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コンテンツ産業は地方から世界を目指す。ポリフォニー・デジタルの山内氏も参加した「福岡市ビジネスセミナー」聴講レポート
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印刷2011/12/02 15:53

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コンテンツ産業は地方から世界を目指す。ポリフォニー・デジタルの山内氏も参加した「福岡市ビジネスセミナー」聴講レポート

セミナーの冒頭では,福岡市長の高島宗一郎氏が登壇し,同市のビジネスに対する取り組みを語った
画像集#001のサムネイル/コンテンツ産業は地方から世界を目指す。ポリフォニー・デジタルの山内氏も参加した「福岡市ビジネスセミナー」聴講レポート
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 2011年12月1日,東京都内で「福岡市ビジネスセミナー〜デジタルコンテンツ産業の新たな展開と国際競争力強化に向けた福岡市の戦略〜」が開催された。このセミナーは,日本のコンテンツ産業の現状と国際化に向けた展望などを鑑み,地域発のコンテンツビジネスの新たな可能性やビジネスチャンスのヒントなどを示すべく,現在,福岡市で実際に行われている取り組みの事例を紹介するというもの。

 また,福岡市は福岡ゲーム産業振興機構を2006年に発足し,「九州・福岡を世界が目指すゲーム産業都市にする」をキーワードに産官学の連携を図ることでも知られている。
 本記事では,福岡市を舞台に世界的に活躍するデジタルコンテンツクリエイターが参加したパネルディスカッション,「福岡市のデジタルコンテンツ産業の可能性と期待」の模様をレポートしよう。

●パネリスト
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ディー・エル・イー 代表取締役 Founder & CEO 椎木隆太氏。ディー・エル・イーは,日本の地方テレビ局との共同キャラクター事業で知られる企業だが,今やそのビジネスは海外にも大きく展開している。代表作は「秘密結社 鷹の爪」など
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空気 取締役 竹清 仁氏。空気は,3Dのモーショングラフィックスなどで海外でも評価の高い映像制作会社。ゲーム関連では,カプコンの「MARVEL VS. CAPCOM」シリーズのムービーなどを手がけている
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ポリフォニー・デジタル 代表取締役 プレジデント 山内一典氏。4Gamerでは説明不要かもしれないが,ポリフォニー・デジタルは「グランツーリスモ」シリーズのデベロッパである
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福岡市 経済振興局長 中島淳一郎氏

コーディネーターを勤めたファクト 代表取締役 後山泰一氏
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 パネルディスカッションの冒頭では,コーディネーターの後山氏が,デジタル/アナログ合わせて14兆円規模になっているコンテンツ産業の現状を説明し,2011年にはスマートフォンをはじめとするデジタルデバイスの普及により,パッケージ流通とネット配信の立場が逆転するような大きなパラダイムシフトが起きていると続けた。そうした時代において,ますます重要性を増しているアニメやゲームといったデジタルコンテンツ産業の可能性と期待,そして福岡市がそれらにどう取り組もうとしているのか,というのが本ディスカッションのテーマである。

レベルファイブの日野氏はビデオメッセージでの参加
画像集#008のサムネイル/コンテンツ産業は地方から世界を目指す。ポリフォニー・デジタルの山内氏も参加した「福岡市ビジネスセミナー」聴講レポート
 続いて,当初はディスカッションに参加する予定だったレベルファイブ 代表取締役社長/CEO 日野晃博氏からのビデオメッセージが上映された。日野氏は,デジタルコンテンツ産業がビジネスの中心になっており,音楽や映像,ゲームなどのネット配信という新しいビジネスモデルが台頭して大きな影響をもたらしていると述べる。そうした状況の中,レベルファイブでもネット配信に向けたタイトルを準備していると続け,今後より大きくなっていくビジネスに向けて,本気で対応を考えるべきであるとまとめた。

 このビデオメッセージの中で日野氏は,デジタルコンテンツのクリエイティブやビジネスについて,必ずしも東京でやることが有利ではないとも語った。氏は,今や福岡市をはじめとする地方都市には通信環境が整っており,コンテンツを制作する場所を選ばなくなっていると説明し,それならば長い通勤時間などのストレスが少なく,自然に触れる機会の多い土地で,想像力を存分に発揮できるほうがクリエイティブには有利なのではないかと述べた。
 逆に,現在の福岡市に足りないものとして日野氏は,専門性の高いポイントがない点を挙げる。すなわち,東京には秋葉原を筆頭に銀座,新宿,青山といった特色を持つポイントがいくつも存在し,それぞれに応じた人々が集まってくる。福岡市にも,そういった特色あるポイントを作り,人が集まりやすくなるような工夫が必要というわけだ。
 ビデオメッセージの最後では,日野氏は,今まで以上に地方のメリットを生かしてデジタルコンテンツ産業で戦っていくと強い意気込みを見せていた。


デジタルコンテンツ産業の展望(国際競争力としてのデジタルコンテンツ)


 日野氏のビデオメッセージに続いて行われたディスカッションの本編では,国際競争力についての話から始まった。
 海外進出について問われた椎木氏は,起業の時点でアジア展開を視野に入れており,日本だけという発想はなかったと述べる。さらに椎木氏は,1990年代の日本におけるコンテンツ産業のあり方が,現在のアジア各国に影響を与えていることに言及。今やアジア各国では大きな国家予算を割いてコンテンツ産業を推進しており,日本のノウハウを強く求めていることを紹介した。
 また,中国に関しても,規制がめまぐるしく変わるので今は進出が難しいが,中国企業からのラブコールも強いので,いつかは扉が開くだろうと展望を述べていた。

画像集#009のサムネイル/コンテンツ産業は地方から世界を目指す。ポリフォニー・デジタルの山内氏も参加した「福岡市ビジネスセミナー」聴講レポート

 ローカライズ/カルチャライズについては,現地向けのものはその文化圏に合わせてきめ細かく行っていかなければならないと,椎木氏は述べる。しかし日本の企業と組みたがる国の多くは,自国だけでなく世界でビジネスを展開しようと考えており,まったく異なる世界基準のアプローチが求められるとのことである。椎木氏は,アプローチの異なる事業を並行して展開することについて,「楽しちゃいけない」「手間はかかるがエキサイティング」と話していた。

 また,各国企業のモーションロゴなどを制作している竹清氏は,映像においては各国向けに映像の演出を変えたほうが好ましいのではないかと自らの見解を述べる。しかし,日本では各国で好まれるものが分からないため,現地におけるヒアリングなどの事前調査は必須とのことだ。

 山内氏は「グランツーリスモ」シリーズでは言語以外のローカライズは一切行わず,ゲーム内容やロゴはもちろん,プロモーションに至るまで全部統一していると述べる。山内氏いわく,ポリフォニー・デジタルとは,企業というよりも「自分達が格好いいと思うものをテクノロジーとデザインの両輪で表現していこう」という一種のムーブメントであり,ビデオゲームは表現手段の一つであるとのこと。海外展開にあたっては,さまざまな軋轢もあるが,今後もその姿勢を貫いていくと話していた。

 そうした山内氏の発言を受けて,椎木氏は「グランツーリスモ」シリーズには卓越したリアルなグラフィックスという国境を越える分かりやすさがあると述べる。
 椎木氏は,上記の自身の発言に立ち戻り,ローカルで愛されるものはローカルの心の機微が分からないと作れないと述べ,「日本のアニメは世界で受けるという幻想は捨てたほうがいい」「文化圏を越えてしまう場合には,別途作らないと収益が期待できない」と話す。

 その一方で山内氏は,自身がヨーロッパ向けに作ったはずの作品なのに,現地では「日本的」と評価されたエピソードを披露し,「否応なく出る日本人(特有の)の部分は隠しようがない」と話す。これはどうしようもない問題のように思えるが,むしろ開き直ったような展開も一つの正解かもしれない。山内氏と竹清氏は,ドメスティックが極まることでと普遍性が生じてインターナショナルになるのではないかと述べ,ディズニー作品や,サッカーや柔道などのスポーツを例に挙げていた。

 また,中島氏は,デジタルコンテンツ産業において福岡市が韓国・釜山(韓国におけるコンテンツ産業の拠点)と提携していることを紹介し,各企業の海外進出を行政として支援していくと述べる。その展開は釜山に留まらず,アジア,ヨーロッパへと展開していくと意気込みを述べていた。


地域におけるビジネスの可能性


画像集#010のサムネイル/コンテンツ産業は地方から世界を目指す。ポリフォニー・デジタルの山内氏も参加した「福岡市ビジネスセミナー」聴講レポート
 福岡市でビジネスを行うことのメリットについて問われた竹清氏は,現在,空気の仕事の8割が東京からの受託で,1割が海外から,残り1割が福岡市からであることを明かす。この事例をもとに竹清氏は,上記の日野氏のメッセージ同様,デジタルコンテンツは場所を選ばずどこでも制作可能であると述べる。
 また,竹清氏は,地方で展開する最大のメリットとしてランニングコストの低さを挙げる。同社は,現在,3階建てのビルをオフィスにしているそうだが,東京の同規模のオフィスと比較すると賃貸料は破格ともいえる低い金額に収まっているとのことである。

 ポリフォニー・デジタルは,2011年4月に福岡市にアトリエを作り,東京本社から山内氏以下50名の社員が移ってきている。山内氏は,福岡市に引っ越してから社員達のライフスタイルが夜型から「9時5時」の標準型へと激変したことを挙げ,非常に満足度が高まっていると述べた。
 なお,山内氏が福岡市にアトリエを設置することを決めた契機は,2011年3月に発生した東日本大震災に始まる一連のアクシデントだが,それ以前から東京だけで仕事を続けることに漫然とした不安を感じていたという。震災によってシステムがダウンしたことにより,システムに頼らず自分で何かを決めてもいいと,逆に自由な気分になったそうだ。そして,環境がよく地域とのコミュニティを形成できる土地を探したところ,福岡市に出会ったとのことである。

 椎木氏は,福岡市などの地方都市では,広告料金などのメディアフィーが極めて低いにも関わらず,フィリピンやニュージーランドなどの一国家と同規模の経済力を期待できると話す。また,一度ブランドとしての地位を確立できたら人気が存続しやすいという点もメリットして挙げていた。椎木氏いわく,全国の中でも福岡市と名古屋市は都市機能と地方性の両面を併せ持っており,かつ経済力も高いので,クリエイティブの拠点としてもマーケットとしても魅力が高いとのことだ。


福岡市の可能性と期待


画像集#012のサムネイル/コンテンツ産業は地方から世界を目指す。ポリフォニー・デジタルの山内氏も参加した「福岡市ビジネスセミナー」聴講レポート
 中島氏は福岡市でビジネスを行っていくメリットとして,ほかの地方都市よりも中国や韓国に近く,それらの国の動向が見えやすくなってる点と,行政が介在した積極的な異業種間のコラボレーションがなされている点を挙げた。この点に関しては,竹清氏も以前からそうした風土があったが,2010年に高島市長になってからより分かりやすくなったと同意する。

 その一方で椎木氏は,福岡市が本気でアジアに取り組むなら,もっとアジア諸国に対してフレンドリーにならなければならないと述べる。椎木氏は小学校時代から中国語や韓国語を教えたり,交換留学をしたりするくらいでないと,本気とは言えないのではないかと指摘する。
 さらに椎木氏は,現在,九州大学や大分・立命館アジア太平洋大学ではアジアから多くの留学生を受け入れているが,その大半は福岡市に残ることなく東京や母国で就職する点を挙げ,行政として優秀な人材を活用する手段をきちんと講じなければならないのではないかと述べた。

 山内氏も,留学生やインターンとしてアジア各国の若者を受け入れることで,さらに面白いものが作れるのではないかと述べ,優秀な人材の受け入れと確保の重要性を説く。
 また,竹清氏は,ロサンゼルスやバンクーバーといった海外都市では,一線級のデジタルコンテンツクリエイターが昼間は自身の仕事をこなし,夕方から人材育成のために学生に向けて講義をしているという事例を紹介し,福岡市でも同様なことができるのではないかと提案していた。

 こうした3人のクリエイターの発言を受けて,中島氏は,課題は多いが高島市長が市政を行うようになってからスピード感が増し,チャレンジ精神も高まっているので今後の福岡市におけるデジタルコンテンツ産業の展開に期待してほしいと締めくくった。

 パネルディスカッションの最後には,クリエイター陣から福岡市や聴講者に向けてメッセージが贈られたので紹介しておこう。

椎木氏:
 デジタルコンテンツ──とくに映像には,世界に見せるチャンスがあります。ただし番組販売については市場が成り立たなくなっており,映像はタダで見せるものになっています。そうなると映像はプロモーションビデオでしかありませんから,そこで何を売るのかが課題となります。ゲーム,玩具,アプリ,キャラクターの権利などを販売する成功ノウハウの大半は,ハリウッドと日本に蓄積されていますし,大いに誇っていいことです。アジア各国で求められているのは映像の作り方ではなく,マネタイズの部分であり,日本はそこで先行していますし,ノウハウを蓄積しています。その自信を持って臨めば,アジア各地への進出は決して不可能ではありません。

竹清氏:
 コンテンツ業界では優秀な若い人材が減っており,同業者が集まると,いつもその話になります。これは教育と密接に絡んだ問題ですから,福岡市にはぜひ優秀な人材を育成する施策を望みます。

山内氏:
 福岡市は,お金だけでは語れない魅力を持っています。お金はもちろん大事ですが,福岡市ならではの魅力を失わないような発展を願っています。東京と同じになってはダメですよ(笑)。
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