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美少女達が織りなす重厚な政治劇――「解放少女 SIN」はいかにして生まれたのか,シナリオの結城昌弘氏と遠藤正二朗氏,牧野圭祐氏に聞いてみた
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印刷2014/08/30 00:00

インタビュー

美少女達が織りなす重厚な政治劇――「解放少女 SIN」はいかにして生まれたのか,シナリオの結城昌弘氏と遠藤正二朗氏,牧野圭祐氏に聞いてみた

画像集#015のサムネイル/美少女達が織りなす重厚な政治劇――「解放少女 SIN」はいかにして生まれたのか,シナリオの結城昌弘氏と遠藤正二朗氏,牧野圭祐氏に聞いてみた
 2012年に発売されたニンテンドー3DS用ソフト「GUILD01」に収録されていたシューティングゲーム「解放少女」。女子高生大統領という奇抜な設定と世界観で人気を博した同作のその後を描いたアドベンチャーゲーム「解放少女 SIN」が,PlayStation Vitaにて2014年7月31日に発売された。2013年にPlayStation 3で発売された同名タイトルに,さまざまな改良と新規CGなどを追加した移植作でもあり,すでにプレイしたという人も少なくないだろう。

 本作の舞台となるのは,天変地異や食糧難に加え,国土の水没などにより,そのあり方を今とは大きく変えてしまった100年後の日本。プレイヤーは大統領首席補佐官の海堂清人となり,大統領である大空翔子,そして彼女を取り巻く美少女閣僚達と共に,新日本国に渦巻くさまざまな陰謀に立ち向かうことになる。
 ……女子高生大統領美少女閣僚といったキーワードに戸惑う人が多いかもしれないが,その実,本作は政治と戦争,そして戦時下の若者達の青春を群像として描いた,骨太な人間ドラマが楽しめる作品となっている。

 今回4GamerではPlayStation Vita版の発売に合わせ,ゲームの根幹を築き上げたプロデューサーの結城昌弘氏と,シナリオを担当した遠藤正二朗氏牧野圭祐氏の3名に話を聞いてみた。ミスマッチな取り合わせの物語は,いかにして生み出されたのだろうか。その内包する要素を紐解くと共に,本作の魅力について語っていただこう。

※インタビュー中には,本編についてのネタバレがあります。未プレイの方は,本編を終えた後に読まれる事をオススメします。


※YouTube版は「こちら」

「解放少女 SIN」公式サイト



政治+美少女=「解放少女」


4Gamer:
 まず本作の制作経緯からお聞きしたいと思います。結城さんはニンテンドー3DSの「解放少女」からプロデュースとシナリオを担当されていますが,つまり企画の発端はどこからなんでしょうか。

結城昌弘氏
「解放少女 SIN」プロデューサー。プラネットG所属。フリーライターを経て,シナリオ執筆などでゲーム制作に関わるようになり,「零 月蝕の仮面」「シルバー事件25区」「ロリポップチェーンソー」等の制作に関わる。「解放少女」のプロデューサー/シナリオ担当でもある
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結城昌弘氏(以下,結城氏):
 そもそもの「解放少女」は,派生作品やメディアミックスを前提に,グラスホッパー・マニファクチュアの中で練られてきた企画だったんです。ニンテンドー3DSの「GUILD01」に収録される形で世に出ることになった「解放少女」ですが,もちろんそれだけで終わらせたくなかった。そこに志倉さん(MAGES.代表取締役 志倉千代丸氏)からお話をいただいて,晴れて「解放少女 SIN」の制作がスタートすることになりました。

4Gamer:
 しかし,「GUILD01」収録の「解放少女」はシューティングゲームでした。その続編を作るにあたって,なぜテキストアドベンチャーというジャンルを選ばれたのでしょうか。

結城氏:
 それ,よく言われるんですよね(苦笑)。ただ,今言ったように「解放少女」は元々シューティングゲームありきの企画ではなかったわけです。企画書の段階で,膨大な設定と背景が用意されていて,3DSの「解放少女」で使われたのは,そのごく一部でしかなかった。なので,そういった世界観をもっと前面に出したものが作れないかと考えました。
 だからテキストアドベンチャーを選んだ理由を聞かれたら,それが一番適しているから,という答えになってしまいます。

4Gamer:
 なるほど。そう聞くと,むしろ第1作がシューティングだったのが不思議なのかも知れませんね。

結城氏:
 「GUILD01」の「解放少女」は,ニンテンドー3DSの特性を生かしたゲームを作ろうというのが始まりでした。タッチペンを使った操作から,空爆シューティングというアイデアが生まれ,そこに「解放少女」の世界観を当てはめていきました。それが好評をいただけたことで,こうして続編を作れることになったわけで,大変ありがたいですね。

4Gamer:
 では,本作でようやくその全貌が明らかとなった「解放少女」の世界観ですが,クレジットにはシナリオとして,今日お集まりいただいたお三方の名前が挙がっています。実際のシナリオ作業はどのように進められたのでしょうか。

結城氏:
 テキストアドベンチャーとして制作が決まった段階で,実はベースとなるプロットは既に用意してありました。しかし,プロットから実際のシナリオに起こしていくには,膨大な作業が必要になります。とても僕一人ではまかないきれないということで,以前からお付き合いのあったウィッチクラフトさん&遠藤さんと,それから牧野さんに声をおかけしました。

4Gamer:
 ちなみに,本作の制作がスタートしたのはいつ頃だったのでしょうか。

結城氏:
 企画自体は2012年の頭ぐらいから始めていましたね。おおよそのプロットが固まり,開発に入ったのが2012年夏だったと思います。

遠藤正二朗氏
「解放少女 SIN」シナリオ担当。日本テレネット,自身が社長を務めた開発会社フェイクラフト等を経て,現在はウィッチクラフト常務取締役/統括部長/チーフディレクター。代表作に「セツの火」「Aランクサンダー誕生編」「魔法の少女シルキーリップ」「MARICA〜真実の世界〜」など
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遠藤正二朗氏(以下,遠藤氏):
 2012年9月10日に,最初のキックオフミーティングがあったんだよね。そこで牧野さんを紹介していただいて,結城さんのプロットを見せていただきました。3人でどうしようかと相談し,その後プロットを私の方で1週間ほどあずからせてもらい,内容を検討させていただいたのを覚えています。実際の執筆は,2013年5月ぐらいまでかかったかな。

4Gamer:
 プロットを読んだ時は,どんな印象を持たれましたか。

遠藤氏:
 「アドベンチャーでやるんだ!」って,素直に驚きましたね。ただスピンオフや続編が違うジャンルになることは少なくありませんから,違和感は感じませんでした。むしろ「政治劇を書けるぞ,やった!」って喜んだくらい。民主主義とか議会制とか,戦争が書けるわけじゃないですか。なにより自分が得意なジャンルですし,これはオイシイ仕事だぞ,って(笑)。

結城氏:
 政治ありきの物語というのは,最初から決まっていました。ケレン味を加える意味で,プロモーションでは“美少女閣僚”を前面に押してしますが,本来やりたかったのは,若い世代に政治を担わせること,10代の若者達に未来を切り拓かせることでした。その上で,大空翔子というキャラクターが大統領として配置されています。

4Gamer:
 大空翔子は一貫した主義・思想を持った,最初から最後までブレのないキャラクターとして描かれていたように思います。

遠藤氏:
 この物語の特異性がどこにあるのかと考えたとき,それはやっぱり女子高生が大統領だってところじゃないですか。自分の担当したのは,その特異性をいかに引き立て,肉付けしていくかという部分でした。そのために,まず大統領選挙というイベントを追加しました。

現職大統領の大空翔子の一人勝ちかと思われていた大統領選挙。しかし突然の左近田凪冴の出現により,選挙戦は民族独立派vs.対米追従派の戦いへと様相を変える
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4Gamer:
 最初のプロットに,大統領選挙はなかったんですね。

遠藤氏:
 なかったですね。この大統領選挙をプロットの縦軸に配置することで,いろいろなものが動かしやすくなるんです。そこから生まれてきたのが,対立候補として大空翔子のライバルとなる左近田凪冴(さこんだなぎさ)であり,その父・左近田巌(さこんだいわお),そして米国とのパイプ役を果たすオスカー・ゴールドマン駐日米国大使といったキャラクター達でした。

4Gamer:
 ああ,なるほど。では,その辺りについては,また後ほど詳しくお聞きしたいと思います。一方で,牧野さんはどんな部分を担当されたのですか。

牧野圭祐氏
「解放少女 SIN」シナリオ担当。脚本家。テレビシリーズ「新参者」「赤い指」「シマシマ」や映画「さよならドビュッシー」,第14回ブエノスアイレスRojo Sangre映画祭で脚本賞を受賞した「アブダクティ」,ゲーム「KILLER IS DEAD」(協力)など,幅広いジャンルの脚本を手掛ける
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牧野圭祐氏(以下,牧野氏):
 自分が担当したのは,主にサスペンス部分の肉付けですね。遠藤さんが主に政治の部分を担当されていたので,物語のカギを握る狙撃事件の細部の演出や考証,テロリスト集団「束縛の神々」の設定,あと物語に絡んでくる丙(ひのえ)記者といった,細かい部分を詰めていきました。

結城氏:
 そのほかバッドエンド全般と,エクストラの学園祭シナリオも,主に牧野さんに担当してもらっています。エクストラはもう少し学園ものらしさが欲しかったのと,あまりにも重い展開が続くので,息抜きとして用意したシナリオなんですよ。

牧野氏:
 全体としても暗いトーンの話なので,「この作品は伝説の鬱ゲーになるんじゃないか」って結城さんと話してたんですよね。だから色々考えた末に,バッドエンドはああいったギャグテイストが強めのものになっています。

4Gamer:
 確かにバッドエンドはどれも強烈でしたね(笑)。ちなみに5章が牧野さんの担当とのことですが,本作は章ごとに担当を分ける形で書かれたのですか?

結城氏:
 いや,そういうわけではありません。分担でいうと,まず僕が先導する形でプロットを作り,遠藤さんに主筆として骨組みを担当していただいたうえで,さらに牧野さんが細部を固めるといった感じです。エクストラについても牧野さんがメインではありますが,相談は常にしていましたし,最後には,またこちらで最終調整をさせてもらいました。

遠藤氏:
 おおまかな担当部分はあるものの,その垣根を越えて意見を出せる形でした。プロットを煮詰める段階でも20回くらい打ち合わせをしましたし,最終的には結城さんのところで細かな調整が入るという感じでした。

牧野氏:
 元々,各章ごとにジャンルを変えてみようという話もあったんですよね。1,2章は導入で,3章がサスペンス風,4章が青春もの,5章がミステリ,6章が冒険活劇,そして7章は政治ドラマといった感じで。物語が単調にならないように,序盤に伏線を仕込んでおこうとか,いろいろと工夫しています。

結城氏:
 各章ごとに美少女閣僚一人をヒロインにして,それぞれのキャラクターを掘り下げていくなかで,その背景にあるものによってジャンルが変わるみたいなことを考えていたんですよ。ただ本作の場合,SFミステリという柱が前提としてあるので,結局はそこに統一することにしました。牧野さんにはテレビドラマなどでの経験を活かして,全体的なアドバイスをいただいています。

4Gamer:
 おっしゃるように,牧野さんはご経歴を見ると,テレビドラマや映画を中心に活躍されています。先ほど結城さんから声を掛けられたとおっしゃってましたが,どういう経緯でゲームのシナリオに関わられるようになったのでしょうか。

牧野氏:
 とある映画関係のパーティーで結城さんと知り合って,ゲーム好きをアピールしたのがきっかけですね。シナリオ書いてみたいですねーって(笑)。

4Gamer:
 おお。ちなみにどんなゲームがお好きなんですか。

牧野氏:
 「スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園」とか「リンダキューブ」とか,シミュレーションやアドベンチャー,RPGが好きですね。高校生の頃はゲームのシナリオライターに憧れていたんですが,その時たまたま読んだ就職ガイド本に「プログラムが組めないとダメ」って書かれていて,あきらめたんです(笑)。

結城氏:
 いやいや,シナリオライターは普通,プログラムとかしませんから(笑)。

牧野氏:
 すっかり騙されましたね。まあ,それでそのパーティー後に某ゲームタイトルを手伝ったりするようになり,ゲームのシナリオも手がけるようなりました。今後はもっとゲームをやりたいと思っているので,業界関係者の方はぜひよろしくお願いします(笑)。


美少女閣僚はいかにして生まれたかー――ちるちるは,どうしてあんなことに?


4Gamer:
 では,本編の内容についてお聞きしていきたいのですが,先ほど凪冴や巌といったキャラクターは後から追加されたキャラクターとおっしゃっていましたね。ではそのほかのキャラクター,例えば閣僚メンバーなどは最初から決まっていたんですか?

遠藤氏:
 当初は不破 聖(ふわひじり)弓波千流子(ちるちる)がいませんでしたね。ちるちるは法務大臣というポジションは絶対に欠かせないということで,追加したキャラクターになります。100年後の日本という世界において,なにがリーガルでなにがイリーガルなのかは,どうしても描く必要があると思ったんです。一方,外務大臣の聖は,平和主義者という存在を一人は入れておきたいと考えて配置したキャラクターになります。

結城氏:
 閣僚メンバーについては,プロット段階のものから取捨選択を重ねつつ,設定を詰めていったんですよ。なので結構入れ替わってますね。でも,ちるちるは気が付くと腐女子ってことになっていて,僕もビックリしたんですけど(笑)。

大空翔子大統領以下,左から桜木芳乃(さくらぎよしの)官房長官,環小神子(たまきこみこ)総務大臣,明星かぐや(あけぼしかぐや)防衛大臣,不破 聖(ふわひじり)外務大臣,弓波千流子(ゆみなみちるこ)法務大臣、安之雲ミブリ(あんのうんみぶり)科学技術庁長官。個人的には,ちるちるにはぜひ少子化対策担当大臣をやっていただきたかった
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牧野氏:
 メインストーリーがあまりにハードなので,ちょっとコミカルな要素を入れないとプレイヤーが辛いかなという話が出たんです。ちるちるは,元からちょっと妄想癖で中二病っぽいという設定があったんですが,それを肉付けしていくうちに,あんなことに。

結城氏:
 まあでも,牧野さんを起用した理由は,まさにそこが狙いですから。ゲームのシナリオを映画やドラマ畑の人がどう料理するのかという,化学反応的なものを期待したんです。

牧野氏:
 自分としては,できるだけプレイヤー目線で,一歩引いて考えることを心がけたつもりです。政治に関する部分でも,説明が足りないところには,意見を出したりしました。例えば大統領と首相が同時にいる状況って,現在と違うので分かりづらいかもと思ったんですよ。

遠藤氏:
 ちるちるに関して言えば,初期段階で私が作ったキャラクターの設定書でもゲーム・アニメ好きの腐女子って設定でしたね。だからダイブ中の腐女子ネタも私の世代の微妙に古い固有名詞が並んだりしてます。

牧野氏:
 ミスティクルの精神侵食によるシンドロームっていう設定が,あとから追加されたじゃないですか。シンドロームによる暴走を考えるうちに,妄想全開なキャラクターになってしまったのではないかと。あと,ロストアカデミック関連のキャラ付けも,だいたい僕ですね。

4Gamer: 
 ちるちるは100年後には失われてしまった文化――ロストアカデミックを趣味で研究しているんですよね。しかも,それがことごとく間違ってるという。「死亡フラグ」を勘違いして,なんかいい話風になっていたのが面白かったです(笑)。

牧野氏:
 あ,それは遠藤さんのアイデアですね。自分が考えたのは,カラオケとか学園祭のメイド喫茶とか。最初に「間違ったカラオケが伝わっている」というプロットだけがあって,それを具体化する段になって悩むわけですよ。

4Gamer:
 カラオケは,なんか茶道と俳句が混ざった感じでしたけど,どうしてああなっちゃんたんですか?

和室でお菓子をいただきながら,なぜか歌を詠み合って対決するのが新日本流のカラオケ。ツッコミの入らないボケの恐ろしさがここにある
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牧野氏:
 たまたま見たテレビでカラオケ対決みたいなことをやってて,それを参考にしたような気がします。対戦ルールを考えていくうちに華道とか茶道とかが混ざっていって,ご覧の有様です。しかも,作中では誰も正しいカラオケを知らないわけだから,ツッコミ不在で進んでいく。

結城氏:
 そうそう,全員ボケっぱなしなんですよね(笑)。

遠藤氏:
 ロストアカデミックって,ちゃんと考えると難しいんだよね。あれだけ間違ってものが伝わっている状況って,一体何があったら起こるんだろうって。恐らく相当な破壊を受けないとああはならないはずで,大国の侵略で相当な文化が失われたのでしょう。伝承する老人も,根こそぎいなくなってしまった。じゃあ,逆に正しく伝わっているものって,一体なんなんなのか。食べ物ならおにぎりは出していい。じゃあラーメンは? って,かなり悩まされました。

4Gamer:
 日常食まで奇天烈なものにしたら、収拾がつかなくなりますね。

遠藤氏:
 ゲーム内でラーメンを食べに行くシーンがあるけど,絵としては出て来ないんですよね。どんなラーメンが出て来るのかは,想像にお任せした方が良いだろうってことで。やり過ぎたら誰も感情移入できなくなってしまいますし,その辺りは皆で相談しながら,手探りで調整していきました。

4Gamer:
 そういう試行錯誤の末に,ちるちるを始めとしたキャラクターが生まれていったと。

牧野氏:
 でもちるちるは,結果的に官僚の中では一番「健全」な娘になりましたよね。

遠藤氏:
 そうなんだよね(笑)。それが法務大臣やっているわけだから,大空翔子の指名は間違っていなかった。戦時下って,法律がめちゃくちゃな運用をされるものですから。物語がどんどん深刻になっていっても,ちるちるだけは最後まで笑っている。やっぱり,一人ぐらいは救いがないとね。

4Gamer:
 ちるちるのエピソードは,ギャルゲーとして王道な展開ということもあり,その後のエピソードへの良いカウンターになっていたように思います。

遠藤氏:
 とっととシンドロームを発症して,すぐに治って,それも大したことはないっていう(笑)。安心して見ていられるキャラクターとして,描写については心がけましたね。

米国に軍事技術が漏洩し内偵が開始される中,密かに米国と通信していたちるちるにスパイの嫌疑がかけられる。この後,彼女にミスティクル・ダイブをすることになった海堂清人は,彼女の秘密を知ってしまうことに
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若者と,それを取り巻く大人達


4Gamer:
 ちるちるのほかに,シナリオを執筆するうえで印象深かったキャラクターはいるでしょうか。

遠藤氏:
 自分の中では,安之雲ミブリが書いていて楽しかったキャラクターですね。躁鬱が激しい娘なんだけど,とくに鬱なところを書いているときが,楽しいんですよ。ときどきとんでもなく虚ろな目になって,暗くなる。回路が落ちてしまうというか,そういう時にいろいろ考えているんだろうなって。

4Gamer:
 ちなみに,各キャラクターには特定のモデルがいたりするのでしょうか。政治がメインのお話なので,歴史上の人物であるとか。

遠藤氏:
 無意識に似てしまった,というのはあると思います。でも歴史上の人物や既存作品からの直接的な引用というわけではありません。

結城氏:
 反乱を起こすことになる明星かぐやなんかは,皆さんきっと三島由紀夫がモデル? と思っているかもしれませんが,実はそういうわけでもないんです。キャラクターの配置は,どちらかというと物語上の要請から生まれたというのが近くて。

武闘派の防衛大臣・かぐや。主人公と対立し,やがてシンドロームに導かれるように軍内部の一部勢力を扇動してクーデターを引き起こす。だがその結末は……
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4Gamer:
 というと?

結城氏:
 大空翔子というキャラクターを中心に置くことで,その周辺というのはおのずと決まっていきました。政治構造はどうなっているのかとか,物語を動かすために,どんな政治団体,対抗勢力が必要なのかなど。そういう逆算で作っていった部分が大きくて,その立場に至るまでの人生,思想といった部分を膨らませていったんです。だから具体的なモデルというのは,やっぱりいないですね。

遠藤氏:
 まあ,あとで三人で協議したときに,「こんな閣僚,指名する?」って話題にはなりましたけど。こいつらやらかし過ぎだよって(笑)。

牧野氏:
 内閣がボロボロ過ぎますからね(笑)。

遠藤氏:
 だからシンドロームの設定が必要ということになって,2012年末ぐらいにその設定を加えたんですよ。結果的に,海堂清人のミスティクル・ダイブ能力ともうまく結び付いてくれたので,丁度良かったというのもあります。

4Gamer:
 凪冴や左近田巌といったキャラクターも,そうした物語上の必要性から生まれたというお話でしたね。

結城氏:
 ええ。これは須田さん(グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏)も仰ってたのですが,若者達の成長を描くためには,その前に立ちふさがる大人が必要なんです。なので,与党の大物政治家と大空翔子が議会で火花を散らす構図は,初期プロットからあった。それを肉付けするにあたり,遠藤さんが出してきた案が大統領選挙であり,左近田巌,そして凪冴の親子だった。

最初はイヤミなライバルキャラとして登場する凪冴。しかし物語が進むにつれ,彼女もまた自分なりの正義と愛国心,公正さを持った人物であることが明らかになっていく
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遠藤氏:
 凪冴は本当に偶然の産物でしたね。結果的にですが,作中において一番成長するのが彼女じゃないですか。だから書いていて純粋に楽しかったです。あと左近田巌は「人の後頭部を一番見下ろして来た男」というのが,自分の中でのコンセプトで。いかに他人を屈服させ,土下座にまで持ち込むか,それを主軸に考えてきた人間として,軸がブレがないように心がけました。

4Gamer:
 本作は,巌を始めとして,大人のキャラクターが魅力的な作品でもありますね。父の代から大空家に仕える秘書の雲母才蔵(きらさいぞう)もそうですし,個人的には野党の岩国議員なんかも,人間味のあるキャラクターだと思いました。

遠藤氏:
 岩国議員は結構リアルなキャラクターになりましたね。主義主張はともかく,あれはあれで理想的な政治家だろうと思います。

結城氏:
 大人をどう配置するかというのは,結構考えたんですよ。左近田厳が「壁となる大人」なら,雲母才蔵は「導く大人」というように。明確な役割を持たせてあるんです。

4Gamer:
 キャラクターについて,一つだけ疑問なんですが……第三の大統領選候補者である東睦(あずまむつみ)は,どうして対立候補となる決意をしたんでしょうか。彼もまた「導く大人」の一人ですが,イマイチその行動に理解できない部分があります。

遠藤氏:
 東については,確かに描けなかった部分が多かったかもしれません。彼が大統領選に出ることを決めたのは,内閣の不祥事が続いたことで,それまで一定の信頼を置いていた大空翔子を信頼できなくなってしまったからですね。もちろん岩国は彼に出馬するよう説得を続けていましたし,スラムでの人望を地盤にした勝算もありました。

第三の大統領選候補者として,大空翔子の前に立ちふさがる東睦。平和主義を掲げる太平党の後任を得て出馬した彼は,抑圧されたスラム住人達から絶大な支持を受け,混迷の大統領選挙戦を戦うことになる
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4Gamer:
 つまり,小神子の事件によって,彼の心が決まったと?

遠藤氏:
 ええ。自分が出馬しないとまずいという危機感が彼にはありました。実際に,それ以降の東は口調や態度や振る舞いを微妙に変えました。ただ,最後の最後の局面になって,選挙なんかやっている場合ではないということに気づくんです。かつてのプロフェッショナルな軍人に戻らなくてはならない。自分の腕が絶対に必要になるはずだって。

4Gamer:
 大統領選挙で彼が主張する平和主義を,彼自身は信じていたのでしょうか。……とてもそうは思えなかったのですが。

遠藤氏:
 もちろん,信じてなんていません。自分のポジションを意識して,岩国という後ろ盾が欲しいから,ああいう発言をしていただけで。そりゃあ,あれだけの銃の腕を持ちながら,喫茶店でマスターやっているような人間ですからね。物腰や人当たりはともかく,本性は利己的なんですよ。なにせ,「気にくわない奴は撃ち殺す」が信条なくらいですから。

4Gamer:
 ああ,そのお話をきいて,少しすっきりしました(笑)。

遠藤氏:
 彼もそうですが,敬 志月(きょうしづき)野中里矢(のなかさとや)といったサブキャラクターは,もう少しちゃんと描いてあげたかったとは思っているんです。今回はアドベンチャーゲームであることを重視して,「主人公が出て来ない場面は描かない」という制約を設けていたので,サブキャラクターについてはどうしても薄くなってしまった。

4Gamer:
 えっ。それはまた,どうしてですか?

主人公の一人語りを助ける要素として組み込まれたというシン。物語が終盤へと進むにつれ,重大な鍵を握るキャラクターとなっていくのだが……
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遠藤氏:
 だって,海堂清人をそんなしょっちゅうスラムに行かせるわけにもいかないでしょう(笑)。サブキャラクターもそうですが,主人公が一人のとき,話が持たせにくいという問題もあって。それを解消するために新たに提案させていただいたのが,主人公の自我であるシンというキャラクターです。また,大国側の人間も基本的には描かない……つもりだったんだけど,結局オルガを出してしまいましたね。

4Gamer:
 ああ,オルガも気になったキャラクターの一人です。遠藤さんの過去作にも,オルガという女性が出て来ましたが,なにか関係があるのでしょうか。

遠藤氏:
 いや,単にロシア人名のなかで,気に入ってる名前というだけですね。彼女は当初は予定していなかったキャラクターなのですが,どうしても大国の人間を出したいということで,後から追加したキャラクターです。大国はロシアのイメージもあるので,じゃあオルガでいいかなって(笑)。

4Gamer:
 それだけ!? ……きっと何かあると思っていたのに,がっかりですよ(笑)。

 
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