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Access Accepted第474回:「ゲーム実況」という新たなカルチャー
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印刷2015/10/05 12:00

業界動向

Access Accepted第474回:「ゲーム実況」という新たなカルチャー

画像集 No.001のサムネイル画像 / Access Accepted第474回:「ゲーム実況」という新たなカルチャー

 今や,北米のゲーマーにとってなくてならない存在になった「ゲーム実況」。他の人がプレイしているゲームの映像を,オンラインでつながった多くのファンと一緒に視聴しつつ,ときおりメッセージを書き込んだりするライブ感が人気を獲得した理由だろう。そんなゲーム実況の中核を担うといってもいいサービスの1つが「Twitch」だ。このたびTwitchは,本拠を置くサンフランシスコで初のファンイベントを開催した。今回は,基調講演で語られたゲーム実況の知られざる歴史を中心に紹介してみよう。ゲーム実況について独自の歴史を持つ日本とはまた違う,北米の過去と現在が分かるはずだ。


初めて開催された「Twitch」のファン向けイベント


2日間でのべ約2万人の参加者を集めたという「TwitchCon 2015」。Twitch主催のイベントが行われたのは,初めてのことだ
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 2015年9月25日〜26日,Twitch本社のあるカリフォルニア州サンフランシスコで,同社としては初となるファンイベント「TwitchCon 2015」が開催された。ご存知のように,Twitchは,ゲームにフォーカスしたライブストリーミングサービスを提供する企業だ。
 会場には,ファンや“ブロードキャスター”と呼ばれるゲーム実況者がのべ約2万人も集まり,さまざまな講演や発表が行われた。賞金総額17万ドルをかけて戦われた「H1Z1」の対戦トーナメントの模様は,最大で13万人が視聴したという。運営や来場者の対応など,まだまだ慣れていない雰囲気の手作り感のあるイベントだったが,盛況のうちに終わったのだ。

 このイベントでは,TwitchがPlayStationに対応することがアナウンスされたほか,ストリーミング視聴中に,ほかの視聴者と1対1でのコミュニケーションができる「ウィスパー」モードの実装が発表されている。サムネイルがカスタマイズできるという新機能は,視聴者だけでなくブロードキャスターにもアピールしそうだし,対応が遅れていたHTML5のサポートも正式に表明されている。

「TwitchCon 2015」では,ゲーム実況の裏表が分かるさまざまなセッションのほか,人気ブロードキャスターによるトークイベントやサイン会,「H1Z1」や「World of Warships」などのトーナメントなどが実施された。会場では,インディーズタイトルのプレイアブル展示が行われたほか,マイクやビデオキャプチャカードの物販などがあった
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 Twitchの最も有力なコンテンツになっているのは,ユーザーがプレイしている動画をライブストリーミングする「ゲーム実況」だろう。日本でもニコニコ動画などでおなじみなので,改めて説明するまでもないと思うが,自分でプレイして楽しむだけだったゲームに,「見て楽しむ」という価値を与えた,新たなゲームカルチャーだ。

 Twitchは,ユーザーの制作したニュースや面白動画をメインコンテンツにしていた「Justin.tv」のゲーム専用サービスとして2011年にスタートした。ちょうど,「League of Legends」「World of Tanks」「StarCraft II: Wings of Liberty」など,e-Sportsに向いた,ゲーム実況とも親和性の高いタイトルが高い人気を獲得した時期と重なり,それが追い風になった。
 それ以外にも「ポケモン」「スーパーマリオブラザーズ」といったカジュアルなタイトル,そして,たくさんで大騒ぎしながら見られる数々のホラーアドベンチャーなどにエリアを広げ,ゲーム実況の楽しさを広くゲーマーに認知させた。
 こうした状況から,ビジネスの主力はJustin.tvからTwitchに移行し,さらにユーザー数を広げたことで,現在では多額の収入を得るゲーム実況者も生まれるようになった。

 本連載の第433回「Amazon.comが『Twitch』を買収したのはなぜか」でもお伝えしたように,2014年には,ゲーム実況の将来性に期待感を持つAmazonによって,Twichが買収されている。以前は,ネタバレやゲーム映像の公開そのものを嫌うゲームメーカーが難色を示したこともあったが,ゲーム実況がセールスにつながることが明らかになるにつれ,今ではメーカーの多くが積極的に協力するようになり,マーケティングモデルの1つとして確立されつつあるという。

 今回のTwitchCon 2015の基調講演において,CEOを務めるエメット・シアー(Emmett Shear)氏は,現在登録されているブロードキャスターは約150万人で,プロとして活動している人はそのうちの1割にあたることを明かした。彼らの送り出すライブストリーミングはトータルで月あたり1億5000万人が視聴し,またユーザー1人当たりの視聴時間は毎日1.5時間に及ぶという。まさに,「新世代のテレビ」として位置づけられるのも納得の成長産業なのだ。


コミュニティに支えられたゲーム実況の歴史


Twitchのマーカス・グラハム氏はゲーム実況者出身の古参ゲーマー。Director of Programmingという役職名だが,ここでいう「Programming」とは”番組のプログラム“のことだ
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 さて,CEOであるシアー氏に先だって基調講演に登壇したのが,TwitchでDirector of Programmingという役職にあるマーカス・グラハム(Marcus Graham)氏だ。
 グラハム氏は,1990年代からゲームトーナメントの実況を行うチャットルームで名を馳せた人物で,2002年には当時珍しかった音声のみのストリーミング放送「Epileptic Gaming」を主催。さらに韓国で行われたWorld Cyber Tournamentの英語実況を担当するなど,以前からゲーマーの間でよく知られていた人物だ。
 グラハム氏は講演で,これまで知られていなかったライブストリーミングの歴史を語った。

 「一般的に,ゲーム実況は2009年に大きな転機を迎え,今のような姿になったとされているが,そうではない」とグラハム氏は切り出し,「私達にとっては,その10年前の1999年からゲーム実況が始まっていた」と続ける。

グラハム氏がライブストリーミングの起源であるとする「ShoutCast」。インターネットを使って何十万人もの視聴者がゲーム映像のライブ配信を楽しむことなどが夢のまた夢だったのは,“わずか15年ほど前”のこと
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 1999年当時,映像をライブストリーミングできるようなサービスは存在していなかったが,グラハム氏を含む対戦ゲーム好きのゲーマー達は,専用チャットルーム「IOC」(Invasion of Chaos)に集まっていたという。そのときIOCが採用していたのは「ShoutCast」というシステムで,これは音声のみのライブ配信を可能にするものだ。
 2003年になると,このIOCが新たに「Nullsoft video」という、音声に加えて映像を配信できるシステムを実装する。サポートされていた画像は320×240ドットという小さなものだったが,「Quake III: Arena」の大会を実況した際には1万人もの人々が視聴したという。しかし,この頃はまだブロードバンドの普及以前だったため,実況の2週間後,バンドの使いすぎによりサービスプロバイダから1万8000ドルのネット使用料を請求されることになったという。

 その経験があったため,2005年にスタートした「YouTube」で録画配信を行うことを考えたグラハム氏だったが,一部の熱狂的なファンに応える形でIOCのライブ配信を継続した。2006年には,ユーザーが1対1でライブチャットできるシステムを持った「Stickam」というサービスが登場したことで,しばらくそちらに乗り換えた。そして翌2007年,Twichの前身となるJustin.tvが始まった。
 Justin.tvはそれまでの器を提供するだけのサービスと異なり,ライブ実況者達と頻繁にコミュニケーションを取ることで,「ゲーマーのための実況者コミュニティの育成に一役買った」とグラハム氏は述べる。その関係で,やがてグラハム氏はTwitchに入社することになるのだが,多くの古参ライブ実況者が現在Twitchを支持してくれているのは,Justin.tv時代に築かれた信頼関係のおかげなのだという。

Xbox Liveでは2013年からサポートされていたTwitchも,いよいよPlayStation Networkに対応することが明らかにされた。シアー氏は,「日本を含めた22か国で対応している」と話していたが,今回の参入で日本のゲーム実況にも影響を及ぼすことになるのだろうか
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 最後にグラハム氏は「この短いストーリーの本当の主人公は,皆さんなのです」と来場者に向かって語りかけた。そして,「皆さんがコミュニティに参加してはじめてTwitchは大きくなることができ,現在進行形で歴史が作られているのです」と基調講演を締めくくり,新たな世代へゲーム実況の未来を託したのだった。
 150万人ものブロードキャスターで賑わうTwitchを始めとするゲーム実況というカルチャー。突然現れて明るい光を浴びているように見えるが,以上のように,小さなコミュニティに始まる長い歴史を持っているのだ。これがさらに広がっていくのか,それとも新たなカルチャーに取って代わられるのか,今後も注目していきたい。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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