連載
リア充お断り! 「放課後ライトノベル」第21回は,隣人部の残念な美少女達と一緒に『僕は友達が少ない5』で友達づくりにチャレンジ
「フヒュッ,の……ノノノ氏」
「なに,尚也くん?」
「最近,急に寒くなったでござるね」
「そうね」
「風邪を引かないように気をつけてくだされ……コポォ!」
「ありがとう。でも大丈夫。ほら,こうすれば……(手を握る)」
「オゥフwwwww」
「ね? あったかいでしょう?」
「……フガフガ,そうでござるな」
「うふふ……」
「ドゥフフフ……」
……………
………
…
フホッ! 夢か……。
いやーまさか,前回の脳内寧々さんに続いて今回は脳内ノノノさん(※筆者の脳内にいる想像上のノノノさん。まだゲームも発売されてないし,おそらく実際のノノノさんとは“大幅に”異なります。もちろん前回の使い回しなどでは断じてありません)の夢まで見ることになろうとは。
これはきっとあれだ,放射冷却で冷やされた広大なシベリア大地の上空で発達したシベリア寒気団こと冬将軍が秋ちゃんと一緒にあったかいポトフを,えーとその,と……とにかく急に寒くなって人恋しくなってきたからに違いない! 拙者,友達少ないでござるし……。
だがこんなことではいけない。友達が少ないからゲームのキャラクターで孤独を癒そうなんて,これじゃあ拙者のことを友人との会話の練習のために始めたギャルゲーにどハマりし,今では18歳未満お断りなゲームにまで手を出すようになってしまった残念な人であると勘違いされてしまうじゃないか。大体そのとおりだけど,あくまでこれは拙者じゃなくて,今回紹介する作品に登場する残念な美少女・柏崎星奈(かしわざきせな)のことなんだからね!
と,かつてないほど残念かつ説明的な前フリでスタートした今回の「放課後ライトノベル」では,『ジャンプSQ.19』でのコミック連載も始まるなどして今まさにノリにノっている『僕は友達が少ない』(通称『はがない』)を紹介する。合言葉は「リア充,爆発しろ!」だ。チクショウ……チクショウ……。
『僕は友達が少ない5』 著者:平坂読 イラストレーター:ブリキ 出版社/レーベル:メディアファクトリー/MF文庫J 価格:609円(税込) ISBN:978-4-8401-3589-4 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●友達のいない,残念な連中が集う部活,それが「隣人部」!
聖クロニカ学園に通う高校2年生・羽瀬川小鷹(はせがわこだか)は,ヤンキーに見えるその外見からクラスメイトに敬遠され,この学園に転校してきて以来,一人も友達ができなかった。彼はある日,いつも不機嫌そうにしているクラスメイト・三日月夜空(みかづきよぞら)が誰もいない教室でエア友達(架空の友達,名前はトモちゃん)と話しているのを目撃してしまったことから,彼女と共に友達を作るための部活「隣人部」を作ることになる。
一人,また一人とメンバーが増えていく隣人部だったが,集まったのはいずれも小鷹や夜空に負けず劣らず残念な連中ばかり。冒頭でも紹介した,女王様気質でギャルゲーにどハマり中の美少女・柏崎星奈(通称・肉)。小鷹を「あにき」と仰ぎ,部活中はメイド服を着ている美少年・楠幸村(くすのきゆきむら)。邪気眼気質の小鷹の妹・羽瀬川小鳩(はせがわこばと)。頭脳は天才,心は変態な腐女子・志熊理科(しぐまりか)。そして,隣人部の顧問にして幼女シスター・高山(たかやま)マリア。皆それぞれの理由で周囲から浮いており,当然のように友達がいない。そんな彼らが「リア充」目指して活動する日々を描くのが『はがない』という作品である。
一応,彼らは彼らなりに「リア充になるにはどうすればいいか」を真面目に考えながら日々を過ごしているのだが,元がリア充とはほど遠い連中だけにやることなすこと空回ってばかり。表向きはリア充っぽいことをやっていても,最後には必ずと言っていいほど残念な結末が待っている。毎巻,短編連作の形式になっており,(「リア充になる」というのを除いて)シリーズを通しての明確な目的みたいなものもとくに示されていないため,隣人部の面々を生温かい目で(そして時に胸を痛めながら)眺めるのが,本作の楽しみ方と言えるだろう。
●変わらない日常……のはずが,驚天動地の事実が発覚!?
これまでさまざまなリア充的イベントに挑戦し,そのたびにリア充へのハードルの高さを痛感してきた隣人部の面々だが,最新5巻では,部員みんなで遊園地に行くといういかにもなイベントを実施。部の仲間たちと楽しいひとときを過ごすことで,部内の友情も深まる――かと思いきや,絶叫マシンではひどい目に遭うわ,夜空と星奈は事あるごとに張り合うわといつもどおりの残念具合。もはや部室以外に彼らの安息の地はないのでは……と思うといろいろな意味で涙を禁じ得ない。
そんな感じで相変わらずと言えば相変わらずの5巻だが,そうした中でも注目なのは
ほんのりと小鷹への好意を示しつつも,直接的な行動には至らない夜空や星奈に先んじて何かとアプローチする理科。「フラグはあるよ,ここにあるよ」と言わんばかりのアプローチに彼女の思わぬ可愛さを実感しつつ,それらのフラグをことごとく叩き折っていく小鷹に「駄目だこいつ……早くなんとかしないと……」と思うこと請け合い。
だがこの巻のハイライトはなんと言っても幸村だろう。詳細はぜひ各人で確かめてほしいところだが,ここまで読んできた読者なら,「ここに来てそれか!」と絶叫すること間違いなしの衝撃的な展開が待ち受けている。
3巻,4巻と,最後にかなり強烈な引きを用意しておきながら,次の巻の冒頭でさらりと流し,何事もなかったように引き続き隣人部の日常を描いてきた『はがない』。今巻の幸村の件といい,「そうそう思いどおりにはしてやらんぜ」とでも言いたげな展開の連続だが,ここまでくるともはやいっそ清々しい。5巻の最後にもちょっと衝撃的な展開が待ち受けているのだが,これもやっぱりスルーされるんだろうなあ,と思うとかえって妙に安心する隣人部クオリティなのだった。
●残念か? リア充か? 隣人部の明日は果たしてどっちだ
残念な人たちによる,残念な人たちの日常を描いた『僕は友達が少ない』。5巻に至っても一向に友達が増える気配がない隣人部だが,読者の中にはこんなふうに思う人も多いだろう。こいつら,もう十分友達多いじゃねえか――と。
確かに夜空や星奈あたりは,残念な隣人部の連中を友達とは認めたがらないかもしれない。けれど「友達がいない」という悩みを共有し,肩肘張ることなく過ごせる隣人部の面々は,互いにとって十分友達と言えるのではないだろうか。顔を合わせればいつもいがみ合っている夜空と星奈にしても,見方を変えればケンカするほど仲がいい,ということでもある。なんだかんだでイベントにはちゃんと全員参加するし(ほかにやることがないからかもしれないが)。お前らもう,十分リア充だよ……と言ってやりたくなる。
とくに小鷹,おぬしは自分がどれだけ恵まれた環境にいるか分かっておるのか。周りが女の子だらけの環境に男一人(幸村は……まあ,うん),しかもそのおなごたちがことごとく可愛いうえに,金髪巨乳からブラコンな妹までよりどりみどり。さらに誰もが少なからず小鷹を慕っているときているではござらんか。これをリア充と言わずしてなんと言うのか。このうえさらに友達が欲しいなどと,贅沢にもほどがある。神が許しても,拙者が決して許さんでござるよ! フォォォ!
と,思わずいらぬ怒りを燃やしてしまうほど,残念と言いつつ結構充実している隣人部の日常。この機会に,こっそり覗いてみてはいかが?
■友達が少なくても分かる,平坂読作品
著者・平坂読は2004年,『ホーンテッド!』で第0回MF文庫Jライトノベル新人賞・優秀賞を受賞し,デビュー(第0回なのは新人賞の正式な設立前,通年で作品を募集していたころの応募だったため)。その後『ソラにウサギがのぼるころ』『ねくろま。』『ラノベ部』『僕は友達が少ない』と次々にシリーズを刊行。上記の作品はすべてMF文庫Jからの刊行だが,今後はGA文庫からの作品刊行が予定されているほか,2011年創刊予定の講談社ラノベ文庫の新人賞において選考委員を務めることが発表されている。
『ラノベ部』(著者:平坂読,イラスト:よう太/MF文庫J)
→Amazon.co.jpで購入する
基本的にはラブコメを得意としているが,『ねくろま。』まではそこにファンタジー要素を織り交ぜ,しばしばエログロ要素が見られるという,独特の作風で注目されていた。近作の『ラノベ部』『僕は友達が少ない』ではそうした要素は廃され,日常系ラブコメと呼べる作品に仕上がっている。『ラノベ部』はまさに著者自身が書いている「ライトノベル」が好きな少年少女の日常を描いた作品。主要登場人物が同じ部活に所属している,短編連作形式になっている,といったあたりに『はがない』との共通点が見られる。
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