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印刷2012/06/11 11:52

インタビュー

「TOKYO JUNGLE」は生命の賛歌――クリスピーズ 片岡陽平氏×写真家 中野正貴氏が語る,「TOKYO JUNGLE」「TOKYO NOBODY」の誕生秘話と共通項

 ソニー・コンピュータエンタテインメントが6月7日に発売したPlayStation 3用ソフト「TOKYO JUNGLE」。本作は,人類が消えた近未来の東京を舞台に,動物達が弱肉強食のサバイバルを繰り広げるというハードな世界観が印象的なサバイバルアクションゲームだ。その存在が最初に明らかにされたのは2010年のことだったが(関連記事),斬新な世界観は発表当初から注目され,新情報が公開されるたびに大きな話題となっていた。
 発売が間近となった2012年に入ると,ポメラニアンやヒヨコ,パンダといった,どちらかというと弱そうな動物達の活躍が本格的に注目されはじめたほか,ゲーム内で“サゲメス/タダメス/アゲメス”と“交尾”ができる仕様についてもゲーマーの関心を集め,4Gamerに掲載した関連記事もその人気を裏付けるPVを記録。Amazon ベストセラー商品ランキングでも上位に居続ける人気作品だ。

「TOKYO JUNGLE」公式サイト


TOKYO JUNGLE
TOKYO JUNGLE
 そこで4Gamerは,TOKYO JUNGLEの発売に先がけ,同作を手がけたクリスピーズの片岡陽平氏にインタビューを申し込んだ。ところが,氏から「せっかくなら,TOKYO JUNGLEの制作に多大な影響を及ぼしたお方と対談したい」という申し出が。そのお方とは,都市を独自の視点で捉えた作風が印象的な,写真家の中野正貴氏。中野氏といえば,無人の東京を撮影した写真集「TOKYO NOBODY」などで知られる著名な写真家だが,片岡氏ははたして,どのようなところにインスピレーションを受けたのだろうか。異業種対談ということで,あまりゲームゲームした内容にはなっていないが,クリエイターとしての矜持や,物作りの姿勢,表現することの苦労など,興味深いお話がたくさん聞けたので,興味のある人はぜひ目を通してほしい。

「TOKYO JUNGLE」の生みの親である,クリスピーズの片岡陽平氏(左)と,「TOKYO NOBODY」「東京窓景」など,都市を独自の視点で切り取った作風で知られる写真家の中野正貴氏(右)


「TOKYO NOBODY」との出会いが

「TOKYO JUNGLE」に命を吹き込んだ


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。6月7日,ついに「TOKYO JUNGLE」が発売されますが(編注:収録は5月22日に実施),同作の誕生には,ある写真集の存在が大きく関わっているとお聞きしました。

片岡陽平氏(以下,片岡氏):
 はい。「TOKYO NOBODY」という写真集との出会いがなかったら,「TOKYO JUNGLE」はこのような形のゲームにはなっていなかったと思います。それで今回,「TOKYO NOBODY」を手がけた写真家の中野正貴さんと,ぜひ一度お話しさせていただきたいと考え,このような場をセッティングさせていただきました。本日はよろしくお願いします。

中野正貴氏(以下,中野氏):
 よろしくお願いします。ところで今日は,写真も撮るの? いつもは撮る側だから緊張するな。

4Gamer:
 恐らく,一番緊張しているのは弊社のカメラマンだと思います。

中野氏:
 大丈夫だよ,俺はそんなに文句は言わないから(笑)。

4Gamer:
 「たまには」文句を言われるんですね……お手柔らかにお願いします(笑)。ではまず,片岡さんと,「TOKYO NOBODY」の出会いについて,詳しい話を聞かせていただけますか。

片岡氏:
 最初に「TOKYO JUNGLE」のアイディアを思いついたときから,基本的なコンセプトは変わっていないんですよ。廃墟と化した東京を舞台に,動物達が敵と戦ったり,敵から逃げたりしながら子孫を残していき,何年生き残れるかっていう部分がメインだったんです。

中野氏:
 動物になって生きるの? 俺はあまりゲームをやらないんだけど,興味深いね。

片岡氏:
 ありがとうございます。とある理由で人類は存在しないんですけど,東京の町並みは辛うじて残っていて,そこで,動物園から逃げ出してきたライオンや虎,ペット犬や草食動物なんかが弱肉強食のサバイバルを繰り広げる……というゲームなんです。
 でも最初は,明確な世界観が固まっていなくて,ゲームの舞台を分かりやすい“廃墟”にしていたんです。数年前に,何度目かの廃墟ブームみたいなものが起きていたこともあって。

中野氏:
 「TOKYO NOBODY」は2000年に出したんだけど,世紀末ブームの延長なのか,俺の写真集も廃墟ブームにのっかるような形で話題にされることがあったね。

片岡氏:
 でも,単純な“廃墟”を舞台にしてみたら,何か違うんですよね……印象が暗すぎるし,不気味だし,とにかくピンとこなかった。

4Gamer:
 確かに現在の「TOKYO JUNGLE」は,生きるために必要な営みがデフォルメされつつもしっかり描かれていて,不思議と明るい印象を受けます。

片岡氏:
 そう。自分が動物になって,生きるために食べて,世代をつなぐために交尾をするって,めちゃくちゃ明るいというか,“生”のイメージなんですよ。野生を取り戻して生命を謳歌する,命が躍動するに相応しい舞台をと考えたときに,単なる“廃墟”ではダメだと気付いちゃって。

4Gamer:
 そんなときに出会ったのが,「TOKYO NOBODY」だったわけですね。

片岡氏:
 はい。「TOKYO NOBODY」は,無人の東京の町並みを撮影した写真集なんですけど,これを見た瞬間に「なんて優しい世界観なんだ。これだ!」って思ったんですよね。人っ子一人いない風景を写しているにも関わらず,真っ青な空や,暖色系の自然光のグラデーションがとても美しくて。影はちょっと青みがかっている写真もあって,そこに都市の冷徹さも感じるんですけど,生き物が生きていくのに相応しい舞台に見えたんです。

4Gamer:
 「TOKYO NOBODY」は私もリアルタイムで購入しているんですけど,中野さんの撮影された「無人の風景」からは,温かみだったり,本来ならフレーム内外にいるはずの「人の存在」だったりが,明らかに感じられるんですよね。もちろん,撮影された中野さん本人の存在感や想いみたいなものも。

中野氏:
 当時もよく言っていたんだけど,無人の街を撮っているからって,人間が嫌いなわけじゃないんだよね(笑)。普段の仕事では人間ばかり撮っているし,すごく人間に興味があるので,「TOKYO NOBODY」の写真を撮っていたときも,無人になる瞬間を待ちながら,道路やビルや橋を作った人のことばかりを考えているわけ。それを作った人や,利用している人の匂いとか想いみたいなものが全部染みついているから,無人の風景でも冷たい空間には見えないんだ。

片岡氏:
 やっぱりそうですよねぇ。当然いるはずの人が写っていないからこそ,人を意識せざるを得ないというか。

中野氏:
 とくに東京っていう街は,都市計画なんかあってないようなもので,言い方は悪いけど協調性がないじゃない。そういう作り手達のせめぎ合いみたいなものが見えてくるから,すごく人間臭い,無機質じゃない街なんだよね。

片岡氏:
 文明の発展って,ある意味欲望に欲望を重ねていった結果ですし,むき出しのエネルギーみたいなものを感じます。おっしゃるように建物同士の協調性みたいなものがあまりなくて,これ大地震がきたらどうなっちゃうんだろう……という危うさも感じますし。

中野氏:
 俺は川の写真集(「TOKYO FLOAT」)も出しているけど,撮影しているときにも思ったねぇ。例えば,首都高を作りたいけど土地がないじゃん,ってことになったら,川を埋めてその上に作っちゃえって……今,首都高絡みの仕事しているからあんまり悪口言えないんだけどさ(笑)。
 まぁ,その時々の一番都合のいいやり方で発展してきた街だよね,東京は。川なんかはその犠牲者みたいなもので,一時期は臭くてしょうがない次期もあったけど,今ではウォーターフロントなんて言って,綺麗な住みたいエリアになってる。そういう歴史も面白いんだよな。

「TOKYO NOBODY」の巻末のほうにある雪景色にもインスピレーションを受けたと語る片岡氏。「TOKYO JUNGLE」でも雪景色を再現しようと考えたが,システム的な兼ね合いで,それは実現できなかったそうだ


写真ならではの表現とゲームならではの表現


片岡氏:
 「TOKYO NOBODY」にインスピレーションを受けたことで,「TOKYO JUNGLE」の企画書も俄然魅力的になりました。申し訳ないのですが,「TOKYO NOBODY」の写真に文字と動物の写真を置かせてもらって,SCEの当時のプロデューサーに見せたんです。コンセプトを伝えた瞬間,「すげぇ良い!」と言ってもらえました。

4Gamer:
 (初期段階の企画書を見ながら)確かに,中野さんの写真に動物達を配置すると,妙にしっくりときますね。

片岡氏:
 ええ。本屋で「TOKYO NOBODY」を見た瞬間,動物の姿がオーバーラップしましたもん。あわてて「TOKYO NOBODY」を買って,会社に帰って付箋を貼りまくりましたよ。そこで得たインスピレーションをデザイナーと詰めて,翌日には初期のイメージビジュアルが固まっていました。

中野氏:
 (企画書を見ながら)おお〜,いいねこれ。

片岡氏:
 ありがとうございます。でもこれ,今でも一番気に入っているんですけど,元が中野さんの写真なので,これまでどこにも出していないし,使えなかったんです。「TOKYO JUNGLE」のパッケージデザインも,当時作った企画書のイメージを再現したものだったりするんですよね。

4Gamer:
 うーん,中野さんの写真と動物……本当にハマりますね。

片岡氏:
 中野さんの写真って,人は写っていないけど,ストーリーが感じられますよね。眺めているだけで次々とイメージが湧いてくる。

中野氏:
 「TOKYO NOBODY」ね,みんな何かを置きたくなるみたいなのよ。当時本を出したとき,広告の依頼がバンバンきたんだよね。分かりやすいところでいくと,車を置きたいとかさ。

4Gamer:
 なるほど,「TOKYO NOBODY」の写真に車を置いて,印象的な広告に仕上げたいと。でも……。

中野氏:
 たぶん同じことを考えているだろうけど,ここに車を置いちゃうと,写真がバックグラウンドになっちゃう。そうなると,写真からのメッセージがなくなって,意外とつまらなくなっちゃうんだよね。それでいつも断っていたんだけど,「TOKYO JUNGLE」みたいに,生き物と組み合わせたほうがやっぱり生きてくるね。

片岡氏:
 ありがとうございます……。ご本人を前にして言うのもなんですけど,「TOKYO JUNGLE」は,「TOKYO NOBODY」への最大限のリスペクトを込めて作りました。

4Gamer:
 いやぁ,本当に大きな影響を受けているんですね。

中野氏:
 ここまで喜んでもらえると,こっちとしても本当に嬉しいね。

片岡氏:
 開発の最終段階に至るまで,「TOKYO NOBODY」はゲーム作りのテキストでありつづけました。デザイナー全員に「TOKYO NOBODY」を見せて,「この空の青さとか雰囲気を,再現するつもりでやってくれ」って伝えたりして。

中野氏:
 しかし最近のゲームはすごいね。お客さんは自分のモニターで見るわけだから,作り手の見せたい絵を完全に見せるのは難しいだろうけど,建物とか全部一から作ってるわけでしょ?

片岡氏:
 はい,渋谷も原宿も代々木公園も,忠実に再現していて,Google Earthみたいにつながっている感じです。

中野氏:
 ビルの上にも登れちゃうの?

片岡氏:
 ビルの上にも上れます。「TOKYO JUNGLE」は,動物達を走らせたりジャンプさせたりするゲームなんですが,前後左右にしか動けないと,どうしても遊びとして単調になってしまう。なので立体的な移動を可能にするために,建物を完全に再現するわけではなく,“足場”を作るために一部崩したりしているんです。

4Gamer:
 ビルの上に登らせるために,車を配置したり,看板を倒したりして,行動可能な範囲を設定しているわけですね。

片岡氏:
 はい。崩すといっても,あまりやりすぎてしまうと,それこそ廃墟的な印象が強くなってしまうので,最低限には抑えていますけど。

中野氏:
 しかし大変な仕事だね,ゲーム作りも。街を一から作ってるんだから。

片岡氏:
 最初は,ゲームの舞台にする予定の街をデジカメで写しまくって,その写真を元にして一枚の巨大な画像にしたんです。建物をあまりにも忠実に再現してしまうと著作権に引っかかったりするので,看板を消したり,建物の形状を変形させたりして。

中野氏:
 あんまり格好良くしすぎちゃうと,逆に東京っぽくなくなるしね。

片岡氏:
 そうなんですよ。ゲームとして必要な要素を,いかに自然に組み込むかというところが,一番大変だったかもしれません。

TOKYO JUNGLE


奇跡を切り抜いた1枚の写真から

さまざまなストーリーが紡がれる


中野氏:
 ゲームといえば,「TOKYO NOBODY」を出したあと,ゲームを作らないかって話もあったよ。話自体は2,3件あったんじゃないかな。

4Gamer:
 それは興味深いですね。詳しく教えていただけますか。

中野氏:
 いろんな事情があって,結局実現はしなかったんだけど,元となるアイディアは「TOKYO JUNGLE」と近いよね。架空の東京を舞台にして,例えばここの路地を入っていくと,別世界につながっているとか,そういうやつ。

片岡氏:
 なるほど,アドベンチャーゲーム的な企画だ。

中野氏:
 当時,香港の写真集も出していたからその影響もあるんだろうけど,ドアを開けたらいきなり香港,みたいなシーンとか。さまざまな文化が入り乱れて,日常の中に異世界がいくらでも存在している東京って,ゲームの舞台にも相応しいかもしれないね。きっと俺の写真集を見た人は,俺の写した東京を,イメージの中で探索してたんじゃないかな。

片岡氏:
 僕もまさにそんな感じでした。

中野氏:
 もちろん,俺もそういう狙いも込めて作っていたんだけどね(笑)。写真一枚を10分間,じーっと見ていると,いろんなところが気になりはじめて,頭の中で旅ができる。それって,単純な動画なんかよりもずっとリアルだし,インタラクティブだよね。
 で,さっきも話したけど,人がいないからこそ,人のことを考えてしまう。人は,生き物はどこに行ったんだ。そこでSF的なイメージを持つ人もいるし,ホラー的なイメージを抱く人もいる。

4Gamer:
 作家の三崎亜記さんも,「失われた町」という小説の創作のきっかけとして,「TOKYO NOBODY」との出会いを挙げているそうですね。

中野氏:
 うん。「大停電の夜に」っていう映画も作られて,それとコラボした「TOKYO BLACKOUT」っていう写真集を出したこともあるよ。一枚の写真でも,そこにみんな違うものを見ているんだね。それが写真集の面白いところだし,写真家冥利に尽きる部分でもある。
 そういえば,「TOKYO JUNGLE」を見ていてふと思い出したんだけど,俺「TOKYO NOBODY」の地下版というか,地上と地下の写真を合体させて縦の空間を表現するような写真集をやりたかったことがあったよ。やるならCG処理が必要だから,俺の流儀からはちょっと外れちゃうんだけどね。

片岡氏:
 そのアイディア面白いですねぇ。実は,「TOKYO JUNGLE」にも地下部分があるんですよ。

中野氏:
 (片岡氏のデモンストレーションを見ながら)あ,こういうこと。こういうこと。

片岡氏:
 分かります! 断面はロマンですよ。

4Gamer:
 「TOKYO JUNGLE」でも地下世界が描かれているんですね……。

中野氏:
 いやぁ,考えていることは一緒だね。俺の考えていた絵そのまま(笑)。俺の場合は,ページ構成なんかで意表を突くわけだけど,こういう展開はゲームでもびっくりするだろうね。

片岡氏:
 でも,どんなにリアルに作り込んでも,ゲームにした時点でフィクションになっちゃうじゃないですか。加えて,ユーザーを感動させるためには,ストーリーや映像,ゲームシステムなど,複雑なプロセスを受け入れてもらう必要があります。
 一方写真って,現実じゃないですか。「TOKYO NOBODY」だって,CG処理したとしか思えないくらい見事ですけど,中野さんが11年もの月日をかけて撮影したものですし。でも,その現実の切り抜き方で,見る人に一瞬で驚きを与えたり,創作のヒントを与えたりする。僕だって,「TOKYO NOBODY」と出会った瞬間に,大きな影響を受けました。

中野氏:
 そこまで言ってもらえると嬉しいねぇ。

片岡氏:
 そういった影響力を持っている作品に対しては,ただただリスペクトするばかりです。写真のように,ユーザーを一瞬で虜にするのは難しいかもしれませんが,「TOKYO JUNGLE」も,誰かにとっての触媒になったら幸いです。

中野氏:
 でも,俺の写真はちょっと特殊かもしれないね。現実をそのまま撮っているからノンフィクションなんだけど,あなたがおっしゃったように,一見するとCG処理したようにも見える。俺は,現実と非現実の狭間みたいなものを表現したいんだよね。本当なのか嘘なのか分からない,ちょっと浮遊感がある風景が,俺にとっての東京なのかもしれないな。

「TOKYO JUNGLE」のコンセプトで悩んでいた片岡氏が,大きな影響を受けたという「TOKYO NOBODY」。読み込みすぎてページがばらけ,今でも多くのページに付箋が貼られいる


作品作りに込めたエネルギーは

劣化することなくユーザーに伝わる


4Gamer:
 そういえば,「TOKYO NOBODY」を初めて見たときは,私も「これはCG処理でもしているのかな」と思っていました。人がいてあたりまえのロケーションに,人っ子一人写っていない写真というのを初めて目にしたので,加工した写真でないと知ったときには衝撃を受けました。

中野氏:
 できればラクなんだけど,当時はPhotoshopでチョッチョイ……とかできなかったんだよね。当時もよく「いじったんでしょ?」って言われたもんだけど,正月に,8×10っていうでかいカメラを道のど真ん中に置いて,車が来たらどいて,車が行ったらまたカメラをセットして……大変だったんだから(笑)。

4Gamer:
 写真集としてまとまるまでに11年の月日を要したわけですもんね……そういった中野さんの存在を認識した状態で「TOKYO NOBODY」を見ると,ますます写真からすごみが感じられます。

中野氏:
 テレビ局が撮影風景を取材しにきたこともあったよ。「本当に撮ってるのか?」ってスタンスで,密着取材。そのディレクターも言ってたんだけど,「誰かがキュー出しをしているかのように,撮ろうとすると何かが現れる」んだから,そりゃ11年かかるよ(笑)。

4Gamer:
 シャッターチャンスがきたと思ったら,「はい,出番です!」みたいな感じで,人が現れてしまうんですね(笑)。

中野氏:
 おばちゃんとか犬とか車とか,あらゆるものがタイミングよく現れるんだ。誰かが上で操作しているんじゃないかってくらい。その間ずっと待ち続けて,完全に無人になった一瞬の風景を撮るっていうのを見せたとき,ディレクターは本当に驚いていたね。

片岡氏:
 聞けば聞くほどすさまじいですね……修行じゃないですかもはや。

インスピレーションを与えた者と,受けた者。年が離れており職業も違うが,物作りに関するセンスは近いらしく,想像以上に話が盛り上がり,収録時間を大きくオーバーしてしまった

中野氏:
 耐えるしかないから,俺もずいぶん辛抱強くなったよ(笑)。で,待っている間はいろんなこと考えるわけ。ある時代には,ここは野原だったんだろうなぁとか,この川には死体がゴロゴロ流れていたんだなぁとか。そうすると,実際に見えてはいないんだけど,いろんなものを感じちゃうんだ。そうやって写真を撮っていると,いろんな想いがそこにひっついてしまうから,絵や言葉ではない情報量……雰囲気とか気配とかが付与されるのかもしれないね。

片岡氏:
 そういうのを今の時代にやっていたら,全然違っていたかもしれませんね。ちょっと修正したら,もう全部修正しちゃえってなるでしょうし。

中野氏:
 だね。待つ必要もないし,何なら風景を作ってしまえばいい。でもそれをやってたら,あなたにインスピレーションを与える作品にはならなかったと思うよ。人に与える影響力って,目に見えるものだけが生み出すわけじゃないんだなって思うね。

片岡氏:
 やはり狂気にも似た作り手の想いは,受け手にちゃんと伝わりますよね。

中野氏:
 こっちが使ったエネルギーが,それなりに伝われば幸せだよね。「TOKYO JUNGLE」だって,そこまでやらなくてもいいでしょう,みたいなところまでこだわった末に完成してるんでしょう? 会社の都合でパパッと作っていたら,話題になんてならないだろうし。

片岡氏:
 そういえば……と思うところがありました。たとえば原宿駅のマップなんですけど,ゲーム中はアングルが固定されていて,細部がどうなっているかなんて分からないんですよ。でも,デバッグ用のモードでアングルを寄せると,竹下通りのアーチとか,車窓から見える看板とか,時刻表とか,オブジェクトとしてちゃんと作っていることが分かるんです。

4Gamer:
 一般のプレイヤーがまず目にしないような部分まで,グラフィックスを作り込んでいると……狂気ですね。

片岡氏:
 このゲームを作っているときに気を付けたことは,コンセプトの良さを尖らせるものであればどんどん採用することでした。逆に,コンセプトから少しでもずれている要素であれば,どんなに面白くてもバッサリとカットする。

中野氏:
 そういう強い想いは,きっと作品に染みこんでるよ。俺の写真にインスピレーションを受けるくらいだから,やっぱりどこか似てるところがあるなぁ。ところで墓地なんかは出てこないの?

片岡氏:
 出したかったんですけど,神社仏閣などは,事情があってゲームに入れられなかったんです。……今お墓を撮影しているんですか?

中野氏:
 いや,たぶんもうやってる人がいるでしょう。俺,企画のことを喋りすぎてほかの人に先にやられちゃったりするから,その辺はちょっと気を付けているんだ(笑)。神社仏閣も面白いよね。
 あ,今ので思い出したけど,俺「TOKYO MARKING」っていう写真集を考えたことがある。

4Gamer:
 マーキング……というと犬なんかがやる,アレですか?

中野氏:
 いや,女の子が街中で,夜中にマーキングしているみたいな。

片岡氏:
 狂気……ッ

中野氏:
 でもね,それほかの誰かがやってた(笑)。これは俺の写真集にも言えることだけど,企画自体は別にすごいこと,特別なことじゃないのよ。ちょっとおかしなヤツだったら考えつくようなアイディアなんだけど,でも実際にやっているヤツがいなかっただけなんだよね。逆に,全世界で俺しか思いついていないようなアイディアだったら,「あっそう」で終わっちゃう。

片岡氏:
 分かります。僕も独創的な作品には興味があるんですけど,深く刺さった人しか楽しめないって,寂しいじゃないですか。エンターテイメントである以上,売れなきゃ失敗ですからね。僕も,実はハードな世界観を持っているTOKYO JUNGLEを,少しでもキャッチーにすべく,ポメラニアンを前面に押し出したり,“交尾”や“サゲメス/タダメス/アゲメス”など,ユーモラスな要素をアピールしたりしました。

中野氏:
 それは,方向性としてすごく正しいと思うよ。

4Gamer:
 発表以来,斬新な世界観とキャッチーなキーワードで話題を集め,“ネタゲー”と受け止めらることも少なくない「TOKYO JUNGLE」ですが,その裏側で,片岡さんがどれほどの狂……強い想いを込めて仕事に取り組んでいたのかを,この対談を通じてお伝えできれば,4Gamerとしても嬉しいです。
 それでは,そろそろお時間となってしまいましたので,最後に一言ずつお願いします。

片岡氏:
 はい。「TOKYO JUNGLE」は決して陰惨なゲームでもなく,一発ネタでもなく,真剣に作った真面目なエンターテイメントです。今回無事ゲームの発売を迎えることができ,こうやって中野さんとお話できたのも,僕を信じてくれたスタッフのみんなや,これまで応援してきてくれたファンのおかげです。
 「TOKYO JUNGLE」が,どれほどの人に深く刺さるかは分かりませんが,いつか本作に影響を受けて,物作りの道に足を踏み入れる人が出てくれたら,クリエイター冥利につきます。ぜひ楽しんでください。

中野氏:
 俺はゲームはあまりやらないんだけど,写真では絶対に表現できない絵を作れて,その中に入って街を歩けるんだから,すごいよねぇ。「TOKYO NOBODY」からインスピレーションを受けてくれたというのも本当に光栄で,若いクリエイターが刺激を受けてくれたっていう事実に,俺も刺激を受けました。このゲームの発売時期には海外に行っているかもしれないけど,応援していますよ。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。

作品が作られた背景を知ると,その作品に対する理解は確実に深まる。本稿を読んで「TOKYO NOBODY」「TOKYO JUNGLE」に興味を持った人は,ぜひ一度作品に触れてみてほしい
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