Athlon 64(正確にはnForce4チップセット),そしてCore 2 Duoの登場により,時代の趨勢は完全にPCI Expressプラットフォームとなっている。AGPプラットフォーム向けに最速クラスのGPUを搭載したグラフィックスカードは長らく登場しておらず,今後もおそらく登場しないだろう。最大限快適なゲーム用PCを作るのであれば,PCI Express環境へ移行するほかない。
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WinFast A7600GT TDH 256MB
メーカー:Leadtek Research
問い合わせ先:アスク(販売代理店)
TEL:03-5215-5650
予想実売価格:2万5000円前後 |
だが,Intel 865シリーズのチップセットを搭載したPentium 4マシンや,nForce3シリーズ搭載のAthlon 64マシンが,まだ現役だったりする例が少なくないのも,歴然たる事実。「せっかく3GHzクラスのCPUを使っているのだから,できるならもう少しAGPで頑張ってみたい」という人も,まだそれなりにいるのではないだろうか。
そこで今回は,「今度こそ最後」と言われながら登場し続けるAGP版のグラフィックスカードの新たな選択肢について,普段とは少し視点を変えて考えてみたいと思う。
取り上げるのは,Leadtek Research製のGeForce 7600 GT搭載AGP 8X対応グラフィックスカード「WinFast A7600GT TDH 256MB」(以下WinFast A7600GT)。ポイントは「AGP版GeForce 7600 GTカードは,誰に必要な製品か」だ。
外部給電が必要なAGP版GeForce 7600 GTカード
HSIのリビジョンはA4のまま
WinFast A7600GTの基本的なスペックについては,2006年8月14日の記事で紹介しているが,カードを見ながら改めて確認しておこう。
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| チップクーラーを外したところ |
WinFast A7600GTでは,PCI Express x16版GeForce 7600 GTのリファレンスカードとまったく同じ,コア560MHz,メモリ1.4GHz相当(700MHz DDR)で動作する。グラフィックスメモリ容量は256MBだ。
GeForce 7シリーズは,GPU(グラフィックスチップ)側のインタフェースがPCI Express x16。このため,カード上にPCI Express x16−AGP 8X変換チップ「HSI」(High-Speed Interconnect)を搭載している。HSIのリビジョンはA4で,GeForce 6600時代から変わっていない。
HSIを搭載することにより,カードレイアウトはそのGeForce 6600世代のAGP版グラフィックスカードを彷彿とさせるものになっている。チップクーラーの音は,高負荷時でも気になるほどではなかった。
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| 入手した個体では,GeForce 7600 GTのリビジョンはA2,メモリはSamsung Electronics製の1.4ns品(K4J52324QC-BC14,512Mbit)を4枚搭載。HSIは本文でも触れたようにA4リビジョンだった |
外部インタフェースはデジタル/アナログRGB(DVI-I)×1,アナログRGB(D-Sub)×1,S/コンポーネントビデオ×1。PCI Express x16対応のGeForce 7600 GTリファレンスカードだとDVI-I×2なので,このあたりは評価の分かれるところかもしれない。また,同リファレンスカードには用意されていなかった4ピンの電源コネクタが用意されており,動作には給電が必要なのも,PCI Express x16版とは異なる。
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| 付属品一覧。本文で触れたS/コンポーネントビデオは専用ケーブルでの対応となる。なお,ゲームは「Serious Sam II」と「TrackMania Nation ESWC」の英語フルバージョン2本が用意されている |
AGP世代の定番グラフィックスカードと比較
製品を概観したところで,テストに入っていきたい。
今回,比較用に用意したのは,AGP世代で人気を集めた製品だ。必ずしもウルトラハイエンドではなく,実際に入手しやすかったものを中心に選択している。具体的な製品名とスペックは表1にまとめたが,以下本文では,必要に迫られない限り,表の2段めにあるGPU名でカードを表記するので,この点は注意してほしい。
冒頭で触れたように,今回は「一昔以上前のAGPプラットフォームに向けた,GeForce 7600 GTの価値」を探るので,基本的に比較対象はAGP版グラフィックスカードとなっている。PCI Express x16世代との比較を行いたい場合は,合わせて計測したGeForce 7600 GTのPCI Express x16版グラフィックスカードのスコアをヒントにするといいだろう。
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| GeForce 7600 GTカード同士の比較。左がWinFast A7600GT,右がPCI Express x16版リファレンスカードだ。カード長はほぼ同じ |
このほか,テスト環境は表2のとおり。AGP版GeForce 7600 GTを認識させるため,グラフィックスドライバはWinFast A7600GTのパッケージに付属していた「ForceWare 91.32」を利用している。
テストは,4GamerのベンチマークレギュレーションVersion 1.0に準拠。今回はGeForce FX 5900など,高負荷のテストに意味を見いだせないGPUも比較用に用意しているので,高負荷設定時のテストは行わず,標準設定のみでテストを行った。
なお,細かいことだが,以下スペースの都合で,グラフ中は各GPU名について,「GeForce」「Radeon」の表記は省略する。
“相変わらずのHSI”が気になるものの
スコアは総じて良好
まずは,「3DMark05 Build 1.2.0」(以下3DMark05)と「3DMark06 Build 1.0.2」(以下3DMark06)で,ざっくりとしたところを見てみる。
テスト結果をまとめたのがグラフ1,2だが,AGP 8XとPCI Express x16で,GeForce 7600 GTの2枚にパフォーマンス差はほとんどない。HSIによる信号変換のオーバーヘッドで,AGP版のスコアがわずかに低いが,まあ,気にするほどではないだろう。
なお,グラフ2では,なぜかGeForce 6600 GTのスコアが取れなかった点をお断りしておきたい。
実際のゲームを利用したベンチマークテストに移ろう。
「Quake 4」(Version 1.2)における結果をまとめたのがグラフ3だが,AGPグラフィックスカード同士を比較してみると,1280×1024ドット以上で,GeForce 6600 GTやRadeon X800 Proに大きな差を付けるのと,GeForce FX 5900とは比較にならないことが見て取れる。
だが,それ以上に気になるのは,CPUがボトルネックになる1600×1200ドット以外で,AGP版GeForce 7600 GTが同GPU搭載のPCI Express x16カードに大きな差を付けられている点だろう。とくに1024×768ドットでは看過できるレベルではなく,HSIのオーバーヘッドにしては大きすぎるようにも思えるが,さすがにこれだけでは判断できない。ひとまず判断を保留して,先に進む。
というわけで,次に「F.E.A.R.」(Version 1.05)である(グラフ4)。F.E.A.R.では,CPUとグラフィックスカードの性能がスコアに直結しやすく,傾向としてチップセット(≒マザーボード)の影響は少ないが,それを裏付けるように,同じCPUを用いているAGP版とPCI Express版のGeForce 7600 GTで,スコアの差はほとんどない。1024×768ドットではFPSをプレイするのにほぼ十分なフレームレートだ。1280×960ドットだと及第点レベルに留まるが,これはミドルレンジ向けGPUということを考えると,やむを得ないだろう。
続いて「TrackMania Nation ESWC」。同タイトルは描画負荷が軽いため,解像度が高くなってもCPUがボトルネックになりにくいが,こうなると顕著になってくるのがHSIのボトルネックだ(グラフ5)。GeForce 7600 GTの2モデルでは,常にAGP版が数fps低く,HSIを挟むことのハンデが見て取れる。もっとも,動作クロックの高さもあって,既存の定番GPUを大きく引き離しており,PCI Express x16環境を考慮しないのであれば,問題のないスコアではある。
最後に,メインメモリからのデータ転送量が多く,スコアの傾向がQuake 4と似る「Lineage II」を見てみよう(グラフ6)。
ここでは,AGPとPCI ExpressのGeForce 7600 GTに,HSIのオーバーヘッド程度しかフレームレートの差は出ていない。CPUとメインメモリが同じで,メモリコントローラがCPU内蔵という事実を考慮するに,
グラフ3におけるQuake 4のスコアは同タイトル固有と見るべきだろう。もちろん,Quake 4のスコアには不審を覚えて何度も取り直しているので,この結果からは,HSIが何か“悪さ”をしている可能性が指摘できそうだ。
なお,Lineage IIはRadeonシリーズが有利に出る傾向にあるので,Radeon X800 Proのスコアは異常ではない。
消費電力はGeForce 6600 GT以下
チップクーラーの冷却能力も悪くない
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| カード裏面にこれといった冷却機構は用意されていない |
直接の比較が難しいことは承知のうえで,システム全体の消費電力やGPUの温度もチェックしてみることにしたい。
今回はWindows XPの起動から10分放置した直後を「アイドル時」,3DMark05からFeature TestのPixel Shaderテストを1600×1200ドットで連続実行して,最も消費電力の高かった時点を「高負荷時」とした。
システム全体の消費電力については,そもそもマザーボードが異なるPCI Express版GeForce 7600 GTのスコアはまったくの参考程度になるので,基本的にはAGPグラフィックスカード同士で見ていきたい。ポイントは,同じくHSIを利用するGeForce 6600 GTよりも消費電力が低めに出ていることだ(
グラフ7)。とくに高負荷時には15Wもの差になっており,これはかなり大きい。
GPU温度に関しては,仕様上測定できないものもあるので,いよいよ参考程度になる(グラフ8)。とはいえ,GeForce 7600 GT同士で見たときに,リファレンスカードよりもAGP版が下回っている点は,Leadtek Researchの採用するクーラーの優秀性として評価していいかもしれない。
GeForce 6600 GT世代からの乗り換えならアリ
それ以上は素直にPCI Expressへ移行すべき
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| 製品パッケージ |
以上,スコアはなかなか興味深いものになった。では,ここから何が読み取れるかだが,確実に言えるのは,GeForce 6600 GTか,それより下位/前世代のグラフィックスカードを利用しているなら,AGP版GeForce 7600 GTへ移行することで,PCの延命は十分可能ということだ。
4Gamerでは以前から何度も指摘しているように,GeForce 6600 GT以下/以前のGPUはすでにローエンドである。ローエンドGPUで最近の3Dゲームをプレイするのは苦しいわけで,その意味において,2万5000円程度のコストで「使えないPC」を「使えるPC」に変えるAGP版GeForce 7600 GT,つまりWinFast A7600GTには十分な価値がある。
一方,GeForce 6800や,Radeon X800クラスを利用している人にとっては,はっきりいって微妙だ。テストから分かるとおり,ゲームによってはGeForce 7600 GTに乗り換えても,期待したほどフレームレートは向上しない可能性がある。“AGP最速”を目指すのを止めはしないが,そんなことに貴重な予算を投じるのであれば,もう少し頑張って,PCI Express x16環境へ移行するほうが,ゲームを快適にプレイできるようになるはずだ。
まとめよう。「“かつてミドルレンジだった”AGP世代の古いPC」を,もう少しゲーム用PCとして生き長らえさせたいなら,WinFast A7600GTはお勧めのグラフィックスカードである。