Text by Kazuhisa / Photo by kiki
4Gamer:
しかし"大航海時代"って,いわゆる一般的な用語ですよね。歴史の時間に習うような。
松原氏:
そうですね。
4Gamer:
最近Googleで「大航海時代」ってやると,かなりの数……もしかしたら90%くらいが「大航海時代 Online」関連のページなんですよね。いま日本で「大航海時代」というとこのゲームを指すらしいですよ。
渥美氏:
タイトルもね,実は二転三転してたんですよ。"大航海時代"っていうのをサブタイトル的に使ったほうがいいんじゃないか,とか色々。紆余曲折があって,落ち着くべきところに落ち着いたというか。
4Gamer:
いまの王道路線のタイトルですね。ちなみにどんな感じの名前があったんですか?
渥美氏:
うーん,どんなのがあったっけなぁ……。
竹田氏:
なんか外来語使ったりもしてみたんだけど全然ダメだったりとか。
4Gamer:
外来語(笑)。
竹田氏:
「ポルトガル語にしてみようか」とかいろいろ作ってはみたんですけど,あまりに耳に馴染みのない言葉なので全然しっくりこなくて。
会田氏:
シングルゲームのころの大航海は結構そういうのやってたんですけどね。Costa del Sol(編注:シングル版大航海時代の"III")とかPorto Estado(編注:同じく"IV")とか。そういうのをメインタイトルにもってきて「大航海時代」をサブにしようとかね。
| | | それぞれ色んなストーリーを持ったNPC達と絡むストーリーは,結構面白い。最初は単なるお使いクエストのようなものかと思っていた筆者だが,ストーリーが進むにつれて深い内容になっていき,結構楽しめている。イベント最中に選択を迫られるあたりもいい |
渥美氏:
逆に"大航海時代"っていう冠を付けることによって,単なる名作シミュレーションゲームをオンライン化しただけって受け取られてしまうでしょうし,そういうのは避けたかったんですよ。もうちょっと違う広がりを追求してみたかったし。それがあって,最初は今の名前を付けることに対してためらいがありましたね。
竹田氏:
でも付けてよかったな,と思うのは,いわゆるファンタジーじゃないあのちょっとリアルな世界を端的に表せてるかなぁということですね。
4Gamer:
なるほど,名前が与える印象とブレてないっていう意味ですね。
竹田氏:
ええ。あの名前からユーザーさんが想像するものとほとんどギャップがないんじゃないかなぁ,と思ってます。
渥美氏:
確かに。今はこの名前にしてよかったな,と思ってます。
4Gamer:
リアルな部分とゲームの部分とバランス取れてるように思えますし,いい感じですよね。
竹田氏:
うーん,でもそのリアルっていう部分,ちょっと自分は悩みますね。「オレこれは許せない」っていう部分がそれぞれあるじゃないですか。それをどんどん引き上げていくと,ゲームとしてはとてもつまらないものになっちゃうと思うんですよ。かといって下げていくと「おい,そりゃないだろ」っていうものになっちゃうし。そのへんのライン引きをどこでやろうかなぁ,と。
4Gamer:
御社の有名どころの作品全般にいえることですね。
渥美氏:
ええ,なので「その当時信じられていたであろうもの」というのが,この作品の線引きになりました。まぁファンタジー要素についてはそのへんでうまく落ち着いたんですけど,別な意味で悩んだのが"シナリオ"の要素です。いまでもある「ストーリーイベント」の部分ですね。
4Gamer:
あれのどのあたりで悩んだんですか?
渥美氏:
最初のころのバージョンって,いまより全然「ストーリーの縛り」がキツいものだったんですよ。
4Gamer:
なるほど……シングルプレイ要素との兼ね合いっていうことですね。
渥美氏:
ええ。いまだと,ゲームをスタートするとギルドの中にいて,操作のチュートリアルを含めた形で始まるじゃないですか。あれとかがですね,強制イベントからスタートするものだったんですよ。
4Gamer:
完全に縛られてるんですね,のっけから。
渥美氏:
ユーザーさんからするとシングルプレイゲームをやっているような感覚でしょうね。もっとがっちりレールを引かれているイメージといいますか。ところがまぁそれを社内テストにかけてみたところ,おいおいそれは行き過ぎだろう,と。それで振り子が若干戻って,いまのような形に落ち着いたんですよ。
4Gamer:
普通に考えるように「オンラインゲームにシングルプレイ要素を足した」んじゃなくて,あえて言うなら「シングルプレイゲームを拡充させてオンラインゲームにした」感じなんですね。
竹田氏:
スタンドアローンのゲームを遊んでいるかのような感覚で始められるようにしたかったんですよ。
渥美氏:
普通のMMOでキャラクター作ったときに「ぽーん」とほっぽり出されて何をしていいか分からなくなるあの感覚をなくしてあげようと。
竹田氏:
最初ストーリーかなんかで引っ張ってあげればいいかな,と思ってたんですけど,分かってる人にとっては「あぁ,もう!」ってわずらわしい以外のなにものでもないでしょうし。
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松原氏:
「すぐ海行きてえよ」,くらいの(笑)。
竹田氏:
ですね(笑)。
渥美氏:
ゲームの始め方で言うなら,一番最初のプロトタイプは強制イベントから始まるものでした。でもそれはそれで「海はー?」っていう要望が多かったので,次のバージョンはいきなりもう海から始まるやつにしてみた,っていう。
4Gamer:
また大胆な仕様変更ですね(笑)。
渥美氏:
そしたら今度は「どうやって進めるんだよ」とか「沈んじゃったよ」とか「それはあんまりだろ」とかそういうのばっかりで。しようがないのでまた戻したりして。色々試行錯誤しましたね。
4Gamer:
よく開発者は「シングルゲームの要素を」って言いますけど,実際にうまく融合させてる作品ってそんなに多くないですしね。
渥美氏:
でね,さっきのシナリオの話ですと,今ってシナリオ進めなくても,名声値をある程度溜めれば先に進めるようになってるじゃないですか。
4Gamer:
ええ,そうですね。
渥美氏:
その仕組みとか最初は全然なくて。行ける海域を広げようと思ったら,ホントにシナリオを進めるしかなかったんですよ。でもそれもそれで縛りが厳しすぎるだろうということで,いまのような形に緩和されました。シナリオとかやりたくない人はやんなくてもいいよ,という。
4Gamer:
なるほど。お話を聞いている限り,そもそもの発端がオンラインゲームじゃないんですね。
竹田氏:
そもそもはオンラインゲームとかそういうものじゃなくて全然違うところにあったんですよね。それが段々オンラインゲームらしく近づいてきたという感じのほうが近いでしょうか。
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4Gamer:
うーん,それでああいう一種異端児ができあがったわけですね。
竹田氏:
確かに色んな仕様がMMOとしては異質だと思うんですよね。あんまり聞いたことない概念とかがいっぱい入ってたりして。オンラインゲームじゃない何かが,MMOっぽく振る舞おうとしているというか。
松原氏:
オンラインスタンドアローンゲームって言われてました,社内でも。まだそういう雰囲気は根強く残ってますね。
竹田氏:
一人でちょっと時間ないけど,近距離交易でもしておくかとか,クエスト1個やっとくかとか,そういう遊び方を許してくれるものにしたかったですね。なおかつ,そういうときでも仲間とちょっとお話くらいしておこう,という欲求もあるでしょうし,それも満足させてあげたい。
4Gamer:
いままでのMMOは,すべからく「どこかで見た何か」なわけですよね,語弊を承知で言ってしまえば。ほぼ大半のシステムはすでに誰かが作っていたもので,それをちょっとアレンジするか,グラフィックを変えるか。
松原氏:
そういう"お約束"に則って作るとね,他人と競い合って目立つことが楽しいっていう,どうしてもそういうのがゴールになっちゃってると思うんですよ。
4Gamer:
そうですね。実際楽しいこともあるんですけど。
松原氏:
でも大航海は,一人でもちゃんと遊んでその過程が楽しめるという,その要素がだいぶ残ってると思うんですよね。結果として,クエストとか冒険で得たアイテムを人に仲間に見せて"楽しい"という部分もあるとは思うんですけど,それがすべてではないですし。そもそも"そういうゲーム"にはしたくなかったわけですし。
4Gamer:
現状では十分うまく回ってると思います。
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