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e-Sportsとしての「World of Tanks」が語られた「Wargaming.net League Grand Finals」直前のプレスカンファレンスをレポート
e-Sportsが成り立つための条件
e-Sportsがそれほど盛り上がっていない日本だとあまり実感が湧かないかもしれないが,世界では今回のGrand Finalsのような大規模な大会があちこちで開かれている。また,直接現地に足を運べなくても,ライブ映像配信で大会の模様をチェックするというファンは多い。ディベロッパとパブリッシャ双方にとって,e-Sportsは優れた広告宣伝プランのひとつと言えるだろう。だからといって「新作を宣伝したいから,新作を普及させたいからe-Sportsとして大会を開く」というのではうまくいかないというわけだ。
事実,Wargaming.netは2013年11月に欧米で正式サービスを開始した「World of Warplanes」(以下,WoWP)をWargaming.net League(今回の大会はWargaming.net Leagueの世界大会決勝戦)の種目として扱っていない。これについてKislyi氏は「WoWPも将来的にはe-Sportsの列に加えるが,現状ではまずゲームとして成長させるべき段階にある」と語っている。
またWargaming.net LeagueにおけるWoTのルールも,e-Sportsに最適化させたものとなっている。WoTは基本的には15人対15人で戦うゲームだが,「まず,15人もプレイヤーを集め,ひとつのチームとして維持・成長させるというのは難しい」と氏は語る。一方でチーム形成を簡単にするためにチーム人数を減らしすぎると,今度は「プレイヤー個人の技量が前に出過ぎてしまい,『チームプレイ』というWoTの面白さが損なわれてしまう」という。
かくして現状では7人対7人のフォーマットとなっているが,人数以外にもさまざまなな特別ルールが存在する。このように,e-Sportsとしてゲームを盛り上げるためには,ルールの整備もまた欠かせないというわけだ。
Kislyi氏によれば,Wargaming.netが考えるe-Sportsの意義とは「プレイヤーが自分達の腕前を披露でき,あるいはステージの上で栄光を掴むことができ,同時に,強い相手と戦いたいという欲求を叶えることができる場」だという。Wargaming.netはあくまでその「場」を提供する立場,というのが氏の見解だ。
なかでも「強い相手と戦いたい」というプレイヤーの闘争心には重きを置いているようで,今回の大会の会場がワルシャワに決まった背景には,「実際に世界各地のWoTチームと会って話をするなかで,ポーランドチームの競争意識や闘争心の高さに感銘を受けた」という部分があるとKyslyi氏は明かした。
興味深いことに,今回の決勝戦に参加するチームには,無論フルタイムの「プロゲーマー」もいるが,普通の(世界大会出場者を「普通」というには語弊があるかもしれないが)ゲーマーも少なくない。賞金総額が億円単位となるe-Sports大会の決勝戦ともなれば,世界選りすぐりのプロゲーマーたちが集まってくるイメージがあるが,この大会はある意味で「普段のゲーム」の延長線上にある。Kyslyi氏はこれを「若い人や新しいプレイヤーが,より高いレベルの勝負を,そして世界を目指すきっかけとしたい」と語った。
パートナーシップ・プログラム始動
また近年e-Sportsの選手がアスリートとして認められ始めていることにも言及。e-Sportsに対する社会的な認知は拡大しており,こういった大会を通じて興味を喚起していくというのが,氏のプランだ。
Wargaming.netは近年のe-Sportsブームにあわせてこの事業に乗り出した,というわけではない。同社がWoTの大会を始めたのは2011年。この段階ではまだまだ小さな,地域ベースでの大会だったが,それでも参加選手には非常に好評だったという。そして選手たちから出てきた最も顕著な意見が「もっとたくさん試合がしたい,もっと強い相手と戦いたい」という声だったという。
これを受け,2012年には第1回インターナショナル・トーナメントを開催。賞金を充実させることで,「WoTのプロプレイヤーとして今後活動していきたい人口が世界にどれくらいいるのかを確認した」という。
そして2013年には800万ドルの予算をe-Sports事業に投資。e-Sportsへの道をどう作っていくかの具体的な取り組みが行われた。これは同時に,WoTを楽しんでいるプレイヤーに,Wargaming.netがどのようにしてサービスを返していけるか,それを模索する部分もあったという。
2013年,Wargaming.net Leagueに参加したチームは従来の3万チームから4万チームに拡大。出場選手は20万人を突破し,開催されたトーナメントの数は1000を越えた。またこれらのトーナメントの動画配信には,のべ1億人以上の視聴者がついたという。今回のGrandfinalsは,この2013年に世界各地で行われた年間リーグ戦の,総決算に相当する。
だが,これはまだスタートラインに過ぎない,とFadl氏は語る。2014年には予算を1000万ドルに拡大し,e-Sportsの成長のため新しいコンテンツや番組を作っていくとのことだ。Wargaming.netのe-Sports事業部は40人の社員で構成されており,彼らは完全にe-Sportsイベントの運営に特化されているとのこと。Kislyi氏は「Wargaming.netを立ち上げたとき,社員が全員で40名だったことを思い出す」そうだ。
興味深いのは,2014年の新しい取り組みとして,パートナーシップ・プログラムが始動することだ。
これは「世界中のプレイヤーをサポートする計画」だが,同時に,選手とデベロッパが情報や見識を共有する場としても機能させる予定であるという。このプログラムにおいては,プレイヤーによるツール作成なども推奨していくということで,MODやマップ,各種ツールなどを選手と一緒に作り,育てていく計画のようだ。現在でも既にロシアのプロチームNAVIがWoTの戦術解説コンテンツなどを提供しており,こういった提携を,より大規模でシステマティックに進めていくというのが狙いとなる。
実際,かつてgamescomでドイツのプロチームとWargaming.netの開発チームが勝負したことがあるそうで,そのときは開発チームが「いったい自分達が何をされているのか分からないくらい」で大敗したとのこと。プレイヤーに愛されるゲームほど,開発者よりプレイヤーがゲームに詳しくなるというのは全世界的によくある話だが,この試みがどのように機能するのか,成果に期待したいところだ。
なお,2014年からは,今回のような大きな大会だけでなく,より地域色の強い小規模なイベントもサポートしていくとのこと。日本でもこれを踏まえたイベントが開催されているが,今後の動向に注目したい。
ワルシャワ副市長は戦車乗り!
通常,こういう場に自治体の偉い人が顔を出すとなると,堅苦しく形式的な話になりがちなものだが,Olszewski氏のトークはまるで様相が異なるものだった。なにしろ氏自身が,WoTのプレイヤーなのだ。
氏は「自分のオフィスにはWoTの小隊があり,小さいながらもチームも編成されている。自分はせいぜい1000試合程度しかしておらず,同僚にメールで『あなたはとても弱い』と説教される始末」というエピソードを明かした。確かにWoTを楽しむゲーマー的な視点に立てば1000試合というのは駆け出しと言えるかもしれないが,行政の要職についている人物が1000試合程度プレイしているというのは,なかなか驚きだ。というか,副市長に「お前は弱すぎるんだよ!」と抗議のメールを送る市職員もパンクである。
もちろん,副市長にとってWoTの世界大会は「自分が好きなゲームの世界大会が,自分の街で開かれる」以上の意味がある。ポーランドにはWoTのプレイヤーが100万人いて,ヨーロッパの比較的ポーランドに近い地域にもたくさんのWoTプレイヤーがいる。そういったプレイヤーが世界大会の観戦に集まってくるというのは,市にとって大きな意義があると氏は語った。
また,「ワルシャワはポーランドにおけるゲーム産業の中心地」でもあるという。産業の振興という面においても,e-Sportsの世界大会の持つ意味は大きいようだ。
Wargaming.netも自治体とのパートナーシップは重視しているということで,のちの質疑応答で「将来的に,e-Sportsのオリンピックのようなものを開くことは可能と思うか」という質問に対し,Kislyi氏が「今は難しいが,可能だと思う」と語るとともに,Olszewski氏が「ホテルや各種インフラ,ロジスティックスなど解決すべき問題は大きいが,ワルシャワには大きなスタジアムもあるので,可能だと思う」と語っていたのが印象的だった。
Wargaming.netがe-Sportsを「プレイヤーが,強いプレイヤーと戦える場」と考えるのと同様,実際のイベントとして考えると,そこにはより具体的な「場」が必要になるわけで,自治体や行政との協力は欠かせないと言えるだろう。
日本でのオフラインイベントのために
Wargaming.netにとってのe-Sportsの理念的な展望から具体的な計画まで,e-Sports一色のカンファレンスだったが,Kislyi氏の「たくさんのプレイヤーに楽しまれているゲームでなくては,e-Sportsとして成立しない」という見解は,当たり前とはいえ,重要な示唆であるように感じた。結局,どんな理屈があったとしても,ゲームはまず面白いかどうか,なのだ。
その上で,自治体や行政とのパートナーシップという動きは,日本においても軽視できない要素であるように思う。日本ではe-Sportsの大会こそ盛んとは言いがたいが,いわゆる「聖地巡礼」はゲームの世界にも及んでいる(Wargaming Japanも,戦車を題材としたアニメ「ガールズ&パンツァー」の聖地である茨城県大洗町の「大洗あんこう祭」に出展している)。
技術的進歩により,多くのことがオンライン上で可能になった。その結果として,「実際に会う」「現地に行く」ことの価値も高まっている。前述したロシアのプロチーム「NAVI」は,国外選手も含めたオンラインチームだが,大会やイベントには必ず全員が顔を見せるという。そしてそういったイベントは,どこかで必ず自治体との協力が必要となってくる。
日本においてe-Sportsの大会が広まるかどうかは,まだまだ未知数だ。だが,日本独自のスタイルで,「ゲームプレイを元にしたオフラインイベント」が広まる可能性は,非常に高いのではないかと思う。かつてハドソンが「ゲームキャラバン」という形で大成功させたように。
そのために,いま欧米で成功しているe-Sportsイベントが,どのような理念と実務で運営されているのか,知っておく必要を強く感じさせられたカンファレンスだった。
「World of Tanks」公式サイト
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(C) Wargaming.net