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公式ストーリー「Dreadnought Episodes」
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連載企画:TCG「ドレッドノート」公式ストーリー「Dreadnought Episodes」第6回
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印刷2015/08/10 00:00

連載

連載企画:TCG「ドレッドノート」公式ストーリー「Dreadnought Episodes」第6回

 KADOKAWAから発売中のトレーディングカードゲーム「ドレッドノート」の世界観を,小説形式でお伝えしていく連載企画「Dreadnought Episodes」第6回をお届けする。第6回は,黒の神醒術士レオナ・メリタと,黄の神醒術士である常盤シャンティパドマ・アステラスの,3名のキャラクターが登場する。

 ヴォルフの自分勝手な振る舞いに呆れながらも,「salomo」の任務遂行の時を待つレオナ。同級生に誘われ,学園の生徒の間で噂となっている「魔王の会」に足を運ぶシャンティ。そしてパドマは,学園都市に漂う“物騒な予感”に笑みを浮かべながら行動をはじめる。それぞれの思惑で動き出した,彼らの物語をお見逃しなく。


画像集 No.001のサムネイル画像 / 連載企画:TCG「ドレッドノート」公式ストーリー「Dreadnought Episodes」第6回

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レオナ・メリタ デキる女のナリッジ #3


画像集 No.002のサムネイル画像 / 連載企画:TCG「ドレッドノート」公式ストーリー「Dreadnought Episodes」第6回
 クラブの管理者にそれなりのお金を渡し、急な予約を取りつけ、宿に帰った。
 そこそこ高いホテルだ。サラリーマンが出張で使うと経理にいい顔をされないくらいの。エレベーターは外からだと回数表示が見えないようになっている。
 14階にとっている部屋につく。扉を開けて入り、すぐに気づいた。
 いるはずのヴォルフの姿がない。
 彼がコーラを買いに行ったのはレオナがホテルを出る前なのだから、もうとっくに戻ってきていないとおかしいのだけれど。
 部屋の奥に歩を進め、風呂場、居間兼ベッドルームを見渡してベランダに出る。やはりいない。
 スマートフォンを取り出し、あらかじめ登録しておいた彼の番号にかけてみる。
 レオナは上司から「任務の実行中はパートナーからの電話は極力とるように」と言われた。ヴォルフもそのはずだ。しかし、1コール、2コール、3コール……8コールめまで待っても出ない。仕方なく通話終了アイコンをタップする。
 レオナの脳裏に、嫌な予感がよぎった。こういうシチュエーションは、神醒術にかかわる仕事をしていると少なくはない。パートナーがふっと消えたきり戻ってこないという場合もある。
 まさかヴォルフの身に、なにかあったのだろうか?
 ここは八幡学園都市だ。世界中から集うのは善人だけじゃない。ちょっとしたきっかけから事件に巻き込まれてもおかしくない。現にレオナだって、こうして事件を起こしている側だ。可能性は他の街より高い。
 ――もしなにかあれば私の落ち度だわ。
 レオナは下唇を噛む。
 非効率的だから下見をひとりですませたほうがいい、という考えは間違っていなかったと思う。ただ、あの自由人と別行動をとるということは、おばかな犬の首から鎖を外すことと同義だ。その認識を怠っていた。まさか、いい年をした男が自分の身すら守れないとは考えもしなかった。しかし、よくよく思い返せばレオナよりも優秀な男など、母国の組織でも数えるほどしかいなかった。仕事となると、その達成以外の優先度を低く設定してしまうのが自分の短所だ、とレオナは反省する。
 レオナがベランダの手すりに体重を預けて、ため息をついた、ちょうどそのときだった。
 部屋の扉が開く音がした。
 レオナは慌てて振り返り、部屋に戻る。

「クックック……ずいぶんと時の狭間をさまよってしまった……」
 ヴォルフだった。
 レオナは駆けよる。
「無事なの?」
「ん、なにがだ」
 見たところ怪我の様子はない。無意識に、ほっと胸をなでおろしていた。事件に巻き込まれているかもしれないというレオナの心配は、ただの杞憂だったようだ。しかしそうわかると今度は、彼への怒りが心の奥底からだんだん湧きあがってきた。
「じゃあなんで電話に出なかったのよ」
 ヴォルフはポケットからスマートフォンを取り出した。そして電源を入れて確認した――なんと今まで電源を切っていたらしい。そんなばかな。
「ああ、連絡をくれたのか? だが悪いな、オレはソウルのこもっていない電子機器なんぞに縛られる器ではないのだ」
 マジで殴ってやろうかしらこいつ、とレオナは奥歯を噛む。
「……たかがコーラ1本買いにいくために、ずいぶん遅かったじゃない」
「コーラならなんでもいいというわけではないだろう? 瓶コーラはコンビニに売っていない。だから最寄りの酒屋まで足を運んだ」
「は? 貴方、まさか、そのためだけに?」
 ヴォルフは片手にナイロン袋を持っている。中から瓶のコーラを取り出す。
「無論だ。妥協はあらゆる創造性を腐らせる毒。オレには看過できないのだ……フッ」
「貴方の趣味嗜好なんてどうでもいいのよ! 任務中だって言う緊張感を、ちょっとは持ちなさいよ!」
「緊張?」
 レオナが思わず上げた声にも堪えていないようで、ヴォルフはフッと鼻で笑うと瓶を開けた。
「そのような現象にさいなまれるのは、己に自身のない者だけだ。常に最高のパフォーマンスを発揮できるという確信があれば、緊張など必要ない」
 もっともらしいことを言っているが、この男はその実、深く考えずに喋っているだけだとレオナは知っている。湧いていた怒りも、あまりの呆れから鎮まってしまう。
 ヴォルフはレオナの心境など気にしていない様子で、瓶のコーラをあけて呷る。
「うむ、うまい」
「…………はぁ」
「それはそうと、コーラを飲むと腹が減るな」
「あ、そ」
「貴様はもう喰ったか?」
「まだに決まってるでしょ。今まで仕事をしていたのだから、貴方と違ってね」
「ではルームサービスでも頼むか」
「……好きにしたら」
 悪びれる様子もなくヴォルフは、ホテルに備え付けられた電話の受話器を手に取った。
 
 運ばれてきたミモザサラダにフォークを刺しながら、レオナは気持ちを切りかえる。
「次の会場は、クラブに決めたわ。文句ないわね」
 ヴォルフはペペロンチーノを口に運びながら、興味なさそうに返す。
「ああ。いいんじゃないか」
「手順はわかっているわよね? 今度もいままでと同じように情報を集める。ただ……お願いだから、もう前までみたいな無駄な演説は極力やめてよね。時間の浪費だし、なにより恥ずかしいし」
「ハッ、馬鹿を言うなよ。あれがなければシマらないだろう」
 シマらない? なにが? 彼の言っていることは本当に意味不明だ。
「前から思っていたのだけれど、貴方ってちょっと頭がおかしいわよね? 常識がなさすぎるし、そんなのでどうしてsalomoに入れたのか不思議だわ」
「クックック、頭がおかしい、か。それはそうかもしれんな……オレは普通ではないのだ」
「どうして誇らしげなのよ」
「だがその点で言えば、普通な者などsalomoには存在しないのではないか? 貴様も、表向きは常識人の皮を被ってはいるが、隠された異常性を持っているはずだ。黒の神醒術士というのはそんな者ばかりの集まりだからな」
「…………貴方と一緒にしないでほしいわ」
 たしかに、レオナは「変わっている」と周囲からよく言われる。付き合いはじめはそんなこともないのだが、親交が深くなるほどに。理由はよくわからない。ただ、少なくともヴォルフと一緒にいる間は、自分の方がまともだと確信できる。

 食べ終わってから、それぞれの役割をひとつひとつ確認した。受付役と、ステージに立って人々に術をかける役との、2つが必要だ。
 今までの会話の流れから、ヴォルフが再びステージに立つのは不安だったので、今度はレオナがその役を買って出た。
 しかしヴォルフは譲らず、言い合いのすえにじゃんけんをして、結局レオナが負けてヴォルフの思いどおりになってしまった。
 こうなると、まさか力尽くで止めるわけにもいかないのでレオナは了承するしかなかった。
 完璧に仕事をこなしたいだけなのに、最近はどうにも上手くいっていない気がして、レオナはフラストレーションをためるばかりだ。どうしてこんなやつとペアなのかしら、と運命を呪いたい気持ちだったが、あいにく悪魔の神醒術にかかわっている自分の運命はとっくに呪われている気もした。

常盤シャンティ 眠れるピース #2


画像集 No.003のサムネイル画像 / 連載企画:TCG「ドレッドノート」公式ストーリー「Dreadnought Episodes」第6回
 シャンティはクラスメイトのテドちゃんと一緒に、夕暮れの八幡学園都市を歩いていた。
 遅い時間に外出したことは、これまでにあまりなかった。でも両親にはどうしても行きたい用事があるからとお願いした。
 ふたりとも驚いた様子だったけれど「シャンティは一度決めたことには頑固だから」と笑って許してくれた。最近はぶっそうだから気をつけるように、とその点だけはきつく念を押された。神醒術士としての力を考えるなら、シャンティのそれは両親よりもはるかに高い。自分の身くらい自分で守れる。だから心配はないはずだけれど、それでも心配だというふたりの気持ちは嬉しかった。シャンティは素直に頷き、家を出た。
「魔王の会」――その活動内容が問題ないと確認できればおとなしく帰る。明日からは、またいつもどおり良い子の常盤シャンティに戻る。そのつもりだった。

 テドちゃんいわく集会の場所は毎回変わる。次の会場はクラブだと聞いた。
 路地裏に入る。狭い小路をふたり並んで歩く。
 テドちゃんはテレビやお化粧やファッションのほかに、占いも好きな女の子で、そこから派生してオカルトにも詳しい。今回の「魔王の会」について知ったのも、それがきっかけだという。歩きながら、テドちゃんは呼吸をするみたいに、やっぱり喋り続けていた。
 学園のトイレに出る幽霊の噂――どこのトイレかテドちゃんに訊いてみたけれど「それがわからないのがミソなんだよ」と言っていた。
 金曜日に届く死神からの手紙の噂――手紙を受け取った人は死ぬらしいのだけど、実際に被害者がいるかはテドちゃんも知らないようだった。「だって調べるの気まずいじゃん」と言われた。
 夜な夜な恐ろしい唸り声が聞こえる廃墟の噂――こちらは実際にテドちゃんの友達の友達が声を聞いたらしい。でも、どんな声かは「とにかく怖いんだってば」の一点張りで教えてくれなかった。たぶんテドちゃんも詳しくは知らないのだと思う。
 しばらく進むと少し開けた通りに出る。その少し先に目的のクラブはあった。
 想像していたよりも建物は大きい。入口のまわりに人はいない。赤いネオンサインの光が、たまにプツプツと切れて信号みたいだなと思った。
 曇りガラスのドアを開けて入る。むん、と湿度が肌にからみつく。はじめての場所、はじめての空気にドキドキする。
 まず見えたのは、暗めの照明を当てられた、5メートルほどの一直線の廊下。先には下り階段。階段の手前には、安そうな木製の机と椅子があり、受付が設けられている。どことなく、即席で用意したようなちぐはぐさを感じた。
 受付の前に立つ。そこには、かっちりとしたスーツのような服装の女性が座っている。ぱっと見は、クラブというよりも大企業や美術館などの受付の方が似合いそうな、上品さを持った人だった。でもどこか妖しい雰囲気も漂っている。
 女性は落ち着いた口調で「いらっしゃいませ」とあいさつをして、紙を2枚差し出す。横にいたテドちゃんが耳打ちで「魔王の会は、参加者に簡単なアンケートをしてるんだよ」と説明してくれた。
 アンケートは1人1枚。内容を見ると簡素なものだった。参加者の「住所」と「最近行った施設(勤務先や学校・デパートなど)の住所」を書く欄だけがある。
 これにはどういう意味があるのだろう? とシャンティは首をかしげる。第一印象だと、個人情報の入手が目的かとも思ったけれど、そのわりには名前も年齢も家族構成も電話番号もメールアドレスも、書かせる気がないのは変だ。
 さらに受付の女性は言った。
「できればきっちり書いてほしいけれど、抵抗があるなら番地くらいまででもいいわよ。住所を特定するのが目的じゃないから」
 たしかに、こんな情報じゃ訪問詐欺すら、まともにおこなえそうにない。なにに使うためのアンケートなのかわからない。
 シャンティは一応の警戒心から、どちらの欄にも「八幡学園都市」とだけ書いて提出した。テドちゃんは丁寧に番地以降も書いているようだった。

 階下に降りる途中からすでに大きな音が聞こえてきて、びっくりした。「クラブってどこでもこんな感じだよ」とテドちゃんが胸をはって教えてくれた。シャンティはこういう知識に疎いので、物知りだなぁと感心した。地下室への扉を開けると、極彩色の光が目にとびこんできて、シャンティはふたたび驚いた。派手やかなライトの下には、正確には数えきれないけれどざっくりと300人以上だろうか。お客さんたちがざわざわと集まっていた。
 シャンティたちが着いてすぐに、受付は終了したらしい。ふたりが入ってきた扉から、つづいて先ほどの女性が現れて言った。
「そろそろ特別ステージがはじまるわよ。もっと前で見た方がいいんじゃない?」
 女性は微笑み、ふたりの背中を優しく押した。

パドマ・アステラス 黄金のデストラクション #2


画像集 No.004のサムネイル画像 / 連載企画:TCG「ドレッドノート」公式ストーリー「Dreadnought Episodes」第6回
 ぴりぴりとした緊張感に肌を刺激されたせいで身体がうずいたパドマは、事務所に戻る時間を遅めることにした。思えば、まだベッドに入るには早い。
 八幡学園都市にはさまざまな人種が集っている。肌の色という意味でもそうだが、職や思想もばらばらで、なかには身のほど知らずのバカも多い。
 酒でも飲もうと、知っているバーに向かう途中、チンピラに絡まれた。オーバーサイズのTシャツにだぶついたデニムを着て、まるっこくて分厚いブーツをはいた男と、対照的に細身の服に先の尖った革靴をはいた男のふたり組だ。どちらもとても動きづらそうで、なんのためにそんなファッションなのか不明だった。コメディアンか? とパドマは鼻で笑った。
 大通りからは一本裏に入った小道で、人目はない。ちょうどよかったので、飲み代はそいつらから拝借した。酒代くらい余らせてはいるが、他人から奪った金で飲むほうが断然美味い。のびきった男たちの身体を踏みつけながら、やっぱりここはいい街だな、とパドマは口の端を上げる。
 
 路地の目立たない位置に、ひっそりと地下への階段がある。そこを下りるとバーだ。
 意図的に照明を落とした店内。
 客はパドマの他にいない。
 カウンター席にすわり、キングフィッシャーのストロングを頼むと、1分と待たずに出てきた。
 パドマが住んでいた地域では飲酒が許されるのは25歳からだったが、それ以前からこの酒を好んで飲んでいる。きっかけはよく覚えていない。たぶん手に入りやすかったから、みたいな適当な理由だったと思う。ウィスキーなども悪くはないが、やはり幼いころから慣れている、このしつこい味と香りがしっくりくる。
 この店には以前も訪れたことがあり、マスターとは知り合いだ。
 褐色の肌をもつ大柄な男で、すすんで無駄口を叩かないわりに街の事情に詳しいのでパドマは彼を気に入っている。そのマスターに、この街で最近盛り上がっている面白そうな――つまりは物騒なトピックについて尋ねた。
 どうやらパドマが感じていたとおり、いくつか、事件の気配があるようだった。
 この街のお偉いさんが事故に遭ったが、それは実は何者かの手による工作らしいという話。ただの詐欺や宗教では収まらない、怪しい自己啓発イベントが夜な夜な開かれているという話。ちっちゃいところでは、正体不明のストーカーなんてのもあった。
 なかでもパドマの興味をひいたのは、たったひとりの学生が武装集団に誘拐され、そして無傷で生還したという事件だ。

文/河端ジュン一

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