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薄型PS2を親子で分解。子どもたちが好奇心で目を輝かせた「プレイステーション分解ワークショップ 〜モノのしくみをしろう〜」をレポート
ソニー・エクスプローラサイエンスは,ゲームや映像・音楽といったエンタテインメントジャンルに使われている科学を学べる体験型科学館だ。ここで行われている「分解ワークショップ」は,テレビやオーディオ機器など身近な電化製品を分解し,その仕組みや工具の使い方を学んでいくという趣旨のものになっている。
今回の分解ワークショップは,2007年に発売された薄型のPlayStation 2(以下,PS2)「SCPH-90000」を1組につき1台用意し,実際に分解してみるという内容だった。参加者は,小学3年生〜中学3年生の子どもと保護者約40人で,ソニーグループのさまざまな部門からやってきた「分解博士」「分解助手」たちの指導を受けつつ,ゲーム機の分解というレアな体験を楽しめた。
用意された機材の電源を入れて実際に動作することを確かめてから分解作業がスタートした。皆で歩調を合わせてワンステップずつ分解していく……のではなく,皆がそれぞれに試行錯誤しながら作業を進めるという形式だ。「PS2の中から3種類の部品を見つけ出し,何に使うものかを推理する」という課題こそ与えられているものの,そのほかは子どもたちの自主性に任されている。学校での“お勉強”よりも自由にできる印象だ。
普段ゲーム機を分解しようものならこっぴどく怒られてしまうが,今日だけはワークショップなので特別。最初のうちこそおっかなびっくりでPS2に触れていた子どもたちだが,慣れてくると,好奇心に眼を輝かせながら作業していた。ゲーム機の分解と一口にいっても,工具さえあればサクサクと進むようなものではない。それというのも,分解を防止するためにネジが隠されていたりするからだ。しかし,子どもたちはこうした“隠し要素”を発見するところも含めて楽しんでいたのだから柔軟である。ゲーム機を前に,親子で語り合いながらああでもないこうでもないといろいろ試していく様は微笑ましくもあった。
また,会場にいる分解博士と分解助手がアドバイスや手助けをしてくれるため,行き詰まってしまう参加者もいなかったようだ。分解博士と分解助手とは,子どもを指導するためにやってきたエキスパート達。スマートフォンのエンジニアである中川雅郎氏,PlayStationのハード開発に携わる高田利貞氏,新規ビジネスを作り出す部署のエンジニアである新倉英生氏ら3人の分解博士が,7人の分解助手を率いて参加者のサポートに当たった。
参加者を助ける「分解博士」である中川雅郎氏 |
高田利貞氏 |
新倉英生氏 |
「分解博士」を輔佐する「分解助手」達。ソニーグループのさまざまな部署からボランティアで駆けつけた |
ケースを外して内部を露わにし,電源ユニットを取り除くと,CPUやGPUの乗ったメイン基板が明らかに。ゲーム機がまとう神秘のベールを自分の手で剥ぎ取っていく作業に,子どもたちも夢中の様子だ。PS2から取り外したDVDドライブに電源を接続し,マイコンでピックアップを直接制御するデモンストレーションが始まると,子どもたちが食い入るように見つめていたのが印象的だった。
楽しかった分解も無事に終わり,和気あいあいとした雰囲気の中で,課題となっていた3つの部品とは何かという答え合わせがスタートした。正解は「放熱ファン」「コントローラの振動モーター」「[△/○/×/□]のスイッチボタン」だ。
スイッチボタンに関しては,激しく使ってもマークが消えてしまわないよう,△○×□のマークは印刷ではなく金太郎飴的な2色成形になっているといったエピソードが語られ,子どもだけでなく保護者も聴き入っていた。
最後に,ソニー・エクスプローラサイエンスの館長である速見充男氏は「分解とは,もの作りの基本を探求することです。皆さんも,いろいろなものを見て好奇心をかき立て,自分で調べるという勉強をしていってください。今日は分解博士が登場しましたが,皆さんも将来はいろいろな方面での“博士”になってほしいです」と子どもたちに激励し,ワークショップの幕を下ろした。
ワークショップ終了後,速見氏と高田氏への合同インタビューに参加できたので,その様子をお伝えして本稿の締めくくりとしたい。
――今回のワークショップにおける狙いを教えてください。
速見充男氏(以下,速見氏):
ソニーの創業者である井深 大は,子供の頃に好奇心で時計を分解し,その時に感じたワクワクから技術者の道を歩みました。こうした気持ちを皆さんに体験してほしいというのがワークショップの狙いです。
――なぜ組み立てではなくて分解なのでしょうか。
速見氏:
分解することから,作った人の気持ちを感じ取ってほしいからです。分解すると「なぜこうした構造になっているのか」「なぜこの色になったのか」……といったことが分かります。こうした体験を通して,自分たちもモノを作りたいと思っていただきたいですね。
――今回,なぜPS2を選ばれたのでしょうか。
速見氏:
最新のPS4を分解するようなワークショップを期待する方もいらっしゃると思いますが,分解から作り手の気持ちを感じ取ることはPS2でも可能ですし,今回使ったSCPH-90000には後期モデルならではの,ダウンサイジングなどの工夫が凝らされていますから。また,ゲーム機はお子さんも扱うことから丈夫に作られていますが,分解体験からこうしたところも伝わっていれば嬉しいですね。
ちなみに,今までの分解ワークショップは,PCやプロジェクターなど参加者がそれぞれに好きなものを選んで分解していたんです。今回のようにすべての参加者が同じ製品を分解するというのは珍しいケースになります。
高田利貞氏:
設計者としては,ユーザーさんにどうやって楽しんでいただくかを考えてモノを作っています。この点に関してはPS4でもPS2でも変わりありません。
――これまでワークショップをやってこられた中で,印象に残っている反応はありましたか?
速見氏:
子供達が発見した瞬間の顔ですね。
例えば,弊館では以前「ペットボトルと牛乳パックでつくるヘッドホン」というワークショップを行ったことがあります。これはペットボトルで作った耳パッドに銅線と磁石で作ったコイルを組み込んだものなんですが,音が鳴った瞬間に子供たちが「あっ!」というような喜びの顔をするんです。こうした瞬間をいかにたくさん体験させてあげられるかが,僕らの役目だと思っています。
――ソニー・エクスプローラサイエンスの館長として,科学に対する意識の変化を感じることはありますか?
速見氏:
感覚的な話ではありますが,これまでよりも低い年齢から科学に興味を持っていただけていると思います。親御さんの意識も高まっていますね。小学生をメインターゲットとした夏の科学工作教室に,未就学児を参加させるような例も増えています。我々としても,今までより下の層への取り組みを行わなければならないのかもしれません。
――参加者の低年齢化が進んでいるわけですね。
速見氏:
そうですね。ただ,低年齢化が進む背景には,もう1つの原因もあるようです。年齢が上がるにつれていろいろな習い事で忙しくなり,なかなか弊館に来ていただく時間を捻出できなくなるということも影響しているように思えます。
――今回の分解ワークショップは,女の子もちらほら参加していましたね。
速見氏:
ええ。ほかのワークショップでも,女の子からも多くの応募があります。
――今後のワークショップでやりたいことはありますか?
速見氏:
2020年からプログラミングが必修になります。お子さんはともかく,現場の先生や親御さんも拒否反応を示しがちですが,これを取り除くのが我々の使命ではないかと思います。
また,現在言われるSTEM(Science, Technology, Engineering and Mathematicsの略。科学・技術・工学・数学のこと)教育にArtを加えた“STEAM教育”への取り組みも行っていきたいですね。
――ありがとうございました。
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