― プレビュー ―
本格展開を迎えるCrossFireはSLIの牙城を崩せるのか?
Radeon X1800 CrossFire Edition
リファレンスカード
Text by Jo_Kubota
2005年12月12日

 

 2005年12月中旬時点におけるATI Technologies(以下ATI)の最上位モデル,Radeon X1800 XT。同グラフィックスチップを搭載し,ATI独自のデュアルグラフィックスカードソリューション「CrossFire」をサポートする製品は,年内に発売されることになっている。
 Radeon X850シリーズにおいては,未完成な部分が目立っていたCrossFireだが,Radeon X1000シリーズで,完成度は上がっただろうか? また,市場で先行するNVIDIA SLIの牙城を崩せるだけのパフォーマンスを,最新製品は秘めているだろうか? 今回4Gamerでは,Radeon X1800 CrossFire Edition(以下Radeon X1800 CFE)のリファレンスカードと未公開のサンプルドライバを入手したので,製品前プレビューとして,このあたりを確かめてみることにしたい。

 

 

■基本スペック自体はRadeon X1800 XTと同じCFE

 

 Radeon X1800 CFEリファレンスカードの動作クロックはコア625MHz,メモリ1.5GHz相当(750MHz DDR)。グラフィックスメモリは512MB分のGDDR3チップとなっており,基本的なスペックは,すでに搭載製品が流通しているRadeon X1800 XTとまったく同じといえる。

 

左のコネクタがCrossFire専用インタフェースだ。少々分かりにくいが,A/Bの2段構成になっている

 ただし,CrossFire動作に必要な専用ケーブル周りは特別仕様だ。Radeon X850 CrossFire Editionのリファレンスカードでは,DVIコネクタに似たインタフェースを採用していたのに対し,Radeon X1800 CFEでは,「A」「B」の2列からなるインタフェースになった。もっとも,物理インタフェースが変わっただけで,マスターカードとなるRadeon X1800 CFEと,スレーブカードとなるRadeon X1800 XTを,専用ケーブルでつなぐという方法そのものは,Radeon X850シリーズのCrossFireと同じである。

 

左:2スロット仕様のチップクーラーを取り外したところ。メモリチップはSamsung Electronics製の1.2ns品だった
中央:Silicon Image製のTMDSレシーバ「SiI 163B」と,TMDSトランスミッタ「SiI 178」を2個ずつ搭載。SiI 178はデュアルリンクで2048×1536ドットまでサポートするから,この解像度までは出力できると思われる
右:接続したイメージ自体はRadeon X850 CrossFireと変わらない

 

Radeon Xpress 200P CrossFire Editionリファレンスボード

 Radeon X1800 CrossFireを有効にするには,マスターカードとスレーブカードが必要なのは言うまでもないとして,そのほかに対応マザーボードも必要となる。今回,Radeon X1800 CFEと同時に入手したのは,Radeon X850 CrossFireのテスト時にも用いた,Radeon Xpress 200P CrossFire Edition搭載のリファレンスマザーボードだ。CrossFire自体は,PCI Express x16スロットを2本搭載するIntel製チップセット搭載マザーボードの一部でもサポートされるが,現時点ではほとんどの場合,マザーボードのBIOSアップデート待ちとなる。
 というわけで,以後はリファレンスマザーボードを利用する場合の話になるが,BIOSからPCI Expressのレーン数をx8 ×2に変更し,Catalyst Control Centerの「CrossFire」メニューで「Enable CrossFire」チェックボックスをオンにして,再起動すれば,CrossFireは有効になる。
 なお,Radeon X850のCrossFire評価キットでは,アナログディスプレイに画像を表示できないという大きな問題があったが,Radeon X1800のCrossFireテスト時は,問題なく出力できた。また,解像度に関しても,従来は1600×1200ドット/60Hzまでという制限があったようだが,今回は少なくとも1600×1200ドット/75Hzの出力が可能だったことを付記しておきたい。

 

 

■GeForce 7800 GTXのSLIと比較

 

 というわけで,ここからはテストに入っていきたい。テスト環境は表に示したとおりで,比較対照用として,GeForce 7800 GTXリファレンスカードを2枚用意した。同製品のグラフィックスカード容量は256MBであるため,カード単位のグラフィックスメモリ容量が異なってしまうが,この点はご容赦いただきたい。
 また,NVIDIA SLI(以下SLI)は,nForce4 SLIチップセット搭載マザーボードでなければサポートされないため,同一マザーボード上での比較は不可能だ。このため,CrossFireとSLIの比較は,マザーボードも含めたプラットフォームレベルのものになっているので,この点も理解しておいてほしい。

 

 なお,以後本稿ではCatalyst Control Center/ForceWareから,垂直同期のみオフに設定した状態を「標準設定」,4倍(4x)のアンチエイリアシングと16倍(16x)の異方性フィルタリングを適用した状態を「4x AA&16x AF」と呼ぶことにする。さらに,8倍のアンチエイリアシングと16倍の異方性フィルタリングを適用したものは「8x AA&16x AF」と呼ぶ。

 

 

 さて,前述のとおり,Radeon X1800 CFEにはサンプル版のCrossFire対応ドライバが添付されている。そこでまずはこのサンプルドライバと,正式リリース版の最新バージョンで,Radeon X1800 CrossFireはサポートしていないCatalyst 5.12との違いを見てみることにしよう。3DMark05 Build 1.2.0(以下3DMark05)で比較した結果を,グラフ1にまとめてみた。
 この結果はシングルカード動作時における1024×768ドット,標準設定のものだが,スコアはほぼ同じといっていいレベルだ。サンプルドライバとCatalyst 5.12,あるいはRadeon X1800 CFEとRadeon X1800 XTの間に,パフォーマンスの差はほとんどないと見ていいだろう。以後は,この結果を踏まえつつ,サンプルドライバを利用していくことにする。

 

 

 3DMark05以外では「Quake 4」「TrackMania Sunrise」「Battlefield 2」の実ゲームタイトル3本を用意した。このほか,SLIに対応していない「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」(以下FFXIBench)を利用している。
 Quake 4においては,「The Longest day」というマップで7名によるデスマッチを行い,そのリプレイデータを利用してTimedemoから平均フレームレートを計測。TrackMania Sunriseでは,1周53秒程度の「Paradise Island」というマップのリプレイを3回連続で実行し,その平均フレームレートを「Fraps 2.60」で測定している。Battlefield 2では,「Dragon Valley」で実際に行われたコンクエスト(16人×16人対戦)のリプレイをスタートから120秒間再生し,同じくFraps 2.60で平均フレームレートを計測した。

 

 

■標準設定時に高いスコアを見せるCrossFire

 

 テストのコンフィグレーションを説明したところで,ここから本題となる。まずは3DMark05のスコアから見ていこう。
 本誌では繰り返し指摘しているが,3DMark05に対しては,ATIとNVIDIAが最適化合戦を繰り広げているため,両社のグラフィックスチップを比較する,直接の指針にはなり得ない。一方,細かくさまざまなスコアを取得できるほか,最大限に最適化が行われた場合の可能性を見られるというメリットはある。
 グラフ2〜4は,フィルタリングの違いがスコアに与える影響を見たものだ。負荷の低い標準設定で,1600×1200ドットで1.65倍近いスコアの伸びを見せているのが分かる。逆に,アンチエイリアシングの適用レベルを上げていくと,8x AAでシングルカードの標準設定をスコアで下回る点は,少々気になった。

 

 

 フィルレートやシェーダ性能は,グラフ5〜7にまとめたとおりだ。総合スコアからすれば,順当な結果が出ているといえるだろう。

 

 

 

■実ゲームでGeForce 7800 GTX SLIに迫る結果

 

 続いて,実ゲームタイトルで比較していくわけだが,最初はQuake 4である(グラフ8〜10)。一言でいえば,Radeon X1800のCrossFireは,低負荷時にGeForce 7800 GTXよりも高いスコアを見せているが,高負荷になるに従ってスコアを落としていく。今回は時間の都合で,フィルタリング精度のテストは行えていないが,パフォーマンスに限っていえば,GeForce 7800 GTXのほうが高負荷環境には強いようだ。

 

 

 次にTrackMania Sunrise(グラフ11〜13)だが,標準設定における,Radeon X1800 CrossFireのスコアが異常に低い。これは,Radeon X850 CrossFireのときにも指摘したことだが,問題は解決していないようである。
 ちなみにこのとき,グラフィックスカードやマザーボードのコンデンサから,“鳴く”ような音が聞こえた。感覚的には「エンジンが空回りしている」ような印象。音が発生した原因までは分からないが,CrossFireの動作にはまだムラがあるようだ。
 この部分を例外として考えると,Radeon X1800 CFEのシングルカードと比べて,CrossFire動作時は,高負荷環境におけるスコアの下がり幅が小さい。CrossFireに“意味がある”ことを確認できるわけである。

 

 

 続いてBattlefield 2のテストに移ると,標準設定,4x AA&16x AFで動きが少ない(グラフ14〜16)。CrossFire/SLIを問わず,デュアルグラフィックスカードソリューションにあまりメリットがないが,これはCPUがボトルネックとなっているためだろう。
 注目したいのは,8x AA&16x AFで,GeForce 7800 GTXのSLIが大きくスコアを落としている点だ。Battlefield 2が,NVIDIAとのパートナーシップで制作されていることを考えると,異常なほど。ここまでのスコアとは真逆の特徴を見せているわけで,非常に興味深い。
 この結果について,現時点で何かを断言することはできないが,グラフィックスメモリ容量の違いが,高負荷時におけるスコアの差を生んでいる可能性はありそうだ。また,二つの256bitメモリバスを利用する「リングバスメモリコントローラ」が,Radeon X1800のスコアを押し上げている可能性もある。

 

 

 最後に,FFXIBenchの結果をグラフ17にまとめてみた。Radeon X1800 CrossFireのスコアが,シングルカード動作時と比べて明らかに下がっているのが,少々気になるところである。

 

 

 

■全体的には妥当なスコア

 

 スコア自体は悪くない。だが,Radeon X1800 CrossFireが,現時点におけるATIの“めいっぱい”であるのに対し,全体的にそれよりもスコアのいいGeForce 7800 GTX SLIには,さらにその上にGeForce 7800 GTX 512が控えている。これを考えると,無責任に景気のいい話はできないというのが正直なところだ。
 とはいえ,Radeon X850シリーズのCrossFireが発表されたときに比べれば,かなりチューニングが進んだのは確か。発表からの短期間で,よくここまで持ってきたと,評価することはできるだろう。圧倒的なシェアを持つIntel製チップセット搭載マザーボードでもきちんと動作するようになれば,選択肢として面白い存在になると思う。

 

 ちなみに,Radeon X1800 CFE搭載カードの参考価格は599ドル。1ドル120円で単純計算すると,7万1880円となる。付属アプリケーションやスペックの違いにも左右されるはずだが,おおよそこの近辺で販売されることになるのではなかろうか。

 

タイトル ATI Radeon X1800
開発元 AMD(旧ATI Technologies) 発売元 AMD(旧ATI Technologies)
発売日 2005/10/05 価格 製品による
 
動作環境 N/A

(C)2006 Advanced Micro Devices Inc.