― レビュー ―
GeForce 7600シリーズの下位モデルにはどこまで期待できるのか
EN7600GS SILENT/HTD/256M
Text by 宮崎真一
2006年4月3日

 

GeForce 7600 GSグラフィックスチップ

 「GeForce 7600 GS」は,コストパフォーマンスの高さと消費電力の低さで注目を集めている「GeForce 7600 GT」の下位モデルだ。搭載カードは標準仕様のものが2万円以下と,GeForce 6600がデビューしたときと同じような価格で,すでに販売が始まっている。

 

 GeForce 7600 GSの仕様は表1にまとめたとおりだが,頂点シェーダ(Vertex Shader)5基,ピクセルシェーダ(Pixel Shader)12基,ROP 8基というユニット数構成はGeForce 7600 GTとまったく同じ。ただし,動作クロックはコア,メモリともかなり抑えられている。GeForce 6600 GTとGeForce 6600の関係と同じ印象だ。GeForce 7600 GSは,GeForce 6600の後継製品と言っていいかもしれない。

 

 

 ただ,一点大きく異なるのは,カードがパッシブヒートシンク(いわゆるファンレス)を前提に設計がなされていることで,実際の搭載グラフィックスカードもファンレス仕様のものが多い。今回採り上げるASUSTeK Computer製品「EN7600GS SILENT/HTD/256M」(以下EN7600GS SILENT)も,その一つだ。

 

 

■GeForce 7600 GTとは大きく異なるGeForce 7600 GS搭載カード

 

EN7600GS SILENT/HTD/256M
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション(販売代理店)
news@unitycorp.co.jp

 EN7600GS SILENTの店頭価格は2006年4月上旬現在で1万9000円前後。同製品は,カードの裏側にまで回り込んだ大きめのパッシブヒートシンクを利用して冷却する仕様のファンレス製品で,動作クロックはコア400MHz,メモリ800MHz相当(400MHz DDR)と,GeForce 7600 GSの仕様どおりとなっている。

 

 初回ロットだけにリファレンスデザインそのままか,リファレンスデザインを若干変更しただけに留まると思われるEN7600GS SILENTだが,外部電源コネクタを必要としない点や,SLI用のブリッジコネクタを用意する点,そしてカードサイズなどは,GeForce 7600 GTのリファレンスカードとよく似た印象だ。ただし,ヒートシンクを外すと,その印象は大きく変わる。
 GeForce 7600 GTでは,高速なGDDR3 SDRAMをサポートし,リファレンスカードでは512Mbit品のGDDR3チップを4個搭載することでグラフィックスメモリ容量256MBを実現している。これに対してEN7600GS SILENTでは,256Mbit品のGDDR2 SDRAMを8個搭載するという,ある意味オーソドックスな方法で同じ256MBを実現。一見よく似たGeForce 7600 GSとGeForce 7600 GTだが,スペックを抑え,カードの価格を下げるためか,メモリ周りはずいぶん手が入っているようだ。

 

搭載するメモリチップはInfineon Technolgiesの2.5ns品。スペックどおりの速度で動作するメモリチップは,カードのグラフィックスチップがある側に8枚並んでいる

 

ヒートシンクは右の写真のような格好で,カード裏面にせり出したユニークな形状だ。ちなみに,このヒートシンク自体の名前は「とくにない」(ASUSTeK Computer)とのこと

 ヒートシンクは,一部がカードの裏面に回り込む,変則的な形状を採用している。ヒートシンクの表面積を稼ぎつつ,CPUクーラーなどの風による冷却効率を上げようという配慮だろう。

 

 出力インタフェースはデジタル/アナログRGB(DVI-I)とアナログRGB(D-Sub)。また,専用端子と付属ケーブルにより,コンポーネント出力も可能だ。
 なお,付属のゲームタイトルは「Chaos League」「Powerdrome」「Second Sight」で,正直,オマケの域は出ていない。

 

 

■ForceWare 84.21が対応済み

 

 製品を概観したところで,ここからはテストに入っていきたい。
 新製品だけに,まずはグラフィックスドライバをどうするかだが,GeForce 7600 GS発表の6日前の時点でリリースされていた公式最新版の「ForceWare 84.21」が対応していたので,これを利用することにする。最近のNVIDIAはグラフィックスドライバの提供でまごついていた感があっただけに――ハードウェア的にはGeForce 7600 GTとほとんど変わらないため,容易に対応できたという事情はあるとしても――購入してすぐに公式最新版が利用できる点は評価したい。

 

 今回,比較には新旧のミドルレンジ製品を中心に,GeForce 7600 GSのNVIDIA SLI(以下SLI)時のパフォーマンスを見るため,シングルカード動作のGeForce 7800 GTも用意した。
 このほかテスト環境は表2のとおり。以後本稿では,グラフィックスドライバ側から垂直同期のみオフに変更した状態を「標準設定」,同じくドライバ側で強制的に4倍(4x)または8倍(8x)のアンチエイリアシングと16倍(16x)の異方性フィルタリングを適用した状態をそれぞれ「4x AA&16x AF」,「8x AA&16x AF」と呼ぶ。また,グラフ中「(OC)」とあるのはオーバークロックを行って計測した数値だ。オーバークロックに関しては後ほど述べることにする。

 

 

 

■実力はGeForce 7600 GTの65%程度

 

 まずは「3DMark05 Build 1.2.0」(以下3DMark05)の結果から。グラフ1で,シングルカード動作時(解像度ごとに上から5本め以下)のスコアを見てみると,さすがにGeForce 7600 GSはGeForce 6600 GTより速く,描画負荷が高くなればなるほど差をつけるが,GeForce 7600 GTとの比較だと,65%程度に留まる。GeForce 6800 GSとの比較では,80%程度だ。

 

 続いて,SLIのスコアを見てみると,すべての解像度において,GeForce 7600 GS SLIがシングルカード動作のGeForce 7800 GTを上回っている。SLI構成であれば,そこそこのパフォーマンスが得られるといえそうだ。
 また,シングルカード動作のGeForce 7800 GSと,SLI動作のGeForce 6600 GTを比較してみると,さすがにGeForce 6600 GT SLIのほうがスコアで上回っているのも分かる。

 

 

 この傾向は,SLI構成に対して8x AA&16x AFを適用したとき(グラフ2),シングルカードに対して4x AA&16x AFを適用したとき(グラフ3)でも同様だ。ただし,高レベルのフィルタリングを適用すると,GeForce 7600 GTとの差はシングルカード動作時に若干開く。
 ちなみに,高負荷時にはそもそもテストを実行できないGeForce 6600 GTと比べると,GeForce 7600 GSの優位性は明らかである。

 

 

 

 続いて「3DMark06 Build 1.0.2」の結果を参考程度にグラフ4として掲載しておく。同ベンチマークテストから何を読み取るかについては,引き続き4Gamerとして検討中なので,現時点ではこれに関してとくに言及せず,先に進みたいと思う。

 

 

 グラフ5〜7は「Quake 4」の「The Longest Day」というマップで7名によるデスマッチを行ったリプレイデータを利用し,Timedemoから平均フレームレートを計測した結果だ。
 まず,標準設定のスコアを一言でまとめると「3DMark05と同じ傾向」(グラフ5)。GeForce 6600 GTよりは幾分いいフレームレートが出ているが,GeForce 7600 GTとは埋めがたい差がついており,GeForce 6800 GSにも歯が立たないというのは,ここでも変わっていない。

 

 

 高レベルのフィルタリングがかかった状態でも,やはり同様の傾向だ(グラフ6,7)。ただ,こちらでは若干,高解像度設定時に上位陣とGeForce 7600 GSのスコアが開く。GeForce 7600 GSを使いながら,1600×1200ドットで,高レベルのフィルタリングを適用して最新クラスの3Dゲームをプレイする人はまずいないだろうが,高負荷がかかるとGeForce 7600 GSとGeForce 7600 GTのスコアが開いていくことは,覚えておきたいところだ。

 

 

 

 続いて「Battlefield 2」のスコアに移ろう。同ゲームタイトルでは,「Dragon Valley」で実際に行われたコンクエスト(16人×16人対戦)のリプレイデータをスタートから120秒間再生し,「Fraps 2.60」で平均フレームレートを取得し,それをスコアとしている。

 

 Battlefield 2は,描画負荷が低いと,CPUがボトルネックになりがちで,CPUにAthlon 64 4000+を用いている今回のテスト環境では,標準設定の低解像度で露骨にその傾向が出た(グラフ8)。逆にいうと,グラフィックスカードの性能が,CPUをボトルネックにするところまで達していない場合は一発で分かるわけだが,GeForce 7600 GSのスコアからは,まさにこのことが分かってしまった。
 もっとも,標準設定/1280×1024ドットという条件でGeForce 6600 GTが60fpsに達していないのに対し,GeForce 7600 GSは73.19fpsとなっており,なんとか及第点は与えられるレベルともいえるだろう。
 また,SLI動作させると,GeForce 7600 GSのパフォーマンスはほぼ申し分のないところまで上がる。

 

 

 一方,高レベルのフィルタリングを適用すると,どうしても力不足な部分が出てくる(グラフ9,10)。価格を考えるとやむを得ない部分ではあるのだが,Quake 4でも明らかになっているように,GeForce 7600 GSとGeForce 7600 GTとの間には越えられない壁が確実に存在するようだ。

 

 

 

 最後に「TrackMania Sunrise」で,ここでは1周53秒程度の「Paradise Island」というマップのリプレイデータを3回連続で実行し,平均フレームレートをFraps 2.60で取得した。

 

 まず,標準設定時のテスト結果(グラフ11)を見てみよう。ForceWare 84.21では,GeForce 6800 GSとGeForce 6600 GTで解像度によってスコアがふらつくので,この2枚のスコアは参考程度に留めてほしいが,TrackMania Sunriseのような,“軽い”3Dゲームをプレイするに当たって,GeForce 7600 GSは十分な性能を持っていると言っていいだろう。また,SLI動作によるスコアの向上率も悪くない。

 

 

 ただ,高レベルのフィルタリングを行うと,上位モデルから大きく差を付けられてしまうのは,描画負荷の低いTrackMania Sunriseのようなタイトルであっても変わらなかった(グラフ12,13)。

 

 

 

 

■SLI構成でも抜群の省電力

 

 さて,GeForce 7600 GSはファンレスが前提のグラフィックスチップであるため,消費電力が低いことは想像に難くない。そこで,システム全体の消費電力を,ワットチェッカーを用いてチェックすることにした。なお,OS起動後30分間放置した状態を「アイドル時」,3DMark05を30分間リピート実行した状態を「高負荷時」とする。このとき,テスト環境はPCケースに組み込まず,バラックの状態だ。

 

 結果はグラフ14のとおり。GeForce 7600 GSはファンレスだけあって,その消費電力はアイドル時78W,高負荷時121Wとかなり低い。さらに,SLI構成時でも高負荷時に144Wで,GeForce 7600 GTのシングルカード(141W)とほぼ同じである。これは驚くべき結果だ。
 SLIというと,どうしても2枚差し=電力消費が激しいというイメージが先行しがちだが,GeForce 7600 GSに関していうと,そのイメージは当てはまらない。

 

 

 しかし,ファンレス仕様ゆえの弱点もある。グラフ14と同条件でグラフィックスチップの温度を計測した結果であるグラフ15に明らかだが,グラフィックスチップの温度はやや高くなる。
 今回はバラック状態のため,ケース内の空気の流れが発生しておらず,ファンレスのEN7600GS SILENT(=GeForce 7600 GS)にとっては若干不利といえなくもない。ただ。それを割り引いても,高負荷時にシングルカード動作で74℃というのは,少々高め。カードの横からケースファンで風を送る,くらいの対策はしたほうがいいかもしれない。

 

 

 

絶対的なパフォーマンスは決して高くない一方
ファンレスSLIに可能性が

 

 GeForce 7600 GSがGeForce 7600 GTの低クロック版なら,オーバークロックによってGeForce 7600 GTに近づくのではと思う人も少なくないだろう。
 そこで,今回試用したEN7600GS SILENTについて,オーバークロック動作を試みた結果が,これまでのグラフ1〜15で「GeForce 7600 GS(OC)」と表記してあるスコアだ。今回はコアクロックが460MHz(60MHz上昇),メモリクロック920MHz相当(120MHz相当の上昇)で安定動作したため,そのスコアを掲載している。
 結論からいうと,描画負荷の軽いTrackMania Sunriseだとそれほど効果はないものの,そのほかではクロックの向上に応じて順当にスコアが上昇している。だが,それがGeForce 7600 GTに迫るほどのものかといえば,決してそうではない。

 

 もちろんオーバークロック耐性には個体差がある。実際にXFXブランド(PINE Technologies)などは,コアクロック500MHz版のGeForce 7600 GSカードを国内市場に投入しており,もう少し無理をきかせようと思えばききそうである。
 ただ,ファンレス動作が前提のGeForce 7600 GSカードには「クロックを上げるとパッシブヒートシンクでは冷却しきれなくなる」という仕様上の制限がついて回る。また,メモリチップが2.5ns品で,実クロック400MHz(800MHz相当)仕様のため,オーバークロックの余裕がはじめからあまりないというのもある。そして,そもそもの話として,あと数千円払えば,GeForce 7600 GTカードを購入できるのだ。わずかなオーバークロックの可能性にかけて,自己責任で設定を変更し,その結果がゲーム中の熱暴走だとしたら,目も当てられない。GeForce 7600シリーズのなかでより高いパフォーマンスを求めるのであれば,素直にはじめからGeForce 7600 GTを選択するほうが,幸せになれるだろう。

 

 シングルカードの3Dパフォーマンスに多くを期待して,GeForce 7600 GSカードを購入するというのは,正しい選択とはいえない。GeForce 6600 GTという,旧世代ミドルレンジ(=現世代の基準ではローエンド)より少し高速という程度では,最新の3Dエンジンを利用するようなゲームを,向こう数か月か1年,あるいはそれ以上プレイし続けるには,はっきりいって性能が足りない。

 

 ただ,だからといって「不要」と切って捨てるほどでもないというのが,EN7600GS SILENT(や多くの他社製GeForce 7600 GSカード)の悩ましいところだ。
 その理由は,一にも二にも無理なくファンレス動作が可能という点にある。例えば,これまでGeForce 6600 GTクラスの3Dパフォーマンスが求められていたゲーム,もっといえば多くのMMORPGなどをプレイするにあたっては,(ごく一部のファンレスGeForce 6600 GTカードを除けば)GeForce 7600 GSを利用することで,PCの騒音を減らせるようになるだろう。

 

 また同時に,ファンレスのままSLI動作が可能という点には,新たな可能性も感じる。2枚でGeForce 7800 GT並みのパフォーマンスを期待でき,同時に,GeForce 7800 GTでは非現実的といっていいファンレス動作も,GeForce 7600 GS SLIなら標準対応。つまり,GeForce 7800 GTクラスのパフォーマンスを,負荷分散によってファンレスで手に入れられるというわけだ。

 

 言うまでもなく,GeForce 7600 GSカードを2枚同時に購入して4万円支払うくらいなら,同じくらいの価格となるGeForce 7900 GT搭載グラフィックスカード1枚を購入するほうが,純粋なパフォーマンスを考えれば絶対にいい。
 ただ,3D性能の向上や,高解像度への対応ばかりが取りざたされがちなSLIだが,負荷分散によって,パフォーマンスと静音性を同時に確保するという展開は,今後あり得ると感じた。「別に3DゲームをバリバリプレイするわけじゃないからSLIなんて不要」と考えていた人も,今後はSLIについて考える必要が出てくるかもしれない。

 

タイトル GeForce 7600
開発元 NVIDIA 発売元 NVIDIA
発売日 2006/03/09 価格 製品による
 
動作環境 N/A

Copyright(C)2006 NVIDIA Corporation

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http://www.4gamer.net/review/en7600gs/en7600gs.shtml