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[AOGC#1]SqENIX和田氏の基調講演「オンラインゲームが抱える問題は,社会の抱える根源的な問題」
2005/02/28 22:53
スクウェア・エニックス代表取締役の和田洋一氏。AOGCの一日めを終えてみて,今回のセッションがすべて"コミュニティ"に集約しているという印象をもったが,そう考えると実に的確な基調講演内容だったと言える。
 本日(2月28日),東京は新宿の工学院大学新宿キャンパスで,ブロードバンド推進協議会主催のAOGC(Asia Online Game Conference:アジア オンライン ゲーム カンファレンス)が開催された。

 このカンファレンスは,産/官/学の各界でリーダーシップをとるオンラインゲーム関係者を招き,オンラインゲームの普及や啓発,また抱える問題点について講演するというもの。
 主催のブロードバンド推進協議会は,ソフトバンクBBの代表取締役社長,孫正義氏を理事長とする,早いハナシが「オンラインゲームの未来を作っていく」団体だ。ブロードバンドの普及によって初めて成立する新たな産業について考察し,通信事業者,機器メーカー,コンテンツ事業者の交流の場を提供すると共に,数々の課題について活発な議論を行うことを目的としている。設立は2003年7月で,2004年12月時点で126社(現時点では170社前後)のメーカーが参加しており,講演会や専門部会,研究会などの活動が行われている。

 この日のAOGCは,第1セッション,スクウェア・エニックス代表取締役社長,和田洋一氏の基調講演で幕を開けた。
 氏は冒頭で「こういった場で企業の戦略を明かすことはないが,オンラインゲーム産業の抱える問題は,社会全体の問題。弊社の戦略と合わせて,脇道にそれながら考えを述べるので,興味をもっていただければ」と前置きをしつつ,Network in the Game(コミュニケーションは,ゲームの新たな楽しさ),Everything plays Games(いつでもどこでもゲームが楽しめる)という同社のスローガンを題材に,話を聞かせてくれた。


【画面中央】CESA専務理事の渡辺和也氏【画面右】経済産業省の杉浦健太郎氏


■"コミュニティのお題"としてのゲーム
「オンラインゲームはコミュニティが大切。この概念はパッケージゲームでも同じ」

 まず和田氏が話してくれたのは,ゲームは"コミュニティのお題"として提供されるのが望ましい姿だということだ。
 家庭用のゲームが登場して20年。最初の10年は"自分でテレビ(の中のコンテンツ)を操作できる点" "喫茶店やゲームセンターでは不可能なセーブという概念が登場した点"という特色により,次々とゲームタイトルが生産/消費された。その後の10年はグラフィックスの進化により,ゲームはビジュアルをウリとするコンテンツに変化。今後10年は,それらの特徴を踏まえたうえで,"コミュニケーション"が重要になってくる,と説明。テクノロジとアートが一体化して表現に技術的なバックアップが可能となった今,ゲームが社会生活において根源的な領域に踏み込んでいくのではないか,と考察を語った。

 このコミュニティの話で面白かったのが,引き合いに出された同社の看板タイトル"ドラゴンクエストシリーズ"のエピソードだ。氏の話では,ドラゴンクエストシリーズのゲームデザインは,"コミュニティをデザイン"する形で行われているという。
 例えば,学校で話す"アイテムの取り方談義"がその一つ。また我々の小さい頃を回想すると分かるが,ドラゴンクエストは,ゲーム画面に「〜がダメージを受けた」「〜が〜を唱えた」というインフォメーションを随時流すことで,プレイヤー以外の人間にも,プレイヤーのインプットとゲームのリアクションが見られる仕組みになっている。後ろで見ている全員がそのゲームを共有できるわけだ。つまり,「コミュニティが〜」と語られるオンラインゲームにも非オンラインゲームにも,コミュニティデザインを想定したゲームデザインが必要であるということだ。


■各国の文化的背景と,ビジネスモデル
説明に使われた,オンラインゲームパブリッシャ各社の決算広告データ
「オンラインゲームメーカーは,統計数値を客観的に評価して淡々とビジネスを」

 次に氏は「"日本はオンラインゲーム後進国だ"と,メディアが騒ぐでしょう。確かに日本はオンラインゲームの黎明期ではありますが,あれはちょっとカチンと来るんですよ(笑)」と前置きをして,スクウェア・エニックスのオンラインゲーム戦略(の基本だけ)を語りつつ,同社,中国の最大手パブリッシャである盛大ネットワーク,そしてNC Softという会社のPL表(PL:決算公告)を見て,考察を加えた。
 ここで氏が言いたかったのは,オンラインゲームメーカーがビジネスをするうえで重要なのは,"統計資料などの客観的なデータを基に状況を判断すべき"という点,また"各国の文化的背景を考えてデータを検討すべき"という点である。

 ここでは,氏が中国を例にとった以下の話が分かりやすい。
 「中国のオンラインゲーム産業と類似するものは何かないかと考えていたら,少し言葉は悪いですが"地上げ"に似てるな,と思いました。これはオンラインゲームに限った話ではありませんが,中国の産業の特徴として,"サービスを始めた瞬間にクリティカルマス(圧倒的な普及率)に達する"というものがあります。例えばPC-BANG。日本はネットワーク産業を始めるときに,市場を点や線で捉えてバーチャルに(物理的要素を排除して)展開しようとします。一方中国でネット産業が開花したときに大きな要素となったのはPC-BANG,つまりバーチャルに対してフィジカルなアプローチが大きな効果を生んだわけです。点や線でなく"面"で市場を捉えるわけですね。これを日米では真似できませんし,やはり根本的にまったく違う産業と考える必要があります。逆に言うと,日本ではまだ携帯電話や通信タイプのアーケードゲームを含めて"オンラインゲーム"と考える文化がありません。これは非常に巨大なマーケットのはずですが,マーケットを的確に把握していない現時点で中国と日本のオンラインゲーム産業を比較するのは,"ナシとリンゴ"を比較するようなものです」

オンラインゲーム市場におけるスクウェア・エニックスのポジション
 さらに氏は,説明に利用したオンラインゲームのセールスとメーカーの関係を見て,「オンラインゲーム専業メーカーが多いのは示唆的」と注目している。これについて氏は「オンラインゲームを運営してみると分かるが,リスク管理やリソースの当て方など,オンラインゲームとパッケージゲームはカルチャーが異なります。全然違う。そのためパッケージメーカーがオンラインゲームを始めるのは非常に難しいんです」と説明した。スクウェア・エニックスがオンラインゲーム+パッケージゲームを体言しているという自負も多少はあるのだろうが,オンラインゲーム業界が専業メーカーで埋められるのは必然であり,大手パブリッシャは相当"いける"と判断しないと手が出せないというのは理解できる。またその判断に利用するための客観的なデータが流通していないのも,大きな問題だろう。


■収益モデルと,Play Onlineの考え方
産業アーキテクチャ変化の図。これはPlay Online構想の立ち上げ初期から,スクウェア・エニックスが使用してきた馴染み深い図だ
「収益モデルは,"対象ユーザーの濃度"と"コスト"で決める」
「これからはユーザーからコンテンツまで(の技術)が,透過的になる」


 次に,オンラインゲームの収益モデルの問題点と,同社が提唱しているPlay Onlineの目指すべき方向性についての説明が行われた。
 まず氏は,収益モデルを以下の三つに分類している。

・コンシューマ型(ディスク販売+定額課金)
・アーケード型(従量課金+[ディスク販売])
・デルバティブ型(派生ビジネス)

 ここで端的に述べられたのは,「オンラインゲームなのに,ディスク販売を行うのはおかしい,というのはおかしい」という点だ。
 和田氏に言わせると,ディスクは"定額料金の固まったもの"であり,概念上はなんら定額制のみのサービスと変わらないということ。またやはりサービス国の文化的背景に合わせて,コンシューマ型とアーケード型の選択をするべきだとも述べた。その言葉通り,同社はMMORPG「クロスゲート」のサービス形態を,日本はディスク+定額課金,中国は定額課金のみという具合に切り替えている。これは両国の文化だけでなく,広大な土地を有する中国の流通事情の影響もあるはずだが,同社が首尾一貫して淡々とビジネスを行っているのが理解できるエピソードだ。

 また"収益モデル"の話といえば,各国で問題になっているRMT(リアルマネー・トレード)に関しての見解も述べられている。
 RMTに関して久しぶりに明快な意見が聞けて筆者も気持ちが良かったが,和田氏に言わせると,"パブリッシャ主催のRMTは収益モデルとして成り立つ"という。ただしそれは"ゲームデザインがRMTを想定している場合"に限るとし,現状のタイトルでRMTを運営したら,「犬がシッポを振るんじゃなくて,シッポに犬が振られているような状態になりますよ」と比喩を用いて意見を述べていた。オンラインゲームメーカーの関係者にこの手の話を聞くとたいがいバツが悪そうにかわされるが,こうした貴重な意見を公の場で堂々と述べられるのは,さすが和田氏といったところか。

端末(CPU)の進化曲線
 一方,同社が「ファイナルファンタジー XI」のリリースと同時に推進してきたPlay Onlineについては,端末の進化とマルチプラットフォームという視点で語られた。
 現在は,専用機(家庭用据え置きゲーム機)と汎用機(PC)の性能の差がほとんどないといっても過言ではなく,テクノロジに対するゲーマーの需要曲線がハード側の供給曲線と一致している。またいかなるハードウェアでも同様のステップ,ハードルでコンテンツにアクセスできるようになれば,これまで端末/メディア,ネットワークのレイヤーが透過的になり,よりダイレクトにユーザーがコンテンツにアクセスできるようになるというのが,和田氏が考えている未来像である。

 和田氏は,その昔ファミリーコンピュータのディスクシステムが登場したとき,"セーブデータがROMに残るということの大切を学んだ"という。大切なのはゲームプログラムではなくセーブデータだったという点に気づき「なんの価値がゲームの源泉か,なんの価値を提供していくのか?」を真剣に考えるようになったと述べた。


■高度なコミュニティ性ゆえの課題
 最後に語られたのは,オンラインゲーム普及に当たっての課題である。現時点でも,ネット中毒やRMT,またゲーム脳といったことまでが"問題"として議論されている。和田氏はそれら諸問題について,こう語っている。
 「双方向かつ n対n のコンテンツは,オンラインゲームしかありません。また高度なコミュニティ性ゆえに,プレイヤーが簡単に"社会"を作ってしまいます。これはオンラインゲームの素晴らしい点であると同時に,恐い点でもある」として,キチンと整備しないと大変なことになる,これはスクウェア・エニックスだけの問題ではなく,社会全体が抱えるもっと根源的な課題であると警鐘を鳴らした。そして「現在のオンラインゲーム専業メーカーの責任は非常に重いでしょう。なぜなら,現在の立ち回り方で,発展をゆがめる可能性があるからです」というのが,氏の見解である
 最も印象に残ったのは「規制すれば(悪い部分は)闇にもぐる。だから規範が必要なのです」として,ネットワークが張り巡らされるという,数年前まで我々が"想定してこなかった社会"をうまく維持するために,冷静な議論が必要だという意見である。なんといっても,今回のAOGCの価値も,そこにあるのだ。

 実にインパクトのある比喩表現を使ってざっくばらんに,かつ経営者らしいシビアな視点で語ってくれた和田氏。最後に「これぐらいやってもいいでしょう」と,パワーポイントで同社の就職案内をしてみたりと,ユーモアも交えての基調講演となった。
(Gueed / Photo by kiki)


→AOGC公式サイトは「こちら」
→ブロードバンド推進協議会の公式サイトは「こちら」
→スクウェア・エニックスの公式サイトは「こちら」



【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/news/history/2005.02/20050228225358detail.html