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Radeon X1900グラフィックスチップ。今回試用した製品では,開発コードネームである「R580」の刻印を確認できた |
本誌連載「西川善司の3Dゲームエクスタシー」で紹介しているように,ATI Technologies(以下ATI)は2006年1月24日にRadeon X1900シリーズを発表した。本稿では,そのパフォーマンス面に焦点を当てて,2006年1月時点のシリーズ最上位モデルにどれだけの価値があるかを明らかにしてみたいと思う。
用意できたのは,ウルトラハイエンドモデルとなるRadeon X1900 XTX,そしてCrossFireのマスターカードとなるRadeon X1900 CrossFire Editionの2製品だ。前編となる今回は,シングルカードのパフォーマンスに絞って,その性能を見ていくことにする。
前述の連載で指摘しているように,Radeon X1900 CrossFire Editionは,1枚で利用する限りにおいて,そのスペックはRadeon X1900 XTと同じ。このため,本稿では以後Radeon X1900 XTと表記する。
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左はRadeon X1900 XTX,中央はRadeon X1900 CrossFire Editionのリファレンスカード。右は後者のクーラーを取り外したところ |
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Radeon X1900 CrossFire Editionは,Samsung Electronicsの1.2ns仕様GDDR3メモリチップを搭載。Silicon Image製のTMDSレシーバ「SiI 163B」とTMDSトランスミッタ「SiI 178」を2個ずつ搭載してCrossFireを実現する仕様や,(右の写真左側で分かるように)マスターカード側の外部入力インタフェースはRadeon X1800と変わっていない |
上の写真を見ると分かるように,クーラーはRadeon X1800シリーズと同じく2スロット仕様。カードサイズもRadeon X1800 XTのリファレンスカードと同じだ。その結果として,Radeon X1900とRadeon X1800に,外観上の違いはほとんどない。なお,動作クロックはCatalyst Control Centerから確認できたが,これは測定誤差を踏まえると,発表されている仕様のとおりだった。
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左がRadeon X1900 XTX,右がRadeon X1900 XT(Radeon X1900 CrossFire Edition)の動作クロックを確認したもの。ちょっと分かりにくいが,「現在のVPUクロック」が2Dアプリケーション利用時,「要求」とある部分の数値が3Dアプリケーション動作時のクロックだ。別記事の表と見比べてみてほしい |
■やや特殊なテスト環境に注意
テストに入る前に,テスト環境を説明しておきたい。
今回比較対照用に用意したのは,以下の3製品である。
- ASUSTeK Computer「EAX1800XT TOP/2DHTV/512M」
- Tul「PowerColor X1800 XT」
- AOpen「Aeolus PCX7800GTX-DVD256」
ここで重要なのは,機材調達の都合上,GeForce 7800 GTX 512搭載カードがないということだ。Aeolus PCX7800GTX-DVD256(以下GeForce 7800 GTX)は,搭載するグラフィックスメモリ量がRadeon X1900/1800シリーズの半分となる256MBなので,パフォーマンスの直接比較では間違いなく不利になる。
なお,Radeon X1800 XTカードが2枚あるのは,EAX1800XT TOP/2DHTV/512M(以下Radeon X1800 XT-OC)が,大幅なオーバークロック動作を実現しているためである。PowerColor X1800 XT(以下Radeon X1800 XT)がリファレンスどおりのコア625MHz,メモリ1.5GHz相当で動作するのに対し,Radeon X1800 XT-OCはコア700MHz,メモリ1.6GHzで動作する。Radeon X1800 XTをオーバークロックすることで,どこまでRadeon X1900まで迫れるかの指針にしようというわけだ。
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EAX1800XT TOP/2DHTV/512M
外部電源採用でメーカーレベルのオーバークロックが極限までなされた一品
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション
news@unitycorp.co.jp |
PowerColor X1800 XT
定番のRadeon X1800 XT搭載グラフィックスカード
問い合わせ先:アスク
info@ask-corp.co.jp |
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A8R-MVP
サウスブリッジにULi M1575を搭載し,RAID 0/1/0+1/5に対応したCrossFireマザーボード
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション
news@unitycorp.co.jp |
また,マザーボードには,後編でCrossFireのテストを行う都合上,Radeon Xpress 200 CrossFire Editionを採用したASUSTeK Computerの「A8R-MVP」を使用している。また,今回「プレビュー」としていることから察していただけるかもしれないが,ATIから公開されている最新のCatalyst 6.1はRadeon X1900に対応していないため,今回はリファレンスカードに付属していたサンプルドライバ「Sample_Driver_8.203」を利用している。
余談だが,このマザーボードとRadeon X1900シリーズの組み合わせでは,BIOSやドライバのチューニングが十分でないためか,ベンチマークソフトが強制終了する場面がしばしば見られた。
このほか詳細なテスト環境は表のとおり。以後は,グラフィックスドライバ側から垂直同期のみオフに変更した状態を「標準設定」とし,同じくドライバ側で強制的に6倍(6x)または8倍(8x)のアンチエイリアシングと16倍(16x)の異方性フィルタリングを適用した状態をそれぞれ「6x AA&16x AF」および「8x AA&16x AF」と呼ぶ。グラフィックスチップ側の仕様で,RadeonとGeForceでは,最高レベルのアンチエイリアシングレベルが異なっている点を付記しておきたい。
■3DMark05において1枚で10000越えを達成
ご存じのように,2006年1月19日に「3DMark06 Build 1.0.2」(以下3DMark06)がリリースされた。しかし,現時点では4Gamerとして,スコアから何かを判断できるだけのデータを取得し終えていない。参考までにグラフ1,2にスコアを掲載するが,評価自体はしばらくの間,「3DMark05 Build 1.2.0」で行っていくので,ご了承いただきたいと思う。
というわけで,グラフ3,4が3DMark05の総合スコアである。
何を置いても注目したいのは,Athlon 64 4000+/2.4GHzシステムにおいて,Radeon X1900シリーズの2枚がシングルカード動作で標準設定時にスコア10000を突破していることだ。Radeon X1800 XT-OCに対しては1000以上の差を付けており,Radeon X1900が持つポテンシャルの高さは十分にうかがい知れよう。
しかも,この差は高解像度になるに連れて広がっている。
これは,単純に動作クロックの高さが効いている……というわけではなさそうだ。改めて以下に今回試用しているRadeonの動作クロックを挙げてみよう。
- Radeon X1900 XTX:コア650MHz,メモリ1.55GHz相当
- Radeon X1900 XT:コア625MHz,メモリ1.45GHz相当
- Radeon X1800 XT-OC:コア700MHz,メモリ1.7GHz相当
- Radeon X1800 XT:コア625MHz,メモリ1.5GHz相当
つまり,Radeon X1900シリーズは,動作クロックだけならRadeon X1800 XT-OCよりかなり低いのである。よってこれは,ピクセルシェーダ(Pixel Shader)ユニットの数が増えたことをはじめとする,チップ自体のリファインが影響していると考えたほうがしっくりくる。断定はできないが,リングバスメモリコントローラ周りに何らかの改良が行われているのかもしれない。
続けて,ディスプレイ解像度を1024×768ドットに固定して,Feature Testの結果を見てみると,ピクセルシェーダのパフォーマンスがRadeon X1800 XTと比べて大幅に向上しているのがはっきりと分かる(グラフ5〜7)。Radeon X1800 XTでは,ピクセルシェーダのパフォーマンスが今一つだったわけだが,さすがは48基のユニットというべきか,Radeon X1900でこの問題は完全に払拭されたといっていい。
■ゲームでも安定して高いパフォーマンスを発揮
本誌定番のゲームアプリケーションベンチマークに移ろう。
まず「Quake 4」では,「The Longest Day」というマップで7名によるデスマッチを行ったリプレイを利用し,Timedemoから平均フレームレートを計測した。その結果がグラフ8,9だ。
Quake 4シリーズ自体がNVIDIAのパートナーシップを受けて開発されていることもあって,Radeon X1000シリーズではあまり高いパフォーマンスが期待できなかった。それは今回の結果でも変わっていないが,Radeon X1900シリーズでは,GeForce 7800 GTXと比較できるレベルにまでスコアが上がっている。
もちろん,GeForceの場合はこの上に(今回は用意できなかった)GeForce 7800 GTX 512がいるわけだが,それでも,Radeon X1900がRadeon X1800 XTから着実に進歩している点は評価していい。
なお,8x AA&16x AFで7800 GTXが値を大きく下げているのは,アンチエイリアシングのレベルがRadeonよりも高いこと,そして,グラフィックスメモリ容量が256MBであることが影響している。
「Battlefiled 2」では,「Dragon Valley」で実際に行われたコンクエスト(16人×16人対戦)のリプレイをスタートから120秒間再生し,「Fraps 2.60」を用いて平均フレームレートを計測した。
結果はグラフ10,11にまとめたとおり。1280×1024ドットまでは,CPUがボトルネックになっているが,1600×1200ドットになると,Radeon X1900とRadeon X1800の間に明確な差が生まれる。Radeon X1900なら,カード1枚でも,ディスプレイ解像度をほとんど問わず,快適にBattlefield 2をプレイできるというわけだ。
最後に「TrackMania Sunrise」(グラフ12,13)。ここでは1周53秒程度の「Paradise Island」というマップのリプレイを3回連続で実行し,その平均フレームレートをBattlefield 2と同じくFraps 2.60で測定している。
TrackMania Sunriseでは負荷が軽過ぎるため,ゲームにおける体感には影響しそうにない。しかし,それでもRadeon X1900が順当にスコアを伸ばしていることは明らかだ。
■電力バカ食いが唯一最大の弱点か
ゲームパフォーマンスを見たところで,気になるシステム全体の消費電力をワットチェッカーで計測してみよう。ここではOS起動後,30分間放置した状態を「アイドル時」,3DMark05をリピート実行し続け,30分経過した状態を「高負荷時」とする。
テスト結果はグラフ14にまとめた。アイドル時はどのカードも100W程度で,大きな差はないが,これが高負荷時になると明暗が分かれる。Radeon X1900の2モデルはいずれも260Wを超え,本来であれば十分「電力食い」といっていいレベルのGeForce 7800 GTXが相対的に低く見えてしまうほどだ。ATIは,Radeon X1900のCrossFire動作には最低でも定格580Wクラスの電源ユニットが必要としているが,1枚であっても,かなり大きな容量の電源ユニットが必要なのは間違いない。
同時に,Catalyst Control Center,あるいはForceWareからグラフィックスチップのコア温度を,室温25℃の環境においてバラック(=PCケースに入れていない状態)で計測してみた(グラフ15)。測定に用いたソフトウェアが異なるため,GeForce 7800 GTXとの比較は参考にしかならないが,それでもRadeon X1900 XTXの80℃,Radeon X1900 XTの77℃が非常に高いことは分かってもらえると思う。2スロット仕様の冷却ファンが必要なのもうなずける値だ。
Radeon X1900シリーズ搭載グラフィックスカードは,ピクセルシェーダユニット数もさることながら,消費電力と発熱量もモンスターであると言わざるを得ない。
■高価だが,高性能なのは間違いない
Radeon X1900は,Radeon X1800にあった弱点を克服し,大きな性能向上を果たしたグラフィックスチップだ。これは,以上のベンチマーク結果から明白といえる。
Quake 4のスコアがああなっている以上,「文句なく世界最速」とまでは言い切れない。しかし,高解像度におけるパフォーマンスの高さや,(NVIDIAは「比較対象が間違っている」と言うかもしれないが)グラフだけ見ると,GeForce 7800 GTXが遅く見えてしまうテストがあるあたりは,素直に評価すべきだ。実勢価格はRadeon X1900 XTXで8万円を超えており,非常に高価だが,相応の価値はある製品と見ていいだろう。
以上でシングルカードのパフォーマンスが見えたわけだが,CrossFire動作においては,どれだけのパフォーマンス向上を見せてくれるだろうか。後日,後編としてお届けするので,待っていてほしい。