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Access Accepted第539回:佐藤琢磨選手インディ500チャンピオン獲得記念,アメリカンモータースポーツゲームの歴史を振り返る
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印刷2017/06/05 12:00

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Access Accepted第539回:佐藤琢磨選手インディ500チャンピオン獲得記念,アメリカンモータースポーツゲームの歴史を振り返る

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 アメリカでは野球やアメフト以上の人気を誇るといわれるカーレース,「インディ500」において,アンドレッティ・オートスポーツに所属する佐藤琢磨選手が悲願のチャンピオンになり,お立ち台でミルクの一気飲みを披露した。最近は日本でエキシビションレースが開催されるなど,日本での知名度も次第に上がりつつある「インディ500」。今週は,そんな“野茂英雄級”の偉業の達成を記念して,詳しく知らない人も少なくないであろうNASCARものなど,アメリカのモータースポーツをテーマにしたゲームの歴史を簡単に振り返っていく。


アメリカの伝統的モータースポーツイベントで
日本人が優勝!


 2017年5月28日,元F1レーサーで2010年からインディカー・シリーズに参戦した佐藤琢磨選手が,インディアナ州のスピードウェイで開催された「インディ500」で,アジア人としては初となる第101代チャンピオンに輝いた。

アンドレッティ・オートスポーツに所属する佐藤琢磨選手。アンドレッティ・オートスポーツは,昨年のアメリカ人ドライバー,アレクサンダー・ロッシ選手の優勝に続いての2年連続優勝となった(画像はアンドレッティ・オートスポーツの公式Facebookより)
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 インディ500とは,1周約2.5マイルのコースを200周,走行距離にして500マイル(約804km)を走り抜くモータースポーツイベントで,日本でもエキシビションレースが行われるなど,その知名度も次第に上がりつつある。とはいえ,並べて「世界三大レース」と称されるF1モナコグランプリやル・マン24時間耐久レースに比べると,日本のファンはそれほど多いわけではないと思う。
 しかし,北米では40万人以上の観客を集めるという,人気の高い野球やアメフト,バスケットを超えた,知られざる国民的スポーツなのだ。

 「コースをグルグル回るだけのレースが面白いの?」などと聞く人もいるが,イメージとしては競馬に近く,最大の魅力は,相手の意図を読み合う駆け引きの面白さにある。今回の佐藤選手のレースでは,最後の10分間のデッドヒートはまさにインディ500の面白さを体現する素晴らしいものだったと評されている。

 しかし,インディ500が伝統的にメモリアルデー(戦没将兵追悼記念日)直前に開催されることも手伝ってか,日本人が優勝したことに心穏やかではないファンもいるようだ。地方紙のスポーツライターのツイートが炎上し,即日解雇されるという出来事があったし,佐藤選手の所属するアンドレッティ・オートスポーツの公式Facebookページに人種差別的なコメントが書き込まれて,ページが一時閉鎖されたりといった,残念な事件も起きている。

「観戦者数40万人」という規模を誇る「インディ500」の会場になるのが,インディアナポリス・モーター・スピードウェイだ。周囲に十分な宿泊施設がないため,多くの人がキャンピングカーで訪れ,それがまた,お祭り気分をさらに盛り上げる
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 この背景には,外国人選手のインディ500優勝が続いていることがあるかもしれない。1911年の初開催以来,1980年代末まではほぼアメリカ人選手が優勝し,外国人選手の優勝は数えるほどだった。しかし,過去20年でアメリカ人選手がチャンピオンになったのは5回のみで,しかも,10年以上にわたってホンダのエンジンを搭載した車体が勝利をほぼ独占している。これを,インディ500のアメリカンスポーツとしての地位が揺らいでいると見る者もいるのだろう。ただ,心ない発言や行為が,せっかくの偉業に影を落としてしまうことは残念だ。


Papyrus Game DesignとDistinctive Games


 日本ではそれほどでもないようだが,アメリカでは連日のように佐藤選手がメディアに登場するという過熱気味の報道となっており,筆者も少々興奮気味だ。とはいえ4Gamerの連載なので,ここらでゲームのほうにも目を向けておくことにしよう。

 インディ500を最初に扱ったタイトルは,Atari 2600のローンチタイトルとしてAtariがリリースした「Indy 500」(1977年)だったと思われる。見下ろし視点の2DゲームなのはAtari 2600の性能からして当然だが,鬼ごっこのようなモードもあり,レースシミュレーションというよりは車をテーマにした他愛ないアーケードゲームのようだった。

 NASCARもまた,インディカーと並んでアメリカの「国民的モータースポーツ」と言われているが,最初にNASCARのライセンスを取得したのは,カナダのDistinctive Softwareというメーカーだ。同社は1991年,PC(OSとしてMS-DOSが使われていた時代だ)やNES(ファミコンの北米での名称),ゲームボーイなどに向けて,「Bill Elliott's NASCAR Challenge」というレースゲームを発売している。
 Distinctive Softwareを率いていたドン・マトリック(Don Mattrick)氏は,その後,MicrosoftやFacebookで活躍することになり,彼らのレースゲームのノウハウが「Need for Speed」シリーズにも活かされていくことになる。

Papyrus Design Groupの名作「Indianapolis 500: The Simulation」。YouTubeなどでプレイ動画が見られるが,当時でこのレベルのグラフィックスは,まあすごい
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 レースシミュレーションのマイルストーンといえる作品は,1989年にElectronic ArtsからPC向けにリリースされた「Indianapolis 500: The Simulation」だろう。疑似3Dの一人称視点の画面で,グラフィックスには反映されないが,車のデータをカスタマイズすることもできた。手軽に遊べる10周レースもあるが,実際に200周をこなすというリアルなモードも用意されており,驚いたことに,衝突したときの破壊アニメーションまで実装されていた。
 本物のレーサーがゲーム雑誌にレビューを寄稿して絶賛し,「お子ちゃまはアウトランででも遊んろ」という迷言を残したことも,一部では有名かもしれない。

 物理エンジンがまだ存在しなかった時代なので,本格的なシミュレーションを作るのがどれだけ困難だったかは想像に難くないが,ゲームを開発したPapyrus Design Groupはレースゲームの歴史において興味深いメーカーだ。1987年,大学を卒業したばかりのプログラマー,デイビッド・キーマー(David Kaemmer)氏がマサチューセッツ州で設立した同社は,当時としては珍しいレースゲーム一筋のデベロッパとして,2003年にイギリスのパブリッシャVirgin Interactive Entertainmentから,「IndyCar Racing」を発売した。
 同作は,インディ500の会場であるインディアナポリス・モーター・スピードウェイの正式ライセンスを受けており,さらにジェフ・アンドレッティ選手ら当時の人気ドライバーが登場して華を添えた。内容も,練習や予選を含めて全シーズンをプレイできるというリアルなものだった。


広がるNASCARゲームの輪


 Virgin Interactive Entertainmentの閉鎖に伴って「IndyCar Racing」のIPはElectronic Artsに売却されたが,Papyrus Design Groupは独自にNASCARと独占契約を締結し,当時の北米ゲーム業界ではEAと並び立つ存在であったパブリッシャのSierra On-Lineを通じて,「NASCAR Racing」を1994年にリリースする。

 同作はスポイラーの角度やギア比などがレースに影響を与えるという,非常にシミュレーション性の高い内容で,タイヤの摩耗にいたっては,内側と中央,外側で異なり,温度差まで考慮されるという,現在のレースゲームでも実装されていないことがある要素をすでに再現していた。
 さらに,走行中に受けたダメージがピットに入ることで修理されるというシステムを搭載しており,多くのファンを歓喜させたのだ。

 「NASCAR Racing」は1996年にPlayStationに移植されたが,その影響による権利問題でもあったのか,同社とNASCARとの契約はPCのみに制限されることになった。NASCAR Racingシリーズは2003年まで毎年のように新作がリリースされるが,すべてPC専用タイトルで,2003年の「NASCAR Racing 2003 Season」で契約が満了し,重要な柱を失った同社は2004年にあっさり倒産してしまった。

アメリカでは割と安売りされていた記憶があるが,なぜかパッケージアートの印象が非常に強いEA Sportsの「NASCAR 98」
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 コンシューマ機向けのタイトルについて,NASCARは複数のパブリッシャと契約を結んでいたが,最大手はやはりEAだろう。日本でもPlayStationとセガサターンで発売された「NASCAR 98」(1997年)のように,EA Sportsのブランドで販売されており,毎年のように新作がリリースされた。
 それらのタイトルは,EAに買収されてEA Black Boxという名前になったDistinctive Softwareなどが開発を担当したこともあるが,デベロッパはかなり頻繁に入れ替わり,2004年の「NASCAR 2005: Chase for the Cup」以降は,カリフォルニアのEA Tiburonに落ち着いたようだ。EA Tiburonは現在も「Madden NFL」シリーズなど,EA Sportsの中核的な役割を担っている。
 ただしEA Sportsは,2009年の「NASCAR Kart Racing」を最後に,NASCARものをリリースしていない。

 その後,イギリスのEutechnyxというメーカーがNASCARをライセンスしたシリーズを2014年まで,6年間にわたってリリースしているが,PlayStation 4とXbox Oneが登場してからの欧米ゲーム市場においては,Monster Gamesという耳慣れないデベロッパが,704 Gamesという,これまたあまり耳慣れないパブリッシャから「NASCAR Heat Evolution」という作品を2016年に発売。2017年の9月には,続編となる「NASCAR Heat 2」がリリースされる予定だ。

NASCARにはトヨタも参戦しており,結果も出している。画像は,Monster Gamesの「NASCAR Heat Evolution」のもの。2017年9月には続編もリリースされる予定だ
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 最近は,インディーカーやNASCARを単独でテーマにするのは作品として弱いと思われているようで,「グランツーリスモ 」「Forza Motorsports」「Real Racing」「Project CARS」,そして「Trackmania」といったメジャーシリーズでは,インディ500が“モードの1つ”として登場することが多くなっている。

 以上,ざっと振り返ってみたが,いかがだったろうか。日本での知名度はあまり高くないかもしれないが,佐藤琢磨選手の偉業達成によって,かつてのF1ブームのようにアメリカのモータースポーツがブームになることがあるかもしれない。それに備えて,インディーカーやNASCARなどという文字を見たら,今のうちからプレイしておこう。



著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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