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身につけやすくて高精度な脳波検出ヘッドバンドやゲームの難度を錯覚させる技術など,CEATEC 2017で見た興味深い技術をレポート
本稿ではそうした技術展示の中から,2つの展示を紹介しよう。
研究室で使える品質の脳波を計測できるヘッドバンド「TNS Orb」
実はこのシステム,CEATEC JAPAN 2016でプロトタイプが展示されていたのだが,今回は新バージョンとなっており,製品化の目処が立ちつつあるようだ。
TNS Orbの特徴は,そのデザインにある。写真を見ても分かるとおり,ヘッドバンドのように頭に被せるだけなので,ほかの機器と同時に装着することもできそうであい,たとえばVRヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)と組み合わせることもできそうだ。装着したままゲームをプレイしても,邪魔になりにくそうである。
第2の特徴は,誘発脳波※を含む脳の活動を,高いサンプリングレートで取得できることであるという。ブースの担当者曰く,研究室レベルの基準で見ても,精度の高いきれいな波形が得られるのだそうだ。
実際のデモでは,TNS Orbを着用したモデルさんの波形が流れっぱなしだったのだが,細かい波形がよく出ており,これならデータ収集も楽そうに見えた。
※外部刺激で誘発される脳波
研究目的でVR体験時における脳の活動を調べる場合,耳たぶとこめかみにセンサーを取り付けることがあるのだが,こうしたセンサーは外れてしまいやすいうえ,得られるデータ量も少ない。こうした問題点をTNS Orbは解決できることもあって,VR方面からの問い合わせが増えているそうだ。
TNS Orb自体は計測するだけの機器なので,そこから先は用途次第になるわけだが,ゲーム用途においても導入は効果的だと,担当者は述べていた。
たとえば,ゲーム開発時にプレイヤーの感情変化をデータとして取得するという用途が考えられる。また,e-Sports選手の脳活動をモニタリングしてみると,有利なときや不利なときの状況がデータで取れるだけでなく,無意識に苦手な展開もデータで見えてくるかもしれない。e-Sportsイベントで,演出用に取得したデータを利用するという可能性もありそうだ。
東海光学の脳科学推進室 公式Webサイト
手に汗握る現象を再現して難度を錯覚させる技術はゲームに使えるかも?
電気通信大学の広田研究室が出展していた「Emotional Controller」は,新しいゲームのアイデアを考えるもとになったり,VRコンテンツに「温度のフィードバック」という新しい感覚を加えたりと,面白そうなアイデアを生み出せる可能性を感じるデバイスだ。
そのような情動は,ある行為に対する難度や抵抗感の認知に影響を及ぼすのだという。では,そうした情動を外的要因で誘発したり,脳を騙して感じさせることができれば,ゲームの難度が変化したように感じさせることができるのではないか,というアイデアを具現化したのが,Emotional Controllerというわけだ。
デモ用のEmotional Controllerは,市販のPC用ゲームパッドを改造したもので,グリップの部分にペルチェ素子と水蒸気噴出口がある。この改造ゲームパッドを使って,デモPCでテトリス風のゲームをプレイしていると,ある特定のラインを越えた段階で微量の水蒸気が噴出する。すると,プレイヤーは手のひらが汗で濡れたような印象を受けて,ゲームの難度が上昇したように感じやすくなるという仕組みだ。
実際にプレイしてみたが,難易度が上昇したような感覚は確かにあり,判断速度の低下や,入力を迷う頻度が増えたことも強く認識できた。つまり,実際にはピンチな状況にあるわけではないのに,面白いくらい簡単に脳が騙されたのだ。
ただ,必ずうまくいくわけではないとのこと。これまでの実験結果からすると,あまりゲームが上手ではない人がそれなりに上手い人と対戦するときに,上手い人側のハンデとして使用することができそうだと,ブースの担当者氏は説明していた。ただ,ものすごく上手い人になると,そもそも焦ることが少なそうなので,この仕組みが機能しないかもしれない。
東京ゲームショウ2017のレポートで紹介した熱触感フィードバック技術「ThermoReal」との組み合わせも考えられるし,ゲームにおける演出方法のひとつとしても可能性がありそうだ。今後も研究室では,さらなるデータを集めていくそうなので,モニター募集の告知を見かけたらエントリーしてみるといいだろう。
タイトルを見ただけでは,なんのことか分からないと思うが,ざっくりいうと「現実における時間の流れよりも1分が早く経過する時計を用意すると,作業効率が向上する」という理屈を実証した研究であるとのこと。
実験では,時計を視界のどこかに置いているだけでも,効率の向上を確認できたとのこと。時計の速度を落とすと,作業効率が低下したデータもあるそうだ。その一方で,時計を視界に置いた状態で,キー入力の正確さを確認するテストを行っても,誤入力率の変化はなかったという。時計は文化的に根付いており,かつ物心が付いた時点で行動の基盤となっているため,そこが影響しているのではないかということだ。
もしかしたら,ゲームプレイにおいても効果があるのではないかと記事に加えてみた次第だが,日々行う作業の効率を改善するほうにこそ,役立つかもしれない。実際に本稿は,針の進む速度を変更できるアナログ時計風の時計アプリ「Lucky Clock」を表示したiPhoneを視界の片隅において作成してみたのだが,なんだか早く終わった気がする。時間制限のあるゲームタイトルで試してみてほしい。
電気通信大学 広田研究室 公式Webサイト
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