― レビュー ―
Cherry製スイッチ採用の“軽い”メカニカルキーボード
SteelKeys 6G
Text by 米田 聡
2005年12月22日

 

■キーボードが生死を分けるのだ

 

 PCでゲームをするに当たって,マウスが重要な入力デバイスであることに疑いの余地はない。そもそも,Windowsからして,マウスによる操作を前提に作られており,Windows上で動作するPCゲームも,多くがマウス操作を必須とする。

 

 だが,マウスにだけ注目すればいいのかといえば,必ずしもそうではない。フライトシムやドライブシムといった,特殊な入力デバイスを必須とするゲームを除くと,ほとんどの場合,プレイヤーはマウスだけでなく,同時にキーボードを使ってゲームを操作することになるからだ。
 そして,マウスだけでなくキーボードも使う以上,ゲームによっては,キーの反応がおかしかったせいで敵の攻撃を回避できず即死……といった事態が十分に起こりえる。本気でゲームと向き合うとき,信用のおけないキーボードを使うわけにはいかないのだ。
 では,どういったキーボードがゲーマーに向いているのだろうか。これまで4Gamerではキーボードレビューを行っていなかったので,まずはキーボードという入力デバイスについて少し説明してみたい。

 

 

■キーボードの仕組みを理解する

 

キーボードマトリックスの概念図。灰色の四角がマイクロコントローラのイメージである

 見れば分かるといわれそうだが,改めて定義を確認しておくと,キーボードというのは,「キーコード」と呼ばれる,キー一つ一つに対応した情報を,ユーザーが押下した順番にPCへ送信するデバイスである。
 キーにはそれぞれ「スイッチ」が用意され,キーボードの内部にある格子状の配線「キーボードマトリックス」とキーとの間に配置されている。プレイヤーがあるキーを押すと,キーボード側ではスイッチが押され,格子状配線の1点が導通するわけだ。その導通は,キーボードに内蔵される「マイクロコントローラ」という小型のCPUによって順繰りにサーチされており,導通が検出されると,押されたキーに対応したキーコードが(USBやPS/2といったインタフェースを介して)PCに転送される。

 キーを押すと,キーボードごとに音が違うが,これはスイッチの種類が異なることに起因している。スイッチの種類は使い勝手に大きく影響するので,この違いを理解しておくのは,ゲームのためのキーボード選びにおいて,きわめて重要なことだ。
 PC用キーボードで採用されているスイッチには,大きく分けて以下の3種類がある。

 

メンブレンスイッチ

 最も広く使われているスイッチで,重なった2枚のシート基板の接点部分を,バネやゴムで押して導通させる構造だ。構造が簡単で量産しやすいため,安価なキーボードはほぼ例外なくこのメンブレンスイッチを採用している。
 メンブレンスイッチでは,多くの場合「ラバードーム」と呼ばれるゴムキャップをバネとしてを採用するため,ソフトなキータッチのキーボードが多い。
 「疑似メカニカル」と呼ばれる一部の高級品では,ラバードームの代わりにスプリングなど金属製のバネを採用し,耐久性を高めたものもある。とはいえ,繰り返し押下することによる,接点部分の劣化は避けられないので,相対的に耐久性はあまり高くない。

 

疑似メカニカルとも呼ばれる,スプリングを採用したタイプのメンブレンスイッチ。ラバードーム(つまりゴム)よりは耐久性が高いが,接点が劣化すること自体は変わらない

 

メカニカルスイッチ

 金属接点を用いたスイッチで,キーボードマニアの間で愛好者の多いタイプだ。その構造上,金属バネが必須となるため,硬質な打鍵感が特徴の製品が多く,カチカチという金属らしい打鍵音を出す製品も少なくない。
 金属接点だけに耐久性は高く,一般にメンブレンスイッチの10倍以上の打鍵回数に耐えるといわれている。一方,メンブレンとは異なり,キー一つ一つに独立したスイッチを使わねばならないので,価格はどうしても高価になる。

 

静電容量スイッチ

 接点の代わりに,キーの押下に伴う静電容量の変化を検出するタイプだ。静電容量とは,金属の板が持つ「電力をためる力」の強弱(≒量)を示す値のこと。金属の静電容量は,何か別の物体が近づくだけで変化するという特性を生かし,「キーが近づく」ことによる容量変化を検出するようになっている。つまり,静電容量“スイッチ”ではあるが,物理的なスイッチはない。キーは,基板と,上下するキートップを支える構造だけで成り立っており,接点不良などのトラブルが原理的には発生し得ないのが特徴だ。
 ただ,単純なスイッチでないため,特別な回路が必要。結果として,採用するキーボードの価格は非常に高くなる。

 

 

■ゲーマーが選ぶべきキーボードとは

 

 このほか,キーボードの打ちやすさを左右する要素としては,キーの堅さがある。この打鍵感は,だいたい以下の3パターンに分類可能だ。

 

  • クリックタイプ:スイッチのオン/オフを指先で感じられるタイプで,打鍵音が大きい
  • リニアタイプ:押しただけでは,どこでスイッチがオンになったか分からないタイプ。打鍵音は小さい
  • タクタイルタイプ:クリックタイプとリニアタイプの中間。押し込むと少しだけカチッとしたフィーリングがあり,打鍵音はリニアタイプ並み。「クリックフィールタイプ」ともいう

 

 メンブレンスイッチの多くがリニアタイプを採用するので,現在の主流はリニアタイプになっているが,疑似メカニカルスイッチを採用するメンブレンだとタクタイルタイプも少なくない。また,メカニカルスイッチを採用するキーボードはクリックタイプが多いが,打鍵音を小さくするため,リニアタイプにしてある製品もある。
 このようにスイッチと打鍵感は必ずしも一致しないので,スイッチは耐久性にのみ関係するものと考えたほうがいい。

 では,ゲーマーはどういったキーボードを選べばいいのか,という話にようやく入っていくわけだが,まず,第一条件としては,耐久性が高く,丈夫であることが挙げられる。つまり,メカニカル,あるいは静電容量スイッチを採用するものがいいということだ。
 ゲームではそれこそ,FPSにおける「WASD」のように,特定のキーが集中的に酷使される。このため,使っているうちに特定のキーだけ反応が悪くなる(=ヘタる)ような製品,もっといえば,メンブレンスイッチ採用製品は避けるべきだろう。

 

ノートPCで主に利用されている薄型キーボードは,押し込み量が少なく,慣れればゲーム向きかもしれない。パンタグラフ構造でキーを支える構造なので,耐久性にも優れているからだ

 そして,もうひとつ忘れてはならないのは,アクション性の高いゲームの場合,キーボードは素早く操作できる必要があるということである。押したときによけいな力が不要という意味で,キータッチは軽いほうが高速動作には向いている。また,押し込む動作が最小限で済むという意味において,ストロークは浅いほうがいい。

 また,ゲーム以外だとほとんど話題にならないので忘れがちだが,複数キーの同時押しを最大何個サポートしているかどうかも,ゲーマーなら押さえておきたい。ゲームにおいては「しゃがんで斜め前に移動しつつ武器を持ち替える」といったような場面において,複数キーの同時押し(この場合は4キー同時押し)をする必要があるが,安価なキーボードの場合は,3キーの同時押しにすら対応していない場合があるからだ。読者がどういうゲームをプレイするかにもよるが,万全を期すのであれば,最低でも5個のキーの同時押しをサポートするキーボードが望ましい。

 キー配列についていうと,特殊な配列のものは,避けたほうがいいかもしれない。現在では,ほとんどのゲームで,設定画面からキーのカスタマイズやコンビネーションを指定できるので,特殊キーの必要性は薄れている。また,せっかく購入したキーボードを,わざわざゲーム専用にする人はまれだろう。一般的なWindows操作にも利用するなら,キー配列は標準的なもののほうがいいはずだ。

 

 

■Steelシリーズの本格派ゲーマー向けキーボード

 

SteelKeys 6G
実勢価格:1万6000円前後
問い合わせ先:GDEX Online Game Store(販売代理店)
電話:072-864-0718

 さて,初回ということで基礎解説が長くなったが,記念すべきキーボードレビューの第1回は,Soft Trading製の「SteelKeys 6G」を採り上げたい。

 ゲーマー向けということで,見た目に対して身構える人は多いかもしれないが,シックなデザインのSteelシリーズで知られるSoft Trading製だけに,SteelKeys 6Gは,黒をベースとした,落ち着いた色合いだ。外観でゲーマー向けといった印象を受けるのは,テンキー上部の製品ロゴくらいで,ゲームプレイを支援する特殊機能といったような仕掛けはない。
 配列は日本語で,109キー仕様。スペースキーの幅を広く取ってあるのが,配列上の特徴だ。接続インタフェースはPS/2で,付属の変換ケーブルによってUSB接続もサポートするが,これはまあ,普通といえば普通である。

 

左上:キーが階段状,かつカーブして配置されている「シリンドリカルステップスカルプチャー」(Cylindrical Step Sculpture)と呼ばれる,最も一般的な形状を採用。チルトスタンドの高さも標準的だ
右上:SteelKeys 6Gには標準でアームレストが付属。これは取り付けたところだが,これまた見た目に大きなインパクトはなかったりする
左下:照準に似たSteelシリーズのロゴがあるあたりからは,ゲーマー向けの雰囲気を感じられる。LEDはご覧のとおり青色

 

DirectX診断ツールから「ベンダID」を確認しているところ。「0x04CF」はMyson-Century Technologyに割り当てられている固有のものである

 注目したいのは,SteelKeys 6Gが9キー同時押しをサポートする点だ。9キーもの同時押しをサポートする秘密は,内蔵するマイクロコントローラとキーボードマトリックスに秘密がありそうだが,残念ながら詳細は不明である。
 もっとも,USB接続すると,キーボードでよく使用されている8051系マイクロコントローラなどで知られる台湾メーカー,Myson-Century Technologyの「ベンダID」が表示されるので,同社のコントローラを内蔵しているのはほぼ確実である。ファームウェアは,SteelKeys 6G専用に起こされているかもしれないが。

 ちなみに,代理店のGDEX Online Game Storeによれば,9キーの同時押しが可能なのは,音楽ゲーム「O2Jam」に対応するためとのこと。言われてみればなるほどといったところで,確かに音楽ゲームであれば,9キーを同時に使う場面はあるかもしれない。
 もっとも,筆者がテストに利用したFPSにおいて,9キーの同時押しが必要になる局面はまったくなかった。一般的なアクションゲームをプレイする場合は「同時押し可能なキーの数に相当余裕がある」くらいに捉えておくべきと思われる。

 

 

■Cherry製スイッチを採用しつつ軽い打鍵感

 

 肝心要のスイッチはメカニカル。それも,キーボードマニアの間で定評のある米Cherry Electrical Products(以下Cherry)製のメカニカルスイッチが採用されている。パッケージに記載されている型番は「MXIA-11EN」で,この型番はCherryのカタログに記載されていないが,型番が「MX」で始まっていることから,同社の「Model MX」シリーズの一つと見て間違いないだろう。
 Model MXは,実装方法によって押下特性がリニア/タクタイルタイプで変わってくるが,MXIA-11ENはタクタイルタイプと明記されており,このあたりからも,MXIA-11ENがModel MXの一つであろうことは裏付けられる。

 タクタイルタイプなので,SteelKeys 6Gのキーは,メカニカルスイッチ採用製品にしてはかなり軽め。押下し始めがとくに軽く,中盤から次第に重くなってくる印象だ。ちなみに,スイッチは最低6000万回の押下に耐えるとされている。

 

 キーをどれだけ深くまで押下できるかを「mm」で示す「キーストローク」は4mm。一般的なキーボードだと3mm程度なので,かなり深い。奥までしっかり押下する必要があり,ゲームでは反応の遅れにつながってしまう。
 ……と見せかけておいて,実態は異なるのが,SteelKeys 6Gのユニークなところだ。SteelKeys 6Gでは,キーストロークこそ確かに4mmあるのだが,2.5mmほど押し込んだところで,スイッチが反応するようになっている。要するに「目いっぱい押し込まなくてもキーが反応する」のである。

 自分で使っているキーボードで試してみてほしい。一般的なキーボードだと,キーストローク分のほぼすべてを押し込まなければ反応しない。4mmに対して2.5mmというのは,相当に“浅い”のだ。これと,先に述べた押下開始直後の軽さもあって,SteelKeys 6Gは,軽くタッチしただけで操作できるようになっている。

 

スペースキーはよく使われるので,キーの下に金属製バネによる支持部が組み込まれている

 ただ,こういう仕様なので,キーを力任せに叩くタイプのプレイヤーは,慣れるのに少し時間がかかる,あるいは最後まで慣れられないかもしれない。ストロークが深いから,目いっぱい押下すると,その時間のロスは無視できないからだ。また,完全に押下しきったとき,指先をふわりと柔らかく受け止めるのではなく,「カチッ」と止まるので,指を痛める恐れもある。あくまで,最後まで押し込まずに素早く操作することを主眼においたキーボードということは,認識しておく必要がある。

 

 

■練習は必要だが,敵を圧倒できる可能性はある

 

パッケージに記載されているスペック

 ほかのキーボードにはあまり見られない打鍵感のため,SteelKeys 6Gの導入直後は違和感を抱く人が少なくないと思う。このキーボードを導入するときには,どの程度の押下でキーが反応するか,練習して身体に覚え込ませてから実戦に移ることを勧めたい。「素早く操作できる」特性を持っているのは確かなので,慣れてくれば,操作のスピードで敵を圧倒できる可能性を秘めたキーボードといっていいだろう。

 キー配列や機能面で,ゲームに特化した部分がないため,通常の文字入力などにおいて使いやすいのも好印象。キーを含めた全体の品質感も良好だ。
 問題はやや高価なこと。実勢価格は1万6000円前後で,PC用キーボードとしては高い部類に入る。Cherry製のメカニカルキースイッチを全面的に採用しているから,価格なりの品質(打鍵感)は得られるが,コストパフォーマンスに優れた製品とまではいえない。

 やや特殊な操作感と価格を考えると,(SteelKeys 6Gの流通量からして,それが難しいのは分かっているが)できれば,ただ置いてあるのではなく,実際にデモ展示されているショップの店頭で操作感を試したいところである。キータッチがプレイヤーのツボにはまれば,対価に見合った製品となるのは確かだ。

 

タイトル キーボード
開発元 各社 発売元 各社
発売日 - 価格 製品による
 
動作環境 N/A


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/steel_keys_6g/steel_keys_6g.shtml


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