フライトシミュレータ(以下フライトシム)のほとんどでは,文字どおりシミュレータとして,「フライトモデル」と呼ばれる飛行機の挙動や,コクピット周りの操作感覚において,リアリティが追求されている。そして,世界中のフライトシムファンの嗜好に応える形で,スロットルやペダル,コクピットから,それこそ一般人が見たら,何に使うのか分からないような小型デバイスまで,飛行機を実際に操縦しているかのような感覚を演出するためのデバイスが,山ほど発売されている。
もちろん,フライトシムを楽しみたい場合に,それらすべてを購入するというのは,大多数の人にとってまったく非現実的。だが,だからといってキーボードとマウスだけというのは,あまりに味気ない。そこで選びうるのが「片手でジョイスティック,片手でキーボード」というプレイスタイルだ。
Force Feedback Joystick ブランド:Thrustmaster(Guillemot) 実勢価格:1万2000円前後 問い合わせ先:エイペックス・ジャパン(販売代理店) techsupport@apex-japan.net |
そのスタイルが一般化したおかげで,フライトシム用のジョイスティックというのは,これといったフライトシムのキラータイトルがないときにも,定期的に市場へ登場し続けている。今回採り上げる,Guillemot(ギルモ)のThrustmaster(スラストマスター)ブランド製ジョイスティック「Force Feedback Joystick」も,その一つだ。
Thrustmaster製ジョイスティックは,大手量販店などでよく見かけるので,手に取ってみたことがある人も多いのではなかろうか。同社製品はスティックのみの製品や,スロットルユニットがセットになったものなど,さまざまなラインナップがあるが,Force Feedback Joystickはフォースフィードバック機能付きスティックのみ。要するに,最も一般的かつシンプルなプレイスタイルの市場に向けて,フォースフィードバック機能を提供してきた,というわけである。
その意味では,これからフライトシムを遊んでみたい人向けの色彩が濃いForce Feedback Joystick。では,実際のところはどうなのか,これからじっくり見ていくことにしよう。
全体的にはオーソドックスな仕様
Force Feedback Joystickの外観は,ほかのThrustmaster製ジョイスティックと基本的には似た雰囲気だ。というか,Force Feedback Joystickは,同ブランドのジョイスティック製品「Top Gun Fox 2 Pro USB」(以下TGF2Pro)のフォースフィードバック機能付きバージョンという位置づけになるので,形状はTGF2Proとほとんど同じ。ただし,TGF2Proでアクセント的に用いられていた本体各所の黄色が,黒に近い青になったことで,全体的にはかなり落ち着いた印象になっている。
真上から見たところ |
スティックを支える土台となるベース部は,最も長い部分で実測して240×210mm。フォースフィードバック用のモーターを内蔵していることを考えれば,比較的コンパクトにまとめられているといっていいだろう。スロットルは小型のものが,スティックの根本部分に用意されており,スティックの軸を中心に最大70度程度スライドさせることで,スロットルを開いたり絞ったりという操作を行える。
また,ベース部本体,プレイヤーから見て左奥にある模様のようなラインは,実は4個のボタン。同じく右側にある3本のラインだが,こちらは本当にただの模様だったりする。
続いて,スティック部を見てみよう。スティックはひねることで,垂直尾翼後方の方向蛇(ラダー)を操作して機首を左右方向(ヨー方向)に向ける「ラダーコントロール」が可能な,いわゆるツイストハンドル仕様。スティックの上部には,親指で操作して,主に視界を動かしたりするのに用いるハットスイッチと2個のボタン,そしてちょうどその裏側付近に,人指し指で操作することになる引き金式のトリガーボタンが用意される。また,プレイヤーから見て右奥の側面にも,大きめのボタンが1個ある。
ACアダプタは本体から伸びるケーブルに差すタイプ。AC100-240V対応品だ |
なお,PCとは,2mほどあるケーブルを使って,USB 1.1で接続する仕様だ。ただし,PCと接続しただけでは認識されない。付属のACアダプタで給電しておく必要があるので注意しよう。
ACアダプタの主目的は,もちろんフォースフィードバックを実現する内蔵モーターの駆動だが,このモーターは非常に静か。電源部を内蔵しないこともあって,本体に排気ファンなどもない。動作音は,ゲーム中ならまず聞こえないはずだ。
ドライバは説明不足だがよくできている
今回,デバイスドライバはThrustmasterの国内代理店,エイペックス・ジャパンで公開されている「v 2.FFJ.2004」を使用した。
Windowsのコントロールパネルから「ゲームコントローラ」のプロパティで確認すると,スティックはX軸,Y軸に,スロットルのレバーはZ軸,ラダーコントロール(スティックのひねり)はR軸として認識される。R軸の「R」もちろん「Rudder(ラダー)」のRだ。
まあ要するに,一般的なジョイスティックと同じ。ジョイスティック対応ゲームの操作に問題が生じるようなことはまずないだろう。
Force Feedback Joystickでは,スティックを倒して離すと,元の状態に戻ろうとする力(反力)が働いて,中央に戻ろうとする。だが,反力はフォースフィードバック機能の一部として提供されているため,フォースフィードバック機能非対応ゲームで設定せずにスティックを倒すと,倒した状態が維持されてしまう。このような場合は,ドライバのコントロールパネルから設定が必要だが,表記はすべて英語であり,説明不足だ。
もっとも,説明が足りていないだけで,設定項目そのものは充実しており,自分で設定したい場合は,「Gain Setting」から,フォースフィードバックに関する設定を細かく追い込んでいけるようになっている。ゲーム側の設定で飽き足らなくなったら,以下を参考に,いじってみるといい。
安定したベースと握りやすいスティックが好印象
さて,ここからは,前述のドライバを利用して,実際のゲームにおける使用感について述べていこう。テスト環境は表のとおりだ。
表 テスト環境
テストに利用するのは,もちろんフライトシム。定番中の定番である「マイクロソフト フライト シミュレータ 2004 翼の創世紀」(以下MSFS2004),フォースフィードバックの恩恵を十分に受けられそうなコンバットフライトシムから「マイクロソフト コンバット フライト シミュレータ 3」(以下MSCFS3)「IL-2 シュトルモヴィク 日本語版」と「Aces High II」で試用してみた。
上段左からフライトシムの定番であるMSFS2004と,コンバットフライトシムの定番であるMSCFS3。下段は左からマニアックな第二次大戦コンバットフライトシムであるIL-2 シュトルモヴィク 日本語版と,オンライン専用の第二次大戦コンバットシム,Aces High IIだ。Force Feedback Joystickはクセのない作りとなっているため,主要な操作系は標準でアサインされている |
4タイトルはすべてフォースフィードバックを標準でサポートしているため,機体の動きとスティックに伝わる振動が連動し,本当に飛行機を飛ばしているかような気持ちにさせてくれる。スティックから伝わる反動をねじ伏せながら機体を安定させていると「やっぱりフライトシムはフォースフィードバック対応のジョイスティックでプレイしないとね!」と思うことしきりだ。
コンバットフライトシムの3タイトルでは,MSCFS3とAces High IIで,機銃発射に伴う振動が再現されていた。「ズガガガガガ……」という小気味よい振動が手に伝わるのは,フォースフィードバックの醍醐味といえる。
スティック部に用意されている大きめのハンドレスト |
さて,プレイして気づいたことを,いくつか指摘してみたい。
まず,非常によかったのが,スティックの握りやすさと安定感だ。一見,戦闘機の操縦桿といった趣で,ゴツゴツとした印象を受けるが,他社製品と比べて大きめに作られたハンドレストに手を載せて握ると,実にしっくりくる。手のひらや指が,収まるべきところに収まるのである。
手首を乗せた状態でスティックを握れるので,長時間の飛行でも手首はほとんど疲れない。さらに,ベース部の底面には4か所に滑り止めのゴム脚が付けられており,ベース部に左手を添えたりせず,片手でスティック操作を行っても,ベース部は微動だにしない安定性が確保されている。
全体的に安定度が高く,片手でもしっかりと操作できるようになっている |
ハンドレストに手首が固定されるためか,ラダーコントロールを行いやすい印象を受けた点も付記しておきたい。多少の慣れは必要にも感じたが,ほかのジョイスティックでは倒すとき不用意にひねってしまいがちなのを考えると,これは結構アリだ。スティックの操作性はきわめて高い。
スティック部のボタンも,握りやすいおかげで基本的に使いやすい。ただ,右側面のボタンだけは少々気になった。このボタンは,トリガーと同じく,右手人指し指で操作することになっているようなのだが,トリガーとかなり距離があり,下から突き上げるようにボタンを押す必要があって,少々押しにくいのである。
この問題に対処するには,トリガーを中指で引くようにして,人指し指を右側面ボタン専用にするという方法がある。これだとスティックの握りが弱くなりそうだが,ハンドレストに手首がきちんと載っているためか,思いの外いい感じ。右側面のボタンを積極的に利用したい場合は,試してみるといいだろう。
スティック上部のボタン類。プレイヤーから見て正面の三つと,トリガーは快適に利用できる。右の写真中央にある大きなボタンをどう使いこなすか? |
このほかボタンでは,ベース部に用意されている4個の押しにくさが気になる。これらを積極的に使う場合,左手の人さし指と中指,薬指で4個のボタンを押し,親指でスティックの根元にあるスロットルレバーを操作することになるが,手の小さな人だと,スロットルレバーを手前に引いて絞るとき,ボタンから手が離れてしまう可能性がある。そのときは,再度ボタンの位置を探さねばならないが,そのとき,ボタン周辺の段差がほとんどないため,指先だけで探そうとすると,少し探しづらいのだ。もう少ししっかりと段差を付けるか,あるいは完全な形のボタンになっていれば,使いやすくなったと思う。ここはデザイン性よりも機能性を重視してほしかった。
左奥の4ボタンに指を伸ばしたままだと,スロットルレバーとの同時操作はかなり難しい |
急旋回したり敵機の背後に付けたりするときに絞るなど,コンバットフライトシムにおいてとくに細かく操作することになるスロットルレバーを使う場合,ベース部のボタンに即時性を求められない機能を割り当てておくべきだろう。戦闘時には左手の親指と人指し指で,しっかりとスロットルを操作するほうが,使い勝手という意味では断然上だからである。
以上が使い勝手の評価だが,最後に番外編として「バトルフィールド2」における戦闘機やヘリの操作感についても言及しておこう。
同タイトルはフォースフィードバック非対応なのだが,戦闘機の操縦性は,キーボードやマウスを利用するよりも各段にいい。ただ,ヘリは微妙なスロットルコントロールが難しく,満足に飛ばせなかった。もっともこれはジョイスティックのせいではなく,単に筆者の腕がよくないからなのだが。
フライトシムを楽しむに十分な製品
一言でまとめると,ボタンの配置が少々気になる以外,ジョイスティック本来の使い勝手において,不満はない。何よりハンドレストの存在が実にいいのだ。握りやすさ,使いやすさに加えて,疲れにくさという,フライトシムを楽しむために必要な条件をクリアしている点は,高く評価していいと思う。実勢価格は1万2000円前後で,フォースフィードバック機能のないジョイスティックと比べると,どうしても割高になってしまうが,総合的に見れば,コストパフォーマンスは決して低くない。
フォースフィードバック機能のないジョイスティックからの買い換えはもちろんとして,初めてジョイスティックの導入を検討している場合にも,お勧めできる製品だ。