― 特集 ―

ATIとNVIDIAが語る2005&2006年 ATI編

 二大グラフィックスチップメーカーとして,熾烈な戦いを繰り広げているATI Technologies(以下ATI)とNVIDIAに,2005年の回顧と2006年の展望を聞く本特集。後編として,2005年12月20日に席を設けてもらったATIについてお届けしたい。最後に一矢報いたとはいえ,NVIDIAに対して,2005年はほぼ終始リードを許してしまった印象のATIだが,まずは,なぜこうなってしまったのかを振り返ってみよう。

SM2.0で堪えしのいだ2005年前半

 プログラマブルシェーダ2.0(Shader Model 2.0,以下SM2.0)仕様の継続――。
 2004年に下された,この驚くべき決定が,2005年になってATIを苦しめた。競合のNVIDIAが2004年春の時点でGeForce 6800 Ultraを発表し,早々にプログラマブルシェーダ3.0(Shader Model 3.0,以下SM3.0)へ移行したのに対して,ATIはほぼ同じタイミングで発表したRadeon X800シリーズで,SM2.0にとどまったのだ。2004年末には,リファイン版であるRadeon X850シリーズを投入してきたATIだが,「+50」の型番が示しているように,大きな技術的革新がないまま,2005年を迎えてしまった。

いつも率直なコメントを提供してくれる信垣育司氏

 ATIテクノロジーズジャパンのマーケティング部 部長 信垣育司氏は,「確かに苦しい戦いでしたね。GeForce 6600シリーズが強かった」と,この点を素直に認める。

 Radeon X800/X850シリーズは,ハイエンドクラスであるにもかかわらず,華のあるイメージが足りなかったように思う。「次世代スタンダードのSM3.0へ移行する」NVIDIAに対して,ATIの「SM2.0を熟成させる」というスローガンは,ハイエンドGPUには似つかわしくなかったともいえるだろう。

 「ただし,ハイエンドクラスでも人気商品はありました。それがRadeon X800 GTやGTOですね。公式にはまったく触れていませんが,“その筋”の人達にはかなりの人気を呼んだようで(笑)。両製品は,臨時モデルという位置づけなのですが,GeForce 6600シリーズを相手に,いい戦いをしてくれたと思っています」(信垣氏)

 かなり含みのある言い回しのため,何を言っているか理解できなかった読者も多いかと思うので,補足しておきたい。
 Radeon X800 GTやRadeon X800 GTOは,もともと16ピクセルシェーダ仕様であるグラフィックスコアのうち4基分を不活性化し,12ピクセルシェーダのグラフィックスチップとしてリリースしたものだ。製造上の問題などで16ピクセルシェーダとしての定格動作に合格できないものを,より低いスペックのグラフィックスチップとして投入するというのは,グラフィックスチップの世界ではよくある手法である。

Radeon X800 GTOを搭載し,ファンレスを実現したSapphire Technology製「Sapphire RADEON X800GTO ULTIMATE 256MB」

 しかし,Radeon X800 GT/GTOについては,ファームウェアと呼ばれるソフトウェアを書き換えることで,不活性化されている4基を“生き返らせる”方法が,ユーザーコミュニティによって発見されたのだ。
 実は,これはATI製品ではよくある話。「Radeon 9500の9700化」を覚えている人も少なくないだろうが,ATIはメインストリーム市場において,これまでも何度か,比較的簡単な改造によって性能をアップさせられるようなグラフィックスチップを投入してきている。
 そして今回は「Radeon X800 GTがR423(つまりRadeon X850)コア,Radeon X800 GTOがR480(Radeon X850 XT)コアだから,後者のほうが耐性は高い」などといった情報が飛び交った。ある意味,ATIの狙いどおりにコトが運んだわけだ。“当たり”を引けば,メインストリームクラスの出費でハイエンドクラスのパフォーマンスを獲得できるのだから,流行したのも当然といえば当然。SM3.0を前提とするゲームタイトルが小数派だった2005年において,最高クラスのSM2.0性能が得られる(かもしれない)Radeon X800 GT/GTOは,確かに夢のある製品だったといえるかもしれない。

Radeon X1000シリーズで
全レンジ最新モデル攻撃

ATIのJason Mitchell(ジェイソン・ミッチェル)氏が,GDC 2005でSM3.0に関するセッションを行った。ちなみに同氏は,GDC 2005の直後,Valve Softwareへ電撃移籍している

 こういった動きと前後して,ATIは2005年の春にあったGame Developers Conference 2005(GDC 2005)で,自分たちがSM3.0対応ハードウェアを持っていない状態にもかかわらず,SM3.0関連のセッションを行った。
 これは主に,Xbox 360用のグラフィックスチップを想定したセッションだったのだが,このあたりから,「ATIのSM3.0」へ期待が高まっていく。

 そして,ATI初のSM3.0対応グラフィックスチップである,Radeon X1000シリーズが,記憶に新しい2005年10月に発表された。
 遅れに遅れただけあって,ATIはバリュー,メインストリーム,ハイエンドの全レンジへ一斉にRadeon X1000シリーズを投入してきた。「6」「7」という数字を持つため,同じSM3.0世代でありながら,どうしても前者に古いイメージを持たれてしまうGeForceに対して,Radeon X1000シリーズは,SM3.0の新世代へ一気に移行したイメージの創出に成功したといえるだろう。

Radeon X1600 XTリファレンスカード。実際の製品もほぼ同じ形状をしている

 信垣氏は,Radeon X1000シリーズの現状について,以下のように述べる。
 「3DMark05のスコアとコストを考えたとき,コストパフォーマンスはダントツでRadeon X1600 XTが高い。コストパフォーマンスの高さで人気が高いGeForce 6600 GTですが,Radeon X1600 XTと同じ,256MBのグラフィックスメモリを搭載するモデルは,あまり買い得感が高くないんです」
 確かに,4Gamerで行ったベンチマークテストの結果を見る限り,3DMark05におけるRadeon X1600 XTのスコアは非常に高い。ただ,まだ実ゲームタイトルにおいては,練り込みが足りない印象も受ける。Radeon X1600シリーズの人気がどこまで上がるかは,今後のドライバの作り込みいかんにかかってくるだろう。

 さて,Radeon X1000シリーズの登場で旧世代がどうなるのかについてだが,「RADEON X800/X850シリーズは,Radeon X850 Proに統合される形で,PCI Express/AGP版の両方がしばらく残ります」(信垣氏)とのこと。Radeon X800 GT/GTOは,前出のとおり,あくまでGeForce 6600 GT対策品なので,姿を消すことになるようだ。
 ただそうなると気になるのは,復活することになるRadeon X850 Proの立ち位置である。Radeon X850シリーズは,SM2.0世代のハイエンドクラスなので,局面によってはRadeon X1600シリーズよりも性能が高い場合が,十二分に考えられる。
 「そうですね。現行のSM2.0対応3Dゲームを快適に遊びたいなら,確かにRadeon X850 Proがいいと思います。ただし,Radeon X1600シリーズには,SM3.0だけでなく,次世代WindowsであるWindows Vistaに対応すること,高品位映像エンジンのAvivo Technologyを利用できることといったメリットがありますから,将来性を重視するならこちらになるでしょう」(信垣氏)

Radeon X1000シリーズが
VTFをサポートしない理由

 SM3.0という意味では足並みを揃えたATIとNVIDIAだが,別記事でも説明したように,まったく同一の仕様とはなっていない。

浮動小数点バッファに対するアンチエイリアシング対応を高らかに謳うスライド

 ATIのRadeon X1000シリーズでは,HDRレンダリングなどで用いられる浮動小数点(Floating-Point)バッファ(レンダーターゲット)においてアンチエイリアシングが可能だ。これは,GeForce 6/7シリーズにはない仕様である。
 一方GeForce6/7シリーズは,Radeon X1000シリーズで見送られた,SM3.0の目玉機能とされる頂点テクスチャリング(Vertex Texture Fetch,以下VTF)に対応する。VTFとは,簡単にいうと,頂点シェーダ(Vertex Shader)にテクスチャへのアクセス能力を持たせる機能のこと。テクスチャに変移データを入れておき,これで各頂点を変移させて3Dモデルを別形状に変形させたりする「ディスプレースメント・マッピング」(Displacement Mapping)が,代表的な活用例といえる。頂点シェーダの応用性や可能性を押し広げるものとして注目されてきたのが,VTFなのだ。

 「Radeon X1000シリーズがVTFに対応しないのは,ATIのアーキテクト(設計者)の判断ですね。誤解しないでほしいのは,VTFに“対応できなかった”のではなく,“あえて対応しなかった”ということです。
 SM3.0となってさまざまな新機能が紹介されましたが,そのすべてに対応しなければならないということはありません。
 VTFは,確かにユニークな機能として紹介されましたが,対応するゲームタイトルはほとんどありません。そんな状況にあって,VTFのためにトランジスタを割くべきかどうかという判断を迫られたときに,我々のアーキテクトは『それよりも……』と別の部分に力を注いだわけです」(信垣氏)

 「別の部分」というのは,前述した浮動小数点バッファのアンチエイリアス処理や,あるいはシェーダの投機実行分岐,1要素テクスチャの非可逆圧縮メソッド「3Dc+」といった,Radeon X1000シリーズならではの部分のことだろう。このあたりの新機能については,筆者の連載で「ATI,Radeon X1000シリーズ発表でSM3.0世代に突入」として解説しているから,ぜひ参考にしてほしい。

「Pacific Fighters」の画面ショットによる比較を再掲。詳しくはNVIDIAに話を聞いた別記事を参照のこと

 VTFに関して同じ質問をNVIDIAにしたところ,別記事で紹介しているように,彼らは右のスライドでその重要性を訴えてきたわけだが,VTFは本当に切り捨ててしまってかまわない機能なのだろうか。
 「このスライドにある『Pacific Fighters』の波表現はVTFによるものらしいですが,VTFを使わなくてもこの表現は可能です。ほかにやり方があるから,VTFがあまり使われないのかもしれません」(信垣氏)

 Pacific Fightersでは,まず,ピクセルシェーダ(Pixel Shader)で波動シミュレーションを行い,その結果をテクスチャ上に波の高低データ(Height Data)として生成。次のパスで頂点シェーダがこのハイトテクスチャを料理してディスプレースメント・マッピングを行うという流れに,なっていると思われる。このVTF活用では,テクスチャを媒介にして頂点シェーダとピクセルシェーダを相互連携させるというイメージだ。
 信垣氏がいう「ほかのやり方」とは「頂点バッファレンダリング」(Render to Vertex Array,以下RTVA)のこと。次のパスで処理するべき頂点情報ストリームを,ピクセルシェーダ側で生成してしまおうというアクロバティックな方法である。
 現実問題として,RTVAとVTFは実装方法がまったく異なる。そして,Radeon X1000シリーズはVTFをサポートしていない。となると,ある頂点特殊効果を実現するのに,ゲームスタジオ(デベロッパ)がVTFを積極的に採用する理由は見当たらなくなる。

RTVAを活用して行った,布と球体の衝突シミュレーションの例。ご覧のとおり,RTVAはNVIDIAのGeForceシリーズでも行える

 ただし。
 別記事で書いたように,ATIが設計するXbox 360のグラフィックスチップは,VTFに対応している。要するに,開発コードネームR600世代の次世代Radeonでは,VTFに対応してくる可能性がかなり高いのだ。
 とどのつまりは「Radeon X1000シリーズではVTFをひとまず見送った」ということなのだろう。

CrossFireの進むべき道

CrossFireの接続イメージ。ハイエンドカードでは,専用ケーブルを同梱するCrossFire Editionを追加で購入すると,CrossFire動作が可能になる

 NVIDIAが2004年に発表したNVIDIA SLI(以下SLI)は,世界中のベンチマーク好きやゲーマーの注目を集めた。
 SLIの登場以降,デュアルグラフィックスカードソリューションは,長らくNVIDIAの独り舞台だった。そこに待ったをかけるべく登場してきたのが,2005年6月に発表されたCrossFireだ。
 ATIとNVIDIAの戦争に,グラフィックスカード2枚差しという,新たな戦場が設けられたわけである。

 CrossFireが持つ仕様上の特徴は,ハイエンドモデルでは「CrossFire Edition」という,特殊なインタフェースを持つ専用カードが必要になる点と,バリュークラスのグラフィックスカードでも動作がサポートされている点にある。NVIDIAは,純粋なバリュークラスの製品におけるSLIの可能性を否定しているが,ATIがRadeon X1300のCrossFireをサポートした理由は何だろうか。
 「バリュークラスのカードを2枚買うくらいなら,メインストリームカード1枚に買い換えたほうがパフォーマンス的にはマシという意見は確かにあります。ですが,最初は1枚で,ちょっとしたお小遣いが出きたときにもう1枚買い足せるというのは,バリュークラスのグラフィックスカードを利用するユーザーにとっても,十分魅力的だと思います」(信垣氏)
 2005年末時点では,異なるスペックのRadeonでCrossFire動作させると,「低いスペックのカード×2」になってしまう。これをうまくバランシングして,2枚のカードそれぞれの最大性能を引き出せるようになれば,バリュークラスにおいてもCrossFireは魅力的になるはずだ。こういう可能性については「技術的には可能なのかもしれませんが,現時点でそういう対応がなされるという情報はありません」とのことだった。

 さすがにプログラマブルシェーダの世代が異なったりすると難しいだろうが,同世代でシェーダ数や動作クロックが異なるくらいなら,描画領域を動的に振り分けるといった対応は可能なようにも思える。とくにメインストリーム以下のグラフィックスカードは各社製品間で動作速度が異なる傾向にあるから,SLIにせよCrossFireにせよ,「2枚差し」は今後,そういう方向で進化して,ユーザー数を増やしにかかるのではないだろうか。

 また,NVIDIAが自ら率先して行うことを否定した,1枚のカードに2個のグラフィックスチップを搭載するソリューションについては,面白い回答が得られた。
 「製造プロセスがシュリンクしても,トランジスタ数が増大して集積度が上がれば,いわゆる熱密度(発熱の集中度)が高まっていきます。そうなれば,1個の桁外れに熱い,大規模のチップを作るよりは,マルチチップ的なソリューションにして,発熱を分散させるというアイデアは出てくるかもしれませんね」(信垣氏)。もっとも,「ハイエンドのグラフィックスチップでこれをやると,どれくらい電気を喰うんだという話にもなりますが(笑)」だそうだが。

 この先,製造プロセスは80nmや65nmへ進化していく。ある時点でこの微細化技術に限界が来たとき,発熱や製造上の歩留まりの問題などから,大規模な1チップのグラフィックスチップを作るよりは,そこそこの規模のグラフィックスチップを複数個組み合わせて高性能を目指したほうがいい,ということになるかもしれない。その場合,1枚のカードに複数のグラフィックスチップというのは,「ギミック的なネタ」ではなく,「必要に迫られた設計」になってくるかもしれないというわけである。これは興味深い話といえよう。

AXIOMとノートPCの現在と今後

 先日,Mobility Radeon X1600の発表もあったことなので,ATIのシェアが高い,ノートPC関連についても聞いてみた。
 「ノートPC向けのグラフィックスは非常に好調でした。ノートPC用のディスクリート(単体)グラフィックスチップでNVIDIAを使っているところといえば,東芝やソニーくらいですからね。国内のノートPCにおいては,ATIが席巻していると言ってもいいくらいです」(信垣氏)

エンドユーザーが目にする機会はまずなくなったと思われるAXIOMモジュールについてのスライド

 ノートPCの交換可能型(Replaceable)グラフィックスソリューションとして,ATIは「AXIOM」(Advanced eXpress I/O Module)と呼ばれるモジュール化ソリューションを提唱していた。あれは一体どうなったのだろう?
 「台湾では,一部のノートPCメーカーで採用例があります。ただ,ユーザーレベルで差し替えられるというわけではありません。これは,熱設計がシビアだからですね。『交換したら,排熱基準を満たせませんでした』では,故障につながってしまいますから」(信垣氏)

 ではなんのための交換型モジュールなのかというと,同氏は「BTO(Build to Order)や,輸出国の市場性に対応するためです。世界には地域によって,ATIが強いところや,NVIDIAが強いところがあります。グラフィックスチップがカード化していれば,共通のマザーボードで,市場に合わせたノートPCを提供できるわけですから,在庫リスクを最小限にできるというわけです」と説明する。

MXMモジュールの実物(サンプルだが)。写真はNV41Mコアを搭載しているので,GeForce Go 6800モジュールということになる

 筆者調べだと,「日本ブランド」のノートPCのほとんどを請け負うなど,世界のノートPC市場をリードする台湾のノートPCメーカーの間では,AXIOMと同じようなコンセプトを持つ,NVIDIAのMXM(Mobile PCI Express Module)が主流になりつつある。この点はどうだろう。
 「AXIOMでは,エンドユーザー側で交換可能なところまで視野に入れて設計しているため,コネクタが高品位で,回路設計にも余裕を持たせてあります。
 ただ,ノートPC業界で,『モバイル用のグラフィックスカードをユーザーに交換させる』という具体的な形が見えてきていません。むしろ,『どのグラフィックスチップを採用して出荷するか』という,ファクトリーオプション(=メーカー側の出荷時オプション)にとどまっています。この流れの中で,コストの低いMXMが選ばれつつあると。これは世の常ですけど,必ずしもいいものが選ばれるというわけではないんですね(笑)」(信垣氏)

 量販店の店頭などを見る限り,コンシューマ用途では,明らかにノートPCが優勢だ。ノートPCでゲームというのも,今でこそまだ特殊だが,近い将来には,より一般的な選択肢となってくるだろう。そうなれば,ノートPCで最高のグラフィックス性能を獲得するためにデュアルグラフィックスチップ動作を望む人が出てきてもおかしくはない。

 ノートPC用でMobility RadeonのCrossFireというのはあり得るのだろうか。「チップセットがデュアルグラフィックスカードに対応していれば,技術的にはもちろん可能です。デスクトップ代替のDTR(DeskTop Replacement)ノートPCなら,やり出すメーカーが出てくる可能性はあるでしょうね」という信垣氏に,理由を聞いてみた。
 「先ほどの,1枚のカードで2個のグラフィックスチップという話ともリンクしてきますが,2個だと熱分散できるというメリットがあります。
 1個のMobility Radeon X800と,2個のMobility Radeon X700で比較したとき,トータルの発熱量とパフォーマンスがほぼ同じとしましょう。このとき,後者だと,発熱する部分を2か所に分散できるわけです。これは,ノートPCの熱設計のしやすさにつながります。高熱が集中するとヒートシンクの厚みが必要になりますけども,そこそこの発熱量に収まった形で分散するなら,ヒートパイプを使ったりすることで対応できますしね」

 ATIによれば,海外のノートPCメーカーでは,すでに検討しているところがあるとか。本体重量4〜5kgクラスのビッグサイズらしいので,日本に入ってくる可能性は低そうだが。

「NVIDIAのULi買収が
ATIに与える影響はほとんどない」

サウスブリッジとしてULiのM1573を搭載する,MSI製のRadeon Xpress 200P CrossFire Edition搭載マザーボード「RD480 Neo2」

 NVIDIAにも同じ質問をしたが,NVIDIAがULiを買収したことは,ATIにどういう影響を及ぼすだろうか。NVIDIAの答えは別記事を参照してもらうとして,やはり,Radeon Xpressチップセットにおける,ULiの存在は大きいように思う。サウスブリッジは,周辺機器接続のゲートウェイとなる重要なチップだが,初期のATI製サウスブリッジは,お世辞にも安定性に優れていたとはいえなかった。M1573などのULi製サウスブリッジが,そういう経緯でRadeon Xpressマザーボードに採用されているだけに,ATIのチップセットビジネスへの影響は,どうしても勘ぐらざるを得ない。
 だが,信垣氏はこの考えを否定する。「Radeon Xpress搭載マザーボードで,ULi製サウスブリッジを採用しているのは,今や全体の1割以下です。ATIのサウスブリッジ『IXP』も,安定度は問題ないレベルまで持ってきていますから,ATIとして,直近で何かしらの影響が出るとは考えていませんね」とのことだ。また,ULi製サウスブリッジを採用する現行製品は,これまでどおり継続供給されるという。

早い時期に次のRadeonが登場し,
続けてWindows Vistaへ

 2005年末時点におけるATIのハイエンド,Radeon X1800 XTは,GeForce 7800 GTXとほぼ互角のパフォーマンスを叩き出している。ただ,NVIDIAはRadeon X1800 XTの登場を待っていましたとばかりに,GeForce 7800 GTXのウルトラオーバークロック版とでもいうべき,GeForce 7800 GTX 512を投入してきた。
 筆者が話を聞いた,あるグラフィックスチップ業界の関係者は「あれはクレイジーだ。駆動電圧,クロック,発熱などの面において非常に危ないバランスのところで動作していると思う」とまで言っていたほど。ただ――数は少ないが――複数のカードメーカーから登場し,購入できる状態である以上,揶揄的な意味での“PE”(PE:Phantom Edition,あるいはPress Edition)=幻,というわけでもない。

国内発表会前日は台湾にいたというRick Bergman氏。先日のMobility Radeon X1600発表会では,「開始時刻にはまだ成田空港」でありながら,終盤に涼しい顔で壇上に上がっていた

 これに対して信垣氏は「向こうがそういう手を打ってきたことは,もちろん認識しています。今は多くを語れませんが,2006年の,比較的早い段階で対応できるのではないかと考えています」と述べる。
 すでにネット上では,Radeon X1800のリファイン版,開発コードネームR580の噂が駆けめぐっている。噂の真偽はともかく,12月上旬にあったMobility Radeon X1600の発表会で,ATI本社の上級副社長,Rick Bergman(リックバーグマン)氏に聞いたところ,「GeForce 7800 GTX 512の登場には焦りを感じていない」と言っていたので,どうやら2006年の,かなり早い段階でのR580投入がありそうな気配だ。

 さて,2005年後半にはSamsung Electronicsが2.5GHz相当,Hynix Semiconductorは2.9GHz相当で動作するGDDR4メモリを発表している。これらがATI,あるいはNVIDIAの次期ハイエンドグラフィックスカードで採用されるのはまず間違いないが,ATIの対応は大丈夫なのだろうか。これについて信垣氏は,問題ないと胸を張る。
 「Radeon X1800シリーズのリングバスメモリコントローラは,公式にGDDR4対応を謳っています。実は,Radeon X1800シリーズの登場が遅れたのは,3Dコアではなく,リングバスメモリコントローラの完成度を上げるためだったんですよ」

 そもそも,Radeon X1800シリーズのリングバスメモリコントローラは,2GHz相当以上の高いデータレートを持つ,高速グラフィックスメモリへの対応を主眼に設計されている。Radeon X1000シリーズ後継製品のGDDR4対応は,かなり迅速に行われると見ていいだろう。

 その後継製品が出て,しばらく経つと,2006年中にはWindows Vistaが登場予定だ。将来の製品については何も言えないという信垣氏だが,「MicrosoftはWindows VistaでDirectX 10を導入すると言っていますが,タイミング的に,Windows Vistaが登場する時点で,DirectX 10のハードウェア要求を満たすグラフィックスチップは存在しないんです。Windows VistaにDirectX 10のランタイムは載ってきますが,ハードウェアを駆動するものではないといわれています」と,一歩踏み込んだ見解を聞かせてくれた。
 「2007年第二四半期に,MicrosoftはWindows VistaにおけるDirectX 10のハードウェアサポートを必要事項として要求してくるといわれています。ですから,鬼も笑う長期的な見通しをするなら,2007年第二四半期までには,グラフィックスチップがDirectX 10のハードウェアアクセラレーションに対応するでしょう」(同氏)。
 この意味で,DirectX 10のハードウェアアクセラレーションを要求されない,現行のRadeonやRadeon Xpressは,完全に「Vista Ready」という。もちろん,DirectX 10のハードウェアアクセラレーションに対応したグラフィックスチップの開発は行っているとのことだ。

2006年はSM3.0時代が続く?

 NVIDIA側の見解,そして信垣氏のコメントを聞く限り,Direct X10,あるいはプログラマブルシェーダ4.0(以下SM4.0)世代のグラフィックスチップが,2006年内,もっと言えばWindows Vistaに間に合うかどうかはかなり怪しい。逆に言えば,現世代のSM3.0対応グラフィックスチップは,2006年いっぱい現役で戦えそうだ。

 ただ,ハイエンド指向の人に限っては,2006年前半は製品購入タイミングの判断に悩むかもしれない。ATIのいう「早い段階での対応」が気になるためだ。これがGeForce 7800 GTX 512に反撃するための“弾”なのは明らか。もっといえば,NVIDIAがこの動きに対応して,GeForce 7800シリーズのリファイン版,開発コードネームG75を投入してくる可能性も,かなり高い。
 2006年は,DirectX 9世代の,最終決戦が繰り広げられそうな気配である。(トライゼット西川善司)