日本時間2006年6月5日22時,NVIDIAはGeForce 7900シリーズの最上位モデルとして,「GeForce 7950 GX2」を発表した。
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GeForce 7950 GX2リファレンスカード |
“GX2”というモデル名でピンときた人も多いだろうが,GeForce 7950 GX2は,GPU(グラフィックスチップ)を搭載するカードを2枚重ねた,2層(いわゆる“2in1”)構造を採用している。先に4Gamerでレビューをお届けした,Quad SLI用GPU「GeForce 7900 GX2」の後継という位置づけである。
注目したいのは,GeForce 7900 GX2が「PCメーカーが搭載製品を用意する」限定製品だったのに対し,今回のGeForce 7950 GX2では,搭載カードの単体販売が行われる点だ。グラフィックスカードメーカー各社の搭載製品は,早ければ6月6日にも,PCショップの店頭で販売が始まる予定になっている。
また,製品としてはあくまで“1枚のグラフィックスカード”だが,その実SLI。そうなると「SLI非対応のマザーボードでも動くかも」という期待が当然出てくると思うが,なんと今回は,動作するのである。NVIDIAは「2006年5月31日時点の動作確認マザーボード」を公開しているので,別途「こちら」と「こちら」にUpしておいた。ぜひ参考にしていただきたい。
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PCI-E Switchハブチップ |
本稿では便宜上,グラフィックス出力インタフェースを備えたほうを「マスターカード」,PCI Express x16インタフェースを持つほうを「スレーブカード」と呼ぶことにするが,GeForce 7950 GX2において,両カードはSLIテクノロジーによって接続されている。その意味でGeForce 7950 GX2搭載カードは,1枚でSLIを実現した製品と言ってしまってもいいだろう。
スレーブカード上に搭載されるハブチップ「PCI-E Switch」が,負荷に応じて16レーンのPCI Expressバスを2個のGPUに振り分けているあたりは,GeForce 7900 GX2と同じだ。
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GeForce 7950 GX2の概念図。マスターカード上の「GeForce 7950 GX2#1」と,スレーブカード上の「GeForce 7950 GX2#2」は,図上部のSLIテクノロジーで結ばれると同時に,PCI-E Switchを介してもつながっている。ちなみに,PCI-E Switchは,NVIDIAがGeForce 7900 GX2で「X48 PCI-E」と呼んでいたものと同じだ |
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GeForce 7900 GTX搭載カード(右)と比べてみた。長さだけでなく,全体的なサイズもほとんど同じといっていい |
とはいえ,4Gamer読者をはじめとした一般のユーザー向けに単体販売されるだけあって,GeForce 7950 GX2カードは,GeForce 7900 GX2カードと比べて,デザインがずいぶんと洗練された印象になっている。
最も大きな違いは,カードの長さだ。これは一見して明らかなのだが,GeForce 7900 GX2では,全長が30cmを超え,搭載できるPCケースにかなり制約があったのに対し,GeForce 7950 GX2では,リファレンスカードの長さが230mmと,GeForce 7900 GTXリファレンスカード並みになっている。
GeForce 7900 GX2では,電源コネクタが両方にあるなど,マスターカードとスレーブカードのデザインに類似性がかなりあった。これに対してGeForce 7950 GX2では,PCI Expressグラフィックスカード用の6ピン電源コネクタがマスターカードだけになるなど,マスターカードとスレーブカードの役割がきちんと分かれているように見える。これが小型化につながっているのだろう。
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GeForce 7950 GX2リファレンスカードをマスターカード(いずれも写真上)とスレーブカード(同下)に分解してみた。左がGPUを搭載する表面,右が裏だ。左の写真で2枚のカードの間に置いてあるのは,マスターカードとスレーブカードを接続するコネクタ |
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GeForce 7900 GX2。試用した個体では「G71-D-H-N-A2」という刻印を確認できた |
スレーブカードにSLIコネクタが用意されているのに気付いた人もいると思うが,GeForce 7950 GX2は,搭載カード2セット――要するにGPU 4個――によるQuad SLIがサポートされる予定になっている。
そう,「予定」なのだ。今後リリースされるドライバで対応予定とされており,今回入手したグラフィックスドライバ「ForceWare 91.29」では,Quad SLIはサポートされていない。もっといえば,今回Quad SLIのテストは行っていないので,この点はご了承を。
基本スペックはGeForce 7900 GTXと同じ
Release 90世代のForceWareでサポート
GeForce 7950 GX2のスペックは表1のとおり。1コア当たりのシェーダユニット数などは,GeForce 7900 GTXとまったく同じだが,動作クロックは低めに抑えられている。
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アンチエイリアシングの設定は,NVIDIAコントロールパネルでのみ提供される。SLI AAと通常のAAをあまり意識せず,一括してプルダウンメニューから選べるようになったのはいい(※サムネイルをクリックすると全体を表示します) |
GeForce 7950 GX2カードは,Release 90世代のForceWareでサポートされるようになっている。Release 90世代ForceWareの概要については2006年5月25日の記事を参照してほしいが,GeForce 7950 GXでサポートされるレンダリングモードは,新しいユーザーインタフェース「NVIDIAコントロールパネル」のみのサポートになっている点は,注意が必要と感じた。
GeForce 7950 GX2では,従来のSLIと同じ,SFR(Split Frame Rendering)またはAFR(Alternate Frame Rendering)といったレンダリングモードや,16xSアンチエイリアシング(AA)が,当然のようにサポートされている。ただ,これらの設定項目は,従来のクラシック表示では,出てこないのだ。公開版ドライバでこの仕様が変わって,クラシック表示でも設定できるようになる可能性はあるが,記憶には留めておいたほうがいいだろう。
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慌てて用意されたドライバのためか,従来タイプのコントロールパネル上部では,GPU名を正しく表示できていない |
ちなみに,関係者の間では当初「GeForce 7950 GX2は2006年5月末にリリースされる」と,まことしやかにささやかれており,実際,4Gamerでも5月中にリファレンスカードを入手していた。しかし,nZoneで公開されていたForceWare 91.28はGeForce 7950 GX2に対応しておらず,テストを行える状態にならなかったのだ。これが,当初噂されていた日付から,リリース日が遅れた理由……かどうか断言はできないが,いずれにせよ,GeForce 7950 GX2対応ドライバを入手するタイミングが遅れたため,テストの時間が限られてしまったことは,あらかじめお断りしておきたいと思う。具体的にいえば,ベンチマークにおいて,解像度1024×768ドット設定時のテストを省略。また「3DMark06 Build 1.0.2」のテストは行っていない。
そのほかのテスト環境は表2を参照してほしい。
今回は,シングルカードの最上位モデルとしてGeForce 7900 GTXとRadeon X1900 XTXをそれぞれ1枚ずつ,また,スペック的に近い存在といえる,GeForce 7900 GTのSLI動作時を比較対照用に用意した。GeForce 7900 GTカードは機材調達の都合上,メーカーが異なる2枚のカードを用いてSLIを組んでいるが,どちらもリファレンスデザインそのままの製品なので,スコアへの影響は無視できるレベルだ。
なお以後本稿では,グラフィックスドライバから垂直同期のみオフに変更した状態を「標準設定」,同じくドライバ側で強制的に4xのアンチエイリアシングと16xの異方性フィルタリングを適用した状態を「4x AA&16x AF」と呼ぶ。
妥当な伸びを示すパフォーマンス
まず,「3DMark05 Build 1.2.0」(以下3DMark05)のテスト結果から見てみることにしよう。
グラフ1がその結果だが,3DMark05において,GeForce 7950 GX2はGeForce 7900 GTXやRadeon X1900 XTXを軽く上回った。そのスコアは,GeForce 7900 GTのSLI構成よりやや上で,GeForce 7950 GX2が,GeForce 7900 GTに近い仕様のGPUでSLIを構成した,“1セット”のグラフィックスカードであることがよく分かる。
さて,グラフには「MDモード」という記載があるのに気付いただろうか。これはNVIDIAコントロールパネルから選択できる「マルチディスプレイモード」のことなのだが,ひとまず評価を保留して次に進む。
グラフ2は3DMark05で4x AA&16x AFをかけた結果だ。負荷により値が全体的に低くなってはいるが,GeForce 7950 GX2が,SLI動作らしい,高いスコアになっている点はグラフ1と変わらない。
というわけで,実ゲームベンチマークテストに移ろう。
まずはお馴染みの「Quake 4」から。Quake 4では,マルチスレッドに最適化されたVersion 1.2パッチを適用。この状態において,シングルプレイのストーリーモードで記録したプレイデータを用いて,Timedemoから平均フレームレートを取得した。
Quake 4におけるGeForce 7950 GX2の優位性は,3DMark05ほどはない。1280×1024ドットクラスの解像度だと,GeForce 7950 GX2とGeForce 7900 GTXの差はわずか3fpsだ。1920×1200ドットでは16fpsとなり,メリットが見えてくるが,劇的とまではいえない感じである。
なお,4x AA&16x AAを掛けたグラフ4も,傾向としては変わっていない。
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GeForce 7950 GX2では「マルチGPUの設定」から,2個のGPUをどう使うか明示できる(※サムネイルをクリックすると全体を表示します) |
ここで,マルチディスプレイモードに話を移そう。GeForce 7950 GX2には「マルチGPUモード」と「マルチディスプレイモード」という二つのモードが用意されている。
前者は,簡単にいうとSLIを有効にするモードだ。一方後者は,複数のディスプレイを同時に利用するモードで,GeForce 7950 GX2リファレンスカードでこのマルチディスプレイモードに設定すると,SLIは無効になった。
換言すると,マルチディスプレイモードでは,二つの液晶ディスプレイを接続したときに,2個のGPUがそれぞれのディスプレイの描画を個別に受け持つ。その結果が,先のグラフ1,3で示した「MDモード」であり,参考のため計測した,GeForce 7900 GTのスコアに近い値となっているのが分かる。要するに,「マルチディスプレイ出力を行えない」というSLIの弱点は,GeForce 7950 GX2でも依然として残ったまま,というわけだ。
話を戻して,「F.E.A.R.」のテスト結果を見てみることにする。
F.E.A.R.では,テスト時において最新となる1.05パッチを適用。その状態で,トップメニューからベンチマークモードを選択して,平均フレームレートを計測したものがグラフ5,6となる。
一言でいえば,F.E.A.R.の結果は,Quake 4のそれとよく似ている。標準設定の1280×1024ドットでは,ハイエンドクラスのGPUにとって負荷が軽くなり,SLIの優位性が見えづらくなるが,高解像度,あるいは高レベルのフィルタリングを適用すると,SLI動作のメリットが見えてくる,という流れである。
続いて,レースゲーム「TrackMania Nations ESWC」において「I-1」のコースを5周する87秒のリプレイデータを用意。3Dゲーム関連の多機能ユーティリティソフト「Fraps 2.60」で,平均フレームレートを計測した結果がグラフ7,8だ。
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(※サムネイルをクリックすると全体を表示します) |
TrackMania Nations ESWCでもGeForce 7950 GX2の値がもっとも高いが,Quake 4やF.E.A.R.以上に,“SLIの劇的な効果”が見えにくくなっている点には注意したい。
また,注意といえば,TrackMania Nations ESWCでは,GeForce 7950 GX2,GeForce 7900 GT SLIのいずれも,「3D設定の管理」から,レンダリングモードをAFR(「フレームのレンダリングを交互にする」)にしないと,SLIによるパフォーマンスアップが望めない。しかし,初期状態ではSFR(「分割フレームのレンダリング」)になっている場合があるのだ。ForceWare 91.29固有の問題で,今後プロファイルの更新で修正される可能性はあるものの,登場したばかりのNVIDIAコントロールパネルを積極的に活用することが,GeForce 7950 GX2の利用時に求められる点は覚えておきたい。
最後に,「Lineage II」におけるパフォーマンスを見てみることにしよう。テストに当たっては,2006年6月4日時点の最新パッチを適用。7人のパーティが狭い建物内で戦闘を行うリプレイデータを用意し,1分30秒間の平均フレームレートをFraps 2.60で測定した。
その結果をまとめたのがグラフ9だが,Linage IIではSLIの効果が非常によく現れており,GeForce 7900 GTXやRadeon X1900 XTXと“シングルグラフィックスカード”同士で比較したとき,GeForce 7950 GX2のパフォーマンスは目を見張るものがある。
MMORPGにおいて,平均フレームレートが30fpsを超えていれば,グラフィックスカードの性能がゲーム性に影響を与えることはほぼなくなるので,それほど重要ではないかもしれないが,描画すべきオブジェクトの多いMMORPGのようなゲームにおいて,(そのエンジンがSLIに対応していれば)GeForce 7950 GX2にかなり高いパフォーマンスを期待できるのは確かだ。
もはや衝撃の温度,92℃
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GeForce 7950 GX2では,マスターカードもスレーブカードも(少なくとも外観は)まったく同じ形状のチップクーラーを搭載している |
カードを2枚重ねにしたことで,消費電力とGPU温度は気になるところだ。とくに,GeForce 7600/7900シリーズにおいて「低消費電力で高性能」という方針を掲げたNVIDIAだけに,このGeForce 7950 GX2でもこの二つのファクターは気にかかる。
そこで,OS起動後,30分間放置した直後を「アイドル時」,3DMark05の連続実行30分後を「高負荷時」として,システム全体の消費電力をワットチェッカーで計測した。その結果をまとめたものがグラフ10である。実質2枚分となることもあって,GeForce 7900 GX2の消費電力はアイドル時149W,高負荷時278Wとかなり高い。GeForce 7900 GTのSLI構成より高くなっている。
次に,GPUの温度を見てみることにしよう。
GPU温度は,GeForceシリーズなら「nTune」を,Radeon X1900 XTXの場合は「ATITool」を用い,アイドル時と高負荷時のそれぞれ30分間,毎秒ごとに温度測定し,アイドル時は最低温度,高負荷時は最高温度をスコアとした。
GeForce 7950 GX2では,2枚重ねというその仕組み上,マスターカードとスレーブカードの間に熱がこもらないかどうか,こもったとすると,それがどれだけ悪影響を及ぼすかが気になるところだ。
結果をまとめたのがグラフ11である。グラフ中「GPU2」となっているのが,前述のスレーブカード側,つまり“2枚重ね”の下側のカードに配置されたチップということになる。
このGPU2の温度は,アイドル時で69℃と十分に高いが,驚くべきは,高負荷時に92℃を記録していることだ。しかもこれは,PCケースに組み込んでいない室温25℃のテスト環境において,バラック状態で計測した結果である。「PCケースに組み込んだら100℃に達するんじゃないか」と心配になるほどだ。
GeForce 7950 GX2カードを導入するのであれば,ケースの側面に取り付ける冷却ファンなどを利用して,カードをしっかり冷却しなければならないだろう。
SLI非対応マザーボードでも動作する魅力はある一方
課題も少なくないGeForce 7950 GX2
冒頭で述べたように,GeForce 7950 GX2は,SLIテクノロジーを利用しながら,見かけは1枚のグラフィックスカードだ。このため,nForce4 SLIなど,特定のチップセットを搭載したマザーボードでしか動作しないという,SLIの制限を回避しつつ,培われた技術をうまく活かしていることが,ベンチマークテスト結果からは見て取れる。
では,リストにないマザーボードでも動作するのだろうか? 今回は,実際にIntel 945P Expressチップセットを搭載するASUSTeK Computer製マザーボード「P5LD2 Deluxe」にこのリファレンスカードを装着し,動作させてみた。
すると,システム起動時の自己診断テストであるPOST中に「DMAエラー」を表示し,システムは異常終了。以前,Quad SLIのテストを行ったとき,PCの販売元であるサードウェーブは「Quad SLIを組むとメモリアドレスをうまく参照できなくなるため,専用BIOSをマザーボードに搭載している」と語っていたが,どうやら,その不具合はQaud SLIに限らず,単体のGeForce 7950 GX2カードでも同様に起こる可能性があるようだ。
この不具合は,P5LD2 DeluxeのBIOSを最新のものにアップデートすることで解決し,問題なく動作するようになったが,中にはGeForce 7950 GX2カードが動作しないマザーボードがあっても不思議はない。動作確認のされていないマザーボードで動作する可能性はあるが,動作しない可能性も十分にあることは,覚えておいたほうがよさそうである。
また,消費電力やグラフィックスチップ温度の高さは,さすがにいただけない。リファレンスカードを見る限り,力押しでパフォーマンス向上を狙ったグラフィックスカードという印象が拭えないのが正直なところだ。
一方で(そもそもSLIが全般そうであるように)GeForce 7950 GX2によって,GeForce 7900 GTXを確実に引き離す,安定した高い性能が得られるわけではなく,どうしてもゲームを選ぶことになるのも確か。SLIの効果が得にくい,あるいは得られる局面の限られたゲームを好んでプレイする人にとっては,コストパフォーマンスの悪い製品になってしまう危険がある。伝え聞く予想実売価格は8万円台半ばから後半で,そもそも高価なのだから,かなりリスクのあるギャンブルになるだろう。
とはいえ,SLI対応のゲームにおいて,高解像度環境を中心に,満足のいくパフォーマンス向上を見せた点は,SLIというテクノロジーの成熟ともども,見逃せないところ。発熱や消費電力,互換性といった問題は残るものの,SLI対応マザーボードに頼らず,最速ゲーム環境の構築を目指す人にとっては,選択肢の一つに成り得る存在だ。