもモバイルデバイス向けのコンテンツパブリッシャという位置付けである,と。
川口氏:
そうです。また,それがなぜこのタイミングなのかというと,理由は大きく三つあります。
まずはモバイルデバイスが進化し,かつ多くの人々が所有する状況になったことです。進化したモバイルデバイスなら,私達の作りたい,よりゲーム性の高いコンテンツを提供できます。それを多くの人に遊んでいただける環境が整ったわけです。
二つめは,モバイル市場が一時期のコンテンツ供給過多な状態を脱し,ユーザーの皆さんが本質的に面白い,質の高いものを求めるようになってきたことです。
そして三つめは,そうしたゲーム性や質の高さが求められるなかで,IPの重要性が増してきたことです。私達には,これまでゲーム性を重視したコンテンツを作ってきたノウハウがありますし,かつSIEにはたくさんのIPがありますので,それらをモバイルに展開することは十分可能です。
まとめると私達がやりたいこと,やれることと,モバイルユーザーの皆さんが求めるものが,今ちょうど重なっているわけで,モバイル市場に参入するのであれば,まさにこのタイミングしかないだろうと。
4Gamer:
しかし,そうは言っても日本のスマートフォンゲーム市場に後れて参入するのは,かなりの勝算がないと厳しいのではないかと思うのですが。
川口氏:
その意味では繰り返しとなりますが,やはりSIEが持つIPの存在が大きいですよね。私達はこれまで基本的にモバイルの展開をしてきませんでしたから,これからモバイル市場に提供できるIPがたくさんあります。そして昨今増加しているゲーム性を重視している方に向けては,これまで培ってきたノウハウを駆使して優れたコンテンツを提供できます。
また,今の時代は優れたゲームを作るだけでは十分ではなく,その存在を知っていただいたり,実際に遊んだあと周囲に広めていただいたりすることが重要です。そしてそういった試みは,いずれもこれまで私達が取り組んできたことです。
4Gamer:
つまりPlayStationのこれまでの積み重ねが,すべて強みになると。
川口氏:
はい。さらにもう一つ,PlayStationは,さまざまなメーカーやクリエイターの皆さんとともに作り上げてきたプラットフォームです。具体的なことはまだ言えませんが,そういった方々とのつながりを生かして,何か新しい取り組み,新しい遊びを創出することにもチャレンジしていきたいですね。
PlayStationやSIEのIPを知らない人にも
楽しんでもらうことを目指していく
4Gamer:
ところで昨今ゲームと言うと,コンシューマゲームにしろスマートフォンゲームにしろグローバル展開を念頭に置いているのが当たり前という状況になっています。フォワードワークスでリリースするゲームはいかがでしょう。
フォワードワークスでは,まずは日本市場向けにコンテンツを作ります。そして次にそれをアジア地域に展開します。それ以外の地域については,コンテンツごとに可能性があるかどうかを適宜検討していきます。
4Gamer:
日本市場を優先すると。
川口氏:
ええ。また,それらのコンテンツは,PlayStationをご存じの方はもちろんですが,より幅広い人達を意識した内容となります。例えばPlayStationで遊んだことがない,SIEのIPを知らないといった若年層の方にも楽しんでいただくことが,一つのゴールです。
4Gamer:
そうすることでもともとSCE時代から掲げていた,“モバイルユーザーをPlayStationに引き込むこと”にもつなげていくということでしょうか?
川口氏:
長い目で見たとき,最終的にそうなれば理想的ですね。ただ,それを実現するために強引かつ短期的に何か施策を打つことはありません。
4Gamer:
なるほど。それではフォワードワークスのゲームと,PlayStation 4やPlayStation Vitaのゲームが連動することはあるのでしょうか。
川口氏:
可能性としてはあります。例えば,同じIPを使ったゲームのモバイル版とPS4版でデータを連動させるとより面白いことができるのであれば,やっていきます。ただ,すべてのタイトルで必ずそうした仕組みを採用するというわけではありません。
また,例えばフォワードワークスのゲームを始めるにあたって,PlayStation NetworkのIDを入力しなければならないといったこともありません。可能なかぎり,モバイルユーザーの皆さんが気軽にゲームを始められる状況を作り出そうと考えています。
4Gamer:
これまでのPlayStation関連事業を振り返ると,フォワードワークスの取り組みは相当思い切った展開のように思えます。
川口氏:
そうかもしれません。社名にPlayStationやソニーという名称を入れていないですしね。PlayStationのプラットフォーム戦略から切り離し,新たな会社でモバイルビジネスにチャレンジしていくというスタンスなんです。
その一方で,PlayStationの持つたくさんの強みは生かしますし,またSIEのIPを使ったゲームとなれば関心を持ってくださる方もたくさんいらっしゃいますから,そういった部分は私達も積極的にアピールしていきます。
2017年度には5〜6タイトルをリリース予定
詳細は2016年内に発表
4Gamer:
フォワードワークスからリリースされるゲームタイトルの開発は,すでに始まっているのでしょうか。
川口氏:
もちろんです。進捗は極めて順調で,2017年度には5〜6タイトルをリリースできる見込みです。
具体的にどんなコンテンツをリリースするかについては,2016年内にあらためて発表する予定です。
4Gamer:
モバイルゲームのプロジェクトは2015年にスタートしたんですよね。2017年度に5〜6タイトルリリースというと,順調とは言っても開発ペースが相当速いように思うのですが。
川口氏:
現在開発中のコンテンツに関しては,いずれもパートナー会社と協業で開発,運営を行っています。つまり5〜6タイトルを並行して開発しているので,比較的速いペースで進んでいます。
4Gamer:
ということは,現状だとフォワードワークスには内製の開発スタジオは存在しないということですか。
川口氏:
今のところコンテンツの開発は パートナーのデベロッパさんとSIEのJAPAN Studioが手がけています。ただ将来的には,内製スタジオの設立を検討することもあるでしょうね。
4Gamer:
現在開発中の5〜6タイトルは,どれぐらいのペースでリリースしてくのでしょうか。
川口氏:
そこは難しいところですね。私達としてはゲーム性にこだわりたいですし,多くの方に遊んでいただくのであれば安心,安全を考えなければなりませんから,必ずしも今の予定どおり開発が進むとは限りません。
また,ビジネス的な観点からリリース順を編成することも当然必要になるでしょう。それらを踏まえると今の時点では,「私達が納得したものを最適なタイミングでリリースしていく」という答えになります。
4Gamer:
なるほど。お話を聞いてきた中で少し気になったのが,今おっしゃった「ゲーム性」という言葉です。今のスマートフォンゲームの動向を見ると,必ずしもコンシューマゲームで言われてきたような“ゲーム性”が求められているわけではないと分析することもできると思うのですが。
川口氏:
そこは“ゲーム性”をどう捉えるかでしょうね。一口にゲーム性といっても「重厚なストーリーがあってガッツリ遊べる」というものから,「簡単操作で遊べるのに,奥が深くてついついやり込んでしまう」というものまでいろいろあります。私達としても「ゲーム性とはこういうものだ」と一概に決めつけるのではなく,コンテンツごとに一番面白い形を追求しています。
そういう意味でのゲーム性であれば,今でも多くの人に求められているでしょうし,また私達としても既存の枠にはまらない新しい遊びを提供していきたいと考えています。
4Gamer:
ずっとコンシューマゲームを開発してきた会社がスマートフォンゲームに取り組んだとき,ゲーマー目線で見るとゲーム性という部分では良くできているのに,肝心のモバイルユーザーには響かないこともあります。失礼ですが,その点は考慮されているのでしょうか。
川口氏:
説明したとおり,今開発中のタイトルはパートナーさんとの協業で企画開発を進めています。いずれのパートナーさんもモバイルゲームで成功を収めてきた企業ですから,その点は心配していません。彼らの持つ強みと,私達がPlayStationで培ってきたさまざまな強みを相互補完的に生かしていくというわけです。
IPの持つ歴史や愛されてきた理由を大事にしつつ
新しいコンテンツを作っていく
4Gamer:
それではフォワードワークスがリリースするタイトルのビジネスモデルはどうでしょう。今の日本やアジアの市場ではFree-to-Playが一般的ですが。
コンテンツ次第です。内容によっては売り切りのものもあるでしょうし,Free-to-Playのものもありえます。
ただ,多くの方に私達のゲームを楽しんでいただくことを前提としていますので,どういった形で課金していくかについては熟考を重ねています。
4Gamer:
やはり運営型のタイトルが多くなるのでしょうか。
川口氏:
それもコンテンツ次第ですね。Free-to-Playの運営型もあれば,完全に売り切りで楽しんでいただくものもありと,各コンテンツに最適なものを選んでリリースしていきたいと考えています。
また,SIEのIPを使ったコンテンツというと,これまでPlayStationで展開してきた各タイトルの移植版をイメージされる方もいらっしゃるかと思いますが,それはやりません。IPを使ってはいますが,今のモバイルデバイスに最適化した新しいコンテンツを提供していきます。
4Gamer:
思いつきレベルですが,例えば「どこでもいっしょ」のキャラクターを使ったパズルゲームなんかは考えなくもない……という感じですか。
川口氏:
そういうことです。逆に言うなら,どこでもいっしょを,そのままモバイル版にすることはありません。
4Gamer:
なるほど。往年のPlayStaionユーザーの中には,モバイル版ゲームアーカイブスを望むゲーマーも多いと思うのですが。
川口氏:
ええ,それはもちろん理解しています。しかし繰り返しになりますが,今回はPlayStationのビジネスとはいったん切り離した取り組みですし,またゲームアーカイブスとなると,もともとのゲームが持つゲーム性を変えることができませんので,必ずしも今のモバイルデバイスに最適なものになるとは限りません。
ただ私達としては,IPそれぞれが持つ歴史や,ファンの皆さんから愛されてきた理由を大事にしたいという思いがあります。そのままの移植はやらないというだけで,各IPのファンの皆さんの声や,まだIPを知らないモバイルユーザーの皆さんがどんなゲームを望まれているのかという意見に耳を傾けつつコンテンツを作っていきます。
4Gamer:
とくに初代PlayStationの頃のSCEは,次々に新しいIPを打ち出し,ゲームとしても斬新な遊びを提供していたと記憶しています。それらのIPで,再び新しい遊びを体験できることを期待しても……大丈夫ですか?
川口氏:
そこはぜひご期待ください。実際,開発に携わっているクリエイターの皆さんの中にもPlayStation世代が多くて,「あのIPにこうして関われるのはすごく嬉しい」とおっしゃる方もいるんですよ。そういう部分も,ある意味で私達の強みだと捉えています。
また,おっしゃるように,PlayStationは斬新かつ独特なゲームを打ち出してきましたが,それらのゲームは今遊んでみても新しいと感じられるところがあると思います。フォワードワークスのコンテンツでは,オリジナルを知らないモバイルユーザーの皆さんにもそういった部分が感じられるようなチャレンジをしていきたいですね。
4Gamer:
具体的なタイトルが発表される日を楽しみにしています。本日はありがとうございました。
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