特集:カプコン×インテル。「ロスト プラネット」のマルチスレッド最適化対談

カプコン×インテル。「ロスト プラネット」のマルチスレッド最適化対談

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PCゲームへ積極的に取り組むカプコン
“新世代機”として見るPCの位置づけは?

 

4Gamer
 ゲームの開発者としてCPUに何か希望はありますか? こうなってほしい,とか。

 

石田智史氏
 そうですねぇ……。まずは早く(クアッドコアCPUの)L2キャッシュが統合されないかな(笑)
 それから,MT FrameworkではHyper-Threadingの効果がそれなりに高いんですよ。(Hyper-Threadingだと)L2キャッシュが共通ですから。だから,Core 2 DuoのHyper-Threading対応版があったらいいなと思いますね。

 

4Gamer
 Intelの次次世代CPUはそうなるみたいですよ(※開発コードネーム「Nehalem」に実装されるというSimultaneous Multi Threadingのこと)。

 

石田智史氏
 ただまあ,CPUはともかく,PCではどうしてもGPUがネックになるんですよ。フレームレートはGPUで頭打ちになってしまう。だけど120fps以上でプレイして本当にうれしいかというと……。

 

4Gamer
 フレームレートを気にするFPSゲーマーは多いですが,60fpsを超えると意味がないんじゃないかという意見もあります。実際どうなんでしょうね?

 

竹内 潤氏(カプコン 開発統括本部 CS開発統括 編成部長)。ロスト プラネットのプロデューサーだ

竹内 潤氏
 120fpsくらいが人間の感覚の上限じゃないかと思いますよ。うちは格闘ゲームをやっていますが,60fpsだと1フレームを見るプレーヤーがいるんです。技を2,3フレームで出してくる(笑) FPSでも60fpsで1フレームを見るプレーヤーはいるでしょう。

 

石田智史氏
 最近の3Dゲームでは,処理してから描画されるまでの遅延があるんです。ロスト プラネットだと1フレーム遅れるんですよね。だから120fpsで動かして,実際には60fps相当になるんです。

 

伊集院 勝氏
 コアなプレーヤーは,「ここのタイミングでは死んでる! ここのタイミングでは生きてる!」って大声で言いますんで……。

 

竹内 潤氏
 殿上人の世界ですから(笑)。しかし,うちはコアゲーマーを対象にしていますから,その声は無視できません。

 

石田智史氏
 ロスト プラネットは120fpsで上限を切ってるんですけど,切るなという意見が海外のフォーラムには結構ありましたね。

 

竹内 潤氏
 いろいろなユーザーがいますからね。ベンチマークで楽しむユーザーもいますし。

 

ベンチマークモード「PERFORMANCE TEST」のDirectX 10版

4Gamer
 そういえば,ベンチマークのSnowとCaveは何が違うのかって,はっきりとは明言されていませんよね。カプコンさんとしては,どういった位置づけなのでしょう。

 

石田智史氏
 Snowは普通のゲームプレイにおけるパフォーマンスを見るように作っています。Caveは300以上のオブジェクトが動いてCPUに負荷をかけるベンチマークです。Caveではマルチコアの効果が出ますね。

 

 

4Gamer
 さて,時間も迫ってきたので,まとめに入らせてください。先の取材(※西川善司氏の連載「カプコンに聞く『ロスト プラネット』のグラフィックスオプション」に関連した取材)で,カプコンさんはPCゲームに本気だなと感じたのですが,改めてインテルさんも含めて,PCゲームに対するスタンスを聞かせていただけますか?

 

竹内 潤氏
 PCをゲームプラットフォームとして考えると,これほどのシェアがあるものはありませんから。カプコンはワールドワイドでやっているので,PCのシェアが非常に大きい欧州は無視できないんですね。
 しかし日本では,PCゲームはいまひとつマイナーというか盛り上がりに欠ける。このままでは,日本のゲームパブリッシャだけ置いて行かれるんじゃないか,と……。

 

竹内康人氏
 ワールドワイドでは以前からゲームは(Intelにとって)重要でした。CPUやGPUをふんだんに消費しますから,ゲーム市場はフラッグシップをぶつける市場でもあります。宣伝効果も高いですし,無視できません。
 でも,日本の市場を見ると,おっしゃるとおり,残念ながら盛り上がりに欠けていたんですよね。

 

4Gamer
 何しろ“Celeronが一番売れている国”ですからねぇ。

 

竹内 潤氏
 Celeronでゲームという需要ももちろんあると思うんですよ。韓国ゲームなどがそうで,そういったゲームからPCゲームの世界に入ってくる人もいるでしょう。
 あとこれは個人的な意見ですが,日本では(現在のところ,PCのフィーチャーとして)AVが重視されていますよね。でも,そろそろネタが尽きてくるんじゃないかと。次はゲームが来るんじゃないか,そう思うんです。

 

竹内康人氏
 「Second Life」は,ゲームじゃなくプラットフォームだと主張されているようですが,第2の人生を楽しみたい,バーチャル世界を楽しみたいという人がプレイしてます。ゲームではないけれど軽いゲームのような世界ですよね。そういった方向からPCゲームに入ってくる可能性もあると期待してます。

 

竹内 潤氏
 欧米ではPCが生活に根付いてますよね。Second Lifeはその典型的な例じゃないかと思います。ですから将来,MT Frameworkのようなエンジンが,ゲーム以外にも応用されてくるんじゃないか,という期待はありますね。うちはPCの世界にはいなかったので,PCの世界が非常に楽しそうに見えるんですよ。

 

伊集院 勝氏
 先ほども話に出ましたが,ロスト プラネットでも,ベンチマークのスコアや,処理の内容,CPUの違いという話題が盛り上がってますよね。ゲームじゃないところで楽しんでいる人がいるんだなあと。コンシューマーゲーム機だとあり得ない世界ですね。

 

4Gamer
 ゲーム機というと,MT FrameworkはPCとXbox 360,PlayStation 3(以下PS3)向けですよね。

 

石田智史氏
 ええ。

 

竹内 潤氏
 MT Frameworkで3種類のプラットフォームにまたがる開発が共通化できましたから,今後はできるだけ全プラットフォーム同時発売を目指したいですね。

 

4Gamer
 それぞれのプラットフォームはかなり異なりますから,共通にするのは難しかったのではないですか?

 

石田智史氏
 ゲームキューブやPlayStation 2(以下PS2)の頃と比べると,共通化はやりやすくなっていますよ。PCとXbox 360なら同じシェーダコードが使えますし。同じシェーダコードで同じビジュアルが再現できるのは大きいですね。

 

4Gamer
 ただ,CPUは三つのプラットフォームでかなり違っていますよね。

 

伊集院 勝氏
 というか,一つ(※PS3のこと)だけ飛び抜けて違っているという(笑)

 

4Gamer
 ただ,Xbox 360とシェーダコードを共通化できるとはいえ,やっぱりPCとゲーム機は違いますから,PC版なりの苦労はあったんじゃないでしょうか? 例えばPCといっても個々のハードが違いますよね。それこそ,CPUやらグラフィックスカードやら。世代の違いも大きい。古いPCでゲームしたいという人もいますが,このあたりはどう考えられました?

 

竹内 潤氏
 PC版の話を持っていったときに,最初に伊集院が顔をしかめたのもそこだったんですよ。どこまで対応すればいいのかという。

 

伊集院 勝氏
 それで騙されたんですよ(笑)。
 最初は「DirectX 10だけでいい」って言われて,それを開発陣に持っていったら「その条件ならできます」と。「じゃあ,その条件でいこう」とやってたら,あとでコソコソと「やっぱりDirectX 9もいるんじゃないかなあ」って(笑)
 それに最初はNVIDIAだけでいいって話だったんですけど,後で「やっぱりATI(※ATI Radeonのこと)にも対応したほうが……」ですから(笑)

 

石田智史氏
 (ATI Radeonに)対応しなかったら対応しなかったで,クレームの嵐だったでしょうしね。

 

竹内 潤氏
 結果,立派なPC対応になったじゃないですか(笑)
 結果良ければすべてよし,と。

 

 

 

開発に携わっているからこそ見える
クアッドコアCPUの真実

 

 カプコンとインテルの両方から意見を出していただいたことで,いろいろと興味深い話を聞けたが,特別印象に残ったのがCore 2 QuadのL2キャッシュ問題だ。

 

Core 2 Quad(Kentsfieldコア)の概要

 PCのテクノロジーや業界動向にも興味を持つ読者なら,現在のCore 2 Quadが俗に「なんちゃってクアッドコア」と呼ばれているのを知っているかもしれない。二つのデュアルコアCPUダイを一つのCPUパッケージ化した構成だからだ。一般のPCメディアなどでも「効率には問題がある」と指摘されてきたが,実際にのどくらい効率が悪いのか,具体的な話はこれまであまり出てこなかったと思う。

 

 しかし,カプコンのMT Framework/ロスト プラネットの開発者達は,この問題に現実にぶつかり,対応せざるを得なかったことが分かる。
 実際には,依存性が小さな(独立性が高い)マルチスレッドであれば,L2キャッシュ問題はさほど深刻にならない。依存性が大きい複数のスレッドを走らせるゲームだからこそL2キャッシュ問題が大きく表面化したのだろうと思われるが,MT Framework,そしてロスト プラネットの例は,Core 2 Quadの可能性と限界を同時に見せた,貴重な例といえそうだ。

 

 また,この問題をクリアするため「スレッドをコアに貼り付ける」ことを実際に試みたというのには(少々)驚かされた。筆者のような素人プログラマなら,諦めてさっさと投げ出すところだが,ゲーム開発者達はパフォーマンスを上げるために,ありとあらゆる手段を試しているようだ。……彼らにとっては当たり前なのかもしれないが。
 「最適化」と聞くと,我々は根拠もなく依怙贔屓(えこひいき)っぽい匂いを感じてしまいがちだが,そこで実際に行われていることは,ゲーム開発者とハードウェアの格闘である。こうした見えない努力の結果として,MT Frameworkという国産ゲームエンジンが完成したのだ。

 

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タイトル ロスト プラネット エクストリーム コンディション
開発元 カプコン 発売元 カプコン
発売日 2007/07/12 価格 7340円(税込)
 
動作環境 OS:Windows XP/Vista(+DirectX 9.0c以上),CPU:Hyper-Threading Technology対応Pentium 4以上[Core 2 Duo推奨],メインメモリ:512MB以上[1GB以上推奨](Windows Vistaでは1GB以上[2GB以上推奨]),グラフィックスチップ:GeForce 6600以上(GeForce 7300を除く)[GeForce 8600以上推奨],HDD空き容量:8GB以上,ネットワーク環境:1Mbps以上,ゲームパッド「Xbox 360 Controller for Windows」の利用を推奨

Character Wayne by (C)Lee Byung Hun /BH Entertainment CO., LTD, RIGHTS RESERVED. (C)CAPCOM CO., LTD. 2006,2007 ALL RIGHTS RESERVED.

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