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国内発売まであと約1か月のPS4,筐体設計の秘密が明らかに
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印刷2014/01/21 00:00

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国内発売まであと約1か月のPS4,筐体設計の秘密が明らかに

 2014年1月15〜17日に,東京ビックサイトで「インターネプコン・ジャパン」というイベントが開催されていた。聞き慣れないイベント名だと思った読者も多いと思うが,それもそのはず,本イベントは「アジア最大のエレクトロニクス製造・実装技術展」(※案内文ママ)である。その筋の業界人向けイベントなので,ゲーマーが知らなくても無理はない。

鳳 康宏氏(ソニー・コンピュータエンタテインメント 第1事業部設計部5課 課長)
 ではなぜそんなイベントを取り上げるのかというと,今回のインターネプコン・ジャパンでは,ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下,SCE)でPlayStationシリーズのメカニカル設計を担当している鳳 康宏(おおとりやすひろ)氏による技術セミナー「PlayStation 4の冷却設計〜PSシリーズの進化」が行われたのだ。
 これはもう見逃せないというか,ゲーム機の冷却設計の詳細が聞けるチャンスなどめったにないので,今回は,氏によるセミナーの概要をお伝えしてみたいと思う。


PS2からPS3の現行モデルに至る熱設計の変遷


 鳳氏は,PlayStation 2(以下,PS2)以降の歴代PlayStationでメカニカル設計を担当してきた人物ということもあり,氏のセミナーは,PS2とPlayStation 3(以下,PS3)の冷却設計を概説したうえで,PlayStation 4(以下,PS4)の冷却設計を従来製品と比較するという流れになっていた。

 というわけでPS2だが,初代PS2におけるトータルの熱処理能力は80Wだったという。「(80Wという数字は)今からみると可愛いものだけれども,当時を振り返ると大変苦労した覚えがある」(鳳氏)とのことだ。

初代PS2の熱設計。筐体のトータル熱処理能力は80Wだそうで,現在の目で見れば大したこともなさそうに思えるが「当時はたいへん苦労した」と鳳氏
PS4本体

 上のスライドで「電源は内蔵」とあることに気づいた人もいるだろう。PS2だけでなく,据え置き型PlayStationは,PS2の最終モデルなどといった一部例外を除き,電源ユニットを本体に内蔵している。「電源を内蔵しているのは,(そうしないと外付けの)ACアダプターにファンを付ける必要があるため。ACアダプターを置く場所はたいていホコリにまみれているもので,そんなところに置かれるACアダプターにファンを付ける勇気は我々にはない。だから基本的に,我々は消費電力が下がらない限りは電源を本体に内蔵させている」(鳳氏)。

PS2 Ver.Aのヒートシンクはアルミダイキャスト製で,重量は約400g。ダイキャストに6mm径のヒートパイプを埋め込むという,かなり手の込んだ冷却機構を採用していた
PS4本体
 なお,スライドには「PS2 Ver.A」という表記も見えるが,「Ver.A」というのは,マイナーチェンジごとにSCE社内で与えている連番とのこと。内部を少しでも変更した場合はバージョンが上がっていくそうで,必ずしも市場に出ているモデル名と対応するものとは限らないそうだ。氏のセミナーでは,この先もこの“社内バージョン”が用いられているので,その点は注意してほしい。

 さて,歴代PlayStationの冷却設計で,最も多くの読者が興味を引かれるのは,もしかするとPS3の初代機かもしれない。初代機を持っていた人なら,その熱と轟音を覚えていることだろう。

 鳳氏によると,PS3の初代機は「ものすごい造り」。「140mm直径の大きなファンに,筐体の下半分はすべて冷却系という,コンシューマ機器とはとても思えない設計」だったそうだ。

圧巻のA」と鳳氏がキャッチコピーを付けた,初代PS3(Ver.A〜B)の冷却機構。底面から見ると,大型ヒートシンクと140mm径のファンからなる大型クーラーが取り付けられているイメージだ
PS4本体

5本のヒートパイプが走った大型ヒートシンクの熱処理能力は200W。ほとんどのPC用大型CPUクーラーを上回るスペックだ
PS4本体
 トータルの熱処理能力は,定格380Wに対して30%の余裕を見た490W。大半のデスクトップPCよりも大きな熱を小さな筐体で処理しようというのだから,その苦労のほどが窺えよう。
 下に示したのは,そんな初代PS3のヒートシンク製造工程として紹介されたスライドだ。HDD容量20GBの安価なモデルでも4万9980円(税込)と,当時の据え置き型ゲーム機として異例の高価格さで話題を集めた初代PS3は,当時,その原因としてBlu-ray Discドライブの搭載がよく挙げられていたが,実際には,冷却機構の製造コストもかなりの割合を占めていたに違いない。

PS4本体
ジグ(日本語では治具)に金属の受熱ブロック(※鉄とのこと)を固定して5本のヒートパイプを並べ,スクリーン印刷を使って半田ペーストを塗布する(左)。そして,その上にアルミのベースプレートを置く(右)。ベースプレートに複数の羽のようなものが生えているのが見えると思うが,これははんだが塗布された金属。ベースプレートに圧入されているという
PS4本体
上のスライドで作成したブロックをクランプ(clamp,留めること)して(右),リフロー炉(※半田を溶かす炉)に入れて半田でブロックを溶着させる。鳳氏いわく「弱電業界とは思えない造り」
PS4本体
出来上がったブロックに,プレス機でフィンを1枚ずつ圧入。ベースプレートについていた羽のようなものに圧入していく感じだろう。最後に検査を行い完成

 ……と,大規模な冷却システムが採用されていたPS3だが,半導体製造技術の進化に伴う製造プロセスの微細化に伴って,本体の小型化が進められていったことも,4Gamer読者はよくご存じだろう。鳳氏は「PS3 Ver.G」で,フルモデルチェンジと大幅な小型化を実現したと振り返っている。
 PS3 Ver.Gのモデル名は明らかにされなかったが,スライドを見る限り,メインプロセッサの製造プロセス技術が64nmから45nmへ微細化されたCECH-2000シリーズではないかと思われる。

大幅な小型化を図ったというPS3 Ver.G。サイズは8.7リットルから5.5リットルへと約63%に,トータルの熱設計能力は490Wから250Wへ,ほぼ半減している。鳳氏が付けたキャッチコピーは「凝縮のG
PS4本体

 このPS3 Ver.Gにおいては,小型化と高密度化が目標になったという。そして,小型で高密度になると,当然のことながら空気の流量は減ることになるため,「いかに少ない空気で冷やすか」を念頭に置いて設計することになったとのことだ。

PS3 Ver.Gのヒートシンク。ヒートシンクの熱処理能力は,Ver.Fの約200WからVer.Gで約112Wへと大きく下がった。一方で,小型化を実現すべく,Ver.Cでいったん省略されていたヒートパイプを復活させたりもしている
PS4本体

 そして現行世代となる「PS3 Ver.N」(=CECH-4000シリーズ)に至るが,「Ver.Gで内部を高密度化したため空気が流れにくくなった。そこでVer.Nでは「(内部の)空気抵抗低減を第一の目標として設計した」(鳳氏)。

現行世代品であるPS3 Ver.Nだと,サイズは4リットルと初代機比で半分以下となり,トータルの熱処理能力も180Wと,初代機比で約37%にまで低くなった。Ver.Nにおける目標は内部の空気抵抗低減で,鳳氏は「流麗のN」と名付けている
PS4本体

 Ver.Nは「非常に洗練されたエアフローを持っている」と自画自賛していた氏だが,なかでも大きな特徴として挙げていたのが,ファンの「圧縮流路」だった。
 下に紹介スライドを示したが,Ver.Nでは,「ファンを覆うカバー」部が空気を圧縮する流路になっている。「ただ『大型のファンを付ければいい』というのではなく,ファンから出た空気を圧縮しつつ,一気に出すということが重要と分かってきた。そこで,これまで直線的に増やしてきた流路に対数螺旋を採用した」(鳳氏)のだそうだ。

ファンを覆うカバーを,空気の圧縮流路として採用。その形状には対数螺旋を採用している
PS4本体

 対数螺旋というのは,フィボナッチ数列から出てくる形状の1つで,巻き貝のような,自然界の至るところに見られる螺旋として知られている。鳳氏は対数螺旋を採用した理由をあまり詳しくは述べていなかったが,流体の渦も対数螺旋を取る場合があるようなので,圧縮流路を対数螺旋にすることで乱流などが起きにくくなるのではないかというのが筆者の推測だ。
 いずれにしても,この対数螺旋の圧縮流路は大成功だったようで「ファンを小型化しているにも関わらず特性は大幅に改善し,Ver.Gと比べて1.5倍もの空気流量を確保することに成功した」(鳳氏)。

 というわけで,以上がPS3の現行モデルに至る熱設計の変遷だが,鳳氏,そしてSCEが,モデルごとに目標を設定し,それに向けて冷却システムの設計を行ってきたことが分かるだろう。


PS3を踏襲しつつ細かな最適化が計れられたPS4の熱設計


 4Gamerでは先にPS4の実機を分解し,内部を調べている。そのときに筆者なりの推測を加えたりしているが,あらかじめお伝えしておくと,そのうちのいくつかは外れていた。鳳氏は,PS3の現行モデルまでをまとめたところで,その後はスライドを示しながらPS4の内部構造と意図を説明してくれたが,本稿では,分解時の写真も交えながら,鳳氏の発言を追っていきたいと思う。

関連記事:「PlayStation 4」分解レポート。AMDのカスタムAPUを搭載する新世代マシンは,とてもゲーム機らしいゲーム機だった


 鳳氏は,PS4の話を始めるにあたって,最初にスペック表を示した。読者には見慣れたものかもしれないが,氏によれば,「最大250W」という消費電力が重要で,「規格上,250Wを超えると大型の3P電源コネクタを使わなければならなくなり,セットの小型化などに支障が出る。そこで電源の設計者に頑張ってもらい非常に高効率な電源を搭載することで何とか250Wに収めた」とのことである。何気なく流してしまいそうな250Wという数値にそういう意味があったというのは,なるほどと唸らされる。

初代PS4のスペック表。250Wという最大消費電力がポイントと鳳氏
PS4本体

 続いては内部構造を示すスライドが示されたが,これは,先の分解記事をチェックしてくれた人なら記憶に残っているところかもしれない。

PS4本体
PS4の横置き時底面側から,カバーを外して見たイメージ。基本的な配置はPS3 Ver.GやVer.Nを踏襲しているという
PS4本体
左に見えるのが,シールド板に挟まれた基板と冷却システム。右はそれが取り付けてあるプラスチック製フレームだ。鳳氏は左側を「コアユニット」,右側を「センターフレーム」と呼んでいた。これが社内での呼称なのだろう
PS4本体
コアユニットをばらした図。メイン基板は2枚のシールド板に挟まれる。ヒートシンク(≒冷却系)はシールド板にぶら下がった格好だ
PS4分解記事より,関連する写真を再掲。左から順に,横置き時の底面側から見た内部構造と,コアユニットのシールド板に付いている冷却系&センターフレーム,コアユニットをばらしたところ
PS4本体 PS4本体 PS4本体

PS4は横置き時の側面および前面スリットから吸気し,背面から排気する仕様になっている
PS4本体
 外気は,本体横置き時の側面に用意した吸気孔から取り入れてファン部へ集め,APUのヒートシンク部にあるヒートシンクと電源部を通って,最後に本体背面から排出する流れ。「PS3 Ver.Nを継承しつつ,すべてのノウハウを凝縮したエアフロー」(鳳氏)になっているという。実際,ファンのカバーには,PS3 Ver.Nで採用された対数螺旋を採用しているとのことである。

これがPS4のエアフローだ。スリットから入った空気がファン部に集まる。そのうえで,ファンの起こす風によってAPU部のヒートシンクを冷却したうえで,電源部を通って本体背面から排出されることになる。PS3 Ver.Nのアイデアをさらに進化させたものだと鳳氏は述べていた
PS4本体

 下のスライドは,PS4の横置き時に側面から見たエアフローを概観したものだ。
 上側にはメイン基板とそれを取り囲むシールド板,下側にはファンやヒートシンクからなる冷却系が収まる。周囲のスリットから入った外気は,多くが金属シールド内に入ってその内部(≒メイン基板)を冷やしたうえで,ファンを経由してヒートシンクのほうへ導かれるという流れなのがよく分かる。

PS4を横から見たエアフローの概念図。メイン基板とそれを取り囲むシールドが上側,下側が冷却系になっている
PS4本体

メイン基板,電源部の近くに,ボタン電池を囲むような格好でいくつかの孔がある
PS4本体
 鳳氏によれば,シールド内の基板上側,上のスライドにおける「B面」に入ったエアを下方向へ流すための穴が基板上に設けられているとのこと。4Gamerで撮影した写真を見てみると,リチウムバッテリー付近に正体不明の穴が複数あるので,おそらくこれがそうだろう。分解記事執筆時にはとくに言及しなかったが,この孔には重要な意味があったというわけだ。

 割と常識的な話だが,ファンの吸い込みよりも前段は負圧(=圧力が低い)になり,ファンの吐き出しより後段は正圧(=圧力が高い)になる。このとき,正圧のエリアと負圧のエリアがしっかりと隔離されていないと,正圧側から負圧側にエアが流れ込み,十分な冷却能力が得られなくなる。

PS3 Ver.Aでは,正圧と負圧を仕切るため,要所にスポンジを貼って,圧力差の壁(=圧力隔壁)を作っていたという
PS4本体
 鳳氏によると,PS3 Ver.A世代では負圧と正圧を隔離するため,内部の要所にスポンジを入れて壁を作っていたという。だが,この方法では手間とコストがかかる。
 そこでSCEでは,PS3 Ver.Gから,電源ユニットと冷却部をユニット化したという。ユニット化によってユニットの外殻が圧力の仕切りになるため,本体側にスポンジなどを貼る必要がなくなり、製造コストの低減につながったとのことだ。

 また,電源と冷却部を収めたユニット側の排気口をルーバー(Louver,羽板)として使うことで,筐体側にエアフローを調整するためのルーバーを用意する必要もなくなったという。「本体(=筐体)に孔が多くなると,その分だけコスト高になる」(鳳氏)ため,ユニット側の排気孔をルーバーとして用いれば,それがコストの低減になるというわけである。

PS4本体
PS3 Ver.Gで電源ユニットと冷却システムをユニット化。これにより正圧部分がユニットになるため,本体に圧力の壁を作る必要がなくなった
PS4本体
さらに排気のルーバーを外観部品に作る必要がなくなった。これも低コスト化に貢献しているとのことだ

 そして,もちろんPS4でもPS3 Ver.G以降の工夫が採用されているという。4Gamerの分解記事を見ると分かるが,PS4において電源と冷却システムこそ一体化はされていないものの,ヒートシンクを通ったエアが電源ユニットへ直接送り込まれるようフレームが作られているので,圧力差は確保される仕組みになっている。

PS3 Ver.G以降で採用された「電源と冷却システムの一体化」を踏襲しているPS4。正圧部を覆うダクトカバーを用意することで,意図せず正圧側から負圧側へエアが漏れる事態を防いでいる
PS4本体
PS4では,ファンを囲む部分と,電源部は別のユニットだが,連携しており,ヒートパイプを通ったエアが電源ユニットへ送り込まれ,そのまま外部へ排気される格好になっているのが分かる
PS4本体 PS4本体

PS4に搭載されるAPU用ヒートシンク。高さとフィンのピッチが異なる2つのブロックからなる
PS4本体
 APUのヒートシンクは,ヒートスプレッダ部分に,2種類の異なるピッチ(間隔)からなるフィンが使われていることを,筆者は分解記事で紹介した。そのときは,2パターンのフィンを用いてるのは,高さの制限があるなかで,放熱面積を確保するためではないかと想像していたのだが,正解は,「フィンを通る風速が場所により異なるため,ピッチを変えて冷却効率やエアの流量を調整している」(鳳氏)のだそうだ。言われてみれば納得という感じである。

PS4本体
ヒートシンクの構造を説明するスライド。分解記事で1本だと判断したヒートパイプは,実は2本搭載。部品はリフロー炉を使って,半田によって固定されているという
PS4本体
対数螺旋を用いた圧縮流路の,広い側は風速が速い。風速を遮ることなく冷却を行うためにピッチを2.2mmにし,風量を稼いでいるという。一方,対数螺旋の狭い側は風速が遅いためピッチを1.7mmに狭めて冷却面積を大きくしている。ピッチを狭めると抵抗が増えるものの,風速が遅いため影響は少ないというわけだ。スライド中でも記されているとおり,ピッチを変えることで熱抵抗や流量,圧力損失といった値が向上している

 PS4の冷却には遠心ファンが採用されている。これは熱設計において常識的な話なのだが,遠心ファンでは高い静圧(≒ファンが作る圧力)が得られるため,熱密度(=体積あたりの発熱量)が大きな機器では第1選択になるのだ。鳳氏も「今後,ゲーム機で軸流ファン(=扇風機タイプのファン)が使われることはないと思う」と語っていた。

縦軸が静圧,横軸が風量となるこのグラフは「PQ特性マップ」といい,ファンを選択するためには,なくてはならない情報だ。PS2世代では発熱量が小さかったために軸流式が向いていたが,PS3以降では遠心式のほうが向いているとされる
PS4本体

 ファンにおいて,インペラを最適化してあることも重要だという。
 インペラというのは「羽根形状」くらいの意味。PS4のインペラは真横から見たときに台形状となっているが,これは台形が乱流を減らし,いきおい,ノイズも減らす効果が認められたためだそうである。また,インペラの曲げ方も最適化されており,大きな風量を確保できているそうだ。

PS4のファンは,真横からだと台形になっているとのこと。台形にするとフィンとの干渉による乱流が抑えられ,なおかつ十分な風量が得られるというのが,シミュレーション結果の画像とともに示されている
PS4本体

 ちなみに,インペラの形状やヒートシンクはスライドのようにシミュレーションを使って設計されていることがスライドからも窺える。シミュレーションベースの設計を「CAE」(Computer Aided Engineeringという)というが,鳳氏は「細々した部分最適にはシミュレーションを使うが,セット全体をシミュレーションにかけるということはやっていない。CAEはあまり好きでないので……」と語っていた。CAEに頼り切りになるのは危険という考えを氏は持っているようである。

PS4のファンのインペラは外に広がるよう曲げられている。これにより風量は16%も向上したそうである
PS4本体

 ファンを回すモーターにはPS4で新たに三相モーターを採用しているという。三相モーターとは,位相が120度ずれた3相の交流で制御するモーターで,1つの交流で回す単相モーターと比べ,コイルと磁石の位置関係によるトルクの揺らぎ「コギングトルク」が少なく,振動が減り,騒音も減るというのが特徴とされている。「静かなところで使っていると,(PS3では)単相モーター特有のチチチ……という音が気になるが,PS4ではそれが解消されている」(鳳氏)そうだ。

PS4では新たに三相モーターを採用。トルクの波が小さく振動が少なくなるため,騒音の低減に役立っているという
PS4本体

PS3世代まで使われてきた階段制御。シフトアップとシフトダウンの閾値をずらす必要があるため,ファンの回転が一度上がるとなかなか戻らない
PS4本体
 ファンの制御方法も,PS3世代の段階的な制御(階段制御)から,PID(Proportional Integral Derivative controller)制御に切り替えたと,鳳氏は述べていた。
 階段制御は割とよくある方法で,温度センサーで温度を測り,閾値を超えたら段階的に回転数をシフトアップさせる方式だ。簡単でいいのだが,シフトアップとシフトダウンの閾値をずらす必要がある――閾値をずらさないと閾値付近の温度でファンの回転数が上がったり下がったりを短時間で繰り返す不都合が生じる――ため,回転がいったん上がるとなかなか下がらない。これはPS3を利用している読者なら体験的に認識していることだろう。

 これに対し,PS4のPID制御ではフィードバックによる制御により,ファンの回転数を細かく変更できる。そのため,高負荷時に回転数が上がっても,負荷が下がればすぐに回転数も追従できるのだ。

PS4ではPID制御を採用。紫色の線がPS4のファンの回転数推移で,負荷に応じて回転がスムーズに切り替わっている様子が分かると思う。回転が跳ね上がるオーバーシュートや下がり過ぎるアンダーシュートも見られるが,これはフィードバックに伴うリンギング(振動)で,ある意味PID制御の証のようなものである
PS4本体

 PID制御を行うためにセンサーも増やされている。PlayStationシリーズでは代々,プロセッサに内蔵されるサーマルダイオードを用いた温度検出を採用しているが,PS4ではさらに,排気温度センサーを設けているという。これにより,電源ユニットの温度など,排気の総合的な温度をファンの回転に反映できるようになったとのことだ。

電源ユニットの一部に穴を設けて,そこに空気の流れを導いたうえで,メイン基板上の温度センサーから排気温度を測っているという。あくまでも推測だが,右の写真で矢印の先にあるのが温度センサーではないだろうか
PS4本体 PS4本体

 というわけで,やや細かな話もあるが,実機と突き合わせながら鳳氏の説明を追ってみた。PS3までの経験を活かしつつ,プラスアルファを加えることで,PS4の筐体設計を行ったことがよく分かるだろう。
 PS4を分解してみて,初代機の割に完成度が高いとは筆者も感じていたが,PS2から携わってきた設計チームが筐体を手がけている以上,それも当然といったところなのかもしれない。


歴代PlayStationとPS4を比較する


 PS4の冷却設計は以上だが,鳳氏は続けて歴代PSシリーズとPS4を比較したグラフを次々と示し,PS4の冷却性能や設計の狙いを説明してくれた。これもなかなか面白いので,説明を加えつつ見ていくことにしたい。

 まずは熱密度(=体積あたりの熱量)である。トップが初代PS3,SCEの内部呼称的にはPS3 Ver.Aだろうというのは簡単に想像できると思うが,並べて見ると,PS4の熱密度はPS3 Ver.Gよりも高いのだそうだ。つまり,初代PS4は,発熱量の割に筐体が小さいことになる。

熱密度の比較。グラフでは「セット体積1リットルあたりの熱処理能力」になっているが,「処理する熱量=発熱量」なので同じことである。“圧巻の”PS3 Ver.Aが頭一つ抜けているのは当然として,PS4は,“凝縮の”PS3 Ver.Gと比べても熱密度が高いという
PS4本体

 続いては換気量(=筐体内の空気流量)で,これもPS3 Ver.Aがダントツのトップ。PS4はここで,9.2リットル/sという高い空気流量を実現している。「空気抵抗の低減を目指したPS3 Ver.Nと同じ流量」(鳳氏)だ。

ケース内の空気流量を比較したグラフ。PS3 Ver.Aがダントツだが,PS4も“流麗の”PS3 Ver.Nと同じ流量で2番手グループを構成しているのが分かる
PS4本体

 続いては空気1リットルあたりの熱輸送量だ。ここでは「空気にどれだけ熱を移して運べたか」の比較になるが,「騒音を抑えるには風量を減らすのが効果的だろうと考え,PS3 Ver.Gまでは『いかに少ない空気で冷やすか』で設計していた。しかし,PS3 Ver.Nからは『いかに大量の空気を静かに流すか』という方向に設計方針を切り替えた」と鳳氏。実際,グラフではPS3 Ver.Nで1リットルあたりの空気流量が下がっているのを確認できる。
 ではPS4だとどうか。PS4では,PS3 Ver.Nまでの経験を活かし,「両方のいいとこ取り」を目指した設計になっているそうである。

PS3 Ver.Gまでは少ない空気を効率的に使い排熱する設計を目指していたため,空気1リットルあたりの熱輸送量はPS3 Ver.Gで最大化されている。しかし,PS3 Ver.Nで方針を「大量の空気を静かに流す」方向へ転換。そのためPS3 Ver.Nで空気1リットルあたりの熱輸送量は減少している。PS4は,ここまでの経験を基に,両方のいいとこ取り的な設計を目指したという
PS4本体

 吸排気孔面積の比較も面白い。「全身穴だらけだった」と鳳氏が振り返るように,PS3 Ver.Aはダントツで吸排気孔の面積が大きかったのだが,PS4もかなり大きいのだ。PS4の吸気スリットはあまり目立たないため,吸排気孔の総面積も小さそうに思えるのだが,実のところはPS3 Ver.Nと比べても1.25倍に広がっているのである。

吸排気孔の面積比較。吸気口が目立たないPS4だが,PS3 Ver.GやVer.Nと比べても吸気孔の面積は大きくなっているという
PS4本体

 次に示すグラフは内部の空気抵抗を比較したもので,簡単にいえば,「どれくらいの圧力を与えるとどれくらいの風量がケース内を流れるか」を見るものだ。グラフが“寝る”状態だと,少ない圧力で多くの空気が流れる,内部の空気抵抗が小さいことを示し,グラフが“立つ”場合は,内部の空気抵抗が大きいことになる。
 というわけでグラフを見てみると,PS3 Ver.Nを踏襲した冷却構造であること証明するように,PS4はPS3 Ver.Nと似たような傾向を示している。

空気抵抗を表すグラフ。縦軸が静圧,横軸が風量である。PS4の内部抵抗は,PS3 Ver.Nとほぼ同じだ
PS4本体

 多くの読者が気になるだろう,動作音に関するデータも示された。「1mのところで計測するのが標準的だが,1m離れると暗騒音(=バックグラウンドノイズのこと)に紛れて不正確になるため」(鳳氏),SCEではシステム正面から0.5mのところで動作音を計測しているそうで,今回はその測定法で歴代のPlayStationを比較したグラフが公開されている。

 これを見ると分かるように,PS4は,歴代PlayStationのなかでもかなり静かなほうになるようだ。「三相モーターの採用で,とくに低負荷時の騒音が減っている」と鳳氏は語っていた。

2重化されているバーは,後ろがゲーム実行時,手前がメニュー操作時(=低負荷時)の騒音レベルとされる。単位はdBAなので聴覚補正(Aカーブ補正)ありである。PS4は歴代PS2以降のPlayStationシリーズにあって,かなり静かなほうだという
PS4本体

 ちなみに,上のグラフにおける「ゲーム実行時」の動作音は,「KILLZONE SHADOW FALL」実行時のものとされている。

KILLZONE SHADOW FALLをプレイしたときの騒音レベルと,APUの消費電力,APUの温度を追った結果。騒音レベルはピークが37dBAながら,PID制御によってファンの回転が一定してくると,おおよそ平均の31dBAで推移すると鳳氏は説明していた
PS4本体

 残るグラフは軽く触れておくだけにしよう。1つはファンの消費電力とセット全体の電力の比率で,PS4では三相モーターの採用により電力効率が上昇しているという。
 最後のグラフは1ドルあたりの熱処理能力という,少し風変わりなもの。PS4は三相モーターの採用によって若干のコスト高になっているものの,PS3 Ver.Nよりは低コストで熱を処理できているとのことだった。

PS4本体
セット全体の電力に占めるファンの消費電力の割り合いを比較したグラフ。三相モーターの採用により,PS4ではファンの電力比が低下している
PS4本体
1ドルあたりの熱処理量を比べたグラフ。三相モーターはやや割高だそうだが,PS3 Ver.Nよりは低コストで熱を処理できるという


 というわけで,鳳氏のセミナーで語られた内容をざっくりとまとめてみた。内容は多岐にわたり,細かな話も多かったが,新世代ゲーム機のハードウェアに興味のある人からすると,相当に面白い内容だったと述べていいのではなかろうか。
 2月22日には日本でもようやくPS4が発売になるが,今回のセミナーで語られた内容を思い出しながらPS4を弄ってみるのも,また一興だろう。

ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジアのPS4公式情報ページ

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