科学技術融合振興財団(FOST:foundation for the Fusion Of Science and Technology)は,シミュレーションやゲームの研究など,社会や文化の文脈の中で科学技術の融合を促進させる研究課題に対する助成事業および,その成果を広く還元する普及啓発事業を活動の柱とする団体である。そんなFOSTが本日(2012年3月8日),
「第5回FOST賞授賞式」を,東京都内で開催した。「FOST賞」は,FOSTが支援・助成する研究の中から,最も優れた研究者を表彰するものだ。
左から,東海大学名誉教授 白鳥 令氏,立命館大学大学院政策科学研究科 豊田祐輔氏,秋田大学教育文化学部教授 井門正美氏,FOST理事長を務めるコーエーテクモホールディングス代表取締役社長 襟川陽一氏
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コーエーテクモホールディングス
代表取締役社長 襟川陽一氏
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受賞式の開始にあたり,FOSTの理事長を務めるコーエーテクモホールディングス代表取締役社長の
襟川陽一氏が登壇し,FOSTが2012年4月1日から公益財団法人となることを報告した。ただし,FOSTの活動自体はこれまでとなんら変わらないとのことである。
また襟川氏は,第5回となる今回から新設された
「FOST社会貢献賞」について,学術の世界のみならず実業の世界も対象とし,社会貢献という観点から顕著な業績を挙げた人を表彰するものと説明。今後も研究者の励みとなるよう,FOST賞を継続していくと述べた。
秋田大学文化教育学部教授
井門正美氏
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さて,第5回FOST賞に選出されたのは,
「市販デジタルゲームの教育への活用とその学習効果に関する体系的研究」というテーマで研究を行った,秋田大学文化教育学部教授の
井門正美氏である。井門氏は,教育および学習という観点から,秋田大学において長年にわたってデジタルゲームの特徴を生かした体験的学習プロジェクトを実践してきた。その研究成果が体系的にまとめられていることが評価され,今回の受賞となった。
井門氏は,1980年代に小中学校で教鞭を執っており,生徒達と一緒にゲームをプレイすることで彼らの心を掴めることに気付いたという。ちなみに,そのときプレイした中には,襟川氏が手がけた「信長の野望」や「維新の嵐」もあったそうだ。
そんな経験から,今度は秋田大学の教授として,学生と共に市販ゲームの教育効果をどのように把握するのか,学校でどう使えばいいのかを,実際に100本以上のゲームタイトルを使って研究してきたとのことである。
立命館大学大学院政策科学研究科
豊田祐輔氏
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次代を担う若手研究者を対象とした
「FOST熊田賞」(FOSTの監事である熊田節郎氏が寄贈)に選出されたのは,
「援助の主体に着目した社会関係資本の測定を行うためのシミュレーション&ゲーミング開発に関する基礎研究」というテーマで研究に取り組んだ,立命館大学大学院政策科学研究科の
豊田祐輔氏だ。豊田氏は,社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の表れとなる「援助行動」を測定し,リアル世界のソーシャル・キャピタル行動として再現するという「耕作ゲーム」を開発したことを評価された。
豊田氏は,「ソーシャル・キャピタルの測定方法は研究者によって異なっているうえ,災害などの緊急時に最も発現しやすい」との理由から,一般的な調査では実態が掴めないことに着目。その一方で,ゲームの世界なら測定しやすいのではないかと考え,研究を始めたとのことである。
東海大学名誉教授 白鳥 令氏
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新設されたFOST社会貢献賞を受賞したのは,東海大学名誉教授の
白鳥 令氏だ。白鳥氏は,日本シミュレーション&ゲーミング学会の設立当初から同会の会長を務めたこと,そして国際シミュレーション&ゲーミング学会の会長を歴任したことにより,日本のゲーム研究に尽力し,その社会的認知を高めることに貢献した功績を評価された。
白鳥氏はゲームが社会に貢献している部分をもっと積極的に評価していくべきであると述べ,こうした賞は,本来「楽しくてためになる」ゲームを世に送り出し,かつFOSTを主催してゲーム研究を支援する襟川氏のような人物にこそふさわしいと話していた。
以前に比べれば理解が深まっているものの,やはり事件のたびに「青少年に与える悪影響」の代表として取り上げられてしまうことが多いゲーム。しかしその一方では,今回受賞した研究のように,社会に貢献できる側面を持っていることも確かだろう。今後もこうした評価の機会を通じて,ゲームのポジティブな側面に対する認知度が高まることに期待したい。