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[GDC 2014]ゲームの開発は人に始まり,人に帰結する。五十嵐孝司氏が「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」の裏側を語ったセッションをレポート
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印刷2014/03/22 15:55

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[GDC 2014]ゲームの開発は人に始まり,人に帰結する。五十嵐孝司氏が「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」の裏側を語ったセッションをレポート

五十嵐孝司氏
画像集#001のサムネイル/[GDC 2014]ゲームの開発は人に始まり,人に帰結する。五十嵐孝司氏が「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」の裏側を語ったセッションをレポート
 GDC 2014の最終日に当たる北米時間2014年3月21日,「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」(以下,月下の夜想曲)を手がけた五十嵐孝司氏が,同作の開発を振り返るセッション「There and Back Again: Koji Igarashi's Metroidvania Tale」を開催した。開始30分前の時点で長蛇の列ができるなど,開発者達の注目度も高かったセッションの模様をレポートしよう。

 登壇した五十嵐氏はまず自己紹介をしたのち,3月15日にKONAMIを退社したことを明らかにした。今後は「独立しようかなあと思っています」とのこと。氏は,そういった事情があるため,今回のセッションではKONAMIが権利を持っている「月下の夜想曲」のスクリーンショットが使えないと断りを入れてからセッションを始めた。
 
 さて,セッションは五十嵐氏が「月下の夜想曲」の開発スタジオに配属されたときのことから始まったのだが,実はこのとき,自分を含めたスタジオメンバーは「悪魔城ドラキュラ」のフランチャイズはほかのスタジオが持っていて,正統な続編はそちらで作られるものと勘違いしていたという。そのため,「ならばいろいろと変えてもいいだろう」と,思い切ったことができたそうである。

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 五十嵐氏達が本作を開発するにあたって,従来のシリーズ作品から大きく変えようと思ったのは,「操作性の改善」「ゲームの長寿命化」の2点だったという。

 操作性の改善は,アクションゲームシリーズが陥りがちな,ファンプレイヤーの声を聞きすぎて難度が上がり,新規のプレイヤーが入ってこなくなるという状況に陥りつつあったこと,そして何よりジャンプ中に飛距離が調整できず,理不尽な落下死が多いという仕様をなんとかしたかったのが理由だったとのこと。

 ゲームの長寿命化については,ゲームがうまい人なら2時間でクリアできるものが7000円という価格では,同じく2時間楽しめて1600円の映画に,エンターテイメント作品として太刀打ちできないのでは? と思ったからだという。
 そこで五十嵐氏は「ゼルダの伝説」のように,探索や謎解き要素を入れてゲームを長くプレイしもらおうと考えたそうだ。

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 とはいっても2Dアクションゲームなので,「ゼルダの伝説」よりは「メトロイド」のほうが近い。セッションのタイトルになっている「Metroidvania」も,「METROID」と,悪魔城ドラキュラの英語名である「Castlevania」を掛け合わせたものだ。
 五十嵐氏はメトロイドの不満点として,「敵を倒しても(時折体力を回復できるが)それほど意味がない」という点を挙げ,「月下の夜想曲」ではそれを改善すべく,経験値の要素を導入したと明かした。これによって,プレイヤーのテクニック不足をキャラクターの強さで補えるようになり,初心者もプレイしやすくなったとのことだ。
 また,モンスターの図鑑やマップの探索パーセンテージといった要素も用意して,プレイヤーに「集まっていない悔しさ」を感じさせ,より長くプレイしてもらえるように仕向けたという。

 だが,五十嵐氏にはまだ不満があった。一方通行でステージを進むこれまでのシリーズ作品と違って,同じ場所をなんども行き来することになる本作では,主人公のアクションの種類をもう少し増やしたいのだが,過去作品の主人公でそれをやると,設定に無理が出てしまうのだ。

 また,主人公のサイズも問題になっていた。五十嵐氏は本作の主人公を,それまでのシリーズ作品より大きく表示したいと思っていたのだが,そうすると,シリーズ伝統の武器であるムチが,画面の端まで届きそうなスケールになってしまう。これでは間合いも何もあったものではなく,戦闘の面白さがなくなってしまう。

ステージを左右に移動するため,主人公を画面中央に配置しなければならないという点も,この問題の原因となっていた
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 そこで五十嵐氏は,「主人公はムチ使いじゃなくていい」「ステージをあちこち探すのは人間じゃないほうがいいかも」と思い切り,過去作品の登場キャラクターを調べたところ,ムチを使わず,コウモリへの変身能力があるという,ぴったりの人物を発見。これが本作の主人公となるアルカードだった。
 以前の設定のままでは戦う動機があまり感じられなかったため,設定が付け足され,さらにキャラクターデザインも小島文美氏の手で一新されて,新主人公にふさわしい存在になったという。
 ちなみに五十嵐氏は,書店でいろいろな本を立ち読みして,イメージに近い小島氏のイラストを見つけ,出版社に連絡をとって依頼にこぎつけたという。
 
画像集#008のサムネイル/[GDC 2014]ゲームの開発は人に始まり,人に帰結する。五十嵐孝司氏が「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」の裏側を語ったセッションをレポート
 さて,実際の開発作業では,従来どおり2Dグラフィックスか,それとも3Dへと切り替えるのかが大きな問題となった。開発が始まった時期は3Dグラフィックスのゲームが増加していた時期で,本作のプラットフォームである初代PlayStationも,2Dより3Dグラフィックスを得意とするゲーム機だったからだ。
 
 最終的に2Dが選択された理由は,広大なマップやさまざまな敵を3Dグラフィックスで登場させるのは少々厳しいと感じたこと,2Dであれば過去の作品から素材を流用できること,そして開発スタッフ内に“2Dグラフィックスの天才”が2人もいたからだという。五十嵐氏は,正直なところ「2Dしかなかった」と語った。

 2Dグラフィックスとはいっても,本作は60fpsで動作することを目標としていたため,開発はなかなか難しいものとなった。PlayStationは横の解像度が本来320ドットなのだが,過去の素材を流用するため256ドット表示にし,色数も16色に抑え,テレビに表示されない部分のデータをカットするなど,さまざまな工夫を凝らしたとのこと。解像度や色数の変更をするにあたっては,前述の天才デザイナーのところへ「お願い」をしに行ったそうだ。
 
 五十嵐氏はこのときを振り返って,本作は制約をものともしないデザイナーがいたから実現できたと語り,結局は人に始まり,人に終わると感じたという。

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 そうやって「月下の夜想曲」を送り出した五十嵐氏だが,続いては「Metroidvania」なゲームを作るときのガイドラインが示された。

 もっとも意識したのは主人公の操作性で,プレイヤーは常に主人公を動かしているのだから,ストレスがなく,動かしているだけで楽しいというのが第一の条件となる。
 そうやって主人公を動かしているうちに新しいアイテムなどを見つけて,それを試しているうち,さらに新しいものが欲しくなって探す……と,見つけて試す→欲しくなる→探す→また見つけて試す,という,いい循環が生まれれば,五十嵐氏によれば「勝ちが見えてくる」という。

 マップについては,探索型のゲームであるにもかかわらず,メインのストーリーを進めるルートは基本的に一本道にした。ストーリーの続きが見たいプレイヤーは後戻りをいやがるというのがその理由だ。メインとなるルートでは,ところどころでアイテムを使って誘導し,探索している「雰囲気」を出したという。 
 その分,後戻りしないとたどり着けないような場所には,いいアイテムを配置するなどして,プレイヤーの努力に報いるようにしていたとのことだ。
 
 新しく得た能力やアイテムによって探索可能な範囲が広がるという要素を取り入れているときは,それをなるべく早くプレイヤーに分からせるのも重要なポイントとのこと。そして,プレイヤーに何かを探させるときには,どこにあるか分からないものではなく,一度プレイヤーが見ているはずの印象的な場所がいいという。そうすれば,なかなか見つからなくも,プレイヤーは「思い出せない自分が悪い」と感じ,ゲームに不満を持つことがなくなる。

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 敵の強さについては,五十嵐氏は「ボスのバランスを取ることが最重要」とした。そこが押さえられていれば何とか形になるという。そしてボス戦では,直近で入手した能力やアイテムを使って倒す形が望ましいとのこと。もちろんそれだけに執着するのではなく,バリエーションを豊かにするのも重要となる。
 そして,「ボスのプログラマーは,そのボスをノーダメージで倒せること」を鉄の掟にしていたという。これは,予備動作を見ればボスの攻撃を回避できる,という必須条件を満たすために設けられたものだそうだ。
 
 セッションの最後で五十嵐氏は「今回このような機会をいただいたのは,最近“Metroidvania”なゲームが出ず,みなさんが待ち焦がれているからではないかと思っています」とコメント。そして「大きな会社を出て,個人の意思で物作りができるようになったので,望む声があれば,実現に向けて出発できるかなと思っています」と,控えめながらもしっかりとした抱負を語り,セッションを終えた。

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