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印刷2007/10/12 12:00

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奥谷海人のAccess Accepted

 商品を作るプロであるためには,自分の作品に対して消費者がどんな批評を下そうとも,それを受け止めるだけの度量が必要だろう。ところが,キリスト教をテーマにしたゲームを開発した会社が,ブロガー達の「宗教をテーマにしたゲームなのに,暴力で解決するのはおかしい」という内容の書き込みに対して,告訴を匂わせる警告文を送っているという。いったい何が起きているのだろうか。

Access Accepted第145回:ブロガーを威嚇するゲーム開発会社
ベストセラー小説がベースのストラテジー
「LEFT BEHIND: Eternal Forces」
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このゲームが題材にする小説「Left Behind」シリーズは,地上世界から神の手によって救われなかった若者達が,組織を結成して悪と戦いながら救いを求めるという内容だ

 「LEFT BEHIND: Eternal Forces」は,キリスト教への信仰をテーマにしたストラテジーゲームである。当連載の「第82回:珍しいストラテジーゲーム三連発」でお伝えしたように,全米で累計6300万部を越える売り上げを記録したシリーズ小説をベースにしたゲームで,2006年11月に発売された。4Gamerでデモ版を紹介したことがあるので,実際に遊んだことがある人もいるだろう。昨今,流行とまではさすがにいえないが,宗教をテーマにしたゲームが増えてきており,本作もそんなタイトルの一つである。

 LEFT BEHIND: Eternal Forcesは,テロ行為や地球の環境破壊が深刻になった近未来に起きる“終末”の到来が描かれており,キリスト教を信仰していた地球人口の3分の1にあたる人々は, 携挙(ラプチャー)という現象で,天国に引き上げられてしまう。突然多くの人々が消え去ってしまい,地球に残された人々は,主人公を中心としたTribulation Forceというキリスト教系の組織と,無宗教なGlobal Community Peacekeepersに分かれる。プレイヤーはTribulation Forceを率いて,再び来るであろう携挙のときを待つという内容のゲームだ。

 本作はニューヨークを舞台にしており,通りを歩いているNPC達を1人でも多く,神の導きにいざなっていくという目的がある。すべてのキャラクターにはスピリットレベルと呼ばれるものがあり,プレイヤーはNPCを自分の組織に入れ,スピリットレベルを引き上げて,SoldierやBuilder,Medical Technicianなど30種類ほど用意されている職業に就かせて戦力とする。

 対するGlobal Communityには,ロックミュージシャンやカルト宗教のリーダーなどがおり,音楽やプロパガンダといった特殊能力を使ってプレイヤーの組織にいるNPCのスピリットレベルを下げてしまう。せっかく改宗させたNPCが,再び無宗教派になってしまうことがあるわけだ。この人員の奪い合いというコンセプトは面白いものだろう。

 1年以上前に発売されたゲームとはいえ,グラフィックスやAIといったゲームの基本要素の出来はあまり良くない。だが,約250万ドル(約3億円)も売り上げを記録したというのだから,たいしたものだ。

 そんな本作の周囲が,最近ずいぶんと騒がしくなってきている。開発者の代理人と称する人物が,本作に否定的なレビューやコメントを掲載しているサイトに,訴訟を起こすといった内容のメールを送り始めたのである。

 

威嚇メールという荒業とデリケートなゲーム内容

 ことの起こりは2007年10月4日。Gamelogyというゲームに対する思いを綴ったブログサイトの運営者が,Left Behind: Eternal Forcesを開発した,Left Behind Gamesの弁護士と名乗る人物から受け取ったEメールを,そのまま掲載したのである。

 メールのタイトルには「Re: False Information posted on your site about the game LEFT BEHIND: Eternal Forces」(LEFT BEHIND: Eternal Forcesについてあなたのサイトで間違った情報が記載されている件について)と書かれており,メール本文では言論の自由を尊重するとしながらも,「もし,あなたのサイトに書かれている間違った情報や誤認を誘発するような記述を削除しなければ,今後法的処置に出ることもあり得る」と警告,もしくは威嚇とも取れるような文章が短くまとめられていた。

 これと同じ内容のEメールは,複数のサイトに送られているが,どのメールにも“間違った情報”の記載箇所は具体的に記されていないという。受け取ったブロガー達の多くはは,戸惑いを感じているようで,「具体的にどの記述が間違っているのか」というメールを送信しても,何の返答もしてこない」と,怒りをあらわしている人もいる。

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確かにグラフィックスや思考ルーチンなどに問題があり,お世辞にも面白いとはいえない。だが,商品として販売している以上は,その内容に対する批判は受け入れ,今後の活動に役立ててもらいたい

 本作に関して,敬虔なクリスチャンであり,暴力描写のあるゲームを法廷に何度も持ち込むことで有名な弁護士Jack Thompson(ジャック・トンプソン)氏は,「キリストを信仰しないという理由で他者を攻撃するのは,キリスト教の教えに反している」と,内容に異を唱えている。本作では,最終的にキリスト教に帰依したFriendsか,神を信じないEvilsしか存在しなくなるのだ。

 もっとも,NeutralなNPCに対してプレイヤーキャラクターが銃を向けて攻撃することはできないし,プレイヤー側のユニットは敵から攻撃を受けるまで反撃できないなど,いわゆる普通のゲームとはやや違う。実際にプレイしてみると,NPCのリクルートや職業訓練,施設作りなどに時間がかかり,後半に用意されている戦闘には,それほど重点が置かれていないように感じられた。

 とはいえ,批判的なブロガー達のコメントを排除しようと,告訴を匂わせる威嚇メールを送るという行為は,いささかやり過ぎではないだろうか。Left Behind Gamesにとっては「人気小説の名に傷をつけたくない」ということもあるのだろうが,そもそも本作は有名なシリーズ小説を題材にしたブランド商品の1種である。宗教的なメッセージを含むゲームを無料でリリースするような活動であればまだしも,有料の商品である以上,消費者からの批判を受け入れる姿勢がなくてはならないはずだ。

 Left Behind Gamesは,インターネットを介して風評が広まりやすいという,ゲームの特性をつかみきれていなかったのかもしれない。もちろん本当に事実と異なる記述があるならば,それを指摘して修正してもらうことに問題はないだろう。だが,肝心な部分をあやふやにしたままでは,言われた方も対処に窮する。小説の宣伝としてゲームを利用している側面もあるし,商品として販売している以上,その内容に対して批判があがるのはごく自然なことである。宗教を扱うゲームだから反論はするな,そんな理屈にはめ込まれる宗教だっていい迷惑ではないか。事態が泥沼化する前に,解決されることを願いたい。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。宗教とは無縁生活を送る奥谷氏だが,最近「ダンス・ダンス・レボリューション」ならぬ「Dance Dance Resurrection」に注目しているそうだ。「これは,コナミのライセンスを受けて開発されたゲームで,要請があった教会関係施設に無料で提供されている」と奥谷氏は説明し,「これを遊ぶために教会へ行こうかな」と言い出すほど注目しているようだ。どうも奥谷氏は,このサイトがジョークサイトだということに,まだ気がついていないらしい……。

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