連載
インディーズゲームの小部屋:Room#361「Elegy For A Dead World」
そろそろ年末恒例のあのイベントが近づいてきてそわそわしている筆者がお届けする「インディーズゲームの小部屋」の第361回は,Dejobaan Gamesの「Elegy For A Dead World」を紹介する。本作は,今は滅びた3つの遠い星を旅して,自分だけのストーリーを創作するというゲームだ。ところで,これは人生における重大なネタバレなんだけど,サンタクロースなんて実在しないんだからね! みんなには内緒だよ!
本作の舞台となるのは,19世紀イギリスのロマン主義の詩人,キーツ,バイロン,シェリーの名を冠した3つの惑星。いずれの星もかつては人が住んでいた痕跡が残されているものの,すでに文明は滅び去り,物寂しい廃墟と無人の荒野だけが広がっている。
プレイヤーはこの星にやって来た,たった一人の宇宙飛行士となり,不思議なオブジェが立ち並ぶ夕焼けの大地を,黒い太陽の浮かぶ雪原を,あるいは地下に広がる無人のプラントを旅しながら,自分だけの物語を書き上げることになる。
ここでいう“書き上げる”とは,文字どおりキーボードを使って文章をタイピングすること。そして,書くことそのものがこの作品の目的だ。3つの星には,それぞれ物語のベースとなるテンプレートが数種類ずつ用意され,文章のところどころがテストの穴埋め問題のようにアンダーバーで示された空欄になっている。
探索の途中に,こうした空欄付きのテキストに文章を入力できるポイントが10〜15個程度あり,空白をすべて埋めることで一つの物語が出来上がるという仕組みだ。キャラクターの移動はW/A/S/Dもしくは方向キーで行い,足元に羽ペンのアイコンが表示されているところでTABキーを押すと,文章入力モードに切り替わる。
書き上がった物語はネットワークを通じて公開でき(しなくてもいい),ほかの人が書いた物語を読むこともできる。本作に冒険や謎解きは一切なく,一応は用意されているテンプレートに沿って物語を書かないといけないというルールもない。
プレイヤーはあらかじめ書かれている地の文をすべて消して書き直してもいいし,最初から何も書かれていない状態でスタートすることもできる。この場合は,自分の好きな場所で,自由に文章を入力可能だ。とにもかくにも,ただ「書く」ことのみに特化した内容で,ここまで来ると“雰囲気ゲー”を通り越して,もはやゲームですらないような気もする。
前回紹介した「The Old City: Leviathan」もゲームらしいゲームとは呼べない作品だったが,膨大な量のモノローグとテキストを読み解いて,その背後にある世界観や謎を自分なりに想像するという要素があったぶんだけ,まだしもゲーム的と言えるかもしれない。
本作でプレイヤーに与えられるものは,イマジネーションをかき立てられる滅びの世界だけであり,そこにどんな謎やストーリーを設定するかは,すべてプレイヤー次第である。一応,いくつかのテンプレートが用意されているものの,それらはあくまで一つの例であり,そこに正解は存在しない。
本作のコンセプトが秀逸なのは,こうして作られた個々のストーリーを,ネットワークを介して共有することそのものに焦点を当てた点だ。不思議な風景や,心を動かす出来事に出会ったとき,自然と心の中に湧き上がってきた物語を,誰かに語って聞かせたくなるという経験をしたことがある人は多いだろう。本作はそうした創作への欲求に方向性を与え,分かりやすいインタフェースで物語を書き上げる手助けするためのツールなのである。
自分なりのストーリーを作り上げ,他人の書いた物語を読むことで,さらに想像力が刺激されて新しい物語が浮かんでくる。日本語に対応してない点は残念だが,年末年始は一人静かに,自分だけの空想に浸ってみるのも悪くないだろう。そんな本作は,Steamにて1480円で発売中だ。
ちなみにDejobaan Gamesは,とんでもなく長いタイトルで世間を騒がせたベースジャンプゲーム「AaaaaAAaaaAAAaaAAAAaAAAAA!!! -- A Reckless Disregard for Gravity」や,本連載の第320回で紹介したバレットヘルFPS「Drunken Robot Pornography」で知られるデベロッパだが,これまでのノリとは180度ガラリと変わった本作のような作品を出してくるとは思いもしなかった。なかなか侮れないゲームスタジオとして,今後も注目していきたい。
■「Elegy For A Dead World」公式サイト
http://www.dejobaan.com/elegy/- この記事のURL:
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