― レビュー ―
場所を取らずにリア2chを追加する肩掛けリアスピーカーシステム
X-Woofer
Text by 榎本 涼
2006年8月17日

 

X-woofer
メーカー:GS Electronics
問い合わせ先:GDEX Online Game Store
http://www.gdex.co.jp/
GDEX Online Game Store直販価格:9800円(税込)

 近年,“リアスピーカーのあったほうがいい”ゲームが増えてきている。例えばマルチプレイに重きを置くFPSだと,左右だけでなく,前後,とくに後ろの音をいかに聞き取るかが,勝ち抜くための重要な要素の一つになってきているし,直接的なメリットがないタイプのゲームでも,後ろから音が出ると,臨場感が増すケースは少なくない。
 一方,日本では住宅事情という,大きな問題がある。リアスピーカーを設置するには,その分のスペースを確保しなければならない。また,仮にスペースが確保できたとしても,スピーカースタンドを用意して……となると,スピーカー以外にも追加コストがかかるわけで,勢い,導入のハードルは高いものとなる。

 

 この問題に取り組んで見せたのが,韓国GS Electronics製の「X-woofer」だ。一言でまとめると,X-wooferは,一般的な2chスピーカーに2.1chを追加して,4.1ch化するデバイスである。

 

 

マルチチャネル出力対応のサウンドカードや
オンボードサウンドと組み合わせて利用

 

スピーカーユニットの内蔵されている部分を赤丸で囲んでみた

 では,いかにして,スペースの問題を回避したままリアスピーカーを追加するのかだが,X-wooferの形状がその答えといっていいだろう。X-wooferは,一見ではスピーカーと思えない「コ」の字形になっており,これを首から掛けて使う仕様だ。
 リアスピーカーになるスピーカーユニットは,コの字の“直角部分”に用意されており,首に掛けると,左右のスピーカーは,耳の真下からやや後ろくらいに置かれることになる。

 

 先ほど2.1chを追加すると述べたが,サブウーファ(的な振動ユニット)は,このスピーカー部のすぐ近くに2個用意されており,同期して0.1ch分の働きをする。コの字を形作る突端部はバランスを取るためのもので,別にここが震えるわけではない。
 首掛け以外の使用法が一切考慮されていないためか,可動部がなく,プラスチック製の本体も比較的頑丈な作りとなっており,思ったほど掛け心地が悪くないのは好印象である。

 

X-wooferの使用例。なぜか気持ちよさそうにしている4Gamer編集部の松本隆一は置いておくとして,文字どおり「首に掛ける」だけで装着完了だ。右の写真を見ると分かるように,首に掛けた状態だと,ちょうどスピーカーが耳のほうを向くようになっている

 

X-wooferのリモコン部

 X-wooferからは長さ1m程度のケーブルが伸びており,これをX-wooferの電源オン/オフおよびリアスピーカーボリューム&振動量調整機能付き専用リモコンと接続して用いる。リモコンは軽量ながらサイズは実測で50(W)×120(D)×30(H)mmと,かなり大きめだ。
 このリモコンからは,電源ケーブルと,PCとの接続に用いるステレオミニピンが伸びる。サウンドケーブル側の長さは約1.8m。X-woofer本体に付属するケーブルと合わせて2.8mになり,やや長すぎるので,利用時にはケーブルを束ねるなどの対応が必要になるだろう。

 

X-wooferと,パッケージ同梱品を並べてみた。リモコンはミニピン接続だが,それをアナログRCAのステレオ1系統へ変換するケーブルも付属する。リモコンと接続するACアダプタが日本仕様でないように見えるが,これは筆者が試用した個体のみで,「実際に販売されている製品は日本仕様」(GDEX Online Game Store)とのこと。なお,写真中央手前に見えるものは,本体を引っかけて保管するための壁掛けである

 

 似たような製品が見当たらないため,接続が難しそうに感じるかもしれないが,実際には非常にシンプルだ。

 

 X-wooferの動作に必要な条件は,サウンドカードやマザーボードのオンボードサウンドが,アナログマルチチャネル出力に対応していること。Sound Blasterシリーズを利用しているなら(よほど古い製品でもなければ)問題ないし,いわゆるゲーマー向けPCでも,この条件はたいていクリアできるはずだ。
 X-wooferの黄緑色ステレオミニピン端子を,条件を満たしたPCのリアスピーカー出力端子と接続し,別途ACアダプタから給電を行うだけで,ハードウェア的には使用可能な状態になる。あとは,サウンドカード側のアナログ出力設定を,4.1ch(もしくは4ch)に設定するだけだ。サウンドカード側の設定を適切に行わないと,センタースピーカー分,あるいはリアスピーカー分の音が聞こえなくなってしまうことがあるので,この点は要注意。
 問題なく設定してあれば,リアスピーカー分の音はX-wooferのスピーカーユニットから再生され,重低域はX-wooferの振動ユニットによって振動として表現されることになる。

 

同梱の分岐アダプタ

 だが,実は――というほど大げさな話でもないが――物理的には,2ch出力しかできないPCにもX-wooferは接続できる。先ほど挙げた写真をよく見てもらうと分かるように,X-wooferにはステレオミニピンの分岐アダプタが同梱されているからだ。分岐アダプタを利用すれば,PCの2chサウンド出力を,手持ちの2chスピーカーと,X-wooferへ分けて,両者から同じ音を出せるのである。もっといえば,X-wooferをメインのスピーカーとして利用することだって可能だ。
 ただし,これらはお勧めしない。理由は後ほど説明しよう。

 

 

リア出力により情報量は確実に増加
音質は決して高くない

 

 ハードウェアを概観したところで,試聴テストに入っていこう。まず,出力機器だが,2006年7月7日時点の最新ドライバ(2.07.0004)を適用したサウンドカード「Sound Blaster X-Fi Elite Pro」を利用。同サウンドカードのフロント出力端子とリア出力端子から,アナログケーブルでMackie Design製アナログミキサー「Onyx 1220」に接続し,そこからフロント2chをDynaudio Acoustic製モニタースピーカー「BM6A」に接続,リア2chをX-wooferに接続した。テスト環境の都合上,アナログミキサーという,4Gamer読者にはあまり馴染みのないデバイスを介しているが,これはあまり気にしなくていい。
 なお,言うまでもないことだが,製品の性質上,X-Fi EPのコントロールパネルからアナログ4ch出力設定を行い,フロントスピーカーとX-wooferによる4ch再生でテストしている。

 

テスト環境の接続イメージ。アナログミキサーを無視してもらうと,おおよそ「一般的なサウンド環境のPC」である。このように接続すると,プレイヤーには,手持ちのスピーカーからフロント2chが,X-wooferからリア2chの音が,それぞれ聞こえるようになる

 

 というわけで,まずはX-wooferがもたらすメリットから。
 X-wooferを追加することにより,サラウンド効果は確実に出る。ハウジング部に複数個のスピーカーユニットを内蔵したゲーム/AV用の,いわゆる“リアルサラウンドヘッドフォン”を筆者はこれまでいくつか試しているが,少なくとも従来のこういった製品よりは,X-wooferのほうが,サラウンドの効果は高い。

 

 サラウンドの効果について,もう一歩踏み込んで説明しておきたい。
 AV用のサラウンドスピーカーシステムは,どちらかというと「音に包み込まれる感じ」を演出することが多いが,X-wooferだとそれは少ない。むしろ,リアスピーカーを絡めた「定位移動」(例えば左前から右後ろへの“音の移動”など)がはっきり分かる。もっといえば,プレイヤーの後ろで何が起きているのか認識しやすいのである。

 

 一般的なマルチチャネルスピーカーシステムを使っていて,ゲームプレイ時にリアの音を認識しづらいと感じている人は少なくないと思う。この点X-wooferなら,耳のすぐ後ろで音が出力されるので,一般的なリアスピーカーよりも音をはっきりと認識できる。
 冒頭で挙げたFPSのように,リアスピーカーの出力する音情報がプレイしやすさに直結するようなゲームでは,X-wooferは非常に有用だ。

 

 一方,気になったのは,「高低,どのくらいの範囲の音を出力できるか」を示す周波数特性が,カタログスペックの450Hz〜20kHzよりも狭く感じられたこと。低域の下限である450kHzはともかく,高域は音楽的に聞こえなかった。
 厳密な波形分析を行っているわけではないから「そもそも出力されていない」のか,はたまた「出力されているが,中域が強すぎて聞こえない」のかまでは断定できないが,いずれにせよ,BGMなど,楽器音の再生にはまったくもって不向きである。

 

 ちなみにこの音質の低さが,2ch出力環境でのX-wooferの利用を勧めない理由でもある。フロントスピーカーとX-wooferで同じ音を再生すると,前者のほうが音質的に上である場合がほとんどだと思うが,このとき,X-wooferの音がフロントスピーカーの音に重なり,後者の音質が台無しになってしまうのだ。また,X-wooferをメインのスピーカーとして用いるには,そもそも音質が悪すぎて,話にならない。

 

 次に振動機能についてだが,こちらはカタログスペック上,40〜300Hzをサポート。この帯域の低い音がX-wooferに入力されると,振動機能が働いて,その強弱(≒音の大きさ)や長さに応じて,ブルブルと震える。従って,ゲーム中に地鳴りなど「ゴー」という音が鳴ると,その間X-wooferはずっと振動しつづけるのである。しかも悪いことに,振動のパワーが低く,サブウーファがもたらすような振動の衝撃のようなものはない。貧弱にプルプルと震えるだけで,テスト中にも,振動機能をただ鬱陶しいだけと感じることが多々あった。
 大きな振動を嫌う人もいたりするなど,振動を心地よく感じるかには個人差があるが,「あまり震えない」のは事実。この点は覚えておくといい。

 

 

徹頭徹尾ゲーム中の情報重視なら
一考の価値あり

 

製品パッケージ

 そろそろまとめたいと思うが,X-wooferは,マルチチャネルスピーカーシステム対応のサラウンド出力対応ゲームを,2chスピーカーでプレイしている人には,十分勧められる製品だ。
 リアスピーカーが,フロントスピーカーから距離を置いて耳のすぐ近くにあるため,一般的なリアスピーカーやリアルサラウンドヘッドフォンよりも,“音がどこへどう動いたか”という「情報」の入手しやすさは格段に高まる。X-wooferは,スペースの都合でリアスピーカーを置けない人のためのものだが,手持ちのサラウンドシステムで今一つサラウンド感を味わえない人も,試してみる価値があるといえる。

 

 ただし,せっかく買ったのだから……とほかの用途に使い出すと,音質の低さが露呈する点は,十分に認識しておきたい。取り扱っているGDEX Online Game Storeの店頭価格は9800円と,必ずしも安価なデバイスではないので,自分の目的にX-wooferが合致するかどうか,よく検討するといい。

 

 とにもかくにも,肩掛けリアスピーカーというのは非常にユニークな製品である。音質を改善した上位モデルのようなものがもし出てきたら,改めてテストしてみたい。

 

タイトル サウンドデバイス
開発元 各社 発売元 各社
発売日 - 価格 製品による
 
動作環境 N/A


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/x-woofer/x-woofer.shtml