― レビュー ―
Core 2 Duoを見据えつつ,低消費電力CPUの底力を探る
Core Duo
N4L-VM DH
945GT Speedster Plus
Text by 宮崎真一
2006年6月2日

 

 Intelの次世代デスクトップPC向けCPU「Core 2 Duo」の登場が迫っている。2006年6月6日開催予定の,コンピュータ関連製品見本市「COMPUTEX TAIPEI 2006」で,Core 2 Duoに関してはより具体的な情報が明らかになる見込みとなっており,いよいよ“Pentium時代”は終焉へのカウントダウンに入ったといっていいだろう。

 

大きく値を下げたCore Duo

 そんななかIntelは,「Core Duo」シリーズの大幅な値下げを行った。その値下がり幅は最大で約2万円。先に行ったプレビューでは,低消費電力で,性能が高いと評価した一方,価格の高さを課題として挙げたのを覚えていてくれている読者もいるだろうが,その課題が,ゲーマーにとって気になる上位モデルを中心に,ある程度の解決を見たわけだ。マザーボードの品不足も,電気街を中心に解決しており,今やCore Duoは,買おうと思えば対応マザーボード込みで普通に買える存在となってきている。

 そこで今回は,流通するCore Duoの4モデルを,同じデュアルコアCPUであるAthlon 64 X2と比較。これにより,Core Duoの価値と可能性を,再定義してみたいと思う。

 

 

2枚の対応マザーボード「N4L-VM DH」と「945GT Speedster Plus」

 

 Core DuoというCPUそのものについては2006年1月6日の記事で行っているので,そちらを参照してもらうとして,今回はマザーボードに注目してみよう。
 今回,テストのために用意したのは,ASUSTeK Computer(以下ASUSTeK)の「N4L-VM DH」と,MSIの「945GT Speedster Plus」。いずれもIntel 945GT Expressという,ノートPC向けCPUをデスクトップで使用することを想定したIntelプラットフォーム「MoDT」(Mobile on DeskTop)用のチップセットを搭載する

 

 

……N4L-VM DHは当初,Mobile Intel 945GM Expressチップセットを搭載すると発表されていたが,「部材供給調達面」(ASUSTeK,原文ママ)の理由により,発売当初からIntel 945GT Expressを搭載するロットが多く流通している。未確認だが,発表どおりのチップセットを搭載する製品も流通しているようだ。

 

N4L-VM DH
メーカー:ASUTeK Computer
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション(販売代理店)
news@unitycorp.co.jp
実勢価格:2万1000円前後(2006年6月上旬現在)
945GT Speedster Plus
メーカー:MSI(販売代理店:東京エンジニアリング
問い合わせ先:エムエスアイコンピュータジャパン
TEL:03-3866-7763
実勢価格:2万9000円前後(2006年6月上旬現在)

 

 N4L-VM DHは,実勢価格が2万円強と,Core Duo対応マザーボードの中で,コストパフォーマンスに優れる製品だ。CPUクーラーリテンションが専用仕様のため,パッケージに付属する専用のCPUクーラーしか(まず)利用できない点や,Serial ATAポートが2個しかないといった制約はあるものの,それ以外にクセはなく,全体的には無難な1枚といえる。
 なお,N4L-VM DHはIntelのViivテクノロジーをサポートしており,サウスブリッジはViivテクノロジー対応のICH7M-DHとなっている。

 

搭載するコンデンサはすべて国内メーカー製。基本は日本ケミコンのKZG/KMGで,電源周りにはパナソニック エレクトロニックデバイス製のものも配されている 拡張スロットはPCI Express x16 ×1,PCI Express x1 ×1,PCI×2。PCI Express x16スロットの周りに,背の高いコンデンサなどといった障害物はなく,ほとんどのグラフィックスカードを問題なく装着できる I/Oインタフェース部には,1000BASE-T LANや,eSATAポートが用意される。ゲーマーが利用することはないだろうが,Intel 945GT Expressはグラフィックス機能を内蔵するので,アナログRGB出力も用意

 

CPUクーラーを固定するには,マザーボード上に用意されている金具に,付属CPUクーラーのクリップで引っかけるほかない。ファンの交換による静音化/高効率化は図れるが,ヒートシンクまで交換するのはかなり難しいだろう

 

 一方の945GT Speedster Plusは,microATXサイズながら,付属の「エクステンションボード」を装着することでPCIスロットが2本増え,ATXマザーボード相当として利用できるという,かなりユニークな特徴を持つ。
 オンボード機能も充実している。デュアル1000BASE-T LAN,4ポートのSerial ATAによるRAID 0/1/5/10(サウスブリッジ,ICH7Rによる),デジタル/アナログRGB(DVI-I)の標準搭載もあり,Core Duoマザーボードのなかで,市場人気は最も高いようだ。

 

搭載するコンデンサはこちらも国内メーカー製。全体には日本ケミコンのKZEシリーズが多く,三洋電子部品製品も。電源周りの大きいコンデンサはニチコンのHMで,レギュレータ部などには,導電性高分子コンデンサの姿も見える エクステンションボードを取り付けたところ。このように,PCIスロットが2本増えることになる。エクステンションボード側のネジ穴はATX互換で2か所用意されており,ケースに取り付けたときもグラつくようなことはない インタフェース群。Intel製コントローラ「82573L」×2による1000BASE-T×2をはじめとして,必要な端子はほぼ揃っているといっていいだろう。もっとも,ゲーマーがオンボードのビデオ出力端子を使うことはまずないだろうが

 

PCI Express x16スロット周辺。スロットの左にある背の高いコンデンサと,写真手前の金具に注目してほしい

 ただ,注意しておきたいこともある。まず,PCI Express x16スロットのすぐ近くに背の高いアルミ電解コンデンサがあり,本誌がハードウェアテスト用に利用している,リファレンスデザインのGeForce 7800 GTX搭載グラフィックスカードを装着できなかった。

 また,パッケージに付属するCPUクーラーを固定するためのリテンション金具が,PCI Express x16スロットにかかるようになっている点にも注意が必要だ。最近のミドルレンジ以上のグラフィックスカードでは,冷却能力の向上や静音化を図って,カード裏面にヒートシンクがかかったり,それを固定するための金具が突起となっていたりする場合がある。そして,それがこの金具と干渉する場合があるのだ。
 幸いにして,リテンションはSocket478と互換性がある。Core DuoにはSocket478版Pentium 4のような「Integrated Heat Spreader」(以下IHS)がないため,銅板などで高さを調整する必要はあるが,Socket478版のCPUクーラーなどを用意すれば,金具がPCI Express x16スロットにかかっている問題は回避できるだろう。

 

945GT Speedster Plusのパッケージ付属するCPUクーラーはスリムタイプで,ファンの回転数もかなり高め。リテンション金具の問題ともども,リテンションを取り外して,別途Socket478用クーラーを用意する方向で対処したい

 

 とはいえ,テストのリファレンスカードを利用できないのは事実。このため,ベンチマークテストはN4L-VM DHを利用して行うことにした。

 

 

Core Duo 4モデルをSocket939版Athlon 64 X2 5モデルと比較

 

 今回はテストに当たって,Core DuoとSocket939版Athlon 64 X2の全モデルを検証してみることにした。Socket AM2版Athlon 64は,登場して日が浅いため,あえて評価対象からは外してある。評価対象となるCPUのスペックは表1にまとめたので参考にしてほしい。

 

 

 ただし,残念ながらすべてのモデルを実際に用意できたわけではなく,結果として,Athlon 64 FX-60/2.6GHzと,Athlon 64 4600+/2.4GHzに,BIOSから倍率変更をかけることで,現行の全モデル相当とした。このため,一部テストでは注釈が必要になっているが,これは適宜述べる。
 いずれにせよ,これで,Core DuoとSocket939版Athlon 64 X2のパフォーマンスが一覧できるはずだ。

 詳細なテスト環境は表2のとおり。テストはあくまでCPUの性能比較であるため,描画負荷を高めるアンチエイリアシングや異方性フィルタリングは適用していない。

 

 

 

消費電力の低さはCore Duoの圧勝

 

 というわけで,まずはプレビューでその低さを確認できている消費電力について,製品版マザーボードで改めて確認してみよう。前回の検証では,Core Duoが持つ,CPUの低負荷時に動作クロックと動作電圧を下げることにより低消費電力化を図る「拡張版Intel SpeedStepテクノロジ」(Enhanced Intel SpeedStep Technology,以下EIST)について検証できなかったから,このあたりは今回,要チェックの項目といえるだろう。
 なお,もちろん比較対象となるAthlon 64 X2でも,省電力機能「Cool’n’Quietテクノロジ」(以下CnQ)の有効/無効は切り替え,両方の状態でテストしている。

 さて,OS起動後,30分放置した直後を「アイドル時」,CPUに負荷をかけるエンコードアプリケーション「午後べんち」のリピート実行30分後を「高負荷時」として,システム全体の消費電力をワットチェッカーで計測し,システム全体の消費電力をまとめたのがグラフ1だ。
 見て分かるとおり,Core Duoの圧勝である。ゲームの最大負荷時を想定した高負荷時に,Core Duoの最上位モデルであるT2600が108W,Athlon 64 X2の最下位モデル,3800+が183W。Core Duo用マザーボードは比較的シンプルなオンボード構成のmicroATX,Athlon 64 X2用マザーボードは高スペックのATXという違いがあるにしても,この差は圧倒的である。
 また,EIST/CnQを有効にしたときのアイドル時で,約20Wの差が付いている点も立派といえよう。もともとノートPC用に用意されているCPUと,低消費電力がウリとはいえ,デスクトップ向けとされるCPUでは,やはり勝負にならなかったというわけだ。

 なお,Athlon 64 X2 4800+/4400+の“ベース”となるAthlon 64 FX-60は,CnQ有効時のクロックがAthlon 64 X2 4800+/4400+よりも200MHz高い1.2GHzとなる。このため,アイドル時の消費電力は,若干割り引いて考える必要がある。Athlon 64 X2 4600+/4200+/3800+とほぼ同じと見ていいだろう。

 

 

 ASUSTeKのステータスモニタリングツールである「ASUS PC Probe II」を用いて,アイドル時,高負荷時の双方のCPU温度を測定したものがグラフ2となる。グラフ1を踏襲するかのように,Core Duoのコア温度が低い。この温度は付属の専用クーラーを用いたときのもの(Athlon 64 X2はリテールクーラーを使用)だが,高負荷時でも42℃までしか上昇していない。本稿の目的とはズレるので踏み込まないが,945GT Speedster Plusであれば,Socket478用のファンレスヒートシンクを利用した冷却を行える可能性もある。

 

 

 

ゲームによる向き不向きが出やすいCore Duo

 

 ここからは,ゲームパフォーマンスの検証に入っていこう。
 まず,グラフ3は「3DMark05 Build 1.2.0」(以下3DMark05)の結果である。3DMark05はグラフィックスカードのパフォーマンスに大きく依存するテストなので,CPUの性能差は見えにくくなっているが,それでも,Core DuoとAthlon 64 X2のスコアが,それぞれプロセッサナンバー/モデルナンバー順になっていることは読み取れる。
 あくまで「3DMark05で見るなら」だが,Core Duo T2600はAthlon 64 X2 4800+相当,同じくT2500は4400+〜4600+相当,T2400は3800+〜4200+相当。注目したいのは,高解像度になるにつれてCore Duoのパフォーマンスが伸びることだ。1024×768ドットだと,Core Duo T2600はAthlon 64 X2 4800+より値が低いのに対して,1920×1200ドットではわずか30だが上回る。これは,ほかのモデルナンバーも同様で,高負荷となる高解像度ではデュアルコアの共有L2キャッシュが効を奏すのか,Core Duoのスコアが高くなる傾向にあるようだ。

 

 

 続いて「3Dmark06 Build 1.0.2」の,標準解像度である1280×1024ドット時の総合スコアと,マルチスレッドに最適化されたCPU Testsの結果をグラフ4にまとめている。
 ここでは,Core Duo T2600のスコアが優秀で,今回検証したすべてのCPU中トップのスコアになった。また,ここでもCore Duo T2500はAthlon 64 X2 4400+〜4600+相当。Core Duot T2400はほぼAthlon 64 X2 3800+相当といったところだ。

 

 

 実際のゲームを利用したベンチマークテストに移ろう。
 「Quake 4」では,マルチスレッドに最適化されたVersion 1.2パッチを適用。シングルプレイのストーリーモードで記録したプレイデータを用いて,Timedemoから平均フレームレートを取得した。その結果がグラフ5である。

 Quake 4では,先のグラフ3,4と比べて,Core Duoのスコアが若干低めに出ている。Core Duo T2600でAthlon 64 4200+〜4400+,Core Duo T2500でAthlon 64 X2 3800+という按配だ。
 これは,Quake 4が,L2キャッシュに入りきらないほどのデータを扱うことが多く,メインメモリのパフォーマンス≒メモリコントローラのパフォーマンスで優れるAthlon 64 X2のスコアが相対的に上がったと見るべきだろう。
 結果として,Core Duo T2600とAthlon 64 X2 4200+あるいは4400+,Core Duo T2500とAthlon 64 X2 3800+といったように,同じ動作クロックで同じようなスコアになっているのは興味深い。

 

 

 続いて「F.E.A.R.」におけるパフォーマンスを見てみよう。F.E.A.R.では,テスト時において最新となる1.04パッチを適用。その状態で,トップメニューからベンチマークモードを選択して,平均フレームレートを計測している。
 結果はグラフ6のとおり。動作クロックで200MHz低いAthlon 64 X2 4400+(各コア当たりL2キャッシュ容量1MB)がAthlon 64 4600+(同512KB)をスコアで上回るなど,F.E.A.R.では,L2キャッシュがパフォーマンスに占める割合が大きくなっているのが分かる。

 では,二つのCPUコアで2MBのL2キャッシュを共有するCore Duoはどうかというと,グラフ3〜5ではまるでいいところがなかったCore Duo T2300がAthlon 64 X2 3800+を上回っており,L2キャッシュの有効性が見て取れる。また,上位3モデルは,L2キャッシュ容量が512KBのAthlon 64 X2に対して差をつけているのが分かるだろう。

 

 

 次に,比較的負荷の軽い,レースゲームにおけるパフォーマンスを「TrackMania Nations ESWC」を見てみよう。TrackMania Nations ESWCでは,「I-1」のコースを5周する87秒のリプレイデータを用意して,フレームレート計測などを行える多機能ユーティリティソフト「Fraps 2.60」から平均フレームレートを計測している。
 結果はグラフ7のとおり。一言でいえば,F.E.A.R.と同じ傾向を示している。F.E.A.R.ほどには顕著でないものの,L2キャッシュの有効性は明らかだ。

 

 

 最後にMMORPGを代表して,「Lineage II」でベンチマークを行った。テストに当たっては,2006年5月27日時点の最新パッチを適用。7人のパーティが狭い建物内で戦闘を行うリプレイデータを用意し,1分30秒間の平均フレームレートをFraps 2.60で測定した結果をグラフ8にまとめた。

 Lineage IIでは,Quake 4の結果をさらに強調したようなスコアになっているが,ここでも,L2キャッシュではまかないきれない量のデータ転送がより多く発生し,メモリコントローラの性能が効いてきたと見るべきである。
 Athlon 64 FX-62とAthlon 64 X2 5000+を評価した記事で,同じメモリコントローラであれば,メモリ帯域の広いほうがスコアは高かったが,今回はメモリコントローラが外付け(=ノースブリッジに内蔵)と内蔵するCPUの比較なので,後者のスコアが高く出た,というわけだ。

 

 

 

消費電力≒静音性重視ならCore Duoは
現時点でも十分にアリ

 

Intelが2006年6月2日に示した,Conroe(Core 2 Duo)を,7月中に出荷開始するというスライド。7月中に出荷する以上は,どんなに遅くとも8月には発売されるはずだ。ちなみに,6月出荷開始予定とされているWoodcrest(ウッドクレスト)とは,Coreマイクロアーキテクチャに基づいたワークステーション/サーバー向け新CPUの開発コードネーム

 冒頭の繰り返しになるが,Intelは2006年第3四半期に,Coreマイクロアーキテクチャを採用したデスクトップ/ノートPC向けCPU「Core 2 Duo」をリリース予定だ。しかし,Core 2 Duoがリリースされても,しばらくの間,Core Duoは一定の存在理由を保ち続けるだろう。

 デスクトップ向けCore 2 DuoのTDPは65W。一方のCore Duoは最上位モデルのT2600であっても31Wである。「Meromが出るから意味なんかないじゃないか」と思うかもしれないが,“Core Duoデスクトップ”が登場してから,ハードウェアマニア以外の人(つまり本誌読者のようなゲーマーなど)でも普通にシステム一式を購入できるようになるまでには,結構な時間を要した。これが,“Meromデスクトップ”で繰り返されないという保証はない。

 また,MeromはCore 2 Duo,つまりCore Duoの上位モデルとして投入される可能性が高く,コスト面ではCore Duoの有利が続きそうである。MoDT向けCore Duoのライバルとなり得る,TDP 35WのSocket AM2版Athlon 64 3800+もかなり気になる存在といえるが,日本AMDによれば,近々にサンプルを用意できる状態ではないとのことで,これも,登場するにはまだ時間がかかりそうだ。

 念のため確認しておくと,Core Duoが万能なCPUでないことは,ベンチマーク結果から明らかである。そもそも,今回の結果から,純粋にパフォーマンスを求めるなら,どう考えてもAthlon 64 X2を選ぶべきだろう。
 テスト結果からは,L2キャッシュが4MBに倍増するCore 2 Duoで,メモリ周りの不利が改善するのか,今後の展開が非常に興味深くなってきた。しかしそれは,Core Duoを購入すると,この問題と付き合う必要があることと同義でもあるわけだ。結論として,手放しで勧められるCPUではない。
 ただし,2006年6月時点で,互換性や入手のしやすさを確実にクリアした低消費電力CPUが,Core Duoしかないというのもまた確か。価格の下がったこのタイミングで,ファンレスグラフィックスカードなどと合わせて,“そこそこ速い”静かなゲーム用PCを手に入れたい人にとっては,Core 2 Duoの姿がちらつき始めた現時点でもなお,購入の選択肢として十分考慮に足るCPUといえる。

 

タイトル Core
開発元 Intel 発売元 インテル
発売日 2006/01/06 価格 モデルによる
 
動作環境 N/A


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/core_duo_dt_2/core_duo_dt_2.shtml