インタビュー
アプリ内広告でもセールスランキング上位並みの収益を上げられる!? 独立系モバイル広告ネットワーク最大手・InMobiのマーケッターが語るスマホゲームの広告事情
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インモビ公式サイト
今回4Gamerでは,インモビ サンフランシスコオフィスでLead Business Developmentを務めるKelly McGrath(ケリー・マクグラス)氏と,インモビジャパンのビジネスデベロップメント 統括部長である米田匡克氏に,同社のスマートフォンゲーム広告に関する展開や,アメリカ市場における事例などについて話を聞く機会を得た。
日本のスマートフォンゲームといえば,基本プレイ無料で配信し,ガチャをはじめとしたアプリ内課金で収益を上げているタイトルが多いが,アメリカでは,アプリ内広告を収益源とするビジネスモデルが主流なのだという。アプリによっては,アプリ内課金を採用したセールスランキング上位タイトル並みの収益を上げることも可能なのだとか。
最近では,日本でもアプリ内広告を導入しているタイトルが多くなってきているが,どの程度の収益を上げられるものなのか,開発者ならずとも気になる人は多いだろう。そんな人は本稿に目を通してみてほしい。
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広告収入で月間1億円以上の収益を上げることも夢ではない
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日本ではクライアントを無料で配信し,アプリ内で有料コンテンツを提供して収益を得るというビジネスモデルが主流だ。一方アメリカでは,アプリ内課金よりも,広告収入を軸にしたビジネスモデルが中心になっているとのこと。
アメリカ市場もゲームが最大の人気カテゴリで,「Clash of Clans」や「Game of War」といった,ミドルコア層をターゲットにしたゲームの人気は高いのだが,パズルやアーケード※など,1回のプレイ時間が比較的短いもののほうが好まれる傾向にあるという。
※App StoreやGoogle Playのアーケードゲームカテゴリに属するアプリ
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マクグラス氏は,アメリカと日本で傾向が異なるのは,法律が絡む部分もあるが,歴史や文化の差に起因しているところが大きいと述べる。
というのもアメリカでは,スマートフォン普及初期にいわゆる「99セントアプリ」※と呼ばれる非常に安価なアプリがブームになったことで,スマートフォンゲームが「(大きな)対価を支払うもの」という認識を持たないユーザーが圧倒的に多いという。そのためデベロッパは,収益を得るためにアプリ内に広告を導入するようになっていったとのこと。
※膨大な数のアプリが登場したことで有料アプリ間の価格競争が起き,「アプリは99セントが当たり前」という風潮が強くなっていった。
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マクグラス氏は,アメリカでは広告収入モデルが頭打ちとなっており,同じくハイブリッドを模索するケースが増えているとコメント。日本とアメリカではスタート地点が異なっているが,今後は両国とも,同じようなハイブリッド型のビジネスモデルが主流になるだろうと述べた。
では実際のところ,広告収入モデルで収益をどの程度上げられるのだろうか。
アプリ本体価格およびアプリ内課金をもとに算出されるApp StoreやGoogle Playのセールスランキングとは異なり,広告収入の情報が表に出てくることはなかなかなく,外部からは実態がつかみにくい。つまり「儲かっているかどうか」は,主にアプリの配信者と広告業者しか把握できないことが多いわけだ。
米田氏によると,海外では,10数名規模のデベロッパが開発したゲームが月間1500万円以上の広告収入を記録することも珍しくないという。世界的なヒット作であれば,広告収入だけで月間1億円を超えることもあるそうだ。
プレイの邪魔にならず,かつ効率よく収益を得られるゲーム内広告とは
最近,日本でもアプリ内に広告バナーを表示するゲームが増えている。筆者の個人的な意見だが,アプリ内広告にあまり良い印象を持っていない人も多いのではないだろうか。
ゲームの雰囲気にそぐわない広告が常に表示されたり,突然ポップアップした広告を誤タップしてアプリ外に誘導されたりすると,少なくともいい気分にはなれないものである。広告がプレイヤーの“領域”に過剰に踏み込んでくると,逆効果になりかねないのだが,インモビではそのあたりをどう捉えているのだろう。
「ゲーム向けの広告は,いかにプレイの邪魔にならないかが重要なポイントになります。ですので,インモビではシミュレーションを用いて,収益が上がりなおかつユーザーに邪魔だと思われない広告の提案をしています」(米田氏)
米田氏は具体的な例として,ゲームオーバー時に広告を表示させるとコンティニューができたりプレイ可能な回数が増えたりする,あるいはローディングやポーズの間に広告が表示されるといったパターンを挙げた。
例えば,「広告を見ればコンティニューできる」ケースであれば,プレイが止まっている状態だからユーザーを邪魔しない。広告を見れば再挑戦できるというメリットがあるため,ユーザーは能動的にアクセスしてくれるわけだ。
また,ポーズ中やステージクリア時など「一息つく」タイミングであれば,ゲームプレイを妨げにくく,プレイヤーが邪魔だと感じる可能性は低くなる。
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さらにインモビでは,時間帯や嗜好などをデータベースから分析。動画や静止画などそれぞれのシーンに適した形の広告を表示させ,ユーザーの注目度を高めているという。それが「miip」と呼ばれる形式の広告だ。
なお,miipが現在ローンチされているのはインド,アメリカ,中国で,日本では2016年以降の展開を予定しているとのこと。
例えば,あるアプリをダウンロードして利用すると,アプリごとの特徴やビッグデータを用いた傾向に基づいて,紐付けられた別アプリの広告が表示される。ゲームで言えば,そのユーザーが好みそうなゲームをお勧めしてくれるのだ。
米田氏によると,ユーザーはmiipで表示された広告を,有益な情報と受け止める傾向が強いとのこと。ちなみに,アプリを特徴付ける項目は,インモビ社内の専門部署でスタッフが一つ一つ実際にプレイして,150種類前後のチェックを行っているそうである。
アメリカでは,1日のうちスマートフォンアプリの利用率がもっとも高まるのは20:00頃になるとマクグラス氏は語る。
テレビでゴールデンタイムにCMを流すのと同様に,スマートフォンゲームでも特定の時間帯を狙って広告を配信するのが効果的とのこと。ビジネス/金融/音楽関連アプリは日中から平均的に使用率が高いためゲームとは傾向は異なるが,実際に数字も出ているそうだ。
無論,ここでマクグラス氏が挙げたのは一般的な傾向だ。実際は,より詳細なデータに基づきジャンルやゲームの内容に併せた,より効果的な広告提案が行われるという。
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米田氏は,広告収入が多くなるタイトルは,DAU(Daily Active User,一日あたりのサービス利用者数),起動回数,滞在時間の3つがポイントになると話す。
「例えば,シンプルなカジュアル系のスマートフォンゲームだと,1回起動してプレイすれば十分だというケースが多くなりますから,DAU,起動回数,滞在時間を増加させるのは簡単ではありません。
ですが,起動するたびにミッションの内容が変われば起動回数を増やせますし,DAUの伸びにもつながります。ミッションをクリアするまで継続してプレイしようという気持ちにさせられれば,滞在時間も5分,10分と長くなっていきます。
これら3つの要件を満たしていくと,広告も効率よく展開できるようになります」(米田氏)
米田氏曰く,広告の効率化はアプリの設計自体に大きく関わってくるため,広告収入モデルを検討しているのであれば,開発段階からぜひインモビに相談してほしいとのこと。
アプリをヒットさせるための出稿コストを知る
次に,現在のアメリカ市場におけるスマートフォンゲームの広告出稿相場をマクグラス氏が説明した。
氏によれば,おおよそではあるが,アメリカではCPC(Cost per Click,クリック単価)はiOSもAndroidも6円から18円程度,CPI(Cost Per Inquiry,問い合わせ1件あたりの獲得コスト)はiOSが600円から840円程度,Androidが480円から600円程度の相場になっているという。
入札価格は240円〜600円/600円〜1200円/1200円以上の3つに大きくランク分けされていて,当然ながら入札価格が高いほどダウンロード数の伸びも加速度的に上昇する。
とはいえ,多額の広告予算を投じれば際限なくダウンロード数を稼げるというものでもない。というのも,最近ではスマートフォンゲームの数が増加しているため,ランキング上位を狙えば狙うほど,単純な右肩上がりの曲線にはならず伸びが鈍くなるからだ。つまり,費用対効果が薄くなってしまうのである。
例えば,あるゲームをApp Storeの無料ダウンロードランキングで10位以内に入れるには,アメリカでは1日平均で約10万ダウンロードが必要になるという(※2014年のデータ)。ちなみに米田氏の見込みでは,日本で無料ランキング10位以内に入るのも,市場競争などを鑑みると,アメリカと同程度のハードルになっているだろうとのこと。
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また,いわゆる「アプリストア最適化」が,上位に行けば行くほど大きく影響してくるとマクグラス氏は語る。具体的には,アプリストアで表示されるユーザーの評価やレビュー,あるいはタイトルや説明文に盛り込むキーワード,タイトルページに掲載するスクリーンショットなどだ。
マクグラス氏は例として,ユーザー評価の求め方についても,やり方一つでかなり変わると説明。
たとえば,プレイの合間に「ゲームを楽しんでいますか?」と問いかけるタイミングを設け,「はい」と回答したユーザーはアプリストアのレーティング設定画面に誘導する。「いいえ」と回答したユーザーはリクエストフォームに誘導して,どこが悪いのか,どうすれば面白くなるのかといった意見を送付してもらうようにする。
こういった施策を取れば,評価を求めて単純にストアに誘導するよりもレーティングは相対的に高くなる。ユーザーからのフィードバックを得てゲームを改善すれば,結果としてユーザー獲得につながるというわけだ。
ただ,こういった手法は効果的ではあっても,一歩間違うとかつての「ダンジョンキーパー」のように,ユーザーの反感を買って“炎上”する可能性もある。やり方には十分注意を払ったほうがいいだろう。
競争の激しい国内市場に固執する必要はない?
そのほか,マクグラス氏が注目しているというのが,アプリの多言語対応だ。
アメリカ市場では30万以上のゲームアプリが配信されているが,9割以上が1言語だけでそのほとんどが英語のみとなる。多言語対応は全体の約13%だが,3言語以上に対応したアプリは非常に少なくなる。
先述したように,アメリカで無料ダウンロードランキングのトップ10に入るには,1日あたり10万ダウンロードが必要だ。しかし,イギリスなら2万6000,ドイツなら1万6500,イタリアなら1万2000と,トップ10に入るためのハードルはアメリカよりかなり低くなる。
つまり,競争相手の多い市場に固執せず,ローカライズを行って多国展開するほうが良い結果につながることもあるという理屈だ。
ただ,文化的な背景などを踏まえたカルチャライズを含め,しっかりとしたローカライズを行う必要があるため,実際はそう簡単に事が運ぶわけではないとマクグラス氏は釘を刺していた。
米田氏は,世界的に見ても,日本のスマートフォンゲーム市場は競争が激しいので,日本のデベロッパだからといって国内での成功を目指すことに固執する必要はないと指摘。まずは海外展開して,成功してから日本に逆輸入して収益化につなげるといったビジネスモデルを考えてもいいのではないか,とコメントしていた。
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マクグラス氏は,日本の企業がアメリカのスマートフォン市場に進出するチャンスはあると語る。そのためにも,ユーザーのターゲティングやデータ収集,そしてデータを用いた適切なマーケティングの重要性を理解してほしいとコメントした。
「タイガー・ウッズの活躍を見て,彼と同じゴルフグッズを揃える人は大勢います。しかし,そうした人がタイガー・ウッズのような成績を残せることはほとんどありません。なぜならタイガー・ウッズは,人々の目に触れる場以外でも,練習や研究を日々重ねているからです。スマートフォンゲームもそれと同じで,SupercellやMachine Zoneのような人気ゲームのデベロッパを表面だけ真似てもうまくいくとは限りません。
個人的な意見ですが,デベロッパは自分達のゲームの長所と短所,あるいは独自性をきちんと分析し,そこから得られたデータを活用して少しずつユーザーを増やしていくのがベストなのではないかと考えています。これは日本で人気のゲームをアメリカに展開するケースでも変わらないでしょう」(マクグラス氏)
最後に,マクグラス氏と米田氏から日本のスマートフォンゲームデベロッパに向けて贈られたメッセージを,本稿の締めとして掲載しよう。
「インモビが展開しているのは主に広告事業ですが,スマートフォンゲームデベロッパの海外展開をサポートする体制も整っています。デベロッパの皆さんのゲームがヒットすれば,それだけ私達の収益も増えますから,お互いWin-Winの関係を構築できるのではないでしょうか。ビジネスのパートナーとして,ぜひご相談いただければと思います。」(米田氏)
「アメリカでゲームをローンチするときには慎重に。もしインモビをご活用いただけるなら,ベストなサービスを提供できると思います。『Go Global with InMobi!』」(マクグラス氏)
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