― レビュー ―
“199ドルで買えるGeForce 7900”は2006年後半の主役となるか
XFX GeForce 7900 GS 480M Extreme
Text by Jo_Kubota
2006年9月6日

 

 別記事でもお伝えしているとおり,NVIDIAはGeForce 7900 GPU(グラフィックスチップ)シリーズに最下位モデル「GeForce 7900 GS」を追加した。

 

GeForce 7900 GS GPU。試用した個体だと,チップ上の刻印は「G71-N-A2」だった

 GeForce 7900 GSの特徴は,なんといっても搭載グラフィックスカードの想定売価――199ドル――にある。
 日本円換算で2万円台後半というのは,2006年3月9日に発表された,GeForce 7600 GT搭載グラフィックスカードの,デビュー当時における想定売価と同じ。確かに,発表から約半年を経て,GeForce 7600 GT搭載製品の実勢価格は2万円前後まで下がっており,GeForce 7900 GTとGeForce 7600 GTの間を価格的に埋める製品は必要だったわけだが,それにしても衝撃的な価格といえる。早ければ年内にも発表,あるいは発売と噂される次世代GPU「G80」(開発コードネーム)を見据えた動き……かどうかまでは分からないが,「GeForce 7900が最下位モデルでミドルレンジに降りてきた」ことだけは疑いようがない。

 

 

GeForce 7800 GT的なシェーダユニット構成のGeForce 7900 GS

 

 GeForce 7900 GSと,その“周辺”GPUのスペックは表1にまとめたとおり。GeForce 7950 GX2という例外を除くと,2006年9月時点でGeForce 7シリーズ最上位となるGeForce 7900 GTXと比べて,GeForce 7900 GSはシェーダユニット数が削減されているのが分かる。頂点シェーダ(Vertex Shader)で1基,ピクセルシェーダ(Pixel Shader)で4基減というのは,ちょうどGeForce 7800 GTXに対するGeForce 7800 GTの削減度合いと同じで,スペック的にはGeForce 7800 GTの後継的な扱いと言っていいのかもしれない。

 

 

 興味深いのは,リファレンスの動作クロックがGeForce 7900 GTと同じであること。「GeForce 7900 GTとして使えなかったGPUを再利用した」と,うがった見方もできようが,ここはむしろ「保証外を覚悟でオーバークロックすれば,シェーダ数で上回るGeForce 7900 GTといい勝負できるかも?」と捉えたほうが面白い。

 

XFX GeForce 7900 GS 480M Extreme
メーカー:PINE Technologies(XFX)
問い合わせ先:シネックス(販売代理店)
info@synnex.co.jp

 ……というのには,もちろん理由がある。今回,GeForce 7900 GSの評価に当たっては,NVIDIAの協力を仰いだのだが,送られてきたのはPINE TechnologiesのXFXブランド(以下XFX)に属する「XFX GeForce 7900 GS 480M Extreme」で,同製品は標準状態でメーカー保証付きのオーバークロック設定が行われているからだ。
 製品名からも想像がつくかもしれないが,XFX GeForce 7900 GS 480M Extremeでは,ピクセルシェーダユニットのクロックがリファレンスの450MHzから30MHz高い480MHzに,そしてメモリクロックも標準の1.32GHz相当から1.4GHzに引き上げられている。もちろん,XFXからするとこれが“動作保証される定格クロック”なのだが,この設定がどういった結果を生むのかはなかなか興味深いところである。

 

試用した個体は,Hynix Semiconductor製の256Mbit,1.4ns仕様のGDDR3メモリ「HY5RS573225A FP-14」を搭載する。計算上,チップは1.4GHz相当超での動作が可能

 ベンチマークテストに入っていく前に,国内代理店が付いているため,遠からず日本でも販売されると思われるXFX GeForce 7900 GS 480M Extremeについて見てみることにしよう。

 カードは黒く塗られており,カードの側面,マザーボードに装着したとき,ユーザー側を向くほうに金属板があって,発熱などによるカードのたわみ対策となっている。
 外部インタフェースはデジタル/アナログRGB(DVI-I)×2,コンポーネント/Sビデオ出力×1。とくにゲームCD-ROMなどは付属していない。

 

左:たわみ防止用の金属板はXFXのロゴ入り
中央:Leadtek Research製のGeForce 7900 GT搭載カード(右)と比較。カードデザインは,限りなく同じように見える
右:カード上の外部給電コネクタは6ピンで,パッケージには4ピンの内部デバイス用電源コネクタからの変換ケーブルが付属する

 

 

ダウンクロック設定時を交えて
上位/下位モデルと比較

 

 テストに当たって,今回はGeForce 7900 GSの上位/下位モデルを用意。基本的にはGeForce 7900シリーズ,あるいはGeForce 7600 GTとの“力関係”をシングルグラフィックスカード(以下シングルカード)構成,NVIDIA SLI(以下SLI)構成で比較してみたいと考えている。

 

リファレンスクロックの設定。メモリクロックは660MHzに設定できなかったので,662MHzにしている。なお,この状態で[テスト]→[適用]を行うと,コア451MHz,メモリ661MHz(1322MHz相当)と表示された

 前述したとおり,XFX GeForce 7900 GS 480M Extremeはメーカーレベルのオーバークロック設定が行われているので,シングルカードに限り,CoolBitsフラグを有効にして,リファレンスクロックまで手動“ダウンクロック”した状態でもテストを行った。「2枚のカードとも確実に動作クロックが下がっている」ことを確認できなかったため,SLI構成時のスコアは取っていないので,この点はあらかじめお断りしておく。
 また,SLIのテストでは,GeForce 7900 GTとGeForce 7600 GTで,機材調達の都合上,1枚ずつメーカーが異なっている。カードはいずれもリファレンスクロックで動作する製品なのでスコアに問題はないはずだが,念のため付記にしておきたい。ちなみに,比較対照用となるGPUでは,いずれの場合でも,シングルカード構成とSLI構成時のGPU1側にエルザジャパン製品を用いている。

 

ELSA GLADIAC 979 GTX Silent 512MB
メーカー:エルザジャパン
問い合わせ先:エルザジャパン sup-jp@elsa-jp.co.jp
入手のしやすさが魅力のGeForce 7900 GTX搭載製品
ELSA GLADIAC 979 GT 256MB
メーカー:エルザジャパン
問い合わせ先:エルザジャパン sup-jp@elsa-jp.co.jp
静音クーラーを搭載したGeForce 7900 GTカード

 

ELSA GLADIAC 776 GT 256MB
メーカー:エルザジャパン
問い合わせ先:エルザジャパン sup-jp@elsa-jp.co.jp
定番のGeForce 7600 GT搭載カード
PC7900GT
メーカー:Albatron Technology
問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp
低価格で人気のGeForce 7900 GT搭載モデル

 

 テスト環境は表2のとおり。グラフィックスドライバは,2006年9月4日の記事で「GeForce 7900 GS対応」とお伝えしたForceWare 91.47を用いている。
 ベンチマークレギュレーションは1.0準拠だが,SLIのテストにおいては,より高い描画負荷時のパフォーマンスをチェックするため,8xアンチエイリアシングと16x異方性フィルタリングを適用した状態(以下8x AA&16x AF)でのテストも行った。

 

 

 なお,細かい話だが,とくに断りのない限り,以下カードの製品名ではなくGPU名で表記を行っていく。このとき,XFX GeForce 7900 GS 480M Extremeについては,GeForce 7900 GSのリファレンスクロック相当で動作する状態を「GeForce 7900 GS」,カードの定格クロック(GPUからするとオーバークロック状態)で動作する状態を「GeForce 7900 GS(XFX)と表記するので注意してほしい。また,スペースの都合上,グラフ内では「GeForce」の表記を省略する。

 

 

多くの局面でGeForce 7900 GTに迫るパフォーマンスを発揮

 

 さて,まずは全体的な傾向を,「3DMark05 Build 1.2.0」(以下3DMark05)で見てみることにしよう。
 グラフ1はシングルカードのスコアを比較したものになる。GeForce 7900 GTXのスコアが抜きん出ているのと,GeForce 7600 GTのスコアが落ち込んでいるという,極めて妥当な結果はともかく,GeForce 7900 GSとGeForce 7900 GTのスコアに差があまりない点には注目したい。GeForce 7900 GS(XFX)だと,差がさらに縮まるのも分かる。

 

 

 続いてSLIのスコアをグラフ2から。前述したように,GeForce 7900 GSのスコアは取得できていないので,一番上がGeForce 7900 GS(XFX)となる。グラフのバーの色はシングルカード時と揃えてあるので,それを頼りに見比べてほしい。
 ここではGeForce 7900 GS(XFX)とGeForce 7900 GTの差を見ることになるので,リファレンスクロックにおけるGeForce 7900 GSのSLIパフォーマンスについては想像するほかないが,いずれにせよ,GeForce 7600 GTに対しては明確なアドバンテージを持っており,GeForce 7900シリーズの面目躍如といったところか。

 

 

 続いて「3DMark06 Build 1.0.2」(以下3DMark06)の1280×1024ドット,標準設定のスコアを,グラフ3に示した。傾向としては,3DMark05と同様と言っていい。

 

 

 以上を踏まえて,実際のゲームにおけるベンチマークテストに移ろう。「Quake 4」(Version 1.2)におけるシングルカードのテスト結果をまとめたのがグラフ4である。
 1024×768ドット/高負荷設定におけるGeForce 7900 GTのスコアが解せない(ちなみに,何度計測し直してもこのスコアだった)が,全体的にはGeForce 7900 GSの健闘が光る内容だ。描画負荷が高くなっていくにつれてGeForce 7900 GTXとの差が開いていくのはやむを得ないが,リファレンスクロックでも,オーバークロック動作でも,GeForce 7900 GTに一歩及ばない程度のスコアを維持している点は立派だ。

 

 

 同じQuake 4のテストを,SLI構成で実行した結果がグラフ5になる。こちらも傾向はほぼ同じだが,GeForce 7900 GTXとの差が出にくくなっている点は注目すべきといえる。また,GeForce 7600 GT SLIが高負荷時や8x AA&16x AF時に大きくスコアを落としていくのに対し,GeForce 7900 GS(XFX)がそうではない点も重要だ。

 

 

 続いて「F.E.A.R.」(Version 1.05)のスコア。グラフ6はシングルカード構成のものだが,ここではシェーダユニット削減の効果か,GeForce 7900 GSとGeForce 7900 GTの間には一定の差が見て取れる。同時に,オーバークロック動作によって,その差は十分埋められることも,GeForce 7900 GS(XFX)のスコアからは読み取れるわけだが。

 

 

 その傾向はSLI構成でも同様だ。GeForce 7900 GS(XFX)SLIは,GeForce 7900 GTと完全に互角といっていいスコアを叩き出している(グラフ7)。

 

 

 負荷の軽いタイトルの代表として,広義にはレースゲームといえる「TrackMania Nations ESWC」(以下TMN)のテスト結果を見てみよう。TMNでは,ピクセルシェーダユニットの削減が効いているようで,オーバークロック動作のGeForce 7900 GS(XFX)であっても,GeForce 7900 GTに有意な差を付けられている。
 もっとも,平均60fps出れば合格といえるTMNで,高負荷設定の1600×1200ドット以上を除けば合格点のスコアを出しているのも事実。負荷の低いゲームではGeForce 7900 GTに差を付けられるかもしれないが,ゲームの体感という意味で,目くじらを立てる差ではない。

 

 

 SLI動作時のスコアは,シングルカード時の結果がより顕著になったような感じだ(グラフ9)。描画負荷の低い局面だとGeForce 7900 GS(XFX)のスコアは上位陣から完全に置いて行かれるが,問題のあるスコアではない。むしろ,1280×1024ドット,8x AA&16x AFで十分ゲームになることを評価すべきと思われる。

 

 

 最後に,MMORPG「Lineage II」のテスト結果を見てみよう。HDRレンダリングを有効にしている4Gamerのベンチマークレギュレーション上,GeForce 7では高負荷設定のスコアを取得できないので,ここでは標準設定のみでスコアを比較することにする。
 というわけで,結果はグラフ10,11にまとめたが,全体の傾向としては,F.E.A.R.と似たような印象だ。さすがはGeForce 7900シリーズというべきか,GeForce 7900 GSは,シングルカードの1920×1200ドット設定でも,グラフィックスカードがゲームの体感に悪影響をまず及ぼさないレベルのフレームレートを維持できている。

 

 

 

 

消費電力はほぼ想定どおり

 

 続いて,消費電力についてもチェックしてみる。ここでは,Windows XPの起動後,10分間放置した状態を「アイドル時」,3DMark05のGame Testをリピート実行し,30分間で最も消費電力の高かった時点を「高負荷時」としてまとめている(グラフ12)。

 スコアを一言でまとめるなら,妥当なスコアといったところだ。ほぼ同じ仕様で,動作クロックも同じGeForce 7900 GSとGeForce 7900 GTは,消費電力もほぼ同じレベル。それより動作クロックの高いGeForce 7900 GS(XFX)が若干高めというのは,容易に想像できる結果だからである。

 

 

 同条件で,NVIDIAコントロールパネルから計測したGPUの温度を計測したのがグラフ13だ。言うまでもないことだが,各製品はすべて搭載するクーラーが異なるため,スコアはすべて参考程度になる。また,SLI構成時のスコアはGPU1のみとなる点にも注意が必要だ。
 以上を踏まえつつ見てみるわけだが,GeForce 7900 GS(XFX)のスコアがかなり高い。エルザジャパンによるオリジナルクーラーを搭載したGeForce 7900 GTに大差をつけられているどころか,GeForce 7900 GTXとも勝負にならないというのは,かなり問題である。しかも,XFXのクーラーはかなりうるさい。騒音計を使った厳密な比較ではないが,ほかの製品と比べると,かなり耳障りな印象を受けた。XFX GeForce 7900 GS 480M Extremeのクーラーに,性能面で高い評価は与えられない。

 

 

 

試用した製品は微妙だが
GeForce 7900 GSのコストパフォーマンスは圧倒的

 

 GeForce 7600 GTを超える高コストパフォーマンスGPU。これがGeForce 7900 GSに対する,偽らざる評価だ。
 秋葉原ショップ筋の情報によれば――メーカーによってややバラつくものの――店頭価格は2万6000〜3万2000円程度になる見込み。GeForce 7600 GTのデビュー時と比べると,やや高めという気がしなくもないが,それでも十分に安価だ(Galaxy Technologyが,予想実売価格3万5000円前後でグラフィックスメモリ512MB搭載モデルを用意しているという情報もある)。

 まだ4万円台で販売されていることも珍しくないGeForce 7900 GTカード,あるいは,2万円台前半〜中頃で販売されている高クロック/高付加価値路線のGeForce 7600 GTカードは,GeForce 7900 GSの登場により,総崩れになってしまいそうな気配すら感じる。とくに後者に関しては,4Gamerでは2006年8月18日の記事において,GeForce 6600 GTやGeForce FX 5900と比べているが,あの記事で圧倒的なパフォーマンスを見せつけたGeForce 7600 GTをさらに引き離しているGeForce 7900 GSが,いかにモンスターかは容易に想像できよう。NVIDIAのGPU戦略に「それでいいの?」と疑問を投げかけたくなるほどである。

 SLI構成を行っても,コストは6万円前後。GeForce 7900 GTXとほぼ同じ投資で,(SLI対応ゲームなら)それ以上のパフォーマンスが得られるわけだから,こちらを考慮するのも十分現実的といえる。
 もちろん,DirectX 10の姿がチラついているという現実があるので,対応GPUを待つというのも手として間違ってはいない。だが,いまコストパフォーマンスを考慮しつつPCI Express環境へ移行するのであれば,GeForce 7900 GSは,間違いなく最良の選択肢の一つだ。

 

製品パッケージ。最後の最後で恐縮だが,今回紹介している製品名は,実はパッケージのどこにも書いていない。XFXは製品名に頓着していないようなのだ。今回のそれは,パッケージと,Webサイトにある(そこはかとない)統一性からの推測である。ちなみに製品情報を示すラベルには「GF 7900GS 480M 256MB DDR3 Dual DVI TV XT」とあった

 ……しかし,XFX GeForce 7900 GS 480M Extremeという製品そのものを勧められるかと言われると,やや微妙と言わざるを得ない。
 確かにオーバークロック設定によってベンチマークスコアは上がっているが,劇的ではない。それでいて,(価格は未定だが)オーバークロック分の“プレミアム”が少なからず乗るのは想像に難くなく,しかもチップクーラーは冷却能力が低いうえに,動作音は耳障り。チップクーラーに関していえば,メーカー保証外を覚悟するなら交換という手があるものの,その場合はさらに導入コストが上がるわけで,なかなか勧めづらいというのが本音である。

 もちろん,XFX GeForce 7900 GS 480M Extremeが,リファレンスクロックの製品とほぼ同じ価格で店頭に並ぶなら話は別だ。だが,そうならないなら,199ドルというNVIDIAの想定価格にある程度見合った,リファレンスクロック動作の他社製GeForce 7900 GS搭載カードを選ぶべきだろう。

 

タイトル GeForce 7900
開発元 NVIDIA 発売元 NVIDIA
発売日 2006/03/09 価格 製品による
 
動作環境 N/A

Copyright(C)2006 NVIDIA Corporation

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/geforce_7900_gs/geforce_7900_gs.shtml